実務の友   消費者金融等に関する判例集
最新更新日2002.10.09-2006.08.10
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14 消滅時効期間,時効完成後の一部弁済又は債務承認と時効援用権
(1) 消滅時効期間

    1 最高裁二小判昭和42.10.6民集21巻8号2051頁
    2 最高裁一小判昭和55.1.24民集34巻1号61頁

(2) 時効完成後の一部弁済又は債務承認と時効援用権
    1 最高裁大判昭和41.4.20民集20竄S号702号
    2 東京高裁判平成7.2.14金融法務事情1417号58頁
    3 東京地裁判平成7.7.26金融・商事判例1011号38頁
    4 最高裁二小判平成7.9.8金融法務事情1441号29頁
    5 札幌簡裁判平成10.12.22判例タイムズ1040号211頁
    6 東京簡裁判平成11.3.19判例タイムズ1045号169頁
    7 福岡地裁判平成13.3.13判例タイムズ1129号148頁
    8 福岡地裁判平成14.9.9平成14年(レ)第30号 貸金請求控訴
    9 東京簡裁判平成14.10.10平成14年(ハ)第70909号 貸金請求



14(1) 消滅時効期間
 [1] 最高裁二小判昭和42.10.6民集21巻8号2051頁,判例解説民事篇昭和42年度482頁 (最高裁HP該当判例)
 信用保証協会が保証債務の履行によって取得する求償権と消滅時効
(判決要旨)
 「信用保証協会が商人である債務者の委任に基づいて成立した保証債務を履行した場合において,信用保証協会が取得する求償権は,商法第522条に定める5年の消滅時効にかかる。」
(注)
 貸金債務の消滅時効
   貸金業者が会社(法人)の場合,
    商法の適用があり,消滅時効期間は 5年(商法522条)。
   個人の場合,
    民法の規定により,消滅時効期間は 10年(民法167条1項)。
   ただし,時効中断事由=請求,差押え・仮差押え・仮処分,承認(民法147条)。

 [2] 最高裁一小判昭和55.1.24民集34巻1号61頁,判例解説民事篇昭和55年度31頁
最高裁HP該当判例
 利息制限法所定利率超過の利息・損害金についての不当利得返還請求権の消滅時効期間
(判決要旨)
 商行為である金銭消費貸借に関し利息制限法所定の制限を超えて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求権の消滅時効期間は,10年と解すべきである。(反対意見がある。)
(判決理由抜粋)
 「商法522条の適用又は類推適用されるべき債権は商行為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ,利息制限法所定の制限をこえて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求権は,法律の規定によって発生する債権であり,しかも,商事取引関係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めた立法趣旨からみて,商行為によって生じた債権に準じるものと解することもできないから,その消滅時効の期間は民事上の一般債権として民法167条1項により10年と解するのが相当である。」


14(2) 時効完成後の一部弁済又は債務承認と時効援用権

 [1] 最高裁大判昭和41.4.20民集20竄S号702号,判例解説民事篇昭和41年度146頁,判例タイムズ1045号,金融法務事情441号6頁 (最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
1 消滅時効完成後に債務の承認をした場合において,そのことだけから,右承認はその時効が完成したことを知ってしたものであると推定することは許されないと解すべきである。
2 債務者が,消滅時効完成後に債権者に対し当該債務の承認をした場合には,時効完成の事実を知らなかったときでも,その後その時効の援用をすることは許されないと解すべきである。
(参照条文民法146条)
(判決理由抜粋)
 「案ずるに,債務者は,消滅時効が完成したのちに債務の承認をする場合には,その時効完成の事実を知っているのはむしろ異例で,知らないのが通常であるといえるから,債務者が商人の場合でも,消滅時効完成後に当該債務の承認をした事実から右承認は時効が完成したことを知ってされたものであると推定することは許されないものと解するのが相当である。したがって,右と見解を異にする当裁判所の判例(昭和35年6月23日言渡第一小法廷判決,民集14巻8号1498頁参照)は,これを変更すべきものと認める。しからば,原判決が,上告人は商人であり,本件債務について時効が完成したのちその承認をした事実を確定したうえ,これを前提として,上告人は本件債務について時効の完成したことを知りながら右承認をし,右債務について時効の利益を放棄したものと推定したのは,経験則に反する推定をしたものというべきである。しかしながら,債務者が,自己の負担する債務について時効が完成したのちに,債権者に対し債務の承認をした以上,時効完成の事実を知らなかったときでも,爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし,時効の完成後,債務者が債務の承認をすることは,時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり,相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから,その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが,信義則に照らし,相当であるからである。また,かく解しても,永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由に反するものでもない。そして,この見地に立てば,前記のように,上告人は本件債務について時効が完成したのちこれを承認したというのであるから,もはや右債務について右時効の援用をすることは許されないといわざるをえない。しからば,原判決が上告人の消滅時効の抗弁を排斥したのは,結局,正当であることに帰するから,論旨は,採用できない。」

