交通事故における車速と停止距離に関する判例
● 福岡高判平成13.6.26判例タイムズ1118号276頁 (判決理由抜粋) 「原判決は,「罪となるべき事実」として,「被告人は,原判示日時ころ,普通乗用自動車を運転して原判示場所の交差点を直進するにあたり,同所付近は,最高速度が40キロメートル毎時に指定されていたから,指定最高速度を遵守することはもとより,同交差点の対面信号機の表示が青色から黄色に変わったのを同交差点入口の停止線の手前約150.2メートルの地点で認めたのであるから,同信号機の表示に留意し,その表示に従って同交差点の停止位置に停止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,あえて同交差点をそのまま通過することとし,同信号機の表示に留意することなく,漫然時速約90キロメートルの速度で進行した過失により,同交差点の直前で,左方道路から青色信号に従って同交差点に進入してきた被害者運転の普通乗用自動車を前方約39.8メートルの地点に初めて発見するとともに対面信号の表示が赤色に変わっていることに気付き,制動措置を講じたが間に合わず,自車前部を被害車右側面に衝突させた」旨認定しているのであるが, 関係証拠によれば, 被告人は,本件交差点入口に設置された停止線の手前約150.2メートルの地点で,対面信号が黄色信号になっていることを認識しており,当該黄色信号の表示する時間は,最大4秒間であることが認められるから,当該時速約90キロメートルの速度(1秒間に約25メートル進行する。)で運転走行していた被告人が,本件事故を適切に回避するためには,道路交通法施行令2条1項が定めているように,黄色信号に従って速やかに停止するしかなかったことが認められる。そうすると,本件の注意義務の内容は,赤色信号に気付くのが遅れたことではなく,黄色信号の表示に従わないで時速約90キロメートルの速度で運転を継続したことにあるというべきである。原判決のいうような注意義務があるとした場合,時速約90キロメートルの速度で進行中の自動車は,対面信号の表示が赤色になったことに気付いてから直ちに急制動の措置を講じても被害車両との衝突を回避することは殆ど不可能であるといわざるを得ないから,その認定したような注意義務の違反を理由として発生した結果について責任を問うことはできないといわざるを得ない。そうすると,原判決がその判示のような内容の注意義務を怠った過失によって被告人の刑事責任を認めたことは,その理由に食い違いないし理由不備の違法があることになるので,刑事訴訟法378条4号により破棄を免れない。」 (以上2003.7.7記) ● 東京高判昭和50.12.19高刑第28巻4号525K頁(業務上過失傷害被告事件) 裁判所Web判例集 (判決理由抜粋) 「一、 本件事故直前における被告人車両の速度について 原判決挙示の証拠、特に司法巡査D作成の昭和四八年七月二一日付実況見分調 書、新潟県警察技術吏員E作成の鑑定書(以下、単に実況見分調書、鑑定書とい う。いずれも原審弁護人において証拠とすることに同意している。)によれば、本 件事故現場路上には、被告人車両の左右前輪によるスリツプ痕(スキツドマーク) 二条(各約三・四メートル)、と左右の内外後輪によるスリツプ痕四条(各約二・ 四メートルないし約二・九メートル)が残つていたこと、前輪のスリツプ痕の長さ と、乾燥したアスフアルト路面におけるタイヤと路面との摩擦係数(〇・六ないし 〇・八)とから車速を換算すると、三二ないし二七キロメートル毎時となり、前後 輪のスリツプ痕全六条の開始点、終了点の決定上の誤差等を考慮し、測定値の許容 誤差をプラス、マイナス〇・三メートルとし、全スリツプ痕の長さの総和を走行タ イヤ数で割つた値に基いて、前同様の方法で車速を換算すると、一八・三ないし二 五・一キロメートル毎時となることが認められる。」 ● 神戸地判平成14.3.25(業務上過失致死,道路交通法違反被告事件) 裁判所Web判例集 (判決理由抜粋) 「5 結果回避可能性について (1) 以上の視認状況を踏まえて,被告人が,視認状況の最も悪い,本件事故現 場に近いバス停留所付近の街灯が消灯していた場合において,本件事故当時,本件 事故の結果発生を回避することが可能であったか否かを検討する。 