実務の友   日常家事債務に関する判例集
2002.07.14-2008.08.10
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「日常家事債務」関係の法条文
民法
(婚姻費用の分担)
第760条  夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

(日常の家事に関する債務の連帯責任)
第761条  夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

(夫婦間における財産の帰属)
第762条  夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2  夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。


日常家事債務に関する判例
   1 東京高判昭和37.6.19高第15巻6号430K頁
   2 最高裁判昭和43.7.19判例時報528号35頁
   3 最高裁一小判昭和44.12.18民集23巻12号2476頁
   4 札幌地裁判昭和47.11.10判例時報695号96頁
   5 武蔵野簡裁判昭和51.9.17判例時報852号105頁
   6 東京地裁判昭和53.11.1判例タイムズ378号118頁
   7 札幌地裁判昭和58.12.5判例タイムズ523号181頁
   8 門司簡裁判昭和61.3.28判例タイムズ612号57頁
   9 大阪簡裁判昭和61.8.26判例タイムズ626号173頁
  10 昭和63年3月民事裁判資料第177号93頁 【159】
  11 東京地裁判平成10.12.2判例タイムズ1030号257頁
  12 八女簡裁判平成12.10.12判例タイムズ1073号192頁
  13 東京簡裁判平成14.12.26 平成14年(ハ)第1148号 売買代金請求(最高裁HP)



 1 東京高判昭和37.6.19高第15巻6号430K頁
(判決要旨)
1 夫婦の一方が他方の代理人として民法第761条に定める範囲を超えて法律行為をした場合にも表見代理の規定を類推適用すべきである。
2 この場合第三者において日常家事の範囲に属すると信ずるにつき正当の理由のある場合に限り民法第110条による責任を肯定すべきである。
(判決理由抜粋)
 「民法第七百六十一条は、夫婦の一方が日常の家事に関し第三者と法律 行為をしたときは、他の一方はこれによつて生じた債務につき連帯して その責に任ずる旨規定し、直接には夫婦の一方のなした法律行為の効果について規 定するのみであるけれども同条にいわゆる第三者との法律行為中には夫名義の財産 を妻が処分したような場合も含まれることを考えれば右規定は単に夫婦の他の一方 に責任あることだけを定めたものでなく、同時にその連帯責任の生ずべき前提とし て、夫婦相互に日常の家事に関し自己の法律行為の効果を他の一方に及ぼし得る権 限をもつことをも間接に規定しているものと解するのが相当である。しかして右の 権限は厳密にいえば民法の代理権と異る面をもたないわけではないが、そのことか ら表見法理の適用を否定すべきものとも考え難く、また旧法第八百四条のように直 接に日常家事の代理権について規定していないことから、夫婦相互間に代理関係が 生じないものとしひいては表見法理の適用を否定すべしとの結論を導くのは妥当で ない。
 もつとも昭和二十二年法律第二百二十二号による民法改正の前後において、夫婦 関係を規律する法は旧法と著しく趣旨を異にするに至つたものであるが、前示の権 限に関する限り新法においてもその趣旨は受け継がれているのだから、現行法の下 において夫婦の財産的独立の尊重されなければならないことは所論のとおりである けれども、日常家事の範囲において夫婦の一方がその共同生活の維持のためになし た法律行為に基く債務は夫婦共同の債務たる実質をもつものというべく、この範囲 において夫婦が相互に他を代理する権限をもつと解することが新法の精 神に反するとは考え難い。もつとも所論の新法の精神殊に夫婦の財産的独立の尊重 という点は表見法理を適用するにあたり考慮して然るべきことであり、 また日常家事に関する前記権限の範囲は一応抽象的に定まつており、第三者に公知 せしめられているともいい得るのであるから、第三者において日常家事の範囲に属 すると信ずるにつき正当の理由のあるときに限り右権限を基礎にして表見法理を適 用するのが、当事者の利益の調和からも前記新法の趣旨からしても相当であると解 される。右のように解するときは、表見代理の規定の適用の範囲につき原審と異る 点がない訳ではないがそれにもかかわらず本件においても表見代理の法理に従うべ きものとする結論において原審と異るものでないことは第二点に述べるとおりであ り従つて右表見代理の規定の適用の範囲に関する見解の相違は判決の結果に影響を 及ぼすことがないから所論は採用しがたい。
 第二点について。
 原判決の確定した事実によれば、本件消費貸借の額は金三万円であり、また被上 告会社の専務取締役Aは上告人の妻Bから本件金員借用の申込を受けた翌日上告人 方に調査に赴きその際BはAに対し右金員は家屋新築のための費用の一部にあてら れるもので夫も承知している旨述べ夫の依頼により取つて来たという印鑑証明書と 実印を差出したので被上告人の代理人AはBが上告人から右消費貸借につき代理権 を授与されていたと信じたというのである。原審は右調査における経緯のほか右の ような比較的少額の金員の借用につき同居の妻が夫から代理権を授与されることは 屡々あり得ることをも考慮し被上告人において本件消費貸借につき右Bに上告人を 代理する権限があつたと信ずべき正当の理由があるとしたのであり、右判断は是認 することができる。また前記原審認定の事実によれば、右BのAに告げた借入金の 使途は上告人夫婦が家屋を新築するためのものというのであるけれどもそれは既に 夫婦協議の上夫婦共同生活の必要上決定されたもので、本件の三万円は右建築の費 用の一部を補うためのものであるとの趣旨が窺われるのであるから、右Bの説明を 受けたAにおいて本件金員借入が日常家事の範囲に属するものと信ずべき正当の理 由も存したと解することができ、民法第百十条の適用につき第一点に説示した制限 を付しても、なお原審が同条を適用したことはこれを是認すべきものと考えられ る。上告人がさして収入の多くない公務員であること、被上告人が上告人宅を訪れ ただけで、その勤務先において上告人本人に直接確かめる方法をとらなかつたこと その他所論の点は本件において右の結論を左右するに足らず、論旨引用の判例は必 ずしも本件に適切ではない。」


