実務の友   金銭消費貸借契約に関する最高裁判例集
最新更新日2004.02.24-2008.03.15
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索  引

 1 最一小判昭和27.03.06 民集第6巻3号320頁
 利息月8分の約定があつても、これがため消費貸借自体を無効と解すべきでない。
 2 最小二判昭和28.12.18 民集第7巻12号1470頁
 利息制限法違反の利息の支払を定めたからといつて、特別の事情のないかぎり、消費貸借契約自体の無効を来さない。
 利息制限法の利息を元金に組み入れ,これに対しさらに利息を付する定めは単に裁判上無効たるに止まり、すでに支払つた利息はその返還を請求することはできない。
 3 最二小判昭和29.11.05 民集第8巻11号2014頁
 月1割の利息および損害金を支払う旨の、商人の営業資金に供するために成立した消費貸借は、特別の事情のない限り、公序良俗に反し無効であるということはできない。
 4 最三小判昭和30.07.05 民集第9巻9号985頁
 消費賃借の借主が、貸主主張の金額につき消費賃借の成立したことを認める旨陳述したとしても、一方において、賃借の成立に際し天引の行われたことを主張しているときは、該陳述を自白と認めることはできない。
 5 最二小判昭和30.10.07 民集第9巻11号1616頁
 酌婦としての稼働契約が公序良俗に反し無効である場合には、これに伴い消費賃借名義で交付された金員の返還請求は許されない。
 6 最二小判昭和32.02.15 民集第11巻2号286頁
 元金35万円、弁済期30日後、利息30日につき1割、利息を支払えば借主の希望により弁済期を延期するとの約旨の消費貸借契約に付随し、借主が弁済期に元金を支払わないときは、時価3,067,000円相当の不動産の所有権を代物弁済として貸主に移転する旨を約したときは、右代物弁済の予約は、特別な事情のないかぎり、貸主が借主の窮迫に乗じて締結したものと認めるべきであつて、公序良俗に反し無効と解するのが相当である。
 7 最一小判昭和32.09.05 民集第11巻9号1479頁
 消費貸借上の貸主が、借主の窮迫、軽卒もしくは無経験を利用し、著しく過当な利益の獲得を目的としたことが認められない限り、利息が月1割と定められたという一事だけでは、この約定を公序良俗に反するものということはできない。
 8 最三小判昭和32.12.10 民集第11巻13号2117頁
 公証人法第26条に違反して作成された公正証書であつても、当然に債務名義たる効力を有しないものではない。
 9 最二小判昭和34.06.19 民集第13巻6号757頁
 連帯債務者の1人が死亡し、その相続人が数人ある場合に、相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解すべきである。
10 最大判昭和37.06.13 民集第16巻7号1340頁
 債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払つたとき、右制限をこえる金員は、当然残存元本に充当されるものと解すべきではない。
11 最三小昭和39.07.07 民集第18巻6号1049頁
 金銭の消費貸借にあたり、貸主が借主に対し金銭交付の方法として約束手形を振り出した場合において、右約束手形が満期に全額支払われたときは、たとえ借主が右約束手形を他で割り引き、手形金額にみたない金員を入手したのにとどまつても、右手形金額相当額について消費貸借が成立する。
12 最大判昭和39.11.18 民集第18巻9号1868頁
 債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は、民法第491条により、残存元本に充当されるものと解すべきである。
13 最一小判昭和39.11.26 民集第18巻9号1984頁
 民法第482条にいう「他ノ給付」が不動産の所有権を移転することにある場合には、当事者がその意思表示をするだけではたりず、登記その他引渡行為を終了し、第三者に対する対抗要件を具備したときでなければ、代物弁済は成立しないと解すべきである。
14 最二小判昭和40.09.17 民集第19巻6号1533頁
 貸金債務に関する一定金額をこえる債務の存在しない旨の確認請求は、当該貸金債権額から前記一定金額を控除した残債務額についての不存在の確認を求めるものである。
15 最一小判昭和40.10.07 民集第19巻7号1723頁
 将来金員を貸与する旨の契約が締結された場合には、その契約が履行される以前でも、その金員をもつて準消費貸借の目的とすることを約することができ、その後右金員が貸与されたとき、右準消費貸借契約は、当然に、効力を生ずる。
16 最二小判昭和41.11.18 民集第20巻9号1861頁
 いわゆる代物弁済予約上の権利は、民法第501条本文の「債権ノ担保トシテ債権者カ有セシ権利」にあたり、同条による代位の目的となる。
 担保権の目的である不動産の第三取得者の取得後に当該債務の弁済をする保証人は、民法第501条第1号所定の代位の附記登記をしなくても、右第三取得者に対して債権者に代位する。
17 最二小判昭和43.02.16 民集第22巻2号217頁
 準消費貸借契約において、旧債務の不存在を事由として右契約の効力を争う者は、旧債務の不存在の事実を立証する責任を負う。
18 最大判昭和43.07.17 民集第22巻7号1505頁
 利息制限法所定の制限をこえる利息の定のある金銭消費貸借において遅延損害金について特約のない場合には、遅延損害金は、同法第1条第1項所定の利率にまで減縮される利息と同率に減縮されると解するのが相当である。
19 最三小判昭和43.10.29 民集第22巻10号2257頁
 債権者と債務者間に数口の貸金債権が存在し、弁済充当の順序について特約が存在する場合において、債務者が利息制限法所定の制限をこえる利息を支払つたときは、右超過部分に対する弁済は、右特約の趣旨に従つて次順位に充当されるべき債務で有効に存在するものに充当されるものと解すべきである。
 裁判所は、利息制限法所定の制限をこえて任意に支払われた利息・損害金の存在することが弁論にあらわれ、これを確定した以上、当事者から右制限超過分を残存元本等に充当すべき旨の特別の申立ないし抗弁が提出されなくても、右弁済充当関係を判断することができる。
 連帯債務者の一人が利息制限法所定の制限をこえる利息を支払つても、他の連帯債務者に対して右制限をこえる利息相当金を求償することはできない。
 金銭を目的とする消費貸借上の利息について利息制限法第1条第1項の利率の制限をこえる約定があるが、遅延損害金の約定がない場合には、遅延損害金についても利息制限法第1条の制限額にまで減縮され、その限度で支払を求めうるにすぎない。
20 最大判昭和43.11.13 民集第22巻12号2526頁
 利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払つた債務者は、制限超過部分の充当により計算上元本が完済となつたときは、その後に債務の存在しないことを知らないで支払つた金額の返還を請求することができる。
21 最二小判昭和43.11.15 民集第22巻12号2649頁
 共同保証人の1人に対する債務の免除は、他の保証人に効果を及ぼさない。
22 最三小判昭和44.11.25 民集第23巻11号2137頁
 債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を元本とともに任意に支払つた場合においては、その支払にあたり充当に関して特段の意思表示がないかぎり、右制限に従つた元利合計額をこえる支払額は、債務者において、不当利得として、その返還を請求することができると解すべきである。
23 最三小判昭和45.04.21 民集第24巻4号298頁
 年数回の利息の組入れを約する重利の予約は、毎期における組入れ利息とこれに対する利息との合算額が、本来の元本額に対する関係において、1年につき利息制限法所定の制限利率により計算した額をこえない限度においてのみ有効である。
24 最三小判昭和46.03.16 民集第25巻2号173頁
 甲が債権者に対する関係では主債務者であるが、内部関係においては実質上の主債務者乙の連帯保証人にすぎない場合において、連帯保証人丙が債権者に対し自己の負担部分をこえる額を弁済したときは、丙は、甲に対し丙の負担部分をこえる部分についてのみ甲の負担部分の範囲内で求償権を行使することができる。
25 最一小判昭和55.01.24 民集第34巻1号61頁
 商行為である金銭消費貸借に関し利息制限法所定の制限を超えて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求権の消滅時効期間は、10年と解すべきである。
26 最小二判平成02.01.22 民集第44巻1号332頁
 貸金業の規制等に関する法律43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払つた」及び同条3項にいう「債務者が賠償として任意に支払つた」とは、債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によつて支払つたことをいい、債務者において、その支払つた金銭の額が利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しない。
27 最一小判平成10.04.30 民集第52巻3号930頁
 訴訟上の相殺の抗弁に対し訴訟上の相殺を再抗弁として主張することは、許されない。
28 最三小判平成10.05.26 民集第52巻4号985頁
 甲がAの強迫により消費貸借契約の借主となり貸主乙に指示して貸付金を丙に給付させた後に右強迫を理由に契約を取り消したが、甲と丙との間には事前に何らの法律上又は事実上の関係はなく、甲がAの言うままに、乙に対して貸付金を丙に給付するように指示したなど判示の事実関係の下においては、乙から甲に対する不当利得返還請求について、甲が右給付によりその価額に相当する利益を受けたとみることはできない。
29 最一小判平成11.01.21 民集第53巻1号98頁
 貸金業の規制等に関する法律43条1項によるみなし弁済の効果を生ずるためには、債務者の利息の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされた場合であっても、特段の事情のない限り、貸金業者は右の払込みを受けたことを確認した都度、直ちに、同法18条1項に規定する書面を債務者に交付しなければならない。
30 最一小判平成11.03.11 民集第53巻3号451頁
 貸金の元利金の分割払による返済期日が「毎月X日」と定められた場合にX日が日曜日その他の一般の休日に当たるときの返済期日の解釈
 貸金の元利金の分割払による返済期日が「毎月X日」と定められた場合に貸金業の規制等に関する法律17条に規定する書面に記載すべき「各回の返済期日」 BR>
31 最二小判平成15.07.18 民集第57巻7号895頁
 貸金業者甲の受ける利息,調査料及び取立料と甲が100%出資して設立した子会社である信用保証会社乙の受ける保証料及び事務手数料との合計額が利息制限法所定の制限利率により計算した利息の額を超えていること,乙の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の割合に比べて非常に高く,乙の受ける保証料等の割合と甲の受ける利息等の割合との合計は乙を設立する以前に甲が受けていた利息等の割合とほぼ同程度であったこと,乙は甲の貸付けに限って保証しており,甲から手形貸付けを受ける場合には乙の保証を付けることが条件とされていること,乙は,甲に対し,保証委託契約の締結業務,保証料の徴収業務,信用調査業務及び保証の可否の決定業務の委託等をしており,債権回収業務も甲が相当程度代行していたことなど判示の事実関係の下においては,乙の受ける保証料等は,甲の受ける利息制限法3条所定のみなし利息に当たる。
 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない。
32 最三小判平成15.09.11 平成12年(受)第1000号 不当利得返還請求事件
 信用保証会社の受ける保証料及び事務手数料が貸金業者の受ける利息制限法3条所定のみなし利息に当たるとされた事例
 基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払ったことによって生じた過払金と他の借入金債務への充当
33 最三小判平成15.09.16 平成14年(受)第622号 過払金返還請求本訴,貸金請求反訴事件
 信用保証会社の受ける保証料及び事務手数料が貸金業者の受ける利息制限法3条所定のみなし利息に当たるとされた事例
基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金融消費貸借取引において,借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払ったことによって生じた過払金と他の借入金債務への充当
34 最二小判平成16.02.20 民集第58巻2号380頁
 貸金業者が,貸金の弁済を受ける前に,その弁済があった場合の貸金業の規制等に関する法律18条1項所定の事項が記載されている書面で貸金業者の銀行口座への振込用紙と一体となったものを債務者に交付し,債務者がこの書面を利用して同銀行口座に対する払込みの方法によって利息の支払をしたとしても,同法43条1項の適用要件である同法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできない。
35 最二小判平成16.02.20 民集第58巻2号475頁
 貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における天引利息については,貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用はない。
 貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に該当するためには,当該書面に同項所定の事項のすべてが記載されていなければならない。
 貸金業者が貸金の弁済を受けた日から20日余り経過した後に債務者に当該弁済についての書面を送付したとしても,貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用要件である同法18条1項所定の事項を記載した書面の弁済直後における交付がされたものとみることはできない。 (1〜3につき補足意見がある。)
36 最二小判平成16.07.09 平成16年(オ)第424号,平成16年(受)第425号 債務不存在確認,貸金等請求事件
 貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づく天引利息については,貸金業法43条1項の適用はない。
 貸金業法18条書面の交付は弁済の直後にしなければならず,弁済を受けてから7ないし10日以上後に領収書が交付された場合,弁済の直後に18条書面を交付したものとみることはできない。
37 最三小判平成17.07.19 民集第59巻6号1783頁
 貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,特段の事情のない限り,信義則上これを開示すべき義務を負う。
38 最一小判平成17.12.15 民集第59巻10号2899頁
 貸金業法17条1項に規定する書面に同項所定の事項について確定的な記載をすることが不可能な場合に同書面に記載すべき事項
 いわゆるリボルビング方式の貸付けについて,貸金業法17条1項に規定する書面に「返済期間及び返済回数」及び各回の「返済金額」として記載すべき事項
39 最二小判平成18.01.13 民集第60巻1号1頁
 貸金業法施行規則15条2項の法適合性
 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の効力
 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下での制限超過部分の支払の任意性の有無
40 最一小判平成18.01.19 平成15年(オ)第456号、平成15年(受)第467号 貸金請求事件
 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の効力
 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下での制限超過部分の支払の任意性の有無
41 最三小判平成18.01.24 平成16年(受)第424号 不当利得返還請求事件
 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の効力
 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下での制限超過部分の支払の任意性の有無
42 最二小判平成18.03.17 平成17年(テ)第21号 貸金等請求事件
 債務者の貸金業者に対する貸金の弁済について貸金業法43条1項又は3項の適用を認めた高等裁判所の上告審としての判決が,特別上告審において,法令の違反があるとして職権により破棄された事例
43 最三小判平成19.02.13 平成18(受)1187号 不当利得返還等請求本訴,貸金返還請求反訴事件
 貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合に,第1の貸付けに対する弁済金のうち利息制限法の制限超過利息を元本に充当すると過払金が発生し,その後,第2の貸付けに係る債務が発生したときにおける上記過払金の同債務への充当の可否(消極)
 商行為である貸付けに対する弁済金のうち利息制限法の制限超過利息を元本に充当することにより生ずる過払金を返還する場合に,悪意の受益者が付すべき民法704条前段の利息の利率は,民法所定の年5分である
44 最一小判平成19.06.07 平成18(受)1887号 損害賠償等請求事件
 いわゆるカードローンの基本契約が,同契約に基づく借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には他の借入金債務が存在しなければこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものと解された事例
45 最二小判平成19.07.13 平成18(受)276 不当利得返還等請求事件
 利息制限法の制限超過利息を受領した貸金業者が判例の正しい理解に反して貸金業法18条1項に規定する書面の交付がなくても同法43条1項の適用があるとの認識を有していたとしても,民法704条の「悪意の受益者」の推定を覆す特段の事情があるとはいえないとされた事例
45 最二小判平成19.07.13 平成17(受)1970 不当利得返還請求事件
 貸金業者が返済方式を元利均等方式とする貸付けをするに際し,貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に当たるものとして借用証書の写しを借主に交付した場合において,(1)当該借用証書写しの「各回の支払金額」欄に,一定額の元利金の記載と共に「別紙償還表記載のとおりとします。」との記載があり,償還表は借用証書写しと併せて一体の書面をなすものとされ,各回の返済金額はそれによって明らかにすることとされていること,(2)「各回の支払金額」欄に元利金として記載されている一定額と償還表に記載された最終回の返済金額が一致していないことなど判示の事実関係の下では,償還表の交付がなければ,同項の要求する各回の「返済金額」の記載がある書面の交付があったとはいえない。
 貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領したが,その受領につき貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,民法704条の「悪意の受益者」であると推定される。
46 最三小判平成19.07.17 平成18(受)1666 不当利得金返還請求事件
 貸金業者が利息制限法の制限超過利息を受領したがその受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合と民法704条の「悪意の受益者」であることの推定
47 最一小判平成19.07.19 平成18(受)1534 不当利得返還請求事件
 同一の貸主と借主の間で基本契約を締結せずにされた多数回の金銭の貸付けが,1度の貸付けを除き,従前の貸付けの切替え及び貸増しとして長年にわたり反復継続して行われており,その1度の貸付けも,前回の返済から期間的に接着し,前後の貸付けと同様の方法と貸付条件で行われたものであり,上記各貸付けは1個の連続した貸付取引と解すべきものであるという判示の事情の下においては,各貸付けに係る金銭消費貸借契約は,各貸付けに基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,当該過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。
48 最二小判平成20.01.08 平成18(受)2268 不当利得返還等請求事件
 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当することの可否
 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当する旨の合意が存在すると解すべき場合