 [2] 東京高裁判平成7.2.14金融法務事情1417号58頁,判例時報1526号102頁

(判決要旨)
 1 時効完成前に保証人が債務を弁済し主債務を承認しても,その承認は,債権者と主債務者の間ではもちろん,債権者と保証人との関係でも,主債務について時効中断の効力を生じない。
 2 保証人の時効完成前の債務弁済があっても,特段の事情のない限り,その時効援用権は制限されない。
 3 主債務の時効完成後に保証人が債務を弁済しても,その弁済が主債務の時効消滅に関わりなく保証債務を履行する趣旨に出たものでない限り,保証人は,主債務の時効援用権を失わない。
 4 主債務の時効を援用してその時効消滅に伴う保証債務の消滅を主張することが信義則によって妨げられることもない。
(判決理由抜粋)
「1 時効完成前の保証人の債務弁済と主債務の時効中断について
   主債務について権利義務の当事者ではない保証人が主債務を承認しても,それだけで主債務が存在している蓋然性が生じるわけではない。したがって,保証人による主債務の承認は,債権者と主債務者の間では勿論,債権者と保証人との関係でも主債務について時効中断の効力を生ぜず,主債務の消滅時効期間は保証人の承認があっても進行し,主債務が時効消滅するときには,保証債務は主債務に付従して消滅するものと解される。
 2 時効完成前の保証人の債務弁済と時効援用権の制限について
   主債務の時効完成前に保証人が保証債務を履行した事実があるからといって,それだけでは,保証人が将来主債務の時効が完成した場合でも時効を援用せず保証債務を履行するという確定的な意思を表明したとはいえない。したがって,保証人の時効完成前の債務弁済があっても,特段の事情のない限り,その時効援用権は制限されないものと解すべきである。  3 時効完成後の保証人の債務弁済と時効利益の放棄について
   主債務の時効完成後に保証人が保証債務を履行した場合でも,主債務が時効により消滅するか否かにかかわりなく保証債務を履行するという趣旨に出たものであるときは格別,そうでなければ,保証人は,主債務の時効を援用する権利を失わないと解するのが相当である。
   控訴人は,本件において被控訴人による時効利益の放棄を認めるべき事情として,破産廃止後の代表取締役選任の懈怠,被控訴人が主債務者の代表取締役の長男かつ取締役の立場で支払ってきたこと及び被控訴人が主債務者は無資力であり,求償権行使ができないことを承知で弁済してきたことの3点を挙げている。しかし,興林社が破産廃止後代表取締役を選任しなかったとしても,被控訴人において興林社に対し時効中断の手続をとることができなかったとは認められないし,興林社の取締役である被控訴人が被控訴人の時効中断を困難ならしめるためにあえて代表取締役の選任を懈怠したものであると認めることもできない。また,控訴人が,興林社の代表取締役の長男で取締役の立場にあり,興林社は破産して無資力であるためこれに対して求償権行使ができないことを承知で弁済してきたものであることは,弁論の全趣旨により認められるが,本件の全証拠を検討しても,被控訴人が主債務の時効消滅を認識しながらなおかつ保証債務を履行してきた事実は認められない。そして,控訴人の指摘する上記の事実があっても,それだけで当然に,被控訴人が,主債務の時効が完成し主債務者が債務弁済の責任を免れる場合でも保証債務を履行する確定的な意思を表明したとまでいうことはできない。したがって,被控訴人の右弁済により,被控訴人が主債務の時効の利益を放棄したものとは認められず,また,被控訴人が主債務の時効を援用してその時効消滅に伴う保証債務の消滅を主張することが信義則によって妨げられることもないものといわねばならない。