 2 最高裁判昭和43.7.19判例時報528号35頁
(判決要旨)
 夫所有の不動産を売却するような行為は,日常家事代理権の範囲内に含まれない。
(判決理由抜粋)
 「原審が本件土地(原判決の引用する第一審判決添付目録第一の(一)および(二))の売買契約に関し確定した諸般の具体的事情のもとにおいては,被上告人がその妻訴外ときをと相談のうえ,訴外賢造の工場建築資金を被上告人所有の土地を売却して捻出すべく企図していたとしても,被上告人所有の不動産を売却するような行為は,いわゆる日常の家計上の行為に該当するものでない旨の原審の判断は正当である。」


 3 最高裁一小判昭和44.12.18民集23巻12号2476頁,判例解説民事篇昭和44年度下991頁  (最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
1 民法761条は,夫婦が相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解すべきである。
2 夫婦の一方が民法761条所定の日常の家事に関する代理権の範囲を超えて第三者と法律行為をした場合においては,その代理権を基礎として一般的に同法110条所定の表見代理の成立を肯定すべきではなく,その越権行為の相手方である第三者においてその行為がその夫婦の日常の家事に関する法律行為に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり,同条の趣旨を類推して第三者の保護をはかるべきである。
(判決理由抜粋)
 「民法七六一条は、「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによつて生じた債務について、連帯してその責に任ずる。」として、その明文上は、単に夫婦の日常の家事に関する法律行為の効果、とくにその責任のみについて規定しているにすぎないけれども、同条は、その実質においては、さらに、右のような効果の生じる前提として、夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解するのが相当である。
 そして、民法七六一条にいう日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべきであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたつては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである。
 しかしながら、その反面、夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法一一〇条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあつて、相当でないから、夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、民法一一〇条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りるものと解するのが相当である。」
(参考)
 民法761条は,夫婦間の代理権限を規定しているが,日常の家事に関する法律行為の範囲はどこまでか,法定代理権は右基本代理権になりうるか等々をめぐり,戦前の大審院判例,戦後の下級審判例,学説によりしばしば論じられてきた。
 上記の最高裁判決により実務上一応の解決基準が示されたとされている。
 従前の判例,学説,文献の詳細は,最判解説昭和44年97事件の解説(991頁以下)参照。