○ 最一小判昭和27.03.06 昭和26(オ)862 貸金請求(第6巻3号320頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
 利息制限法違反の利息の約定ある消費貸借の効力。

要旨:
 利息月八分の約定があつても、これがため消費貸借自体を無効と解すべきでない。
参照・法条:
  利息制限法2条

内容:
 件名  貸金請求 (最高裁判所 昭和26(オ)862 第一小法廷・判決 棄却)
 原審  東京高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 所論利息月八分の約束が利息制限法に違反することはいうまでもないが、これがため消費貸借自体が無効となるものと解すべきでなく又原審は同法の制限を超過する部分につき特約の効力を認めたのでないことは、その判示に照し明らかである。その他の論旨は原審の弁済期に関する事実認定並びに証拠の取捨判断を非難するものであつて、論旨は民事上告事件特例法に掲ぐる事由に当らない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)




○ 最二小判昭和28.12.18 昭和26(オ)906 小切手金請求(第7巻12号1470頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
1 利息制限法違反の利息の約定ある消費貸借契約の効力。
2 利息制限法違反の利息を元金に組み入れこれに利息を付する定めの効力。

要旨:
1 利息制限法違反の利息の支払を定めたからといつて,特別の事情のないかぎり消費貸借契約自体の無効を来さない。
2 利息制限法の利息を元金に組み入れ,これに対しさらに利息を付する定めは単に裁判上無効たるに止まり,すでに支払つた利息はその返還を請求することはできない。

参照・法条:
 利息制限法2条,民法405条
内容:
 件名  小切手金請求 (最高裁判所 昭和26(オ)906 第二小法廷・判決 棄却)
 原審  大阪高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

       理    由
 上告理由第一点について。
 利息制限法違反の利息の定めは裁判上無効であつて、訴訟によりこれが請求をなしえないことは勿論であるけれども、これがためかかる利息の支払を定めた金銭消費貸借契約自体も民法九〇条により無効となるということはできない。金銭消費貸借においては借主は、現金またはこれと同視すべき経済上の利益を受取つてこれを現実に利用するのであり、しかも利息制限法違反の利息は裁判上無効としてこれが訴求を受ける虞れがないのであるから、右の如き消費貸借契約は単に利息が高率であるという一事により特にこれを無効とする必要あるを見ないのである。この点においては利息制限法の適用を見ない金銭以外の消費貸借上の利息または商事に関する金銭消費貸借上の損害金の場合とその趣きを異にするものといわなければならない。もとより金銭消費貸借といえども、或る特別の事情の存する場合には時に民法九〇条により無効となる場合もあるかも知れないけれども、かかる特別の事情は借主においてこれを主張立証することを要するは当然である。ところで本件貸借においては、上告人は自己の事業資金に充てるため金借したのであつて、他に何等特別の事情はないというのであるから、その消費貸借をもつて無効といえないことは勿論であつて、論旨援用の判例は本件に適切なものではなく、所論はこれを採ることはできない。
 同第二点について。
 利息制限法違反の利息を元本に組入れた場合にも、その組入自体は法律上当然に無効ではなく、単に裁判上無効たるにすぎないものと解すべきであり、従つてその組入額に対する利息の約定も、それ自体法律上当然に無効となるのではなく、単に利息制限法違反の利息に関する定めとして裁判上無効とされるにすぎないと認むべきである。蓋しいわゆる重利も畢竟元本に由来する利息に外ならず、その法律上の処遇はすべてこれを利息制限法の理想に照してこれを扱うを妥当とするからである。そして利息制限法違反の利息の定めは右の如く単に裁判上無効たるに止まり、既に支払つた制限超過の利息はこれが返還を求め得ないと解すべきであるから、右制限超過の利息を元本に組入れ、これに対する利息を支払つた場合にも、その利息については裁判上これが返還を求め得ないものといわなければならない。所論はこれと反対の見解に立ち原判決を非難するものであつて採用することはできない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)




○ 最二小判昭和29.11.05 昭和28(オ)691 貸金請求(第8巻11号2014頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
 月一割の利息および損害金を支払う旨の消費貸借は公序良俗に反するか。

要旨:
 昭和二五年二月二〇日に元金を三万円、弁済期を同年五月二五日、支払うべき利息ならびに損害金の割合を月一割とする約定で、商人の営業資金に供するために成立した消費貸借は、特別の事情のない限り、公序良俗に反し無効であるということはできない。
参照・法条:
  民法587条,民法70条,旧利息制限法5条
内容:
 件名  貸金請求 (最高裁判所 昭和28(オ)691 第二小法廷・判決 棄却)
 原審  仙台高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。

理    由
 上告代理人清野鳴雄の上告理由は、末尾添付の書面記載のとおりである。
 原判決は、被上告人が上告人Aに対し、昭和二五年二月一三日及び同月一九日に、上告人Bを連帯保証人として各金一万円を、ついで同月二〇日に上告人Cを連帯保証人として金三万円を、いずれも返済期限は同年三月二五日、支払うべき利息ならびに遅滞の場合の損害金の割合を月一割の約定で貸与したこと、右金員は上告人Aが営む鍛冶屋業の営業資金として貸し付けられたものであつて、商事に属し旧利息制限法五条の適用がない場合であることをそれぞれ認定した上、遅延損害金に関する右の程度の約定は、当時の一般経済界の実情に照らし、特別の事情のない限り、未だ公序良俗に反するものとは認め難く、特別の事情の存することについては、何等の主張も立証もないとして、結局被上告人の上告人等に対する前記貸金の元本、ならびにこれに対する貸付の日から返済期迄年一割の利息及び返済期後の月一割の損害金の各支払を命じた第一審判決を認容したものである。以上の点に関する原判決の判断は、当裁判所もまたこれを正当と認めるから、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎
 裁判長裁判官霜山精一は退官につき署名押印することができない。裁判官 栗山 茂)