 [3] 東京地裁判平成7.7.26金融・商事判例1011号38頁

(判決要旨)
  債権者が,消滅時効完成後に欺瞞的方法を用いて債務者に一部弁済をすれば,もはや残債務はないものと誤信を生ぜしめ,その結果債務者がその債務の一部弁済をした場合,債務者は,その債務について消滅時効の援用権を喪失しない。

 [4] 最高裁二小判平成7.9.8金融法務事情1441号29頁

(判決要旨)
  主債務の時効完成後に保証人が債務を弁済したときに,主債務者が破産していて,これに対して求償できないことを知っていても,それだけでは,主債務の時効消滅にかかわらず債務を弁済する意思を表明したものとはいえず,保証人は,主債務の時効援用権を失わない。

 [5] 札幌簡裁判平成10.12.22判例タイムズ1040号211頁

(判決要旨)
  消滅時刻完成後,債務者が債務の承認をしたが,その承認が債権者が弄した甘言等のためになされたような場合には,債務者が時効援用権を行使しても,信義則による制限を受けない。
(判例理由抜粋)
「3 時効完成後の一部弁済と時効援用権の制限
   時効完成後,債務者が債務の一部弁済等債務の承認と見られる行為をした場合,債権者は債務者がもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるから,その後債務者が時効の援用をすることは,債権者のこのような期待を裏切ることになり,信義則に照らし許されないというのが判例である(最大判昭和41年4月20日民集20巻4号702頁)。
   信義則は個々の当事者間の具体的な取引場面における互いの信頼を保護する原則であるから,その適用に当たっては個別的な事情を考慮する必要がある。すなわち両当事者それぞれの取引経験や法的知識の有無・程度,債務者が債務承認に至った事情などを検討した上で,信義則の適用を決すべきである(時効完成後債務の弁済があったにもかかわらず,時効の援用を認めたものとして東京地判平成7年7月26日金融商事判例1011号38頁,保証人が主債務の時効完成後保証債務を履行していても,主債務について時効援用を認めたものとして最二小判平成7年9月8日金融法務事情1441号29頁及びその原審である東京高判平成7年2月14日判例時報1526号102頁)。
   例えば,取引経験,法的知識において圧倒的に勝る債権者が時効の完成を知りつつ,法的に無知な債務者にあえてこれを告げないまま債務の一部の弁済をさせたような場合や,債権者が債務者の時効援用の主張を封じるために時効完成後甘言を弄して少額の弁済をさせた上で態度を一変させて残元金及び多額に上る遅延損害金を請求するような場合は,債務者が時効を援用することは債務承認行為をした後といえども,信義則に反しないことがあり得ると考えられる。むしろ,このような場合には信義則を適用して債務者の時効援用権を制限するよりも,本来の時効の効果をそのまま維持することが時効制度の趣旨からも,公平の観点からも合理的といえる。
   これを本件についてみると,貸金業者として債権回収業務に日常的に従事しており,被告に対する債権についても既に時効が完成していることを熟知している原告ら従業員が,金銭消費貸借について単に顧客としての取引経験しかなく,時効制度の理解も不十分・不正確ないわゆる素人である被告に対し,言うとおりに支払えば以後発生する遅延損害金は請求しない(実際には,原告らは本訴で遅延損害金全額を請求している。),被告が負債のある他の貸金業者には被告の所在を言わないでおいてやるなどと申し向けたために,かつて債務の取立てによって健康,家庭,仕事全てを失った経験のある被告が恐怖心に駆られて,その言いなりに,債務の一部を弁済したことが認められる。要するに,被告は,破産・民事調停等の法的手段による債務清算・整理を行わず,債権者らに連絡せずに転居した点に問題があるとはいえ,2年以上前に時効の完成した債権をなおも支払うという姿勢を示し弄して支払をさせており,原告らの信義則違反の程度,不誠実性の大きさは被告の比ではない。
   右認定の事実関係によれば,被告の一部弁済によって原告らに信義則上保護に値する期待が生じるとは言い難く,他方,時効完成を知らずに,原告らに言われるままに支払をした被告が,その後時効完成の事実を知って,時効を援用することが信義則に反すると評価するのは酷にすぎる。したがって,本件においては,被告の時効援用権の行使は信義則による制限を受けないと解するのが妥当である。
   よって,原告らの本件各貸金債権の時効消滅の効果は認められ,被告にはいずれも支払義務はない。