 4 札幌地裁判昭和47.11.10判例時報695号96頁 
(判示事項)
 日常生活に必要な商品購入のための買物小切手帳の契約及びこれによる商品購入は日常家事の範囲に属するが,高額な商品購入のため融資を目的とするスペシャル・カードの利用契約は,日常性を具有するものとは言えず日常家事の範囲外にあるとした事例。
(判決理由抜粋)
 「(1)小切手帳の利用契約について  《証拠略》を総合すれば,右契約によって発行される小切手帳は,250の加盟店で利用できるものでその業種も多様ではあるが,主として,衣類,電気製品,靴,家具,宝石などの比較的日常生活に深い関係のある商品の購入に利用されるものであること,小切手帳を利用して購入できる額には一定の限度があって,2ヶ月間で10万円の場合もあるが,本件では2ヶ月間で5万円と定められていること(ただし,それ以上の必要があるときのために,1万円までの限度超過購入券3枚が添付されている),控訴人に対する支払いは,割賦弁済の方法でおこなわれ,取扱いとしては1,3,5回の短期のものもあるが,本件では10回の長期割賦の約定がなされており,1回の支払額もさほど多くはないこと,一方,被控訴人は個人タクシーの運転手をして18万円ないし20万円の月収があり,借地上に自己所有の家屋があって比較的恵まれた生活をしていることがそれぞれ認められ,このような小切手帳の利用契約の目的,内容,被控訴人の職業,生活程度のほか,今日の社会経済状況とくに割賦販売の隆盛や消費者金融制度の発達などを加味して考えれば,小切手帳の利用契約は,日常生活に必要な商品購入のため小額金融の便宜を図るものとして,被控訴人の日常家事の範囲に属するものと解するのが相当である。 (略) (2)スペシャル・カードの利用契約について 《証拠略》を総合すれば,スペシャル・カードは,その利用できる商品や購入できる商品の点では小切手帳の場合と異なるところはないが,小切手帳では包摂できない高額な商品購入のための融資を目的とするもので,小切手帳とは違い,具体的な商品の購入に際して個別的に発行されるものであること,その発行は小切手帳の利用者に対してのみ行われ,しかも利用者の経済状態の審査などの比較的厳しい手続の下で行われるものであって当然に発行されるものではないこと,融資の金額は5万円からあるが,本件では15万円であってかなり高額であり,事実,ダイヤの指輪購入に際して融資されていること,控訴人に対する支払いも24回の割賦弁済でそのために2年の長期間を要すること,割賦金の支払いを確保するために一般的に購入した商品の所有権を控訴人に移転するという特約条項が規定されていることがそれぞれ認められる。  そうすると,スペシャル・カードの利用契約は,その目的,内容のうえで小切手帳の利用契約とはいちじるしく異なることになり,前記認定の被控訴人の職業,生活程度から見てもなお被控訴人の家事においてその日常性を具有するものとは言えず,したがって日常家事の範囲外にあるものというほかない。」


 5 武蔵野簡裁判昭和51.9.17判例時報852号105頁
(判示事項)
 電子レンジ代金債務が日常家事債務の範囲内にあるとされた事例
(判決理由抜粋)
 「<証拠>によれば,請求原因1,2,3の事実および本件品物は昭和50年4月8日被告の妻○○が原告から被告を購入者とし,自己を連帯保証人とする約定のもとに買受けたものであることが認められる。次に右○○の本件電子レンジ購入が日常家事債務の範囲に入るかどうかであるが,諸種電気製品が普及し数多く家庭生活に入っている現在,大都市生活者の場合は電子レンジの購入をも日常家事債務の範囲に入るものと認めても差し支えないものと考える。しからば(同情すべき点大であるけれど)被告は本件債務の支払をまぬがれないことになる。」(購入代金14万0838円)


 6 東京地裁判昭和53.11.1判例タイムズ378号118頁
(判示事項)
 10万円の借財につき夫婦の日常家事債務を基本代理権を基本代理理権とする権権踰越による表見代理の成立が否定された事例
(参照条文)
 民法110条,761条
(説明)
 Xは,Y・A夫婦の日常家事債務を基本代理権とする権限踰越による表見代理につき,左記の正当理由を主張した。
(1) Aが連帯借用書に別居中の夫Yの署名,押印を代行した
(2) 金額が少額である
(3) 使用目的を長男Bの旅行費用と説明した
(4) 住所がYと同じ府中市内である
(5) Aが自分の印鑑証明書を持参した
(判決理由抜粋)
 「次に,控訴人は,夫婦の日常の家事の行為権限を基本代理権とする表見代理を主張するので,以下検討する。
 請求原因3の事実のうち,(1),(4),(5)の各事実は,そもそも,本件金員の借入が被控訴人夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると控訴人が信じるにつき正当な理由とはなりえない。次に<証拠>によれば,中島通子は本件借入れに際し,中島征行の旅行費用にあてると述べたことが認められるが,控訴人において右発言内容の真偽を確かめた形跡はなく,他に本件借入金が中島征行の旅行費用にあてるものであったことを認めるに足りる証拠のないことは前叙のとおりである。そうすると中島通子の右発言は単なる口実であるかもしれず,借入金額が10万円で比較的少額であることは控訴人主張のとおりであるが,以上の事実のみによって,控訴人において,本件金員借入が被控訴人夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信じるにつき正当な理由があったといくことはできない。」


