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最二小判平成16.2.20 民集第58巻2号380頁(裁判所判例検索システム)
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(判決要旨)
貸金業者が,貸金の弁済を受ける前に,その弁済があった場合の貸金業の規制等に関する法律18条1項所定の事項が記載されている書面で貸金業者の銀行口座への振込用紙と一体となったものを債務者に交付し,債務者がこの書面を利用して同銀行口座に対する払込みの方法によって利息の支払をしたとしても,同法43条1項の適用要件である同法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできない。
(参照法条) 貸金業の規制等に関する法律18条1項,貸金業の規制等に関する法律43条1項,利息制限法1条1項
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(判決理由抜粋)
3 原審は,次のとおり判断し,本件各弁済による被上告人の不当利得返還債務
は存在しないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。
貸金業者が,法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」とい
う。)を返済期日の前に債務者に交付し,しかもこの書面が貸金業者の銀行口座へ
の振込用紙と一体となって作成されているような場合には,債務者が上記書面を用
いてそこに記載された弁済額と一致する金額を銀行振込みの方式により払い込む以
上,債務者は,振込手続をするのと同時に又はその直後の時期に,弁済額の具体的
な充当の内訳等を含む同項所定の事項を漏れなく認識しているものとみることがで
き,また,振込手続を完了して振込金受取書の交付を受けた時点において,上記書
面の交付は同項所定の要件を満たすことになるとみることができる。
したがって,
その振込み後に,貸金業者が債務者に対し,更に18条書面の交付をしなくとも,
上記書面の交付により同項所定の要件を満たすことになる。
本件においては,充当関係が不明な一部の書面を除き,本件各貸付けの返済期日
の約10日前ごとに,被上告人からDに対し,法18条1項所定の事項の記載があ
る本件各請求書が交付されているから,上告人が本件各請求書と一体となった振込
用紙を利用して,本件各請求書に記載された弁済額と一致する金額を被上告人に対
して振り込んだ支払については,同項所定の要件を満たすものというべきである。
したがって,本件各貸付けに係る利息の約定に基づき,上告人によってされた利
息の制限額を超える金銭部分の任意の支払は,法43条1項により有効な利息の債
務の弁済とみなされる。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき
,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が,利息の制限額を超え,利息制限
法上,その超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,
貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件
を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには,利息制限法1条1項の
規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。
貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を
目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)と,
上記業務規制に違反した場合の罰則(平成15年法律第136号による改正前の法
49条3号)が設けられていること等にかんがみると,法43条1項の規定の適用
要件については,これを厳格に解釈すべきものである。
また,利息の制限額を超える金銭の支払が貸金業者の預金口座に対する払込みに
よってされたときであっても,特段の事情のない限り,法18条1項の規定に従い
,貸金業者は,この払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債
務者に交付しなければならないと解すべきである(最高裁平成8年(オ)第250
号同11年1月21日第一小法廷判決・民集53巻1号98頁参照)。
そして,18条書面は,弁済を受けた都度,直ちに交付することが義務付けられ
ていることに照らすと,貸金業者が弁済を受ける前にその弁済があった場合の法1
8条1項所定の事項が記載されている書面を債務者に交付したとしても,これをも
って法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできない。
したがって,【要旨】本件各請求書のように,その返済期日の弁済があった場合の
法18条1項所定の事項が記載されている書面で貸金業者の銀行口座への振込用紙
と一体となったものが返済期日前に債務者に交付され,債務者がこの書面を利用し
て貸金業者の銀行口座に対する払込みの方法によって利息の支払をしたとしても,
法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があって法43条1項の規定の適用
要件を満たすものということはできないし,同項の適用を肯定すべき特段の事情が
あるということもできない。
そうすると,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな
法令の違反がある。
5 以上によれば,論旨は理由があり,その余の点について判断するまでもなく
,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差
し戻すこととする。
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