実務の友 実友・判例集
 
 最二小判平成16.2.20 民集第58巻2号475頁(裁判所判例検索システム)
(判決要旨)
1 貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における天引利息については,貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用はない。

2 貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に該当するためには,当該書面に同項所定の事項のすべてが記載されていなければならない。

3 貸金業者が貸金の弁済を受けた日から20日余り経過した後に債務者に当該弁済についての書面を送付したとしても,貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用要件である同法18条1項所定の事項を記載した書面の弁済直後における交付がされたものとみることはできない。(1〜3につき補足意見がある。)

(参照法条) 貸金業の規制等に関する法律17条1項,貸金業の規制等に関する法律18条1項,貸金業の規制等に関する法律43条1項,利息制限法1条1項,利息制限法2条
(判決理由抜粋)
 3 原審は,次のとおり判断し,本件各弁済による被上告人の不当利得返還債務は存在しないとして,上告 人の請求を棄却すべきものとした。

 (1) 利息制限法2条は,利息の天引きがされた場合の同法1条1項の規定の適用の仕方,すなわち,受領 額を元本として計算した場合の約定利率が同項の制限に服することを定めているのであるから,法43条1 項が一定の要件の下に利息制限法1条1項の規定の適用を排除しているのは,同法2条の規定の適用をも 排除する趣旨と解するのが相当である。したがって,利息の天引きについても,債務者が利息の契約に基づ く利息の支払に充当されることを認識した上でこれを支払えば,法43条1項の規定の適用対象となる任意の 弁済に当たる。

 (2) 被上告人は,上告人に対し,本件各承諾書写しを交付しているほか,取引1から30までの各貸付けに 係る金銭消費貸借契約締結の際には,本件各借用証書控え,本件各債務弁済契約証書写し又は本件金銭 消費貸借契約証書写しを交付している。本件各借用証書控えには,契約日,貸付金額,弁済期,返済方法, 利率(日歩及び実質年率)及び損害金の約定のほか,契約番号,貸付金利息及び諸費用の額,受領金額等 が記載されており,また,本件各債務弁済契約証書写し及び本件金銭消費貸借契約証書写しには,契約 日,貸付金額,弁済期,返済方法,利息の約定(先払の旨と日歩,実質年率),損害金の約定のほか,事務 手数料の額等が記載されており,これらの書面の交付により,本件各貸付けについては法17条1項の要件 を具備した書面の交付がされたものといえる。

 (3) 上告人による本件各弁済の日から20日余り経過した後に,被上告人から上告人に送付された本件各 取引明細書には,前回の支払についての充当関係が記載されているものがある。被上告人がその支払を確 認するためにはある程度の時間を要すると考えられるほか,予定されている次回の支払期限の前には別 途,本件各取引明細書が送付されており,債務者である上告人が次回の支払をするに当たって,具体的に 既払金の充当関係やこの支払後の残元本の額等を知ることができたものと認められるから,上記のように支 払から20日余り経過した後にその支払についての充当関係が記載された本件各取引明細書が送付された 各支払については,法18条1項所定の要件を具備した書面の交付がされたものといえる。

 4 しかしながら,原審の上記判断は,いずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 利息制限法2条は,貸主が利息を天引きした場合には,その利息が制限利率以下の利率によるもの であっても,現実の受領額を元本として同法1条1項所定の利率で計算した金額を超える場合には,その超 過部分を元本の支払に充てたものとみなす旨を定めている。そして,法43条1項の規定が利息制限法1条1 項についての特則規定であることは,その文言上から明らかであるけれども,上記の同法2条の規定の趣旨 からみて,法43条1項の規定は利息制限法2条の特則規定ではないと解するのが相当である。