 7 札幌地裁判昭和58.12.5判例タイムズ523号181頁
(判示事項)
 妻が子どもの教育のため夫名義で購入した学習教材の代金のうち頭金を差し引いた残代金の支払いにつき,立替払等を業とする会社と間で夫名義で支払委託契約を締結したことが日常家事代理権の範囲に属するものとされた事例
(判決理由抜粋)
 「<証拠>によれば,控訴人は本件契約締結当時46歳で,○○予備学園の常務理事の職にあり,月収は約30万円で,昭和53年に新築した家屋と土地を所有し,右家屋に妻子と暮らしていたこと,本件契約は子どもの学習教材を購入した代金の立替払契約であること,右教材は現金価格18万9000円であり,本件契約おける立替代金の支払方法は初回1万1300円,以降毎月1万円であったことが認められ,これに反する証拠はない。
 ところで,日常家事に関する法律行為の範囲は,夫婦の社会的地位,職業,資産,収入や地域社会の慣習等の個別的事情だけではなく,その法律行為の種類,性質等の客観的事情をも考慮して定められるものである。これを本件についてみると,本件契約は子どもの教育のための教材に関するものであり,さきに認定した控訴人の地位,収入,資産等に照らすと,本件契約における立替金債務が控訴人夫婦にとって不相当に高価であるとは認め難く,仮に控訴人が訴外○子に対し日常家事に関する代理権に制限を加えていたとしても,訴外○子に目の障害はあったが,訴外○子が本件契約の趣旨を理解してこれを締結し,その後の支払等をしていたことも前認定のとおりであるから,本件の場合右のような主観的事情を重大視することはできず,本件契約締結は日常家事代理権の範囲に属するものと認めるのが相当である。
 したがって,訴外○子が控訴人名義でした本件契約は控訴人に効果が及ぶものということができる。」


 8 門司簡裁判昭和61.3.28判例タイムズ612号57頁
(判示事項)
 太陽温水器を購入することは日常の家事に関する行為に当たらないとされた事例
(参照条文)
 民法761条
(判決理由抜粋)
 「まず,本件の太陽熱温水器の購入代金が日常家事債務に該当するか否かについて検討する。
 太陽熱温水器は,通常,家族の日常生活に使用されるものではあるが,生活必需品とまではいかず,また一般に普及しているとも言い難いところである。そこで,本件温水器の購入代金が日常家事債務であるか否かの判断は,本件温水器が被告の家族の日常生活に与えた効用の程度,若しくは日常生活における温水器の必要性の程度と,被告家族の日常の家計に対して温水器の購入代金がもたらす負担の重さの程度とを総合判断して決するのが相当と考える。
 被告本人の供述によると,本件温水器は浴室用に設置されたものであるが,もともと浴槽にはガス釜が設置されていたことが認められるので,温水器の必要性は低かったと認めざるを得ない。また,温水器使用によって節約される分のガス代が,温水器の立替代金の月賦金額と較べてどの程度であったかはまったく明らかでない。要するに,代金の負担さえ重くなければ,有るに越したことはないという程度に過ぎないものであったと推認される。
 次に,被告の家計の状況を見るに,被告本人の供述によると,昭和57年10月頃は,被告の家族は被告夫婦と妻の両親の4人暮しであったこと,被告の収入は1か月の手取りが7,8万円で,それは全部妻に渡していたこと,妻は小規模の食堂を経営していたことなどが認められるが,食堂の利益がどの程度であったのかは判らない。それにまた,被告本人の供述によると,被告は温水器の設置に反対していたのを妻が敢えて設置したことが認められる。
 右のような被告家族の生活状況の下で,立替手数料も入れて合計41万5710円の債務を負担するのは,極めて重い負担というべきである。前認定の必要性の低さとこの債務負担の重さを考えると,その頃の被告家族にとって,敢えて本件温水器を設置する理由はなかったと想われる。従って,本件温水器の購入は,民法761条の日常家事に関する法律行為には該当しない。 」


