実務の友 実友・判例集
 
 最二小判平成15.11.07 集民第211号337頁
(判決要旨)
 金融機関の従業員が,顧客に対し,融資を受けて宅地を購入するように積極的に勧誘し,その結果として,顧客が接道要件を具備していない宅地を購入するに至ったとしても,当該従業員において当該宅地が接道要件を具備していないことを認識していながらこれを当該顧客に殊更に知らせなかったことなど,信義則上,当該従業員の当該顧客に対する説明義務を肯認する根拠となり得るような特段の事情をうかがうことができないなど判示の事情の下においては,当該従業員が上記接道要件を具備していないことを説明しなかったことが当該宅地を購入した顧客に対する不法行為を構成するということはできない。
(参照法条)
 民法709条,宅地建物取引業法35条1項
(判決理由抜粋)
 3 原審は,前記の事実関係の下で,次のとおり判断して,被上告人の請求を, 200万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄 却すべきものとした。

 (1) 上告人の従業員である甲は,被上告人に対し,上告人から融資を受けて本件 土地を購入するように勧め,その結果,被上告人が本件土地の購入を決意したので あり,本件売買契約は,被上告人と上告人との間の融資契約と一体となって,上告 人の利益のために,上告人の従業員である甲のあっせんによって行われたものであ るから,このような場合には,甲は,被上告人に対し,信義則上,本件売買契約締 結に先立って,本件土地が接道要件を満たさないことなどについて説明する義務を 負うものと解するのが相当である。

 ところが,甲は,本件売買契約締結当時はもとより,その後も,被上告人に対し ,この点についての説明をしなかったのであるから,甲は,上記の説明義務違反の 不法行為により被上告人が被った損害を賠償すべき義務を負う。そして,甲による 本件売買契約のあっせんは,上告人の事業の執行につき行われたものと認められる から,上告人は,被上告人に対し,民法715条の規定に基づき損害賠償義務を負 うものというべきである。

 (2) 被上告人は,適法に本件土地に建物を建築するためには,丙株式会社に対 して訴えの提起や交渉を行う必要があり,これに要する費用は,甲の不法行為によ って被上告人が被った損害というべきであり,その額は,200万円を下ることは ないと認められる。

 したがって,上告人は,被上告人に対し,上記金額の損害賠償責任を負うものと いうべきである。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 前記の事実関係によれば,次のことが明らかである。

 (1) 本件売買契約と被上 告人と上告人との間の上記の融資契約とは,当事者を異にする別個の契約であるが ,甲は,後者の融資契約を成立させる目的で本件土地の購入にかかわったものであ る。このような場合に,甲が接道要件が具備していないことを認識していながら, これを被上告人に殊更に知らせなかったり,又は知らせることを怠ったりしたこと ,上告人が本件土地の売主や販売業者と業務提携等をし,上告人の従業員が本件土 地の売主等の販売活動に深くかかわっており,甲の被上告人に対する本件土地の購 入の勧誘も,その一環であることなど,信義則上,甲の被上告人に対する説明義務 を肯認する根拠となり得るような特段の事情を原審は認定しておらず,また,その ような事情は,記録上もうかがうことができない。

 (2) 本件前面道路部分は,本 件私道の一部であり, 本件売買契約締結当時,本件土地の売主である乙が所有しており,不動産登記簿上 の地目も公衆用道路とされていたことから,同人が被上告人に売却した本件土地の 接道要件を満たすために本件前面道路部分につき道路位置の指定を受けること等の 乙の協力が得られることについては,その当時,十分期待することができたのであ り,本件土地は,建物を建築するのに法的な支障が生ずる可能性の乏しい物件であ った。

 (3) 本件土地が接道要件を満たしているかどうかという点は,宅地建物取 引業法35条1項所定の重要事項として,書面による説明義務がある。本件売買契 約においては,売主側の仲介業者である丙株式会社がその説明義務を負っているの であって,甲に同様の義務があるわけではない。

 これらの諸点にかんがみると,前記のとおり,上告人の従業員である甲 が,被上告人に対し,上告人から融資を受けて本件土地を購入するように積極的に 勧誘し,その結果として,被上告人が本件売買契約を締結するに至ったという事実 があったとしても,その際,甲が被上告人に対して本件土地が接道要件を満たして いないことについて説明をしなかったことが,法的義務に違反し,被上告人に対す る不法行為を構成するということはできないものというべきである。

 5 そうすると,以上判示したところと異なる見解に立って,甲に説明義務違反 があるとして被上告人の請求を一部認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼす ことが 明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を 免れない。そして,前記説示によれば,被上告人の請求を棄却した第1審判決は正 当であるから,上記部分につき,被上告人の控訴を棄却することとする。


民法709条(不法行為による損害賠償)
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。



2013.2-

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