実務の友
隣人とうまく付き合う法

相隣関係調整に関する事例対応


第1 隣地との境界線

◎ 隣家から強硬に立会を求められ境界杭が打たれましたが,これで境界線が決まってしまうのでしょうか。

○ 民法223条(境界標の設置)
 土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。
○ 民法224条(境界標の設置及び保存の費用)
 境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。
○ 判例(最判昭31.12.28民集10-12-1639,最判昭42.12.26民集21-10-26227)
 「相隣者との間で境界を定めた事実があっても,これによって,その1筆の土地の固有の境界自体は,変動するものではない。」


第2 隣地の使用

◎ 建物建築用の資材搬入のため,隣地に入らなければ工事ができないのですが・・・

○ 民法209条1項(隣地の使用請求)
 土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
○ 同条2項
 前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。


第3 隣地の通行

◎ 袋地の所有権を取得したが,他の所有者の土地を通過しなければ,公道に出られないのですが・・・。

○ 民法210条(公道に至るための他の土地の通行権)
 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
○ 同条2項(同上)
 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖(がけ)があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
○ 民法211条1項(同上)
 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
○ 同法2項(同上)
 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。


第4 隣地との塀の設置

◎ 隣家との境界線上に塀を設置したいのですが,費用分担をめぐって争いがあります。

○ 民法225条1項(囲障の設置)
 2棟の建物がその所有者を異にし、かつ、その間に空地があるときは、各所有者は、他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる。
○ 同条2項(同上)
 当事者間に協議が調わないときは、前項の囲障は、板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって、かつ、高さ2メートルのものでなければならない。
○ 民法226条(囲障の設置及び保存の費用)
 前条の囲障の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。
○ 民法227条(相隣者の1人による囲障の設置)
 相隣者の1人は、第225条第2項に規定する材料より良好なものを用い、又は同項に規定する高さを増して囲障を設けることができる。ただし、これによって生ずる費用の増加額を負担しなければならない。


第5 隣家の竹木の伸長

◎ 隣地の庭木の枝が当家の宅地内にまで伸びて,花弁や枯葉が散乱し,困っています。

○ 民法233条1項(竹木の切除)
 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
○ 民法414条1項(履行の強制)
 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
○ 民法414条2項(代替執行)
 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
○ 民事執行法171条1項(代替執行)
 民法第414条第2項本文又は第3項に規定する請求に係る強制執行は、執行裁判所が民法の規定に従い決定をする方法により行う。


◎ 隣地の庭木の根が当家の宅地内にまで伸びて,迷惑しています。

○ 民法233条2項(竹木の根の切取り)
 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。


第6 隣家の建築

◎ 隣家が建物を建築しましたが,外階段が境界線から30センチメートルのところに取り付けられ,窓からの採光が妨げられ,昇降の音も気になり,困っています。

○ 民法234条1項(境界線付近の建築の制限)
 建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。
○ 同条2項
 前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から1年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。
○ 建築基準法65条(隣地境界線に接する外壁)
 防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。


第7 隣家の視線

◎ 隣家が新築され,その2階の窓から覗かれているようで,落ち着かないのですが・・・。

○ 民法235条1項(境界線近傍の建築)
 境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
○ 同条2項(同上)
 前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。
○ 民法236条(境界線付近の建築に関する慣習)
 前2条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。


第8 隣地の穿堀

◎ 隣家が境界線近くに井戸を掘り始めましたが,境界線にある塀が崩れないかと心配ですが・・ 

○ 民法237条1項(境界線付近の掘削の制限)
 井戸、用水だめ、下水だめ又は肥料だめを掘るには境界線から2メートル以上、池、穴蔵又はし尿だめを掘るには境界線から1メートル以上の距離を保たなければならない。
○ 同条2項(同上)
 導水管を埋め、又は溝若しくは堀を掘るには、境界線からその深さの2分の1以上の距離を保たなければならない。ただし、1メートルを超えることを要しない。
○ 民法238条(境界線付近の掘削に関する注意義務)
 境界線の付近において前条の工事をするときは、土砂の崩壊又は水若しくは汚液の漏出を防ぐため必要な注意をしなければならない。


第9 隣地からの流水

◎ 隣家の屋根の雨樋から流れる雨水が当家の敷地内に流れ込み,窓や壁に跳ね返ってきて,困っています。

○ 民法214条(自然水流に対する妨害の禁止)
 土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。
○ 民法218条(雨水を隣地に注ぐ工作物の設置の禁止)
 土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。
○ 民法219条1項(水流の変更)
 溝、堀その他の水流地の所有者は、対岸の土地が他人の所有に属するときは、その水路又は幅員を変更してはならない。
○ 同条2項(同上)
 両岸の土地が水流地の所有者に属するときは、その所有者は、水路及び幅員を変更することができる。ただし、水流が隣地と交わる地点において、自然の水路に戻さなければならない。
○ 同条3項(同上)
 前二項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
○ 民法717条1項(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
○ 同条2項(同上)
 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
○ 同条3項(同条)
 前2項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

(以上 2003.1.11-2019.05.8)




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