実務の友 実友・判例集
 
 最二小判平成23.9.30 集民第237号655頁(裁判所判例検索システム)
(判決要旨)
 貸金業者Yとその完全子会社である貸金業者Aの顧客Xとが,金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結し,この際,Xが,Aとの継続的な金銭消費貸借取引における約定利息を前提とする残債務相当額をYから借り入れ,これをAに弁済してAとの取引を終了させた場合において,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,XとYとは,上記基本契約の締結に当たり,Yが,Xとの関係において,Aとの取引に係る債権を承継するにとどまらず,債務についても全て引き受ける旨を合意したと解するのが相当である。

(1) Yは,国内の消費者金融子会社の再編を目的として,Aの貸金業を廃止し,これをYに移行,集約するために,Aとの間で業務提携契約を締結し,同契約において,Aが顧客に対して負担する過払金債務等一切の債務をYが併存的に引き受けることや,Aと顧客との間の債権債務に関する紛争について,Yが,単にその申出窓口になるにとどまらず,その処理についても引き受けることとし,その旨を周知することを,それぞれ定めた。
(2) Yは,上記業務提携契約を前提として,Xに対し,上記基本契約を締結するのはYのグループ会社再編に伴うものであることや,Aとの取引に係る紛争等の窓口が今後Yになることなどが記載された書面を示して,Yとの間で上記基本契約を締結することを勧誘した。
(3) Xは,Yの上記勧誘に応じ,上記書面に署名してYに差し入れた。

(参照法条) 民法91条,民法703条,民法第3編第1章第4節(債務引受)
(判決理由抜粋)
 3 原審は,上記事実関係の下において,被上告人が,Aの負担する過払金等返 還債務を引き受けた上で,上告人との間で,本件取引1と一連のものとして本件取 引2を行った旨の主張につき,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきも のとした。

 本件債務引受条項は第三者のためにする契約の性質を有するところ,上告人が, 被上告人に対し,本件取引1に係る紛争等の窓口が今後被上告人となることに異議 はないなどの記載がされた本件申込書を差し入れ,被上告人との間で本件切替契約 を締結した上,以後,被上告人に弁済をしたからといって,本件債務引受条項につ き,上告人が受益の意思表示をしたものとはいえないから,本件取引1に係る過払 金等返還債務を被上告人が引き受けたということはできない。

そして,本件取引2 は,被上告人からの借入金に対する弁済であって,制限超過部分を元本に充当して も過払金は生じない。

 4 しかし,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとお りである。

 前記事実関係によれば,被上告人は,グループ会社のうち国内の消費者金融子会 社の再編を目的として,被上告人の完全子会社であるAの貸金業を廃止し,これを 被上告人に移行,集約するために本件業務提携契約を締結したのであって,上記の 貸金業の移行,集約を実現し,円滑に進めるために,本件債務引受条項において, 被上告人がAの顧客に対する過払金等返還債務を併存的に引き受けることが,ま た,本件周知条項において,Aの顧客である切替顧客に対し,当該切替顧客とAと の間の債権債務に関する紛争については,単に紛争の申出窓口になるにとどまら ず,その処理についても被上告人が全て引き受けることとし,その旨を周知するこ とが,それぞれ定められたものと解される。

 被上告人は,上記のような本件業務提 携契約を前提として,Aの顧客であった上告人に対し,本件切替契約が被上告人の グループ会社の再編に伴うものであることや,本件取引1に係る紛争等の窓口が今 後被上告人になることなどが記載された本件申込書を示して,被上告人との間で本 件切替契約を締結することを勧誘しているのであるから,被上告人の意図は別にし て,上記勧誘に当たって表示された被上告人の意思としては,これを合理的に解釈 すれば,上告人が上記勧誘に応じた場合には,被上告人が,上告人とAとの間で生 じた債権を全て承継し,債務を全て引き受けることをその内容とするものとみるの が相当である。

 そして,上告人は,上記の意思を表示した被上告人の勧誘に応じ,本件申込書に 署名して被上告人に差し入れているのであるから,上告人もまた,Aとの間で生じ た債権債務を被上告人が全てそのまま承継し,又は引き受けることを前提に,上記 勧誘に応じ,本件切替契約を締結したものと解するのが合理的である。

 本件申込書には,Aに対して負担する債務を被上告人からの借入れにより完済す る切替えについて承諾すること,本件取引1に係る約定残債務の額を確認し,これ を完済するため,同額をA名義の口座に振り込むことを依頼することも記載されて いるが,本件申込書は,上記勧誘に応じて差し入れられたものであり,実際にも, 上告人が被上告人から借入金を受領して,これをもって自らAに返済するという手 続が執られることはなく,被上告人とその完全子会社であるAとの間で直接送金手 続が行われたにすぎない上に,上記の記載を本件申込書の他の記載部分と対照して みるならば,上告人は,本件取引1に基づく約定残債務に係るAの債権を被上告人 に承継させるための形式的な会計処理として,Aに対する約定残債務相当額を被上 告人から借り入れ,その借入金をもって上記約定残債務相当額を弁済するという処 理を行うことを承諾したにすぎないものと解される。

 以上の事情に照らせば,上告人と被上告人とは,本件切替契約の締結に当たり, 被上告人が,上告人との関係において,本件取引1に係る債権を承継するにとどま らず,債務についても全て引き受ける旨を合意したと解するのが相当であり,この 債務には,過払金等返還債務も含まれていると解される。


 したがって,上告人が上 記合意をしたことにより,論旨が指摘するような第三者のためにする契約の性質を 有する本件債務引受条項について受益の意思表示もされていると解することができ る。

 そして,被上告人が上告人と上記のとおり合意した以上,その後,被上告人と Aとの間において本件変更契約が締結されたからといって,上記合意の効力が左右 される余地はなく,また,上告人が,本件取引1に基づく約定残債務相当額を被上 告人から借り入れ,その借入金をもって本件取引1に基づく約定残債務を完済する という会計処理は,Aから被上告人に対する貸金債権の承継を行うための形式的な 会計処理にとどまるものというべきであるから,本件取引1と本件取引2とは一連 のものとして過払金の額を計算すべきであることは明らかである。

 したがって,被上告人は,上告人に対し,本件取引1と本件取引2とを一連のも のとして制限超過部分を元本に充当した結果生ずる過払金につき,その返還に係る 債務を負うというべきである。

 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違 反がある。論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れな い。そして,過払金の額等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻 すこととする。





2013.2-

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