実務の友 実友・判例集
 
 大判昭和12.9.17 民集16巻1435頁
(判決要旨)
1 非債弁済による不当利得返還請求権の消滅時効はその権利発生と同時に進行を始める。
2 債務の不存在を知らない非債弁済の場合にも、不当利得返還請求権の消滅時効は民法166条の規定どおり、権利の発生と同時に進行を開始する。
(判決理由抜粋)
 按するに不当利得とは法律上の原因なくして他人の損害に於て利益を得たる事実を謂ひ斯る事実存するときは其の返還請求権を生し損害を受けたるものは直に之を行使することを得るものなれは此の権利の消滅時効の期間は権利の発生と同時に其の進行を開始するものなること民法第百六十六条の規定に徴し明白なり 此の理は所謂非債弁済に因るものに付ても何等異る所なし 尤も非債弁済に付ては所論の如く弁済を為したる者か債務の存在せさることを知らさる場合に限り給付したるものの返還を請求することを得るものなれは返還請求権発生の時に於ては権利者此の権利の発生を了知するに由なく之を行使すること能はさるものになれとも之れ事実上権利を行使することを得さるに止まり法律上行使不能なりと云ひ難く 前示民法第百六十六条に所謂権利を行使することを得る時とは法律上之を行使し得へき時を意味し事実上之を行使し得るや否やは何等関係なきものと解すへきを以て此の場合に於ても亦権利発生の時より時効期間進行するものと為ささるへからす 之れ権利者に苛酷なるか如しと雖権利者は其の後十箇年の間時効の中断を為し得へく斯る長期間に権利発生の事実を覚知せさるものの如きは権利の上に眠るものと謂ふに何等の妨なし 又他の一面より之を観るに一定の事実を覚知したる時を以て時効期間の起算点と為す特別の場合に於ては別に之を覚知することなかりし場合に適用せらるへき規定を設くるを常とす(民法第四百二十六条第七百二十四条第九百六十六条) 然るに此の種の規定なき非債弁済に因る不当利得返還請求権に付権利発生の事実を覚知したる時より之を起算すへきものとするときは此の債権に限り消滅時効の完成せさる場合に生するの不合理を免れす 此の点より見るも以上の解釈か正当なることを知り得へし 論旨は之を要するに以上と異る見解を以て原判決を批難するものにして理由なし
(原文はカタカナ文。読みやすくするため,平仮名文にし,文中にスペース挿入)





2013.2-

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