 したがって,貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合 における天引利息については,法43条1項の規定の適用はないと解すべきである。これと異なる原審 の前記3(1)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 (2) 法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息とし て任意に支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制限法上,その超過部分につき,その契約が無効 とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所 定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守したときには,利息制限法1条1項の規定にかかわら ず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保 し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣 旨,目的(法1条)と,上記業務規制に違反した場合の罰則(平成15年法律第136号による改正前の法49 条3号)が設けられていること等にかんがみると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に 解釈すべきものである。

 法43条1項の規定の適用要件として,法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。) をその相手方に交付しなければならないものとされているが,17条書面には,法17条1項所 定の事項のすべてが記載されていることを要するものであり,その一部が記載されていないときは,法43条 1項適用の要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。

 上告人は,原審において,平成7年5月19日に被上告人との間で本件基本契約を締結した際に,被上告 人に対し,根抵当権設定に必要な書類を提出した旨の主張をしており,仮に,この主張事実が認められる場 合には,その担保の内容及び提出を受けた書面の内容を17条書面に記載しなければならず(平成12年法 律第112号による改正前の法17条1項8号,平成12年総理府令・大蔵省令第25号による改正前の貸金業 の規制等に関する法律施行規則13条1項1号ハ,ヌ),これが記載されていないときには,法17条1項所定 の事項の一部についての記載がされていないこととなる。ところが,原審は,上記主張事実についての認定 判断をしないで,本件各承諾書写し,本件各借用証書控え,本件各債務弁済契約証書写し及び本件金銭消 費貸借契約証書写しの交付により,本件各貸付けにつき法17条1項所定の要件を具備した書面の交付が あったと判断したものであって,原審の前記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違 反がある。

 (3) 法18条1項は,貸金業者が,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたとき は,その都度,直ちに,同項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)をその弁済をした者に交 付しなければならない旨を定めている。

 本件各弁済は銀行振込みの方法によってされているが,利息の制限額を超える金銭の支払が貸金業者の 預金口座に対する払込みによってされたときであっても,特段の事情のない限り,法18条1項の規定に従 い,貸金業者は,この払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければな らないと解すべきである(最高裁平成8年(オ)第250号同11年1月21日第一小法廷判決・民集53巻1号9 8頁参照)。

 そして,17条書面の交付の場合とは異なり,18条書面は弁済の都度,直ちに交付することを義務付けら れているのであるから,18条書面の交付は弁済の直後にしなければならないものと解すべきである。

 前記のとおり,上告人による本件各弁済の日から20日余り経過した後に,被上告人から上 告人に送付された本件各取引明細書には,前回の支払についての充当関係が記載されているものがある が,このような,支払がされてから20日余り経過した後にされた本件各取引明細書の交付をもって,弁済の 直後に18条書面の交付がされたものとみることはできない(なお,前記事実関係によれば,本件にお いて,その支払について法43条1項の規定の適用を肯定するに足りる特段の事情が存するということはでき ない。)。
これと異なる原審の前記3(3)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 5 以上によれば,上記の諸点についての論旨はいずれも理由があり,その余の論旨及び上告理由につい て判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻 すこととする。
 よって,裁判官滝井繁男の補足意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 裁判官滝井繁男の補足意見は,次のとおりである。
 私は,法廷意見に賛成するものであるが,利息制限法と法43条1項との関係についての論旨にかんが み,この点についての私の意見を補足して述べておきたい。
 法43条1項は,債務者が利息制限法を超える利息を支払った場合であっても,その支払が任意に行わ れ,かつ,貸金業者が法所定の業務規制に従って法17条及び18条各所定の要件を具備した書面を債務者 に交付しているときは,その支払を例外的に有効な利息の債務の弁済とみなしている。
 ここで任意の弁済とは,債務者が自己の自由な意思に基づいて支払ったことをいうべきところ,本件のよう な天引きが行われたときは,債務者が天引き分を自己の自由な意思に基づいて利息として支払ったものとい うことはできないから,この点からも,天引きされた部分に関する限り法43条1項の適用を受けることはでき ないものといわなければならない。
 また,本件各貸付けの中には,取引21,23,27,30の各貸付けのように,元本の弁済期を契約日の約5 年後とした上で,その間,利息の制限額を超える部分を含む利息等を1か月ごとに前払することとし,その支 払を怠れば,期限の利益を失い,債務全額を即時弁済することを求められるとともに,年40.004%の割合 による損害金を支払わなければならないとの内容の条項を含んだ取引約定書を用いているものがある。
 このような条項を含む取引においては,約定に従って利息の支払がされた場合であっても,その支払は, その支払がなければ当初の契約において定められた期限の利益を失い,遅延損害金を支払わなければな らないという不利益を避けるためにされたものであって,債務者が自己の自由な意思に従ってしたものという ことはできない。
 このような期限の利益喪失条項は,当事者間の合意に基づくものではあるが,そのような条項に服さなけ れば借り入れることができない以上,利息制限法の趣旨に照らして,この約定に基づく支払を任意の支払と いうことはできないものというべきである。

