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最三小判平成22.4.20 民集第64巻3号921頁
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(判決要旨)
1 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁済が繰り返され,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合における利息制限法1条1項にいう「元本」の額は,各借入れの時点における従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額をいい,従前の借入金残元本の額は,弁済金のうち制限超過部分があるときはこれを上記基本契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算する。
2 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁済が繰り返され,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合において,上記取引の過程におけるある借入れの時点で,従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が利息制限法1条1項所定の各区分における下限額を下回るに至ったとしても,上記取引に適用される制限利率は変更されない。
(参照法条) 利息制限法1条1項
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(判決理由抜粋)
3 原審は,上記の事実関係の下で,次のとおり判断し,本件取引に適用される
制限利率を平成17年12月5日までは年1割8分,同月6日以降は年2割である
として,上告人の請求を過払金67万9654円の返還等を求める限度で認容し
た。
(1) 基本契約に基づき継続的に借入れと弁済が繰り返される金銭消費貸借取引
において,基本契約に定められた借入極度額は,当事者間で貸付金合計額の上限と
して合意された数値にすぎず,これをもって,利息制限法1条1項所定の「元本」
の額と解する根拠はない。そして,上記の取引の過程で新たな借入れがされた場
合,制限利率を決定する基準となる「元本」の額は,従前の借入金残元本と新たな
借入金との合計額をいい,従前の借入金残元本の額は,約定利率ではなく制限利率
により弁済金の充当計算をした結果得られた額と解するのが相当である。
(2) 本件取引においては,取引の開始から平成17年12月6日の借入れが行
われる前までは,各借入れの時点における上記意味での元本の額は終始10万円以
上100万円未満の金額で推移しており,その間の取引については,年1割8分の
制限利率を適用すべきである。
(3) しかし,平成17年12月6日の借入れの時点では,上記意味での元本の
額は10万円未満となるに至ったのであるから,同日以降の取引については,年2
割の制限利率を適用するのが相当である。
4 しかしながら,原審の上記3の判断のうち,(1)及び(2)は是認することがで
きるが,(3)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁
済が繰り返され,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場
合には,各借入れの時点における従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額が
利息制限法1条1項にいう「元本」の額に当たると解するのが相当であり,同契約
における利息の約定は,その利息が上記の「元本」の額に応じて定まる同項所定の
制限を超えるときは,その超過部分が無効となる。この場合,従前の借入金残元本
の額は,有効に存在する利息の約定を前提に算定すべきことは明らかであって,弁
済金のうち制限超過部分があるときは,これを上記基本契約に基づく借入金債務の
元本に充当して計算することになる。
そして,上記取引の過程で,ある借入れがされたことによって従前の借入金残元
本と新たな借入金との合計額が利息制限法1条1項所定の各区分における上限額を
超えることになったとき,すなわち,上記の合計額が10万円未満から10万円以
上に,あるいは100万円未満から100万円以上に増加したときは,上記取引に
適用される制限利率が変更され,新たな制限を超える利息の約定が無効となるが,
ある借入れの時点で上記の合計額が同項所定の各区分における下限額を下回るに至
ったとしても,いったん無効となった利息の約定が有効になることはなく,上記取
引に適用される制限利率が変更されることはない。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件取引開始当初の
借入金額は20万円であったというのであるから,この時点で本件取引に適用され
る制限利率は年1割8分となる。そして,各弁済金のうち制限超過部分を本件基本
契約に基づく借入金債務の元本に充当して計算すると,その後,各借入れの時点に
おける従前の借入金残元本と新たな借入金との合計額は100万円未満の金額で推
移し,平成17年12月6日の借入れの時点に,上記の合計額が10万円未満とな
ったというのであるが,これが10万円未満に減少したからといって,適用される
制限利率が年2割に変更されることはない。
そうすると,同日以降の取引に年2割の制限利率を適用するのが相当であるとし
た原審の判断には,利息制限法1条1項の解釈適用の誤りがあり,この違法は判決
に影響を及ぼすことが明らかである。論旨のうち,この趣旨をいう部分は理由があ
る。
5 以上によれば,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れず,上記の見地
に立って過払金額を確定させるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すことと
する。
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