○ 最三小判昭和30.07.05 昭和28(オ)125 請求異議(第9巻9号985頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
 消費賃借の成立を認める」との陳述と自白。

要旨:
 消費賃借の借主が、貸主主張の金額につき消費賃借の成立したことを認める旨陳述したとしても、一方において、賃借の成立に際し天引の行われたことを主張しているときは、該陳述を自白と認めることはできない。
参照・法条:
  民訴法257条

内容:
 件名  請求異議 (最高裁判所 昭和28(オ)125 第三小法廷・判決 棄却)
 原審  東京高等裁判所

主    文
     原判決を破棄し本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理    由
 上告代理人銭坂喜雄の上告理由第四点について。
 上告人は第一審において、本件公正証書記載の金一三〇、〇〇〇円について消費貸借の成立を認めたが、第二審にいたり、消費貸借に際し、金一九、五〇〇円を天引されたから、消費貸借は金一一〇、五〇〇円につき成立したものと主張するにいたつたこと、しかも右金一九、五〇〇円が天引されたことについては、すでに上告人が第一審に提出し、陳述した訴状、昭和二六年六月五日附および同年九月一〇日附の各準備書面に記載されていることは、いずれも記録によつて認めることができる。してみれば、上告人主張の事実は、本件消費貸借の額面は金一三〇、〇〇〇円になつているが、上告人はその成立に際し金一九、五〇〇円を天引され、金一一〇、五〇〇円を受け取つたにすぎないというのであつて、上告人の第一審における金一三〇、〇〇〇円につき消費貸借の成立したことを認める旨の陳述も、第二審における金一一〇、五〇〇円につき消費貸借が成立した趣旨の陳述も、ともに本件消費貸借が成立するに至つた事実上の経過に基いて上告人が法律上の意見を陳述したものと認めるのが相当であつて、これを直ちに自白と目するのは当らない。けだし消費貸借に際し、利息の天引が行われたような場合に、幾何の額につき消費貸借の成立を認めるかは、具体的な法律要件たる事実に基いてなされる法律効果の判断の問題であるから、天引が主張され、消費貸借の法律要件たる事実が明らかにされている以上、法律上の効果のみが当事者の一致した陳述によつて左右されるいわれはないからである。従つて法律上の意見の陳述が変更された場合、直ちに自白の取消に関する法理を適用することは許されないといわなければならない。なお本件消費貸借において天引利息があつたとすれば、天引利息中旧利息制限法の制限の範囲内の金額と現実の交付額との合算額につき消費貸借が成立すると解するのは、当裁判所の判例とするところであるから(昭和二七年(オ)第九六〇号同二九年四月一三日第三小法廷判決、集八巻四号八四〇頁)、本件においてもこの趣旨に従い、まず上告人が現実に交付を受けた金額を確定し、その上で本件消費貸借は金何円につき成立したかを判示すべきものであつて、原審は、自白に関する法律の適用を誤つた違法があるとともに理由不備審理不尽の違法があるに帰し、この点において論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 よつて他の論点について判断することを省略し、民訴四〇七条に従い全裁判官一致の意見により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島  保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎




○ 最二小判昭和30.10.07 昭和28(オ)622 預金返還請求(第9巻11号1616頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
 酌婦としての稼働契約に伴い消費賃借名義で交付された金員の返還請求の許容。

要旨:
 酌婦としての稼働契約が公序良俗に反し無効である場合には、これに伴い消費賃借名義で交付された金員の返還請求は許されない。
参照・法条:
  民法90条,民法708条
内容:
 件名  預金返還請求 (最高裁判所 昭和28(オ)622 第二小法廷・判決 破棄自判)
 原審  高松高等裁判所

主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の請求を棄却する。
     訴訟の総費用は、全部被上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人二宮卓及び柴田元一の上告理由は、それぞれ末尾添付のとおりである。
 上告代理人二宮卓の上告理由及び上告代理人柴田元一の上告理由第一点について。
 原審認定の事実によれば、上告人Aは、昭和二五年一二月二三日頃被上告人等先代Bから金四〇、〇〇〇円を期限を定めず借り受け、上告人Cは、右債務につき連帯保証をしたが、その弁済については、特にAの娘DがB方に住み込んだ上、同人がその妻の名義で経営していた料理屋業に関して酌婦稼働をなし、よつてDのうべき報酬金の半額をこれに充てることを約した、前記Dは当時いまだ一六才にも達しない少女であつたが、同人はその後B方で約旨に基き昭和二六年五月頃まで酌婦として稼働したに拘らず、Dの得た報酬金はすべて他の費用の弁済に充当せられ、上告人Aの受領した金員についての弁済には全然充てられるにいたらなかつたというのである。そして原審は、右事実に基き、Dの酌婦としての稼働契約及び消費貸借のうち前記弁済方法に関する特約の部分は、公序良俗に反し無効であるが、その無効は、消費貸借契約自体の成否消長に影響を及ぼすものではないと判断し、上告人両名に対し前記借用金員及び遅滞による損害金の支払をなすべきことを命じたのであつて、以上のうちDが酌婦として稼働する契約の部分が公序良俗に反し無効であるとする点については、当裁判所もまた見解を同一にするものである。しかしながら前記事実関係を実質的に観察すれば、上告人Aは、その娘Dに酌婦稼業をさせる対価として、被上告人先代から消費貸借名義で前借金を受領したものであり、被上告人先代もDの酌婦としての稼働の結果を目当てとし、これあるがゆえにこそ前記金員を貸与したものということができるのである。しからば上告人Aの右金員受領とDの酌婦としての稼働とは、密接に関連して互に不可分の関係にあるものと認められるから、本件において契約の一部たる稼働契約の無効は、ひいて契約全部の無効を来すものと解するを相当とする。大審院大正七年一〇月二日(民録二五輯一九五頁)及び大正一〇年九月二九日(民録二七輯一七七四頁)の判例は、いずれも当裁判所の採用しないところである。従つて本件のいわゆる消費貸借及び上告人Cのなした連帯保証契約はともに無効であり、そして以上の契約において不法の原因が受益者すなわち上告人等についてのみ存したものということはできないから、被上告人は民法七〇八条本文により、交付した金員の返還を求めることはできないものといわなければならない。原判決は法律の解釈を誤つたものであつて破棄を免れない。そして原審の確定した事実によれば、本件はすでに判決をなすに熟するものと認められるから、民訴四〇八条一号、九六条、八九条を適用し、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷材唯一郎 裁判官 池田 克)




○ 最二小判昭和32.02.15 昭和30(オ)228 土地建物登記抹消請求(第11巻2号286頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
 代物弁済の予約が公序良俗に反する一事例。

要旨:
 元金三五万円、弁済期三〇日後、利息三〇日につき一割、利息を支払えば借主の希望により弁済期を延期するとの約旨の消費貸借契約に付随し、借主が弁済期に元金を支払わないときは、時価三、〇六七、〇〇〇円相当の不動産の所有権を代物弁済として貸主に移転する旨を約したときは、右代物弁済の予約は、特別な事情のないかぎり、貸主が借主の窮迫に乗じて締結したものと認めるべきであつて、公序良俗に反し無効と解するのが相当である。
参照・法条:
  民法90条,民法482条

内容:
 件名  土地建物登記抹消請求 (最高裁判所 昭和30(オ)228 第二小法廷・判決 棄却)
 原審  東京高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告理由第一点について。
 原判決の確定した事実によれば、昭和二四年五月二三日、貸主上告人、共同借主被上告人等外一名間において、元金三五万円、弁済期三〇日後、利息一ヶ月(三〇日)一割、利息を支払えば債務者の希望により順次弁済期を延期する約旨の消費貸借契約がなされ、同時にこれに付随して、弁済期に右元金を返済しないときは、その八倍半強にも当る当時の時価金三〇六万七〇〇〇円相当の本件不動産の所有権を代物弁済として上告人に移転する契約が締結されたというのである。かかる場合、他に特別な事情の立証がなされていない本件においては、右代物弁済の予約は、債権者が債務者の窮迫に乗じ締結されたものと認むべく、したがつて右予約は公序良俗に反する無効のものと解するを相当とする。それ故この点に関する原判決の判断は結局正当であるから、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判決は右月一割の利息が高利であるとの理由だけで右代物弁済の予約を無効としたものでないことは判文上明らかであつて、所論は原判示を正解しない立論と解される。論旨は採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田 克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)




○ 最一小判昭和32.09.05 昭和26(オ)576 債務不存在確認並びに抵当権抹消登記手続請求(第11巻9号1479頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
 消費貸借においてなされた月一割の利息を支払う約定と公序良俗違反の有無。

要旨:
 消費貸借上の貸主が、借主の窮迫、軽卒もしくは無経験を利用し、著しく過当な利益の獲得を目的としたことが認められない限り、利息が月一割と定められたという一事だけでは、この約定を公序良俗に反するものということはできない。
参照・法条:
  民法90条,旧利息制限法2条

内容:
 件名  債務不存在確認並びに抵当権抹消登記手続請求 (最高裁判所 昭和26(オ)576 第一小法廷・判決 棄却)
 原審  福岡高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告人の上告理由第一点について。
 原判決が昭和二二年八月から一一月までに支払われた金額が計一二、〇〇〇円であつて、同期間の約定利息の総額が二五、〇〇〇円であり、その差額が一三、〇〇〇円であると判示していることは所論のとおりである。しかし、原判決は右判示に続いて、その挙示の証拠により上告人は昭和二三年一月中に右差額一三、〇〇〇円につき準消費貸借契約を締結した旨認定しているのであるから、前示利息二五、〇〇〇円は昭和二二年八月から同年一二月まで五ヶ月分の利息であることが明らかであり、従つて、原判決に前示一一月までとあるは一二月までの誤記であることが窺われるから、原判決には所論の違法ありというを得ない。それ故論旨は採用できない。
 第二点について。
 原判決はその判文によつて明らかなように、所論の金五二、〇〇〇円は判示利息並びに判示準消費貸借の元利に充当、支払われたことを認定しているのであつて、従つてその限りにおいて所論のように元金に充当すべき残額の生ずべき余地のないものと認むべきであるから、原判決には所論充当の法則を誤つた違法ありというを得ない。論旨も亦採用できない。
 第三点について。
 本件消費貸借における月一割の利息が利息制限法に反し、また高率の利息であることは所論のとおりである。しかし乍ら、本件消費貸借の貸主であつたAが借主である上告人の窮迫、軽卒もしくは無経験を利用し、著しく過当な利益の獲得を目的としたことを原判文上認め得られない。本件においては、利息が月一割という一事だけでは公序良俗に違反したものと断ずるを得ない(大審院昭和八年(オ)第二四四二号、同九年五月一日判決及び昭和二八年(オ)第六九一号、同二九年一一月五日当裁判所第二小法廷判決参照)。従つて、原判決の所論判断は結局正当であり、論旨は右と相容れない独自の見解に立脚するもので採るを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)