ア この点,自動車運転者としては,前方の路上に人あるいは人らしきもの の存在を発見した場合には,まず急制動の措置を講じることが考えられるから,本 件においても,被告人が被害者を発見することができた時点において,直ちに急制 動の措置を講じていれば,被害者との衝突を避けられたか否かについてまず検討す る。 イ(ア) 関係各証拠によれば,本件事故当時,被告人車両は,時速約55キ ロメートル(秒速約15.28メートル)であり,本件道路における摩擦係数は 0.87前後であったと認められる。 (イ) そして,空走距離についてみてみるに,知覚反応時間は,一般に 0.7秒程度から1.0秒程度と考えられており,被告人に最大限有利に考えたと しても,知覚反応時間を1.1秒とすれば十分であるから,その場合の空走距離 (被告人車両の空走距離の最大値)は, 約16.806メートル(55000/3600×1.1=16.806) …………@ である。 そして,制動距離については,摩擦係数が0.87前後であるから, 誤差をも考慮して,これも被告人に有利に0.86として計算すれば, 約13.847メートル((55000/3600)2÷(2×9.8×0.86)= 13.847) ………………………………………A であるから,結局,停止距離は,長くても 約30.65メートル(@+A) …………………………………B とみるのが合理的である。 (ウ) この点,弁護人は,空走距離算出のための知覚反応時間について, オルソンの論文(原1審弁8)等を援用して,障害物の存在を予期していない場合 には,予期している場合と比べ,障害物の認知が遅れることを理由に,本件事故の ように障害物の存在を予期していない場合の知覚反応時間は,上記1.1秒を最大 値とする数値よりも長くなると主張する。そして,同論文は,実験の結果から,予 期していない場合の知覚反応時間の95パーセントタイル値(100人中95人が 反応できる時間)は,1.6秒程度であるとし,また,予期しない状況に直面した 運転者の知覚反応時間として2.5秒を用いることを推奨している。 しかし,この論文における実験は,上り坂の頂上付近に高さ15セン チメートル,幅91センチメートルの黄色の気泡ゴムでできた障害物を設置して行 った(障害物の上端への平均視程距離は46メートル,被験者の多くの障害物を初 めて見たときの速度は秒速12ないし14メートルであり,衝突するまでには3な いし4秒あった。)というものであるところ,論者自身もいうように,もっと脅威 のある障害物やブレーキを踏むことしかできないようなものに対しては,知覚反応 時間はさらに短くなることが予想されるというのであるし,また,実験の時に比べ て障害物への平均視程距離がもっと短かかったり,被験者の進行速度がもっと速か ったりしても,やはり知覚反応時間は短くなると思われるから,予期していない場 合の知覚反応時間の95パーセントタイル値が1.6秒であるとの結果を本件事故 の場合の知覚反応時間としてそのまま用いることはできない。また,2.5秒とい う数値は,アメリカの交通工学における高速道路設計時の可及的に事故を防止しよ うとの観点から推奨されている数値であって,論者によれば,疲労やアルコールと いった要因が関与する場合を考慮した上で見積もったものであるから,本件のよう な具体的な事件における知覚反応時間を考える上で用いるべき数値とは到底認めら れない。上記の1.6秒や2.5秒といった数値を本件における被告人の知覚反応 時間として用いるのが適当でないことは明らかである。 そして,前記(イ)で述べた,0.7秒程度から1.0秒程度という知 覚反応時間は,障害物の存在を予期していない場合をも含めて考えられている数値 であるところ,前記「自動車事故鑑定工学」の写し(原1審弁2)には,いくつか の知覚反応時間に関する実験の結果が紹介されていて,実験の方法によってその数 値は様々であるが,そのうち,本件事故と最も状況の似た実験である,シミュレー ターの視界に突然歩行者を飛び出させて測定した知覚反応時間は,素速いグループ の平均値で0.83秒,のろい反応のグループの平均値で1.13秒であったとい うのであって,上記の数字とごく近い数値であることからすると,本件事故におけ る知覚反応時間は,前記のとおり最大値として1.1秒を用いるのが相当である。 