 [6] 東京簡裁判平成11.3.19判例タイムズ1045号169頁

(判決理由抜粋)
 「債権者が消滅時効完成後に,例えば,欺瞞的方法(債務者の無知に乗じて)を用いて債務者に一部弁済を促したり,債権の取立が法令や各種通達などに抵触する方法でなされた場合にまで,債権者の信頼を保護するために債務者がその債務について消滅時効の援用権を喪失すると解すべきいわれはない。
 (略)前記認定事実(支払再開時の原告の対応やその後における原告の取立行為の経緯等)を総合考慮すれば,被告の前記支払再開時の一部弁済は,信義則に照らし,いまだ時効援用権の喪失を招来する程度に至っていないと解すべきであり,他に原告の再抗弁(消滅時効援用権の喪失)の事実を認めるに足りる証拠はない。」

 [7] 福岡地裁判平成13.3.13判例タイムズ1129号148頁

(判決要旨)
 債務者が,消滅時効の完成後に債務の一部を弁済しても,消滅時効の援用を喪失したと認められないとされた事例
(参照条文民法145条,146条)
(判決理由抜粋)
 「周知のように,「債務者が,自己の負担する債務について時効が完成したのちに,債権者に対し債務の承認をした以上,時効完成の事実を知らなかったときでも,爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし,時効の完成後,債務者が債務の承認をすることは,時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり,相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから,その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが,信義則に照らし,相当であるからである。」とするのが最高裁判所の判例である。そうすると,債務者が,自己の負担する債務について時効が完成したのちに,債権者に対し債務の承認をしたとしても,債権者及び債務者の各具体的事情を総合考慮の上,信義則に照らして,債務者がもはや時効の援用をしない趣旨であるとの保護すべき信頼が債権者に生じたとはいえないような場合には,債務者にその完成した消滅時効の援用を認めるのが相当といわなければならない。
 これを本件についてみるに,本件では,前記認定のとおり,控訴人は貸金業者であるのに対し,被控訴人はその顧客のひとりとして控訴人から金銭貸付を受けた者であること,控訴人は被控訴人から平成2年11月21日以降の支払に対して貸金業の規制等に関する法律18条(平成9年6月法律第102号による改正前のもの。)及び同施行規則15条(平成10年6月総理府大蔵省令第三号による改正前のもの。)に定める書面を交付していないこと,被控訴人は,平成3年9月18日までに控訴人に対して本件消費貸借契約の元金40万円の約1.7倍に相当する金銭を支払っていること,控訴人の従業員である甲野は,本件消滅時効が完成していること及び被控訴人が本件消費貸借契約の債務の一部を支払えば本件消滅時効の援用ができなくなることを知りながら,威圧的言動を用いて本件消費貸借契約の残債務の一部支払を迫り,その結果恐怖心を生じた被控訴人が本件支払をしたものであること,その他本件支払の回数及びその金額などの諸事情が存する。そこで,これらの諸事情を総合考慮すると,信義則に照らして,被控訴人がもはや本件消滅時効の援用をしない趣旨であるとの保護すべき信頼が控訴人に生じたということはできず,被控訴人に本件消滅時効の援用を認めてこれを保護するのが相当というべきであるから,本件支払によって被控訴人が本件消滅時効の援用権を喪失したということはできない。」