 また,法43条1項の規定が,利息制限法上無効となる約定に従ってされた利息の支払であっても,金融業 者が厳格な遵守を求められている前記業務規制に従って法17条及び18条各所定の要件を具備した書面を 債務者に交付している場合に限ってその任意の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めているこ となどから,その適用要件の解釈を厳格にすべきことは法廷意見の指摘するとおりである。このような,法4 3条1項の規定の趣旨からすると,17条書面及び18条書面には,単に所定の事項がすべて記載されてい なければならないというにとどまらず,所定の事項が正確かつ容易に債務者に理解できるように記載されて いることが求められているものといわなければならない。
 以上によれば,17条書面は,本来,一通の書面によるべきものである。そして,法17条1項が債務者に同 項所定の事項についての正確な認識を得させることを目的とするものであることを考慮すると,例外的に複 数の書面によらざるを得ない場合であっても,各文書に所定の事項がすべて記載されていることはもとより, 各文書間の相互の関連が明らかになっていて,その記載内容が債務者に正確かつ容易に理解し得るように なっていなければならないというべきである。
 これを本件についてみると,本件各貸付けの中には,契約時に上告人に交付された本件各借用証書控え には,約1か月後に元本を一括弁済するとの定めがあるものの,別に交付された本件各承諾書写しには,被 上告人が認めた場合には,別途送付される取引明細書記載の利息を支払うことを条件に,所定の期間継続 取引ができるとの約定をした上で,この約定によって1か月ごとの取引の延長を繰り返しているものが少なく ない。
 上記の約定に基づいて弁済期が延長された場合は,契約内容に変更があったものとみるべきであって,そ の変更内容を記載した17条書面の交付が必要であると解されるところ,本件においては,被上告人は,17 条書面として,これを記載した書面を上告人に交付していない。もっとも,本件では弁済期の10日前ころに, 被上告人から上告人に当該借入金に係る1か月分の前払利息等の銀行振込みを求める本件各取引明細書 が送付されていることから,上告人は,それによって所定の日までに所定の利息等を振り込めば弁済期が延 長されることを理解し得るものの,振込みが所定の期日に遅れた場合又は所定の金額に足りない振込みが 行われた場合には,上告人は,その次の前払利息を催告する際に送付される本件各取引明細書に前回の 支払の充当関係が記載されているのを見るまでは,弁済期が延長されたかどうかを知ることはできないので ある。このような点を考慮すると,上記の本件各借用証書控え,本件各承諾書写し,本件各取引明細書は, その相互の関連が必ずしも明らかではなく,これらの書面によって,上告人が法17条1項所定の事項を正確 かつ容易に理解し得るかは疑問であり,また,17条書面が遅滞なく交付されたとみることもできない。  したがって,上記各書面の交付によっては,法17条1項所定の要件を具備した書面の交付があるとはいえ ないから,法43条1項所定の要件を備えているものとはいえないものというべきである。





2013.2-

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