ウ そうすると,被告人車両の停止距離は被告人に最も有利に考えても約3 0.65メートル(前記(イ)のB)であると認められ,また,被告人車両と被害者 の速度から考えて,被告人車両が衝突地点の30.65メートル北方(手前)の地 点を進行していたときには,被害者は上記地点の範囲内で佇立あるいは歩行してい たとみるのが相当であるところ,先に検討したように,被告人は,本件事故現場近 くにあるバス停留所の街灯が消灯していたとしても,本件事故当時,衝突地点の3 0.65メートル北方(手前)の地点に至るまでには,上記地点のいずれかの地点 あるいはその範囲内の地点において佇立又は歩行していた被害者をはっきりと発見 できただけでなく,衝突地点から37.72メートル北方(手前)の地点において すでに,被害者が上記地点のいずれかの地点あるいはその範囲内の地点に佇立して いた場合には,それを発見することができたと認められるのであるから,それらの 時点で直ちに急制動の措置を講じていれば,被害者に衝突することを避け,本件事 故の結果発生を回避することができたことが明らかである。 (2) しかも,自動車運転者としては,上記のように,前方の路上に人や人らし きものの存在を発見した場合には,直ちに急制動・急停止の措置を講じる以外に も,直ちに減速したり,その人の動静を慎重に見極めつつハンドルを的確に操作し たり,あるいはクラクションを吹鳴してその人の注意を喚起したりするなどの措置 を講じて,同人との衝突を回避するものであるところ,本件においても,本件道路 の車線数,南行車線の幅,当時の交通量等に鑑みれば,被告人は,被害者を発見で きた地点において,これらの措置を講じることが十分に可能であったのはもとよ り,被害者に相当程度接近した地点に至って被害者を発見した場合であっても,本 件事故が被告人車両の左前角部を被害者に衝突させたものであることから考えれ ば,上記のような急制動・急停止以外の措置を講じることによっても,被害者との 衝突を回避することが十分に可能であったということができる。 6 被告人の過失の有無について 以上の事実を前提として,被告人の過失の有無を検討する。 (1) まず,被害者が,本件事故の直前,西から東に向かって歩行したり,ある いは被告人車両の進路上の衝突地点付近の路上に佇立したりしていたとすれば,被 害者は,被告人車両の進路上を横切ろうとし,又は被告人車両の進路付近に存在し ていたわけであるから,前記の視認状況,結果回避可能性を前提とすれば,被告人 が,被害者をはっきり視認することが可能になっていた衝突地点から30.65メ ートル北方(手前)の地点に至るまでに,被害者を発見して急制動・急停止の措置 を講じていれば,被害者との衝突を避けることができたことが明らかであり,ま た,その他の適切な措置を講じて被害者との衝突を避けることも可能であった(例 えば,被害者が西から東に向かって歩いていたのであれば,少し減速するだけで本 件衝突は避けられた。)にもかかわらず,被告人は,前方注視を怠って被害者に気 付かず,被害者との衝突回避の措置を取ることなく,被告人車両を被害者に衝突さ せたものであって,被告人には進路前方を注視してその安全確認をすべき注意義務 を怠った過失があることは明らかである。」 ● 神戸地判平成15.1.29(業務上過失致死被告事件) 裁判所Web判例集 * 事案を異にするが,前記裁判例とほぼ同じ構成を採用して判断した事例 (判決理由抜粋) 「4 結果回避可能性について 前認定の視認状況を前提に,被告人が,本件事故当時,本件事故の結果発生 を回避することが可能であったか否かを検討する。 自動車運転者としては,前方の路上に人の存在を発見した場合に,衝突を回 避するためにとる行動としては,ハンドル操作なども考えられるところであり,急 制動の措置に限られるものではないが,被告人が被害者を発見することができた時 点において,直ちに急制動の措置を講じていれば,被害者との衝突を避けられたか 否かについてまず検討する。 