 [8] 福岡地裁判平成14.9.9平成14年(レ)第30号 貸金請求控訴

(最高裁HP)
(判決理由抜粋)
 「(3) 原審の状況
 控訴人は,同年8月10日,被控訴人を被告として,福岡簡裁に対して本件貸金請求の訴えを提起した。
 同年9月14日の原審第1回口頭弁論期日において,福岡簡裁は50万円の金額で和解を勧告したが,控訴人はこれに応じなかった。
 福岡簡裁は,職権で民事調停に付し,同年10月11日,被控訴人が50万円を毎月1万円ずつ分割で支払えば控訴人はその余の債務を免除するとの内容の調停に代わる決定をした。
 控訴人は,同月18日付けで,上記決定に対して異議を申し出た。
 被控訴人は,同月25日,控訴人に対し,上記決定に基づき1万円を振り込んで支払った。
 被控訴人は,そのころ福岡簡裁の担当裁判官から時効の成立を示唆され,同年11月16日の原審第3回口頭弁論期日において,本件貸金債務につき消滅時効の援用をした。
2 本件貸金債務の消滅時効の成否について
(1) 消滅時効の援用権の放棄について
 控訴人は,被控訴人は本件貸金債務につき消滅時効の援用権を放棄した旨の主張をするが,上記1(3)の事実によれば,被控訴人が消滅時効の援用をするまでに消滅時効の完成を知っていたことは認められないのであるから,被控訴人が消滅時効の援用権を放棄することはあり得ないといわなければならない。
(2) 消滅時効の援用権の喪失について
ア 控訴人は,@被控訴人が平成13年2月27日に5000円を支払ったこと,A被控訴人が同年7月10日に40万円なら支払ってもいいと言ったこと,B被控訴人が福岡簡裁の調停に代わる決定に従い1万円を支払ったことによって,控訴人は被控訴人が消滅時効の援用をしないものと信頼したのであるから,信義則上,被控訴人は消滅時効の援用権を喪失したと主張する。
イ 時効の完成後,債務者が債務の承認をすることは,時効による債務消滅と相容れない行為であり,相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるから,その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが信義則に照らし相当であり,また,このように解しても永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由に反しないから,債務者が自己の負担する債務について消滅時効が完成した後に,債権者に対し債務を承認した場合,時効の援用が許されない(最高裁昭和41年4月20日大法廷判決・民集第20巻4号702頁参照)。
 そこで,本件について検討するに,上記1の事実経過によると,被控訴人は,本件貸金債務につき消滅時効が完成した後である平成13年2月15日及び7月10日に本件貸金債務の支払額や支払方法についての条件を提案し,また,同年2月27日に控訴人小倉支店に5000円を持参してこれを支払っている。
 しかしながら,上記被控訴人の各条件の提案は,控訴人がこの条件を受け入れることを前提として示されたものであると解すべきであるところ,控訴人はいずれの条件の提案についてもこれを受け入れていないのであるから,これをもって本件貸金債務を承認したものと解するのは困難であり,これを覆すに足りる事情も認めることはできない。
 また,被控訴人は同年2月27日に控訴人に5000円を支払っているが,その支払の経緯やその支払が1回に留まっていること,支払額5000円が当時の本件貸金債務の元金,遅延損害金の合計額に占める割合が著しく小さいことなどを考慮すると,上記支払も本件貸金債務全体を支払う意思のもとに債務を承認したものと解するのは困難であり,これを覆すに足りる事情も認めることはできない。
 さらに,被控訴人は,平成13年10月25日,福岡簡裁の調停に代わる決定に従い1万円を振り込んでいるが,上記決定も同月18日控訴人が異議を申し出たことにより失効しているのであり,控訴人の上記振込みも,上記決定が確定することを前提としてなされたものであるから,上記決定の確定と無関係に本件貸金債務の承認をしたものとみることはできない。
 したがって,被控訴人による上記各条件の提案及び5000円又は1万円の各支払を債務の承認とみることはできないから,これらが債務の承認に該当することを前提として,被控訴人が消滅時効の援用権を喪失したものということはできない。
ウ ところで,控訴人の上記アの主張は,上記@ないしBの被控訴人の行為が債務の承認に当たるか否かにかかわらず,控訴人は上記@ないしBの被控訴人の行為により被控訴人が消滅時効の援用をしないものと信頼したのであるから,信義則上,被控訴人は消滅時効の援用権を喪失したと主張しているものとも解されるので,以下この点について検討する。
 上記@ないしBの被控訴人の行為には,それぞれ上記イで指摘した事情が認められることに加え,本件は本件貸金債務の時効完成後における両者の支払交渉のなかでの出来事であり,控訴人側に時効中断など適法な権利行使をする手段はなかったのであるから,被控訴人が上記@ないしBの行為をしたことにより控訴人側に生じたという信頼の内容や程度には自ずと限界があったというべきであること,被控訴人が消滅時効の完成を知らないままに行動していることは明らかな状況であり,控訴人もそのことは十分認識できたこと,控訴人の担当者であるAは,本件貸金債務が消滅時効の期間を経過したことを知りながら被控訴人と交渉を行っており,一部弁済を求めたのも被控訴人からの消滅時効の主張を阻止するためであったと認めるのが相当であること ,被控訴人が弁済をした昭和61年からAが今回本件貸金の請求をするようになるまで約16年も経過していることなどの事情を総合考慮すると,上記@ないしBの被控訴人の行為が,信義則上,被控訴人に消滅時効の援用権を喪失させる事情にあたるとまでいうことはできないというべきである。
(3) 上記のとおりであるから,本件貸金債務は,平成3年7月31日の経過をもって,時効により消滅したものと認めるのが相当である(商法522条本文)。」

