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最三小判平成21.11.17 判タ1313号108頁
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(判決要旨)
貸金業者が,貸付けに係る債務につき,借主が期限の利益を喪失した後に,借主に対して残元利金の一括支払を請求せず,借主から長期間多数回にわたって分割弁済を受けていた場合において,貸金業者が,債務の弁済を受けるたびに受領した金員を利息ではなく遅延損害金へ充当した旨記載した領収書兼利用明細書を交付していたから,期限の利益を再度付与する意思はなかったなどと主張し,これに沿う証拠も提出していたにもかかわらず,上記主張について審理することなく,貸金業者が,借主に対し,期限の利益を再度付与しており,仮にこれを付与したものでなかったとしても,貸金業者において借主が期限の利益を喪失したと主張することは信義則に反するとした原審の判断には,違法がある。
(参照法条) 民法1条2項,民法136条
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(判決理由抜粋)
記録によれば,上告人は,上記期限の利益の喪失後は,本件貸付けに係る債務の弁済を受けるたびに,受領した金員を「利息」ではなく「損害金」に充当した旨記載した領収書兼利用明細書を交付していたことを理由として,前記2(5)の被上告人の主張を争う旨の主張をしていること(以下,この主張を「上告人の反対主張」という。),上告人は,これに沿う証拠として,上記期限の利益の喪失後に受領した金員の充当内容が記載された領収書兼利用明細書と題する書面を多数提出していること,前記2(4)のとおり,被上告人は,第1回目の支払期日の6日後である平成10年3月26日に3万5725円を弁済したところ,上記書面のうち同日付けの書面には,弁済を受けた金員のうち2万3479円を上記期限の利益を喪失した日までに発生した利息に,うち1万2246円を上記期限の利益を喪失した日の翌日から同月25日までに発生した損害金にそれぞれ充当した旨の記載がされており,同月26日より後の日付の各書面には,受領した金員を同日以後に発生した損害金又は残元本に充当した旨の記載がされているのであって,これらの記載は,第1回目の弁済期日の翌日以降残元本全額に対する遅延損害金が発生していることを前提としたものであることが明らかである。
上告人が,上記期限の利益の喪失後は,被上告人に対し,上記のように第1回目の弁済期日の経過により期限の利益を喪失したことを前提とする記載がされた書面を交付していたとすれば,上告人が別途同書面の記載内容とは異なる内容の請求をしていたなどの特段の事情のない限り,上告人が同書面の記載内容と矛盾する期限の利益の再度付与の意思表示をしたとは認められないというべきである。そして,上告人が残元利金の一括弁済を請求していないなどの原審の指摘する上記3(1)の事情は,上記特段の事情に当たるものではない。
また,上告人が,上記期限の利益の喪失後は,被上告人に対し,上記のような書面を交付していたのであれば,上告人が被上告人に対し元利金の一括弁済を求めず,被上告人から一部弁済を受領し続けたというのみで,上告人が,被上告人から過払金の返還を求められ,一転して上記期限の利益の喪失を主張するようになったということはできず,上告人において,被上告人が期限の利益を喪失していたと主張することが,直ちに信義則に反するということもできない。
しかるに,原審は,上告人の反対主張について審理することなく,上告人が被上告人に対し,期限の利益を再度付与したものであり,仮に期限の利益を再度付与したものではなかったとしても,被上告人において,上告人が期限の利益を喪失した旨主張することは信義則に反すると判断しているのであるから,この原審の判断には,審理不尽の結果,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
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