 9 大阪簡裁判昭和61.8.26判例タイムズ626号173頁
(判示事項)
 ふとんの購入とその代金支払のためのクレジット契約は,日常の家事に関する行為とは認められないとされた事例
(判決理由抜粋)
 「そこで,百歩譲って,本件ふとんの購入,本件立替払契約時に被告は訴外人と同居していたとしても,<証拠>によると,当時訴外人は仕事をせず,被告は当初は独身時代の貯金で生活をしていたが,その後は実家や兄弟の援助で生活をしていたことが認められ,本件立替金等合計金21万6899円は,被告夫婦にとって多額であり,<証拠>によると,被告は本件契約段階からふとん購入に反対していたことが認められ,このことを考え併せると,本件ふとん購入,本件立替払契約は被告の家族の共同生活に通常必要とするものではなく,右各契約は日常の家事の範囲を逸脱したものというべきである。そうすると,請求原因4は理由がない。
(請求原因4:被告は本件契約締結当時,訴外人の妻であり,本件商品の購入についても関与しており,民法761条の準用により,連帯責任を免れることはできない。 」


10 昭和63年3月民事裁判資料第177号93頁 【159】
(協議問題)
 「夫が妻に無断で妻の実印,印鑑証明書を使い,生活費という名目で貸金業者から借金した場合,妻は責任を負うべきか。(54札幌)」
(協議結果)
 判例は,夫婦間及び同居の兄弟間においても,実印,印鑑証明書を所持していても代理権の授与を認めない傾向にある。
 本問のように夫が妻名義で貸金業者に借金の申込みをしたような場合において,貸金業者において右の行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由があるとするためには,電話するなどの方法で妻等に事情調査をする必要があろう。
(参考)
 最高裁一小判昭44.12.18最高裁判所判例解説昭和44年度(下)」


11 東京地裁判平成10.12.2判例タイムズ1030号257頁
(判示事項)
 民法761条の日常家事債務に当たるとされた事例
(判決理由抜粋)
 「ところで,民法761条が定める「日常の家事」に関する法律行為の具体的な範囲は,当該夫婦の社会的地位,職業,資産,収入や,当該夫婦が生活する地域社会の慣習等の個別的事情に加え,当該法律行為の種類,性質等の客観的事情をも考慮して定められるべきものである。
 これを本件についてみるに,前記一に認定した本件契約締結当時の被控訴人及び春子の年齢,職業,収入,資産等の事実及び前記前提事実に照らすと,本件契約における立替払金債務の額が支払方法である1回当たりの分割金の金額をも斟酌すれば被控訴人夫婦の生活水準に照らし不相当に高額であるとは認め難いことに加え,そもそも本件契約は春子が夏子に英語教育を施すために購入した教材に関するものであるから,その性質上,夫婦の共同生活に通常必要とされる事項に該当するというべきであり,本件契約に基づく債務は,いわゆる日常家事債務に当たると解するのが相当である。本件契約締結当時,被控訴人夫婦は同居していなかったものの婚姻関係が破綻していたわけではないから,この別居は右判断を妨げるものではない。また,平成9年6月現在,春子は,合計265万円の借入債務をおっていたのであるが,本件契約締結当時,春子がどの位の債務を負っていたかは必ずしも明らかではない。かえって,証拠(乙2,被控訴人)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人夫婦の生活が苦しくなったのは,夏子が幼稚園に通うようになり,春子も仕事を辞めた平成8,9年ころ以降のことであることが認められるから,平成9年6月現在,春子が265万円の債務を負っていたことも前記判断を左右しない。
 よって,本件契約の締結は,被控訴人夫婦の日常家事代理権の範囲に属するものと認めるのが相当であり,春子が被控訴人名義でした本件契約は,被控訴人に効果が及びものといわざるを得ない。」


