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最一小判平成19.6.7 集民第224号479頁(裁判所判例検索システム)
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(判決要旨)
いわゆる自動継続特約付きの定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効は,自動継続の取扱いがされることのなくなった満期日が到来した時から進行する。
(参照法条) 民法91条,民法166条1項,民法666条
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(判決理由抜粋)
3 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判断して,上告人の請求を
棄却すべきものとした。
自動継続定期預金においては,預金者は,預金契約締結後最初に到来する満期日
(以下「初回満期日」という。)までに継続停止の申出をすることにより,初回満
期日以降,預金払戻請求権を行使することができる。そのように預金者の一方的意
思表示によって排除できる自動継続に係る弁済期の定めは,消滅時効の進行を妨げ
る法律上の障害とはならないものというべきである。
したがって,上告人の本件預
金の払戻請求権の消滅時効は,初回満期日である昭和62年11月19日から進行
するものと解するのが相当である。
そうすると,その10年後である平成9年11月19日の経過により,本件預金
の払戻請求権の消滅時効が完成したものと解される。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1) 自動継続定期預金契約における自動継続特約は,預金者から満期日におけ
る払戻請求がされない限り,当事者の何らの行為を要せずに,満期日において払い
戻すべき元金又は元利金について,前回と同一の預入期間の定期預金契約として継
続させることを内容とするものである(最高裁平成11年(受)第320号同13
年3月16日第二小法廷判決・裁判集民事201号441頁参照)。
消滅時効は,
権利を行使することができる時から進行する(民法166条1項)が,自動継続定
期預金契約は,自動継続特約の効力が維持されている間は,満期日が経過すると新
たな満期日が弁済期となるということを繰り返すため,預金者は,満期日から満期
日までの間は任意に預金払戻請求権を行使することができない。したがって,初回
満期日が到来しても,預金払戻請求権の行使については法律上の障害があるという
べきである。
もっとも,自動継続特約によれば,自動継続定期預金契約を締結した預金者は,
満期日(継続をしたときはその満期日)より前に継続停止の申出をすることによっ
て,当該満期日より後の満期日に係る弁済期の定めを一方的に排除し,預金の払戻
しを請求することができる。しかし,自動継続定期預金契約は,預金契約の当事者
双方が,満期日が自動的に更新されることに意義を認めて締結するものであること
は,その内容に照らして明らかであり,預金者が継続停止の申出をするか否かは,
預金契約上,預金者の自由にゆだねられた行為というべきである。
したがって,預
金者が初回満期日前にこのような行為をして初回満期日に預金の払戻しを請求する
ことを前提に,消滅時効に関し,初回満期日から預金払戻請求権を行使することが
できると解することは,預金者に対し契約上その自由にゆだねられた行為を事実上
行うよう要求するに等しいものであり,自動継続定期預金契約の趣旨に反するとい
うべきである。そうすると,初回満期日前の継続停止の申出が可能であるからとい
って,預金払戻請求権の消滅時効が初回満期日から進行すると解することはできな
い。
以上によれば,自動継続定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効は,自
動継続の取扱いがされることのなくなった満期日が到来した時から進行するものと
解するのが相当である。
(2) これを本件についてみるに,前記事実関係等によれば,本件預金契約は,
継続の回数が10回に達した後の満期日になって初めて自動継続がされることがな
くなったものであるから,本件預金の払戻請求権の消滅時効は,同満期日である平
成9年11月19日から進行し,上告人による平成15年における前記預金払戻請
求の時にはまだ完成していなかったというべきである。
5 以上と異なる原審の判断には,判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法
令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
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