○ 最三小判昭和32.12.10 昭和31(オ)643 金員貸借契約公正証書無効確認請求(第11巻13号2117頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
 公証人法第二六条に違反して作成された公正証書の効力。

要旨:
 公証人法第二六条に違反して作成された公正証書であつても、当然に債務名義たる効力を有しないものではない。
参照・法条:
  公証人法26条,民訴法559条3号

内容:
 件名  金員貸借契約公正証書無効確認請求 (最高裁判所 昭和31(オ)643 第三小法廷・判決 棄却)
 原審  高松高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告人の上告理由第一点について。
 所論は、利息制限法に違反した事項を目的とする条項を記載した本件公正証書は、公証人法二六条に違反するから、本件強制執行は許されないと主張する。しかし公証人法二六条の規定は、同条に違反して作成された公正証書が当然に債務名義たる効力を有しないとする趣旨を含むものではない。そして公正証書に記載された法律行為の一部が無効であつても、その無効が法律行為全部の無効を来さない限り、請求異議の訴にもとづき右公正証書の執行力を全面的に排除することはできないと解すべきである。本件において原審が、その確定した事実関係にもとづき、本件貸借に利息制限法に違反する部分があることを認めこれを無効としながら、他の有効に成立したと認められる部分につき本件公正証書による強制執行を許すべきものとし、上告人の請求の一部を棄却したのは正当である。所論は採用できない。
 同第二点について。
 所論は、原判決は、上告人の錯誤の主張について明らかな審理判断をしていないから審理不尽、理由不備の違法があると主張する。しかし原判決の理由ロの部分を精読してみると、所論錯誤の点は、上告人の主張を誤りなく摘記し、これに対し証拠を挙げて結局所論摘示のように所論のような錯誤はなかつた旨判断したのであつて、証拠と説明とを対照してみるとその判断は首肯するに十分であり、所論のような違法は認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島  保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克) 
  



○ 最二小判昭和34.06.19 昭和32(オ)477 貸金請求(第13巻6号757頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
 連帯債務の相続。

要旨:
 連帯債務者の一人が死亡し、その相続人が数人ある場合に、相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解すべきである。
参照・法条:
  民法427条,民法432条,民法898条,民法899条

内容:
 件名  貸金請求 (最高裁判所 昭和32(オ)477 第二小法廷・判決 一部棄却・一部破棄差戻)
 原審  広島高等裁判所

主    文
     上告人Aの上告を棄却する。
     右上告費用は同上告人の負担とする。
     その余の上告人らの上告につき、原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理    由
 上告代理人植木昇の上告理由について。
 連帯債務は、数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり、各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが、なお、可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで、債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるから(大審院昭和五年(ク)第一二三六号、同年一二月四日決定、民集九巻一一一八頁、最高裁昭和二七年(オ)第一一一九号、同二九年四月八日第一小法廷判決、民集八巻八一九頁参照)、連帯債務者の一人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である。本件において、原審は挙示の証拠により、被上告人の父Bは、昭和二六年一二月一日上告人らの先々代C、先代D及びDの妻である上告人Aを連帯債務者として金一八三、〇〇〇円を貸与したこと、甲二号証によれば、昭和二七年一二月三一日にも、同一当事者間に金九八、五〇〇円の消費貸借が成立した如くであるが、これは前記一八三、〇〇〇円に対する約定利息等を別途借入金としたものであるから、旧利息制限法の適用をうけ、一八三、〇〇〇円に対する昭和二六年一一月一日から昭和二七年一二月三一日まで年一割の割合による金一八、四五二円の範囲にかぎり、請求が許容されること(右のうち、昭和二六年一一月一日とあるのは、同年一二月一日の誤記であること明らかであり、また、原審の利息の計算にも誤りがあると認められる。)Dは昭和二九年三月二三日死亡し(Cの死亡したことも、原審において争のなかつたところであるが、原判決は、同人の債務を相続した者が何人であるかを認定していない。)、上告人E、F、G及び訴外Hの四名は、その子としてDの債務を相続したこと、債権者Bは、本件債権を被上告人に譲渡し対抗要件を具備したことを各認定ものである。右事実によれば、Cの債務の相続関係はこれを別として、上告人A及びDは被上告人に対し連帯債務を負担していたところ、Dは死亡し相続が開始したというのであるから、Dの債務の三分の一は上告人Aにおいて(但し、同人は元来全額につき連帯債務を負担しているのであるから、本件においては、この承継の結果を考慮するを要しない。)、その余の三分の二は、上告人E、F、G及びIにおいて各自四分の一すなわちDの債務の六分の一宛を承継し、かくしてAは全額につき、その余の上告人らは全額の六分の一につき、それぞれ連帯債務を負うにいたつたものである。従つて、被上告人に対しAは元金一八三、〇〇〇円及びこれに対する前記利息の合計額の支払義務があり、その他の上告人らは、右合計額の六分の一宛の支払義務があるものといわなければならない。しかるに、原審は、上告人らはいずれもその全額につき支払義務があるものとの見解の下に、第一審判決が上告人Aに対し金二八一、五〇〇円の三分の一、その他の上告人らに対し金二八一、五〇〇円の六分の一宛の支払を命じたのは、結局正当であるとして、上告人らの控訴を棄却したものである。それゆえ、上告人Aは、全額につき支払義務があるとする点において、当裁判所も原審と見解を同じうすることに帰し、その上告は結局理由がないが、その他の上告人らに関する部分については、原審は連帯債務の相続に関する解釈を誤つた結果、同上告人らに対し過大の金額の支払を命じたのであつて、同上告人らの上告は理由があるというべきである。よつて、上告人Aの上告は、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、これを棄却し、その他の上告人らの上告については、民訴四〇七条一項により、原判決を破棄し、これを広島高等裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)




○ 最大判昭和37.06.13 昭和35(オ)1023 請求異議(第16巻7号1340頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 任意に支払われた法定の制限超過の利息・損害金は残存元本に充当されるか。

要旨:
 債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払つたとき、右制限をこえる金員は、当然残存元本に充当されるものと解すべきではない。
参照・法条:
  利息制限法1条1項,利息制限法1条2項,利息制限法4条1項,利息制限法4条2項,利息制限法2条

内容:
 件名  請求異議 (最高裁判所 昭和35(オ)1023 大法廷・判決 破棄差戻)
 原審  東京高等裁判所

主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差戻す。

        理    由
 上告代理人A名義の上告理由について。
 原判決は、被上告人B、同C、同D、同E、同F、同G、同Hらの先代Iが上告人に対し支払つた判示(一)ないし(八)(但し(四)は四二四、○○○円)の各金員は、同人が上告人に対する本件消費貸借債務の履行として支払つたものであること及び右のうち判示(一)、(二)、(三)、(五)、(八)及び(四)の一部二二四、○○○円並びに(七)の一部二八八、○○○円は、同人が被上告人近藤録郎、同小西謙三郎、同渡辺儀作らの連帯保証のもとに締結した本件消費貸借契約において、上告人に対し支払いを約した期限後の損害金として、いずれも任意に支払つたものであることを確定しながら、右各金員のうち利息制限法所定の制限率に超過する部分の損害金支払いの契約は無効であり、その超過部分は、本来債務者に返還されるべき筋合のものであるが、同法一条、四条の各二項の定めがあるので、元本債権にして存在するならば、右支払額は当然元本に充当されるべきであるとし、原判示それぞれの計算によつて、結局本件消費貸借には残存元本が皆無となり、却つて七、○○○円に近い過払いがある計算となる旨判示する。
 しかし、金銭を目的とする消費貸借上の利息又は損害金の契約は、その額が利息制限法一条、四条の各一項にそれぞれ定められた利率によつて計算した金額を超えるときは、その超過部分につき無効であるが、債務者がそれを任意に支払つたときは、その後において、その契約の無効を主張し、既にした給付の返還を請求することができないものであることは、右各法条の各二項によつて明らかであるばかりでなく、結果において返還を受けたと同一の経済的利益を生ずるような、残存元本への充当も許されないものと解するのが相当である。
 されば、本件において、Iの支払つた右各損害金のうちに、たとえ法定の制限率をもつて計算した金額を超える部分があつても、債務者が、契約上の損害金として、一旦これを任意に支払つたものと認められる以上、既にした右超過支払部分の残存元本への充当は、これを許容すべきものではないといわなければならない。
 原判決は、右のような場合、元本債権にして残存するならば、超過支払部分は当然元本に充当されると解するのが、同法二条の法意に通じ、かつ高利金融に対して経済的弱者である債務者を保護しようとする同法制定の趣旨にも適合する所以であるというが、同法二条は、消費貸借成立時における利息天引の場合を規定したものであつて、債務者が、契約上の利息又は損害金として、法定の制限を超える金額を任意に支払つた場合につき規定した同法一条、四条の各二項とは、おのずからその趣旨を異にするから、同法二条がその規定のような擬制を許すからといつて、同法一条、四条の各二項も同一趣旨に解さなければならないとする理由とすることはできない。
 また、利息制限法が、高利金融に対して経済的弱者である債務者を保護しようとの意図をもつて制定されたものであるとしても、原判示の如く、その充当を、元本債権の残存する場合にのみ認めるにおいては、特定の債務者がそれによる利益を受け得るとしても、充当されるべき元本債権を残存しない債務者は、これを受け得ないことになり、彼此債務者の間に著しい不均衡の生ずることを免れ得ない。
 してみれば、原判決は、結局、利息制限法一条、四条の各二項の解釈適用を誤まつたものといわざるを得ず、その違法は判決の結果に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない。論旨は理由がある。
 よつて民訴四〇七条に従い主文のとおり判決する。この判決は、裁判官河村大助、同下飯坂潤夫の補足意見及び裁判官横田喜三郎、同池田克、同奥野健一、同山田作之助、同五鬼上堅磐の反対意見があるほか、裁判官全員の一致によるものである。

