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最三小判平成21.4.14 集民第230号353頁 (裁判所判例検索システム)
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(判決要旨)
貸金業者が,貸付けに係る債務につき,借主が期限の利益を喪失した後に,借主に対して残元利金の一括支払を請求せず,借主から長期間多数回にわたって分割弁済を受けていた場合において,貸金業者が,債務の弁済を受けるたびに受領した金員を利息ではなく損害金へ充当した旨記載した領収書兼利用明細書を交付していたから,期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を付与する意思はなかったと主張し,これに沿う証拠も提出していたにもかかわらず,上記主張について審理することなく,貸金業者が,借主に対し,期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を付与したとした原審の判断には,違法がある。
(参照法条) 民法136条
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(判決理由抜粋)
4 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判断して,上告人の本訴請
求を全部棄却すべきものとし,被上告人Y1の反訴請求のうち過払金返還請求を全
部認容するとともに,民法704条前段所定の利息の請求を一部認容すべきものと
した。
(1) 本件貸付けに係る債務の各弁済については,貸金業法43条1項の規定は
適用されない。
(2) 被上告人Y1は,約定の支払期日である平成13年1月5日に元利金を一切
支払わなかったので,本件特約により,同日の経過をもって期限の利益を喪失し
た。
(3) しかし,上告人は,その後も,被上告人Y1に対し,残元利金の一括支払を
請求しておらず,本件計算書記載のとおり,被上告人Y1から,3年以上にわた
り,回数にして100回,金額にして合計368万4466円の弁済を受けてい
る。これを利息制限法1条1項所定の利率による利息及び元本に順次充当していく
と,約定の最終弁済期より1年半以上前の平成14年10月には元本が完済され,
以後過払金が発生していくことになる。そして,上告人は,元本完済後も約1年半
にわたって被上告人Y からの弁済を1 受け続けていることになる。これらの事情を
総合して考慮すると,上告人は,被上告人Y1に対し,平成13年1月5日の支払
期日を経過したことによる期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を与えたも
のと解するのが相当である。
(4) 本件貸付けに係る債務の弁済金につき充当計算を行うに当たっては,上記
期限の利益の喪失後も,利息制限法1条1項所定の利率により充当計算すべきとこ
ろ,これによれば,本件計算書記載のとおり,過払金の額は合計102万3740
円になる。
5 しかしながら,原審の上記4(1)及び(2)の判断は是認することができるが,
同(3)及び(4)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
記録によれば,上告人は,上記期限の利益の喪失後は,本件貸付けに係る債務の
弁済を受けるたびに,受領した金員を「利息」ではなく「損害金」へ充当した旨記
載した領収書兼利用明細書を交付していたから,上告人に期限の利益の喪失を宥恕
し,再度期限の利益を付与する意思はなかったと主張していること(以下,この主
張を「上告人の反対主張」という。),上告人は,これに沿う証拠として,上記期
限の利益の喪失後に受領した金員の充当内容が記載された領収書兼利用明細書と題
する書面を多数提出していること,これらの書面のうち,平成13年1月9日付け
の書面及び受領金額が2737円と記載された同年2月6日付けの書面には,受領
した金員を上記期限の利益を喪失した日までに発生した利息に充当した旨の記載が
されているが,受領金額が8万6883円と記載された同日付けの書面及びこれよ
り後の日付の各書面には,受領した金員を上記期限の利益を喪失した日の翌日以降
に発生した損害金又は残元本に充当した旨の記載がされていること,この記載は,
残元本全額に対する遅延損害金が発生していることを前提としたものであることが
明らかである。
上告人が,上記期限の利益の喪失後は,被上告人Y1に対し,上記のような,期
限の利益を喪失したことを前提とする記載がされた書面を交付していたとすれば,
上告人が別途同書面の記載内容とは異なる内容の請求をしていたなどの特段の事情
のない限り,上告人が同書面の記載内容と矛盾する宥恕や期限の利益の再度付与の
意思表示をしたとは認められないというべきである。そして,上告人が残元利金の
一括支払を請求していないなどの原審が指摘する上記4(3)の事情は,上記特段の
事情に当たるものではない。
しかるに,原審は,上告人の反対主張について審理することなく,上告人が被上
告人Y1に対し,上記期限の利益の喪失を宥恕し,再度期限の利益を付与したと判
断しているのであるから,この原審の判断には,審理不尽の結果,判決に影響を及
ぼすことが明らかな法令の違反がある。
この点に関する論旨は,上記の趣旨をいう
ものとして理由があり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,上
記の点等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻
すこととする。
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