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最三小判平成23.3.22 集民第236号225頁(裁判所判例検索システム)
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(判決要旨)
貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合において,上記債権を譲渡した業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんにより,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が上記債権を譲り受けた業者に当然に移転すると解することはできない。
(参照法条) 民法91条,民法703条,民法第3編第1章第4節(債務引受)
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(判決理由抜粋)
3 原審は,上記事実関係の下で,本件債務の承継の有無につき,次のとおり判
断し,被上告人の請求を認容すべきものとした。
(1) 本件譲渡契約の第9.6条(b)は,借主とAとの間の金銭消費貸借取引
に係る過払金返還債務のうち,クロージング日後に初めて書面により上告人に対し
て履行を請求されたものについては,上告人においてこれを重畳的に引き受ける趣
旨の定めである。
本件債務は,クロージング日後に初めて書面により上告人に対し
て履行を請求されたものであるから,上記の条項により,その責任において解決す
べきものとして,上告人がこれを重畳的に引き受け,承継したといえる。
(2) 仮にそうでないとしても,本件譲渡契約は,借主とAとの間の金銭消費貸
借取引に係る契約上の地位の移転をその内容とするのであり,被上告人がこれを黙
示的に承諾したことにより,上告人がAの上記地位を包括的に承継するという法的
効果が生じたといえる。上告人において,その承継する義務の範囲を争うことは許
されない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記事実関係によれば,本件譲渡契約は,第1.3条及び第1.4条(a)にお
いて,上告人は本件債務を承継しない旨を明確に定めるのであって,これらの条項
と対照すれば,本件譲渡契約の第9.6条(b)が,上告人において第三者弁済を
する場合における求償関係を定めるものであることは明らかであり,これが置かれ
ていることをもって,上告人が本件債務を重畳的に引き受け,これを承継したと解
することはできない。
そして,貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金
業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡
業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによる
というべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業
者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転すると解
することはできないところ,上記のとおり,本件譲渡契約は,上告人が本件債務を
承継しない旨を明確に定めるのであって,これが,被上告人とAとの間の金銭消費
貸借取引に係る契約上の地位の移転を内容とするものと解する余地もない。
5 以上によれば,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法が
ある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,原審における不服
申立ての範囲である219万5139円及びうち52万5611円に対する平成1
4年5月18日から,うち166万9528円に対する平成21年2月8日から各
支払済みまで年5分の割合による金員を超える金員の支払請求に関する部分は破棄
を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,上記破棄部分及び上告人の民訴
法260条2項の裁判を求める申立てにつき,本件を原審に差し戻すこととする。
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