 裁判官河村大助の補足意見は次のとおりである。
 一、利息制限法所定の制限を超える利息、損害金を任意に支払つた場合(一条二項、四条二項)に、右超過支払分は元本債権の存する限り当然これに充当されたものとみなすべきであるとの見解は、同法の解釈上到底賛同し難いところであつて、その理由は後にこれを詳述するが、ここでは先ず、右元本充当説が、高利金融に対し経済的弱者の地位にある債務者を保護するという社会的背景を根拠とする点につきいささか省察を試みる。勿論利息制限法が、債務者保護を基調とし、兼ねて社会の経済秩序を維持するという目的の下に制定されたものであることに異論はない。しかし、借手が常に経済的弱者であると断定することは我国庶民金融の実体に照らし到底承服できないところである。周知のとおり、貸金業界に依存する中小企業並びに零細融資の需要者たる庶民大衆は、質草もない無担保金融に依存するものが多く、経済上の需要供給及び焦付きの危険度等から自然高利金融を生む結果となつて、貸金業者の届出利率も制限利率をはるかに超過する日歩二〇銭を下らない高利取引が公然と行われているのが現在の実状である。そして貸金業界の行う消費貸借はその用途が大体において、生産資金と消費資金とに分れるのであるが、現在の金融取引の圧倒的多数を占める前者の場合は借手が必ずしも経済的弱者であるとはいえない。すなわち借入金を生産資金に廻して企業の利潤から利息を払うことができるからである。元来利息は、企業の利潤によつて賄われるのが原則であるから、利潤が合理的な利息決定の基礎となるものであつて、その利息が利潤の範囲内における相当額である限り、制限超過の利息だからといつて、経済的には不合理な高利とはいえないのである。固より特定の一企業にとつて、その金利が利潤の範囲を超える不当な高金利である場合もあり得るのであるが、しかし、金融市場の一般的水準とされている金利そのものは、その時における貨幣資本の需給を平衡させているものであるから、一般的に不当な金利であるとみることはできない。唯消費資金の貸付はその需要が概ね困窮に陥つた者の借入れであつて、その高利は苛酷な性質を帯びる場合が多いのであるから、本来は別に公の金融施策が望ましいことであるが、その実現の容易でない今日においては、異種の性格をもつ消費貸借を一律に規制するのは止むを得ないところであろう。法が超過部分を一応無効としながら、その任意支払を敢て禁止しないという弱い統制から、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第五条の強い統制迄の中間区域の高利取引を、事実上当事者の自由に放任したのも、前述のような庶民金融の実態から見れば、理解することのできる措置といえよう。すなわち、立法者もにわかに強い統制を加えることは、決して金融秩序を維持する所以でないとの結論に到達したものと思料される。然るに若しも今日の金融取引において、利息、損害金の制限超過部分の任意支払を以て、元本へ充当したものとみなすにおいては、貸金業界に恐慌を来たし、金融の梗塞を招来するおそれなしと何人が断言できるであろう。
 一 同法一条二項及び四条二項の規定は、民法の不当利得に関する規定の特則として設けられたものであつて、債務者はその超過部分の契約が無効であることを知つていると否とを問わず、苟くも一旦任意に支払われた以上その返還を請求することができないものとして定められたものと解すべきである。旧法の「裁判上無効」とするとの規定には解釈上争いがあつたが、判例は一貫して債権者は裁判上請求し得ないが、債務者が任意に弁済したときは、その返還を請求することができないとの解釈をとつていたので、改正法も右判例によりつちかわれた慣行を更に強化し明文化したものと見られる。従つて同条の超過部分の任意支払を債務の弁済と解することはできないにしても、少くともその超過部分の任意支払を債権者に帰属させ、これが利得の保有を許したものと解せられるから、債務者に返還請求を許したと同一の経済的利益を与えることは許されないものと解するを相当とする。
 超過部分の任意支払を元本への充当に変更するが如きことは、明文に根拠のないこと明らかであるのみならず、各法条の解釈からも当然に導き出されるものではなく、却つてかかる解釈は、利得の保有を許した各条の規定と矛盾するものである。原判決は超過部分の任意支払を以て、同法二条において、貸借成立の際に天引した超過利息を元本の支払に充てたものとみなす旨規定している法意に通ずるという見解を採つているが、天引した超過利息を元本へ充当することにしたのは、現金の授受のない名目的の元本と名目的の支払利息の双方を打消すことにしたものであつて、実質的には消費貸借の要物性を欠く部分に消費貸借の成立を否定したのと同一結果になるものである。すなわち同条は、金銭の授受を伴わない消費貸借の部分について、当事者の合意と異る充当を擬制した規定であるが、他方同法一条二項は、現実に金銭の授受が行われた場合の規定であつて、両者は全く類似性をもたない事項である。従つて前者に対する法則を後者に類推適用することは、類推解釈の限界を逸脱するものといわなければならない。
 三、次に制限超過部分の利息、損害金の契約は、無効であるから、その部分の弁済は民法四九一条により当然元本に充当されるとの見解は、傾聴に値するものであるが、わたくしは賛同できない。同条の法定充当はいうまでもなく弁済者又は弁済受領者が同法四八八条に基づく充当指定権を行使しなかつた場合に適用あるものであつて、弁済者が特定の利息又は損害金の弁済に充当すべく指定した場合においては、たとえその債務が無効であり、また同法四八八条三項の充当の意思表示も無効であると解せられるにしても、その弁済が不当利得として返還請求権を有するかどうかの問題を生ずるに止まり、充当すべき特定の債務を指定した当事者の意思に反し、他の債務に充当することは許されないものと解すべきである。特に利息制限法一条が超過部分の契約を無効としつつ任意支払の場合は返還請求をすることができないとしたのは、取りも直さず、債権者に利得の保有を許す趣旨と解せられるから、当事者の指定に反する他の債務の弁済に充当するが如きことは、同法一条二項の趣旨と矛盾するものである。従つて法定充当説もとるを得ない。
 裁判官下飯坂潤夫は右河村大助裁判官の補足意見に同調する。
 裁判官横田喜三郎の反対意見は、つぎのようである。
 利息制限法一条二項は、債務者が同条一項の利息制限を超過した部分を任意に支払つた場合に、その返還を請求することができないことを定めているだけであつて、その部分を債権者が制限超過の利息の弁済として取得しうることを定めているのではない。もとより、他方で、その部分を元本の支払に充当すべきことを定めているのでもない。一条二項の規定は、規定そのものとしては、この点に関して、いずれとも定めていないのであつて、法の不備であるといわなければならない。
 このような場合には、立法の趣旨に照して解釈することが法の解釈の基本原則である。いつたい、利息制限法は、いわゆる社会立法に属するもので、その根本の立法趣旨は、なによりもまず、経済的弱者の地位にある債務者を保護することにある。このことは、国会における本法の審議に当つて、政府委員がくりかえして説明したところである(第一九回国会衆議院法務委員会議録第四六号((昭和二九年四月二七日))一頁、二頁参照)。他方で、金融の円滑を期することも必要ではあるが、経済的弱者の保護という目的にくらべれば、第二次的のものといわなければならない。そうしてみれば、利息制限を超過する部分については、経済的強者である債権者利益のために、これを制限超過の利息に充当するよりも、経済的弱者である債務者の利益のために、残存する元本の支払に充当することこそ、利息制限法の根本の立法趣旨に合するといわなければならない。
 そればかりでなく、国会における本法の審議のさいに、政府委員は、くりかえして、元本が残存する場合には、利息制限を超過した部分は元本の支払に充当されるべきことを明言した(同会議録第二八号((昭和二九年三月二六日))五頁、九頁参照)。これに対して、いかなる反対または異議も議員から述べられなかつた。この点から見れば、立法の趣旨は、明らかに、利息制限の超過部分は、残存元本の支払に充当されるべきことにあるといわなければならない。
 もとより、立法者の考えた立法の趣旨は、法の解釈においてかならずしも絶対に決定的なものではない。しかし、その趣旨が不合理なものでなく、十分に理由のあるものであるならば、それにしたがつて解釈すべきことは、当然のことといわなければならない。民主主義の原則に従い、国民を代表する国会によつて制定された法律については、とくにそうである。利息制限法は、いわゆる社会立法であつて、上述のような立法趣旨は、十分に理由のあるものであり、しかも国民を代表する国会によつて民主的に制定されたものであるから、その立法趣旨を無視するような解釈は、決して正当なものということができない。
 以上の理由のほかに、利息制限法二条からも、制限超過部分を残存元本の支払に充当すべきことは裏づけられる。この点については、奥野、五鬼上両裁判官の反対意見で述べられているところに同調する。
 裁判官池田克の反対意見は、次のとおりである。
 金銭が生産的な投資のための貸付資本として利用される生産信用の面においては、利息は、原則的には金融市場における貸付貨幣資本の需要供給の関係によつて定まり、これが調整については、臨時金利調整法(昭和二二年法律一八一号)が一応その機能をはたしつつあるものとされているところであるが、しかし、他方、庶民金融における消費信用や融資の系列から除外された中小企業者の生産信用の面をみると、周知のように高利貸信用に求める者の数が決して少なくないのであり、高利貸信用に依存するものにとつて高率の利息、損害金はおおむね債務者の財産からの不当な収奪たる性質をもつものとされているところであつて、利息制限法は正にかかる経済的不利から債務者を保護するための社会立法に外ならない。
 すなわち利息制限法を通観すると、法は、金銭を目的とする消費貸借上の利息、損害金の契約につき、それぞれその元本に対する割合の最高限を定め、超過部分については、裁判上たると裁判外たるとを問わずこれを無効として私法上の効果を認めない(一条、四条各一項)こととすると共に、利息の天引、みなし利息等の制限規定(二条、三条)を設けて利息、損害金の制限の潜脱を抑圧しようとしているのであつて、経済的弱者たる債務者の保護のための骨子をなすものであることが十分に理解されるところである。
 従つて、これらの法意の存するところを推し進めると、債務者が制限超過の利息、損害金を任意に支払つたときは、それらの金額それ自体債務者には帰属できないとしても、それだからといつて債権者に帰属するいわれもないのであるから、かかる事態を合理的に解決することが要請されるものというべく、そのためには、衡平の原理に照らして妥当な結果が得られるように考えなければならないところである。解釈の任務は、ここにある。とすれば、右の場合において、元本債権が残存しない限り事実上債権者の利得する結果となることはやむを得ないところであるが、元本債権が残存する限りこれに充当されることとなるものと解するのが最も合理的な解決となり、衡平の原理にもそう所以であつて、いな、むしろこれが法の全趣旨に基づく当然の論理的帰結であると思料する。
 しかるに、法一条、四条各二項が右の場合には、一条、四条各一項の規定にかかわらず債務者はその返還を請求することができないとしていること、また、法二条が元本への充当を利息の天引の場合について規定していることから、利息を天引した以外の場合においては、残存元本への充当が許されないものと解することは、衡平の原理にそわず、論理的にも首肯しがたいものといわなければならない。  なお、念のため附言すると、法の定めている利息、損害金の限度は、消費貸借における使用対価、危険の保険料等が十分に参酌されているものであること、しかも、その最高限を超えても、更にこれを著しく上廻る高率の利息、損害金を契約しまたは受領した場合(出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律五条)でない限り取締の対象とされないで、いわゆる闇高利、闇金融として放置されていること等を考えあわせると、前記の如く残存元本への充当を積極的に解してもそのためにいわゆる庶民金融を梗塞するおそれがあるとはいえず、そのような政策的考慮によつて折角の社会立法を力の弱いものとする解釈は、採るを得ないところである。
 裁判官奥野健一、同五鬼上堅磐の反対意見は次のとおりである。.
 債務者が特に利息、損害金の支払と明示せず支払をしたときは制限超過部分の支払は元本の残存する限り当然これに充当され、制限超過部分の利息、損害金の支払に充てられるものでないことは殆ど争のないところであろう。けだし、制限超過部分の利息、損害金は無効であり、かかる債務は存在しないのであるから、その部分の弁済は民法四九一条により当然残存元本に充当されるべきであるからである。
 問題は、債務者が特に利息、損害金の弁済と指定して支払つた場合であるが、元来制限超過の部分は強行法規たる本法(利息制限法)一条により無効とされており、その部分の債務は存在しないのであるから、その部分に対する弁済は不可能である。従つて債務者が仮令利息、損害金と指定して弁済しても、その制限超過部分に対する指定は不可能な弁済の指定であつて、法律上その指定は無意味であり、結局その部分に関する指定がないのと同一であるから、当然民法四九一条が働き、残存元本に充当されるものと言わざるを得ないのである。すなわち、利息制限法は強行法規であり、その禁止にかかる無効な制限超過の利息、損害金の部分については、仮令当事者の一方又は双方の指定によつても有効な債務の弁済となし得ざるや明白であるからである。
 成程本法一条二項には超過部分を任意に支払つたときは、その返還を請求することができない旨を規定しているが、これを以つて制限超過部分の支払が残存元本に充当されることを禁止している趣旨と解することはできない。けだし、右一条二項の趣旨は旧利息制限法の「裁判上無効」とするとの規定に関する大審院判例に従つて、債務者が任意に支払つた制限超過部分については民法七〇三条又は七〇八条但書によつて不当利得としてその返還を請求することを得ないものとしたに止り、それ以上に債権者に利益を与える趣旨のものではないと解すべきである。すなわち、本法が制限超過の利息の契約を禁止した以上、それにも拘らずした弁済について裁判所がその返還につき積極的に助力を与えないこととしたに過ぎないのである。殊に「裁判上無効」とした旧利息制限法の規定が「裁判外は有効」であると解せられる余地があつたのに反して、本法は「超過部分につき無効」と規定し、裁判外であると裁判上であるとを問わず常に無効であることを明白にしたのであるから、仮令制限超過の利息を裁判外において支払つても常に無効の弁済であり、裁判外の任意の支払であるからといつて有効な弁済と解する余地はなくなつたのである。それ故本条二項を創設したからといつて、既に一条一項によつて無効とされている制限超過部分が有効な債務又は自然債務となり、これに対する弁済が有効となるものと解したり、元本債務が残存する場合にもこれに対する法定充当を否定する趣旨と解すべき何らの根拠にもならないのである。そして元本の残存する限り制限超過部分の支払がこれに充当されるものと解しても、制限超過部分の返還を認めるのと同一結果となるものでないことは言うを俟たないところである。
 また、このことは本法二条からも裏付け得るものと思う。すなわち、同条に言う利息の天引とは利息の前払の意味であつて、本条は債務者が任意に利息の前払をしても制限超過部分の利息の有効な支払とは認めず、これを元本の支払に充てたものとみなし、当事者の一方又は双方の意思によつても制限超過部分に対する有効な弁済となり得ないこととしているのである。そしてこの理は仮令利息の天引をしないで借主が一応元本全額の交付を受け、即座に利息の前払として制限超過部分の支払をしたとしても、矢張り制限超過部分の利息の支払は元本の支払に充てたものとみなされるべきことは同様である。けだし、然らざればこの方法により容易に同条の免脱を図ることができるからである。然らば、後日に至つて制限超過部分の利息を支払つた場合でも、民法四九一条によりその部分の支払を残存元本の支払に充当することを否定しなければならない理由はないのである。すなわち、若し本法が制限超過の利息の支払を絶対に元本に充当することを否定する趣旨であるとすれば、何故に制限超過の利息の前払に限つて元本に充当されるものとしたか理解することができないところであり、同条は制限超過の利息の支払が性質上元本に充当し得ること及びこれを元本に充当しても、制限超過部分の返還の請求を認めないことと矛盾、抵触するものでないことを前提としてこれを擬制しているものと解するのが合理的である。そして元本充当を否定する消極説をとると債務者は本法の禁止する制限超過の利息、損害金を支払わせられながら、いくら払つても完本は何時までも残り、債務者は救われないことになり、本法の高利貸的搾取から経済的弱者を保護しようとする本法の趣旨に副わないことになる。この意味において原判決が「元本債権にして存在するならば右支払額は当然元本に充当されるものと解するのが相当であり、かく解することが本法二条の法意にも通じ、且つ高利金融に対し経済的弱者たる債務者を保護せんとする本法制定の趣旨に適合する所以である」とした判示も首肯できるのである。
 論者は、積極説をとると高利貸が金融をしなくなり、経済的弱者の金融梗塞を来し、却つて弱者に不利となるというが、経済的弱者の金融については別途庶民金融等の社会政策的見地に基づく施策によつて解決すべきであつて、本法の解釈によつてこれを解決せんとするが如きは筋違いというべきである。よつて原判決は正当であり、本件上告は理由がない。
 裁判官山田作之助の反対意見は次のとおりである。
 わたくしは、奥野、五鬼上両裁判官並びに横田(喜)裁判官の反対意見に同調する。しかして、何故に多数説に同調し得ないかについてのわたくしの見解を左のように述べる。
 多数説は、昭和二九年旧利息制限法が廃止され現行利息制限法となつた今日においても、なお、所謂超過利息について、債務者が超過利息と指定して(明示のときは勿論黙示の場合でも)支払つたものについては、そのまま超過利息として債権者が取得し得るとの旧利息制限法時代大審院の古くから採つている態度(明治三五年一〇月二五日言渡、判決録八輯九巻一三四頁、昭和三〇年二月二二日言渡最高裁判所第三小法廷判決、集九巻二〇九頁)を結果においてそのまま維持せんとしているのである。その根拠は改正後の現行利息制限法においてもなおその一条二項において『債務者は前項(利息の最高制限)の超過部分を任意に支払つたときは前項の規定にかかわらずその返還を請求することができない』と規定しておる所以のものは、この点に関しては新法は旧利息制限法をその基盤において踏襲しているのである。この二項の規定が存する以上、旧利息制限法についての大審院以来の判例は現行利息制限法についてもこれを変更する必要がないとするのである。惟うに、現行法が一条一項において超過利息についてはこれを無効としながらその二項において超過利息を意識して支払つたときは、債務者は債権者にたいしてその返還を求めることが出来ないとしているのは、法条としては首尾一貫しないものというべきであるが、かかる首尾一貫しない立法がなされているのもまた社会的理由がこれを要求しているからである。であるから旧利息制限法が「裁判上無効とする」としていたのを現行法が「無効とする」としたのは高利息制限の理想に一歩前進したものと解すべきであり、従つて、現行法上少数説の主張しているとおりの解釈が条文上の根拠がある以上、一歩理想に副うべく法を解釈すべきは当然であると考える。所謂金融の円滑を期する点を高調するあまり、法規の条文が改正されておるにもかかわらず、なお旧法時代と同様な考え方の基礎の上に、旧法のときの判例と同様の結果となるように新法を解釈することはわたくしの採らないところである。
(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田 克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助 裁判官 五鬼上堅磐
 裁判官斎藤悠輔は退官につき署名押印することができない。裁判長裁判官 横田喜三郎