関係各証拠によれば,本件事故当時,被告人車両の速度は,時速約60キロ メートル(秒速約16.667メートル)であり,本件事故現場付近道路の摩擦係 数は0.7程度であったと認められる(なお,被告人車両の速度は,厳密にいえ ば,時速60キロメートルより低速度であった可能性はないとはいえないが,以下 の衝突回避可能性を考えるについては,むしろ時速60キロメートル未満である場 合にはより回避可能性が高くなる関係になるので,その点には深入りしない。)。 そして,空走距離について検討すると,知覚・反応時間は,一般に0.7秒 程度から1.0秒程度と考えられており,被告人に最大限有利に考えたとしても, 知覚・反応時間を1.1秒とすれば十分であるから,その場合の空走距離(被告人 車両の空走距離の最大値)は, 約18.333メートル(60000/3600)×1.1=18.333・・・・・・・・・・・・・・・・・@ である。 そして,制動距離(摩擦係数0.7)は, 約20.246メートル((60000/3600)2÷(2×9.8×0.7))=20.246・・・・・・A であるから,結局,停止距離(「空走距離」と「制動距離」との和を「停止距 離」という。以下同じ。)は,長くても 約38.579メートル(@+A)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・B となる。 弁護人は,空走距離算出のための知覚・反応時間について,何かが起こると 予期していない場合の知覚・反応時間は,前記1.1秒を最大値とする数値よりも 長くなるのであり,2.5秒とすべきであると主張する。しかし,自動車運転者 は,絶えず前方左右を注視し進路の安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務 があるのであるから,弁護人が引用する文献(弁護人請求証拠番号1。弁1)中の 記載は,本件のような具体的な事件における知覚・反応時間を考える上で用いるべ き数値とは到底認められず,2.5秒という数値を本件における被告人の知覚・反 応時間として用いるのは明らかに正しくない。そして,前記の0.7秒程度から 1.0秒程度という知覚・反応時間は,障害物の存在を予期していない場合をも含 めて考えられている数値であるから,本件事故における知覚・反応時間は,前記の とおり最大値として1.1秒を用いるのが相当である。そうすると,被告人車両の 停止距離は約38.579メートル(前記B)であると認められるところ,前認定 のとおり,被告人は,被告人車両が衝突地点の約39.7メートル手前の地点にお いて,被害者を発見することができたのであるから,その時点で直ちに急制動の措 置を講じていれば,被害者に衝突することを避け,本件事故の結果発生を回避する ことができたと認められる。なお,弁護人は,本件は,前記ファミリーマートの店 内の光源等により明るくなった道路部分を通過した直後の事故であって,しかも, 本件事故現場付近道路の照度は十分ではなく,被害者を発見しにくい状況にあった から,被告人において被害者を発見することができた地点は,前記約39.7メー トル手前の地点よりもさらに被害者に接近した地点であった旨主張するが,弁護人 の主張を考慮に入れても,本件事故当時の現場の照度が,被害者の発見の妨げとな るほど暗かったものでないことは明らかであるから採用の限りではない。 さらに,自動車運転者としては,前方の路上に人の存在を発見した場合に は,直ちに急制動の措置を講じる以外にも,直ちに減速し,的確にハンドル操作を し,あるいはクラクションを吹鳴するなどの措置を講じて,同人との衝突を回避す ることができるのであり,本件においても,本件現場付近道路の状況や当時の交通 量等にかんがみれば,被告人は,被害者を発見できた地点において,急制動の措置 を含むこれらの措置を講じることにより被害者との衝突を回避することが十分に可 能であったというべきである。 