(判決理由抜粋)
1 本件は,建物の地下1階部分を賃借して店舗を営む上告人において,同建物
の所有者の承諾の下に同建物の1階部分の外壁等に同店舗のための看板等を設置し
ていたところ,同建物全部を譲り受けた被上告人が,上告人に対し,所有権に基づ
き,地下1階部分の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求めるとともに,上記看板
等の撤去をも求める事案である。(略)
3 原審は,本件建物部分の賃借権には本件看板等の設置権原は含まれていない
とした上で,被上告人による本件看板等の撤去請求が権利の濫用に当たるような事
情は見受けられないとして,同請求を認容した。
4 しかしながら,権利の濫用に関する原審の上記判断は是認することができな
い。その理由は,次のとおりである。
前記事実関係によれば,本件看板等は,本件建物部分における本件店舗の営業の
用に供されており,本件建物部分と社会通念上一体のものとして利用されてきたと
いうことができる。
上告人において本件看板等を撤去せざるを得ないこととなる
と,本件建物周辺の繁華街の通行人らに対し本件建物部分で本件店舗を営業してい
ることを示す手段はほぼ失われることになり,その営業の継続は著しく困難となる
ことが明らかであって,上告人には本件看板等を利用する強い必要性がある。
他方,上記売買契約書の記載や,本件看板等の位置などからすると,本件看板等
の設置が本件建物の所有者の承諾を得たものであることは,被上告人において十分
知り得たものということができる。
また,被上告人に本件看板等の設置箇所の利用
について特に具体的な目的があることも,本件看板等が存在することにより被上告
人の本件建物の所有に具体的な支障が生じていることもうかがわれない。
そうすると,上記の事情の下においては,被上告人が上告人に対して本件看板等
の撤去を求めることは,権利の濫用に当たるというべきである。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人敗訴部分は破棄を免れない。
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