○ 最三小判昭和39.07.07 昭和38(オ)806 土地所有権移転登記手続請求(第18巻6号1049頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 金銭貸与の方法として手形を交付した場合と消費貸借の成立する金額。

要旨:
 金銭の消費貸借にあたり、貸主が借主に対し金銭交付の方法として約束手形を振り出した場合において、右約束手形が満期に全額支払われたときは、たとえ借主が右約束手形を他で割り引き、手形金額にみたない金員を入手したのにとどまつても、右手形金額相当額について消費貸借が成立する。
参照・法条:
  民法587条

内容:
 件名  土地所有権移転登記手続請求 (最高裁判所 昭和38(オ)806 第三小法廷・判決 棄却)
 原審  福岡高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。

理    由
 上告代理人徳永平次の上告理由第一点について。
 所論は、上告人らが原審において原判決確定の仮登記がなされていることを争つているのに、原判決は、これを争いがないとして証拠によらないで右事実を確定した違法があるというが、記録によると、上告人らは、第一審以来右仮登記の存在を自ら主張していることが明らかであるから、論旨は前提を欠く。
 また、原判決の事実認定を争う所論は、上告適法の理由とならないし、原判決に理由齟齬の違法があるという所論も、所論指摘の原判決判示をもつて、理由齟齬に当るとはいえない(第二点に対する本判決理由参照)。
 論旨はすべて採用できない。
 同第二点について。
 所論は、原判決が控訴人(上告人)Aは被控訴人(被上告人)より交付を受けた手形、小切手により二六万八〇〇〇円の現金を入手したに止まることを認定しながら、右両者間に金額三〇万円についての消費貸借の成立を認めたのは、民法五八七条の解釈の誤り、審理不尽、理由不備の違法があるという。
 しかしながら、原判決は、被控訴人は、本件消費貸借契約の締結に当り、その金銭貸与の方法として控訴人A宛振り出した金額一〇万円の小切手は、間もなく支払われ、また、金額一〇万円の約束手形二通は、満期に支払われた旨の事実を確定しているのであるから、被控訴人と控訴人Aとの間に合計三〇万円についての金銭消費貸借の成立を肯定した原判決は、結局、正当であり、原判決に所論の違法がない。  論旨は採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 石坂修一 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎)




○ 最大判昭和39.11.18 昭和35(オ)1151 貸金請求(第18巻9号1868頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
  債務者が任意に支払つた利息制限法所定の制限をこえる利息・損害金は当然に残存元本に充当されるか。

要旨:
 債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は、民法第四九一条により、残存元本に充当されるものと解すべきである。
参照・法条:
  利息制限法1条,利息制限法2条,利息制限法4条,民法491条

