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最一小判昭和49.9.26 民集第28巻6号1243頁(裁判所判例検索システム)
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(判決要旨)
二、甲が乙から騙取又は横領した金銭により自己の債権者丙に対する債務を弁済した場合において、右弁済の受領につき丙に悪意又は重大な過失があるときは、丙の右金銭の取得は、乙に対する関係においては法律上の原因を欠き、不当利得となる。
(参照法条) 民法703条
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(判決理由抜粋)
しかしながら、右の原審の判断はにわかに首肯することができない。
およそ不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由
を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、利得者にその利得の返還義務を負
担させるものであるが、いま甲が、乙から金銭を騙取又は横領して、その金銭で自
己の債権者丙に対する債務を弁済した場合に、乙の丙に対する不当利得返還請求が
認められるかどうかについて考えるに、騙取又は横領された金銭の所有権が丙に移
転するまでの間そのまま乙の手中にとどまる場合にだけ、乙の損失と丙の利得との
間に因果関係があるとなすべきではなく、甲が騙取又は横領した金銭をそのまま丙
の利益に使用しようと、あるいはこれを自己の金銭と混同させ又は両替し、あるい
は銀行に預入れ、あるいはその一部を他の目的のため費消した後その費消した分を
別途工面した金銭によつて補填する等してから、丙のために使用しようと、社会通
念上乙の金銭で丙の利益をはかつたと認められるだけの連結がある場合には、なお
不当利得の成立に必要な因果関係があるものと解すべきであり、また、丙が甲から
右の金銭を受領するにつき悪意又は重大な過失がある場合には、丙の右金銭の取得
は、被騙取者又は被横領者たる乙に対する関係においては、法律上の原因がなく、
不当利得となるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原審の確定した前記の事実関係のもとにおいては、
本件(2)の金員について、Dの預金口座への預入れ、払戻し、D個人の事業資金へ
の流用、兵庫県Gに送金するため別途工面した金銭による補填等の事実があつたか
らといつて、そのことから直ちにDが右Gに送付した金員と本件(2)の金員との間
に社会観念上同一性を欠くものと解することはできないのであつて、その後、原審
認定の経緯により昭和三一年一〇月四日被上告人がDの損害賠償金として受領した
一二八〇万六三四三円は、社会観念上はなお本件(2)の金員に由来するものという
べきである。
そして、原審の確定した事実関係によれば、本件(2)の金員は、Dが
上告人の経理課長Eを教唆し又は同人と共謀し同人をして上告人から横領せしめた
ものであるか、あるいはEが横領した金銭を同人から騙取したものと解する余地が
ある。そうすると、被上告人においてDから右損害賠償金を受領するにつき悪意又
は重大な過失があつたと認められる場合には、被上告人の利得には法律上の原因が
なく、不当利得の成立する余地が存するのである。
しかるに、原審はこれらの諸点を顧慮することなく、DがEから受領した本件(
2)の金員とDが兵庫県Gに送付した金員との間には同一性がなく、したがつてま
た、Eが本件(2)の金員をDに交付することにより上告人が被つた右金額に相当す
る損失と、被上告人の同年一〇月四日のDからの金員受領による利得との間には因
果関係を認めることができないとして、上告人の被上告人に対する本件(2)の金員
の不当利得返還請求を排斥した原判決には、不当利得に関する法理の解釈適用を誤
つたか又は審理不尽、理由不備の違法があるというべく、この違法は原判決の結論
に影響を及ぼすことが明らかであつて、論旨は結局理由がある。
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