5 被告人の過失の有無について 以上の事実を前提として,被告人の過失の有無を検討すると,被害者は,被 告人車両の進路上を横切ろうとしていたわけであるから,前記の視認状況,結果回 避可能性を前提とすれば,被告人が,被害者を視認することが可能であった衝突地 点から約39.7メートル西方(手前)の地点において,被害者を発見して急制 動・急停止の措置を講じ,あるいは,その他前記の適切な措置を講じて被害者との 衝突を避けることができたにもかかわらず,被告人は,前方注視を怠ったため被害 者の発見が遅れ,被害者にその前方約11.6メートルの地点に接近するまで気付 かず,被害者との衝突回避の措置を取ることなく,被告人車両を被害者に衝突させ たものであって,被告人には進路前方左右を注視してその安全を確認しつつ進行す べき注意義務を怠った過失がある。」 ● 仙台高判平成15.12.2 (業務上過失致死被告事件) 裁判所Web判例集 (判決理由抜粋) 「(3) 所論は,原判決が,「被告人車両の存在及び動静に対する予見可能性は 十分あったものと考えられる。」としている点に関して,被告人車両の衝 突時の推認される速度,被告人車両が発進後衝突するまで進んだ距離を基 に,被告人車両が発進を始めた時点での被害車両の位置を推定すると,被 害車両の速度を時速40キロメートルとした場合,被害車両は衝突地点か ら約19.11メートルないし30.22メートル手前におり,同速度を 時速30キロメートルとした場合は,約14.33メートルないし22. 66メートル手前にいたことになるが,被害車両の停止距離は,時速40 キロメートルのときは約34.82メートルであり,時速30キロメート ルのときは約23.74メートルであるから,いずれにしても,被害者が 被告人車両をその発進直後に発見して急制動を掛けたとしても,衝突を回 避することはできなかったと認められるので,原判決の上記の点は是認し 得ないという。 そこで検討すると,被告人車両の発進時の加速度及び衝突時点での速度, 被害車両の走行速度等は,証拠上明確に特定できないものの,原審及び当 審で取り調べた証拠によって推測することは可能であり,被告人車両の発 進地点から衝突地点までの距離は約2.9メートルであるところ,被告人 車両のような排気量1.5リットルクラスの普通乗用車が,急発進しない で発進後2.9メートル進むのに要する時間は,約1.72秒ないし2. 72秒程度であると認められ,この所要時間から,被告人車両が発進をし た時点での被害車両の衝突地点までの距離を推測すると,被害車両の速度 が時速40キロメートルの場合は,約19.11メートルないし30.2 2メートルであり,時速30キロメートルの場合は,約14.33メート ルないし22.66メートルであると認められる。 ところで,所論は,被害車両の停止距離は,時速40キロメートルのと きは約34.82メートルであり,時速30キロメートルのときは約23. 74メートルであるから,上記衝突地点との距離からして,被害者が急制 動を掛けても衝突は避けられなかったというのであるが,所論のその停止 距離は,被害者が高齢者であることを理由に空走時間を2秒,路面が乾燥 し,舗装状況が摩滅していたことを理由に路面の摩擦係数を0.5として 算出しているのである。しかしながら,空走時間は,一般には,普通人で 0.6ないし0.8秒,運動神経の鈍い人や酒,薬の影響下にある人で1. 0秒以上とされていることから,単に73歳という高齢を理由に2秒とい う時間を設定するのは明らかに不当であり,また,摩擦係数を0.5とし ているのも,一般の例に比較して妥当性を欠くといえるのであって,所論 のいう被害車両の停止距離は,合理的な根拠を欠くものといわざるを得な い。 そこで,改めて,相当と考えられる数値として空走時間1.2秒,摩擦 係数0.6を前提にした場合,被害車両の停止距離は,時速40キロメー トルのとき約23.82メートル,時速30キロメートルのとき約15. 89メートルと計算でき,上記衝突地点までの距離を考えると,被害者が 被告人車両が発進したのを発見して直ちに急制動を掛けておれば,衝突を 回避できたか,あるいは十分減速されていて,衝突しても死亡するに至ら なかった可能性があることが否定できないのである。そうすると,本件衝 突の発生あるいは少なくとも死亡という結果の発生については,被害者側 の行動も寄与している可能性があることを否定できないといわねばならな い。」 (以上2008.8.30記) |