12 八女簡裁判平成12.10.12判例タイムズ1073号192頁
(判示事項)
 妻が子のために学習教材を購入した際に締結したクレジット会社との間の立替金契約について,民法761条の日常家事に関する法律行為に該当しないとされた事例
(判決理由抜粋)
  「次に前記事実を前提に,本件教材の販売契約ないし本件契約が日常家事に関する法律行為に該当するか否か検討する。
 民法761条が定める日常家事に関する法律行為の具体的範囲は,夫婦の社会的地位,職業,資産,収入,夫婦が生活する地域社会の慣習等の個別事情のほか,当該法律行為の種類,性質等の客観的事情をも考慮して定められるべきものである。
 これを本件についてみるに,前記一に認定した本件契約締結当時の被告や春子の職業,収入,資産の事実及び被告夫婦が,本件契約締結時以前から,生活費が不足したため,貸金業者から借り入れをし,本件契約締結時,300万円程度の借金があったこと,その借金は,被告の収入で返済し,生活費は,春子の収入に頼らざるを得なかったことなど,当時の被告夫婦の生活水準からすると,本件契約に基づく総額72万4828円の債務は,被告夫婦にとって,高額といわざるを得ない。このことに加え,前記一で認定した被告らの居住地域の進学熱の程度,被告夫婦や子供らの学歴から推測して,子供の教育に関して,被告夫婦が特に熱心であったとは認められないこと,及び本件契約を締結するに至った事情が,春子が秋子のために購入した一面は認められるものの,販売員が午後11時ころまで被告宅に滞留し,やむなく購入せざるを得なかったこと,その他前記一に認定した事実に照らすと,本件教材の購入は,被告夫婦の共同生活に通常必要とされる事務に該当するものと解するのは相当でなく,民法761条の日常家事に関する法律行為に該当しない。本件契約の基となった本件教材の販売契約に基づく代金債務が日常家事債務に当たらないのであるから,本件契約に基づく債務は,日常家事債務に該当しないというべきである。」


13 東京簡裁判平成14.12.26 平成14年(ハ)第1148号 売買代金請求   (最高裁HP該当判例)
(判示事項)
 妻が児童用英語教材セットの割賦購入等の契約をしたことによる債務について,民法761条の日常家事債務であることが否定されて事例
(判決理由抜粋)
 「証拠<略>及び弁論の全趣旨によれば,被告は,音楽専門学校の音楽講師をし,月収は20万円程度であったこと,平成9年5月13日に婚姻し,同年11月8日,長女Hが生まれたが,上記契約当時はまだ6か月余りにすぎず,二人の間では長女の教育方針等について十分な話し合いをする程の段階ではなかったこと,訴外Dは,勧誘された際,長女がまだ6か月余りで英語教育の必要性を感じていないと云うと,原告の販売担当者から「お母さん自身の勉強になる。」「イベントなどで友人ができる。」などと云って勧誘され,「主人と相談して後日返事したい。」と云って,一応断ったところ,さらに「即決でお願いします。旦那さんには内緒でもお小遣いで買えるんじゃない。」などと説得され,契約書(甲1)に署名捺印したこと,しかし送られてきた教材は,生後1年にもならない幼児には何の意味もなさず,後日被告に見つかった際は,友達が使わないからというので譲ってもらったなどとごまかしていたこと,等の事実が認められ,この認定に反する証拠はない。
 民法761条の「日常の家事」とは,「夫婦の共同生活に通常必要とされる事務」を意味するが,これが夫婦の連帯責任とされる理由は,このような事務は夫婦が共同で処理すべき事務であって,対外的に夫婦のいずれか一方の名前で行われても,他方がこれに承諾を与えている場合が通常であり,仮に内部的には承諾を与えていないことがあるとしても,取引の相手方は,承諾が与えられていると信じ,夫婦と取引をするとの意思で行うのが通常であることを踏まえ,相手方を保護する趣旨によるものと解される。
 本件の場合,商品の価額が被告の月収の3倍を超える高額のものであり,その内容は,子供の教育のためとはいっても,生後6か月余りの幼児にすぐ必要なものではないから,「夫婦の共同生活に通常必要とされる事務」の範囲を超えるものといわざるを得ず,それ故,訴外Dが主人に相談してと云って断った経過からすると,原告の勧誘担当者も被告の承諾がないことを知っていたものと認められる。そうすると,上記契約に基づく債務を日常家事債務として被告に連帯責任を負わせることはできないというべきである。」


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