内容:
 件名  貸金請求 (最高裁判所 昭和35(オ)1151 大法廷・判決 破棄差戻)
 原審  福岡高等裁判所

主    文
  原判決を破棄する。
  本件を福岡高等裁判所宮崎支部に差し戻す。

理    由
 上告代理人岩切清治の上告理由について。
 債務者が、利息制限法(以下本法と略称する)所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は民法四九一条により残存元本に充当されるものと解するを相当とする。その理由は後述のとおりである。従つて、右と見解を異にする当裁判所の判例(昭和三五年(オ)第一〇二三号、同三七年六月一三日言渡大法廷判決、民集一六巻七号一三四〇頁参照)は、これを変更すべきものと認める。
 債務者が利息、損害金の弁済として支払つた制限超過部分は、強行法規である本法一条、四条の各一項により無効とされ、その部分の債務は存在しないのであるから、その部分に対する支払は弁済の効力を生じない。従つて、債務者が利息、損害金と指定して支払つても、制限超過部分に対する指定は無意味であり、結局その部分に対する指定がないのと同一であるから、元本が残存するときは、民法四九一条の適用によりこれに充当されるものといわなければならない。
 本法一条、四条の各二項は、債務者において超過部分を任意に支払つたときは、その返還を請求することができない旨規定しているが、それは、制限超過の利息、損害金を支払つた債務者に対し裁判所がその返還につき積極的に助力を与えないとした趣旨と解するを相当とする。
 また、本法二条は、契約成立のさいに債務者が利息として本法の制限を超過する金額を前払しても、これを利息の支払として認めず、元本の支払に充てたものとみなしているのであるが、この趣旨からすれば、後日に至つて債務者が利息として本法の制限を超過する金額を支払つた場合にも、それを利息の支払として認めず、元本の支払に充当されるものと解するを相当とする。
 更に、債務者が任意に支払つた制限超過部分は残存元本に充当されるものと解することは、経済的弱者の地位にある債務者の保護を主たる目的とする本法の立法趣旨に合致するものである。右の解釈のもとでは、元本債権の残存する債務者とその残存しない債務者の間に不均衡を生ずることを免れないとしても、それを理由として元本債権の残存する債務者の保護を放擲するような解釈をすることは、本法の立法精神に反するものといわなければならない。
 しかるに、叙上の説示と異なる見解のもとに上告人ら主張の弁済の抗弁を排斥した原判決は、破棄を免れない。そして、制限超過部分の残存元本への充当関係につきさらに審理を尽くさせるため、本件を原審裁判所に差し戻すのを相当とする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官横田喜三郎、同奥野健一、同斎藤朔郎の補足意見、同入江俊郎、同石坂修一、同横田正俊、同城戸芳彦の反対意見があるほか、裁判官全員二致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官横田喜三郎の補足意見は、つぎのとおりである。
 わたくしは、本判決の理由のうちで、利息制限法の立法趣旨に関する点をとくに重視するものである。これについては、昭和三五年(オ)第一〇二三号、同三七年六月一三日言渡大法廷判決に対する反対意見として詳しく述べた(民集一六巻七号一三四七頁)から、それをここに引用する。
 裁判官奥野健一の補足意見は次のとおりである。
 私の補足意見は、昭和三五年(オ)第一〇二三号、同三七年六月一三言渡大法廷判決(民集一六巻七号一三四〇頁)における私の反対意見と同一であるから、それを引用する。
 なお附言するに、利息制限法は高利金融に対し経済的弱者である債務者を保護するため、一定の利率を設けて、これを超過する利息・損害金の約定を禁止し、その超過部分を無効とし、その債務の存在を否定することとして、借主たる債務者を保護することを以つて、その目的とするのである。
 従つて、貸主たる債権者が右超過部分の利息・損害金の支払を請求することの許されないことは勿論であり、債務者も右超過部分の利息・損害金の支払をなす義務を負わないのである。それ故、債務者は債権者より右超過部分の請求を受けても、制限利率による利息・損害金のみの支払をなすを以つて足り、若し債権者がその受領を拒めば、これを供託してその債務を免れ得るわけである。然るに、実情は経済的弱者たる債務者は心ならずも右制限超過部分の支払を強いられるのが現状である。
 固より、超過部分の債務は無効であり、不存在であるから、超過部分の支払は非債弁済であり、本来ならば不当利得として、その返還を請求することができる筋合であるが、法は苟も制限利率を超過する約定を禁止し、これが超過部分の支払を否定する建前を採つている以上、債務者がこの禁止に違反して、敢て超過部分の支払をした場合に、これが返還請求を許容することは、法の禁止する行為を保護する結果となり、法の目的に副わないことになるから、本法一条、四条の各二項において、債務者に対してその返還の請求を認めないこととしているのである。しかし、法はこれがため、債権者に右超過部分の支払を受領する正当な権限ありとして、これを保護しているのではない、飽までも、右超過部分は無効であり、その支払は無効の弁済であることに変りはないのである。従つて、他に元本債務等の存在する限り、右弁済は民法四九一条の原則に従い、それらに充当されることを禁止するものでないと解すべきである。けだし、債権者にとつては右超過部分の支払は、もともと法律上の原因のない不当利得であるから、これを他の有効な債務の弁済に充当されても、法律上何ら不利益を蒙るものではなく、他方右支払は債務者が債務の弁済としてなしたものであり(贈与等の趣旨で交付したものでないことは明白であり)、従つて他に弁済すべき元本債務等が存在する限り、それらに対する弁済として充当さるべきであることは、前記民法の規定の明定するところであるからである。
 反対論者は、偶々他に充当すべき元本債務等の残存しない場合と比較して不公平であるというのであるが、かかる理由を以つて右充当弁済を否定して、債務者の不利益に帰せしめることは本末顛倒の論であるといわねばならない。
 また、超過部分の支払につき、一方においてこれが返還の請求を否定しながら、他方において残存元本債務等に対する弁済としてその充当を認めることは、その返還の請求を認めるのと経済的に同一の結果となり、矛盾であるとの反対論にも賛同できない。すなわち、例えば、民法五〇八条は、時効に因つて消滅した債権を以つて、その消滅前相殺に適した債務と相殺し得ることを認めているのであるが、これは衡平の原則上寔に正当であつて、これを以つて時効に羅つた債権の履行の請求を否定しながら、相殺に供することを認めるのは、その履行の請求を認めるのと同一の結果となるとか、偶々相殺に供し得る債務を有しない者と比較して不公平であるなどという非難の当たらないことは自明の理であり、これと同様に前記反対論の非難も当たらない。
 殊に、本法二条は天引利息について、制限超過部分を元本に充当したものとみなしているのであるが、これは貸借の締結に当たり、債務者が任意に(内心は兎も角として)制限超過の利息の前払をなした場合は、その超過部分は利息の有効な支払とは認めず、また、固よりこれが返還の請求をも認めず、当然これを元本の支払に充てたものとみなしているのであつて、すなわち、制限超過の利息の支払(天引すなわち前払をも含めて)は、その返還請求は許されないが、残存元本債務等に対する弁済に充当することを是認している証左と解することができる。従つて、また本条を以つて右弁済充当を否定する反対解釈の根拠とすることは不当である。
 かくの如く制限超過の利息・損害金の支払につき、元本等の残存債務のある場合に、これに対する弁済充当を認めることは、法の禁止に反して、超過部分の支払をなした債務者とこれが支払を受領した債権者との双方の関係を衡平ならしめる所以であり、常に支払をなした債務者のみに不利益を帰せしめる不公平を是正し、本法の目的である債務者保護の趣旨に副うものといえよう。
 なお弁済の充当について一言私見を述べれば、利息についての制限超過部分の支払は元本に法定充当されるのであるが、元本債権が未だ弁済期にない場合であつても、これに充当されるものであることは、民法四八九条、四九一条により明らかである。そして、弁済期前の元太債権に充当する場合には、弁済期までの制限内の利息を附して充当すべきものと解する(同法一三六条二項)。また、数個の債務のある場合は先づ債務者の指定した利息についての元本に充当し、なお残余があれば他の債務に同法四八九条、四九一条により充当すべきものである。右の如く弁済期前の元本に充当するとすれば、超過部分の利息の返還の問題を生ずる場合は比較的すくないのであるが、この点につき、昭和二九年三月二二日衆議院法務委員会において政府委員は「利息制限法一条二項が実際に問題となるのは元利金を支払つたあとになつて、実はあの支払額は限度を越えた率を支払つたものであるということを理由として、債務者の方から返還の請求をすることができるかという場合に、実益のある規定であつて、途中で債権者の方から限度超過の利息の支払を元本に入れないで、元本の支払を請求することはできないのである」 (第一九回国会衆議院法務委員会議録二八号)旨の説明をしているところから見ても、同条二項の超過部分の返還請求の問題の生ずるのは、元利金を支払つた後に起る問題であることは、本法立案当局も始めから予定していたものというべく、従つて、右の如き関係にあるからといつて、同法一条二項の規定が無意味になるものとして超過利息の元本充当を否定する理由とはならない。
 裁判官斎藤朔郎の補足意見は、次のとおりである。
 法律に違反したことが行われて、後日それが裁判上の問題となつた場合に、裁判所はその行為の効力を否定するのが通常の事態であつて、ある行為を無効と定めながら裁判上その無効を主張できないものとすることは、むしろ異例のことといわねばならない。高利の禁止という政策を法律の力で画一的に達成せしめることは、実際上かえつて弊害を伴うおそれもあるので、無効としながらも裁判による助力をあたえないという線で放任するということも、一つの異例の措置として理解できる。しかし、債権者は債務者の任意に支払つた制限超過利息(遅延損害金をふくむ。以下同じ。)の返還請求を受けないということだけでも、極めて有利な立場に立つている上に、さらに残存元本の支払をも請求できるというのであつては、利息制限法の立法、趣旨である債務者の保護は実際上ほとんど失われてしまう。私の考えでは、裁判所は、債務者のために、その任意に支払つた制限超過利息の返還の請求を認めないとともに、債権者のために、制限超過利息の支払を受けながらなお残存元本の支払を請求することを認めない。すなわち、裁判によつて事を処理する場合には、問題の金額に関するに限りにおいては、債権者・債務者いずれの側からするも新規の金銭の出し入れをなさしめないで、その当時の金銭支払関係の現状をもとにして、高利の禁止という立法の目的にかなつた解決をあたえるのが最も公平の理念に合する措置であると考える。
 法律の解釈には、おのずから一定の限度があるのであつて、一部の学者の主張するように、法文の文理を無視した自由奔放のものでないことはいうまでもない(拙稿・悪法再論議、ジュリスト八五号三八頁以下参照)。しかし、その限界内と考えられる範囲内においては、公平とか信義誠実とか具体的妥当性などという、いわば民事法分野ににおける超法規的一般原則によりょく適合するような解釈を採ることが、法を運用するに当つての基本的態度でなければならぬ。私は、反対意見の見解が法律解釈の限界内であり、多数意見の見解がその限界を逸脱するものとは考えない。どちらの解釈も現行法の文理と必ずしも矛盾するものでなく、そのいずれを採るかは、前記一般原則の理念に、いずれがよりよく適合するものと考えるかの選択の問題にすぎないと信じる。