 [9] 東京簡裁判平成14.10.10平成14年(ハ)第70909号 貸金請求

(最高裁HP)
(判決理由抜粋)
 「2 債務者が自己の負担する債務について消滅時効が完成した後に,債権者に対する債務の承認をした場合,時効完成の事実を知らなかったとしても,以後,消滅時効の援用をすることが許されないとされる理由は,時効完成後,債務者が債務の承認(一部弁済)をすることは,時効による債務消滅の主張とは相容れない行為であり,相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから,その後においては債務者に時効の援用を認めないとすることが,信義則に照らし相当であるからである。 そこで,前記認定事実によって判断すると,平成14年5月14日時点での被告の債務は元利合計で230万円弱であったのに,Eは,元利合計で70万円も多い300万円近くになっていると被告に言い,時効完成後であることを承知しながら一部弁済を執拗に迫っている。そして,Eは,連帯保証人でもなく原告に対し何らの法的義務を負っていない被告の母や姉妹に対し,執拗な電話をかけたことにより沖縄料理店の仕事にも支障を生じさせ,それに耐えきれなくなった妹に対し,三人の子供たちが小さいときから蓄えた預金を下ろすなどして80万円を集めさせるほどの窮地に立たせている。これらの行為は,金融庁事務ガイドライン3ー2ー2(2)Aの「反復継続して,電話で連絡し」に該当し,同(3)Bの「法律上支払義務のない者に対し,支払請求を したり,必要以上に取立への協力を要求すること」に該当する。したがって,このような場合にまで,債権者である原告の信頼を保護するために,債務者である被告がその債務について消滅時効の援用権を喪失すると解すべき理由はない。 よって,本件債権は時効により消滅しているので,原告の請求は理由がない。」