 裁判官石坂修一の反対意見は次の通りである。
 わたくしは、当裁判所の判決(昭和三五年オ第一〇二三号同三七年六月一三日大法廷言渡)に示された多数意見は正当であり、なほ維持すべきものであつて、遽に変更すべきものでないと思料する。この多数意見に従つて本件における多数意見に反対する。
 裁判官横田正俊の反対意見は、つぎのとおりである。
 私は、以下述べる理由により、当裁判所大法廷の判例の結論を維持するのが相当であると考えるから、多数意見には同調しかねる。
 (一) 等しく金銭を目的とする消費貸借といつても、貸主は、各種銀行から市井の貸金業者、個人に至るまでその種類は多く、借主も大企業、中小企業から一般消費者に至るまで多種であり、借り受けの目的も多様である。そして、経済の一般原則にしたがえば、金銭貸付の対価である利息も、その時の一般的な金融情勢(貸し手市場か、借り手市場か)のほか、(一) 貸主のもつ資金の多寡、(二)貸付に用いられる資金が安いものか高いものか、(三)借主の信用度、すなわち回収が確実であるかどうか(貸し倒れの危険があるかどうか)、(四)貸付又は回収の手続に費用がかかるかどうか等の諸要因により左右されるはずのものであるから、消費貸借における利息又は損害金の約定も、一般の取引におけると同様、一応は契約自由の原則に委せ、ただ借主に余りに不利益なものだけを、民法九〇条のような一般条項ないし旧利息制限法五条のような特別の救済規定により、裁判上これを是正すれば足りるということも考えられないではない。しかし、それでは借主の保護に不十分なので、立法措置をもつて、利息又は損害金につき適当と認められる最高基準を定め、これを超える部分につき約定の効力を否定することが必要とされるのであり、いわゆる利息制限立法がこれに当るのである。しこうして、利息制限法令においても、他の統制法令におけると同様、適当と認めた基準を一度定めた以上は、経済界の実態がどうあつても、また経済界にある程度の摩擦を生ずることがあつても、これを強行するという強い立場が、まず考えられる。しかしながら、他面において、その基準が必ずしも適切でないことから生ずる不都合や摩擦はできるだけ避けられなければならない。ことに、借主保護の理想に急な余り、経済界の実情に余りにもかけ離れ、金融機構(とくに、信用の乏しい者も、比較的に安い利息で、しかも返済し易い方法で金銭が借りられるような機構)の整備、充実をまたないで、余りに厳格な規制を強行するときは、金融梗塞という借主のためにはならない結果又は闇金利の横行というような法律軽視の風を招来するおそれのあることも反省されなければならない(宅地、住家の借主の保護を目的とした地代、家賃統制法令その他の法令の実施が、健全な住宅政策の裏付けを欠いたため、住宅難という借りる者に不利益や結果や、闇取引の公然たる横行という現象をもたらしたことは、周知のとおりである)。したがつて、利息等の制限に関し最高の基準を法定した場合においても、金融市場の複雑性にかんがみ、これを全面的に強行することが必ずしも適当でないと認められるときは、これに対するなんらかの緩和策を同時に併せ構ずることは、決して理由のないことではない。
 (二) ところで、現行のわが利息制限法の規定を概観するに、同法は、利息の約定と損害金の約定とに分ち、元本額のいかんにより三段階の最高利率を定め(損害金のそれは利息のそれの二倍)、これに違反する契約は、超過部分につき無効とする(一条一項、四条一項)反面、債務者が右超過部分を任意に支払つたときは、その返還を請求することができない旨を規定(一条二項、四条二項)しているのである。右によれば、同法は、利息等の最高基準を法定しながら、これを絶対的に強行するという態度をとらず、旧利息制限法下においてすでに判例として確定されていた原則を法規に定着させることにより、右制限に対する緩和策を併せ規定しており、しかもその緩和策の核心を、債務者の任意の支払という点に置いていることが知られるのである。詳細は後に譲り、右緩和策の意義を大まかにとらえてみるならば、右制限法は、同法に規定する保護を受けるかどうかを債務者自身の意思にかからせ、債務者が法による制限を敢て主張しないで、制限超過の利息等を任意に支払つたときは、裁判所としても、その意向にしたがうこととし、後日に至つて債務者が法による保護を主張しても裁判所はこれに応じた是正措置を構じないこと(蒸し返しをしないこと)を明らかにしているものと理解されるのである。
 (三) つぎに、右緩和策たる法一条二項、四条二項の意義につき、やや詳細な検討を試みることとする。
 (い) 右各法条については、悪法であるという批判もあり、それは、ひつきよう、債務者の任意の支払といつても、それは実質的には半ば強制された支払にほかならないから、そのようなことによつて、借主の保護を目的とする法の適用を緩和すること自体が不合理であるということを理由とするもののようである。しかし、そのように割り切つてしまうことができるであろうか。もとより(イ)債務者が債権者の強迫(脅迫)により超過部分の支払をした場合(民事的には強迫、刑事的には恐喝に当る)や、利息の天引の場合などのように、債権者の直接の強制によつて支払又は控除が行われた場合には、債務者の意思にそつたとしても、とうてい前示各法条にいう任意の支払と認めえないことはいうまでもないが、(ロ)高利ではあつても、きわめて適時の融資により債務者が企業上又は生活上の危機を乗り切ることができた場合や、その資金の運用により債務者が多大の収益を上げることができたような場合には、制限超過部分の支払も、きわめて任意であることがありうる。そして(ハ)その他の場合における債務者の支払の任意性は、右(イ)(ロ)両極端の中間に位し、その任意性の程度には、具体的事情のいかんによりかなりの差異がありうることを認めなければならない。しかし、任意性の程度いかんにより法律上の取扱を差別することは困難なことであるから、いやしくも任意性が認められるかぎりにおいては、債務者はそれぞれの考えがあつて支払つているものと認め、一律に、その意向にしたがつて事を処理することとしても必ずしも不合理とのみ断定することをえない。旧利息制限法下における裁判例が債務者の任意の支払いに特別の意義を認めているのも、単に旧法が「裁判上無効」という規定の仕方をしているという形式的な理由だけからではなく、以上に述べたようなことを、その実質的な理由としているのではないかと思われる。
 (ろ) 右各法条は、制限超過部分の返還を請求しえない旨を規定するに止まるから、単に不当利得の返還請求が制限されているに過ぎないとするのが多数意見であるが、前述のごとく、右各法条による緩和策の意義が、債務者の意向を汲み、裁判所としては、後日、敢てこれに介入しないという点にあるとするならば、債務者のした任意の支払は、制限超過部分については非債弁済であるが、有効なものとし、債務者が後日に至り不当利得としてその返還を求めても裁判所はこれに協力しないのはもちろん、債務者が任意に指定充当した弁済もこれを有効なものとし、債務者が後日に至り、制限超過部分についての充当の指定は無効であるとして民法四九一条による法定充当を主張しても、裁判所はこれに応じて同法による是正措置を講じないというのが右各法条の趣旨であると解するのが最も自然であり、かつ権衡のとれた解釈である。なお、多数意見は、法二条の規定を法定充当説の論拠の一としているが、制限超過利息の天引の場合には、実質的にみて、右天引部分については消費貸借の要物性が認められないばかりでなく、前述のごとくその控除についての債務者の任意性が全く認められないから、その部分は、まだ弁済期の到来していない元本の支払に充てたものとみなすというきわめて特異な取扱いをしているのであつて、このような特異の規定の存在が一般の任意弁済の場合における法定充当を理由づけるものとは考えられない。
 (は) 法定充当説は、次の諸点から考えても妥当なものとは思われない。
 (イ) 元本の弁済期が未到来の場合には、多数意見の法定充当説も、任意に支払われた利息の制限超過部分の元本えの法定充当を認めるものではないと解されるが(これを認めるとすれば、法一条二項の規定はほとんど適用の余地のない無意味なものとなるからである。)、この場合においては、ただ弁済期のすでに到来した(1)他の利息債権又は(2)別日の元利金債権えの法定充当が問題となる。そして、
 (1) 利息を定期に支払うべき場合において、当期の利息を次期の利息の弁済期前に支払えば、次期の利息えの法定充当は行われないのに反し、その弁済期後に支払えば、次期の利息に法定充当されることとなり、利息支払の時期いかんによりきわめて不権衡な結果を招来するばかりでなく、計算関係を複雑にする。
 (2) 民法四九一条は、数個の債務がある場合にも適用されるから、ある口に任意弁済された利息の制限超過部分は、すでに弁済期の到来した別口の債権の利息、損害金ないし元本の債権に法定充当されることとなり、これらの債権のない場合との権衡を失するばかりでなく、計算関係を当事者の予想に反したきわめて複雑なものとする。この点は、後述の損害金の弁済についも同様である。 (弁済期を異にする三口の元本債権がある本件の場合は、正にこれに該当する)。
 (ロ) 元本の弁済期が到来した後には、法定充当説にしたがえば、元本が残存するかぎり利息又は損害金の制限超過部分は元本に法定充当されることとなる。そして、弁済は、元本より先に損害金に充当されるものであり、損害金債権が残存しているときは必ず元本債権が残存していることになるのであるから、債務者が支払つた制限超過部分は常に元本債権に弁済され、不当利得返還の問題を生ずる余地はないこととなる(損害金と元本の残額の全部を同時に支払つた場合が考えられるだけである)。したがつて、法四条二項で準用している一条二項の規定を多数意見の説くように不当利得だけに関する規定であると解するならば、四条二項が損害金につき右一条二項の規定を準用しているのは全くといつてよいほど意味のないこととなる。ことに、旧利息制限法は、損害金につき最高利率を定めず、ただ五条の救済規定だけを設け、しかも商事については、この規定すら適用しないものとしていた(商法施行法一一七条)のに対し、現行利息制限法は、民事、商事を区別せず(商法施行法の右規定を削除)損害金の最高利率は利息のそれの二倍に制限するという厳格な態度をとることとした反面、その緩和策として法四条二項の規定を設けていることにかんがみれば、その緩和規定が右のごとく全く意味がなく、利息の場合の緩和策といちじるしく権衡を失したものであろうとは、とうてい考えられないのである。要するに、利息、損害金を通じ、任意に支払われた制限超過部分の元本えの法定充当が否定されればこそ、その超過部分について不当利得の問題が生ずるのであり、不当利得となればこそ、その返還を制限するために法一条二項及び四条二項の規定が設けられているものと解すべきであろう。(なお、奥野裁判官は、補足意見の最後の部分において、政府委員の説明を引用し、法一条二項の超過部分の返還請求の問題を生ずるのは、元利金を支払つた後に起る問題であると説いておられるが、元本の残存するかぎり超過部分は当然に元本に法定充当されるとすれば、元利金を完済した後に起る問題は、超過部分についての不当利得の問題ではなく、元本の過払い、すなわち元本についての不当利得の問題に過ぎないのであるから、結局、法一条二項及び西条二項の規定は無意味な規定というほかはないのである。そして、元本についての不当利得の返還請求の制限については、利息制限法には別段の規定がないのであるから、民法七〇五条の規定が適用されることとなるであろう。)いわゆる悪法は、できるだけ縮小解釈すべきであつて拡張解釈すべきでないとの解釈論は、私も、一般論として肯認しないではない。また、多数意見の強調する借主の保護の必要性もよく理解しうるのであるが、法律の解釈にはおのずから限界があるのであつて、それ以上のことは、明確な立法をもつて解決すべきではないかと考える。
 裁判官入江俊郎、同城戸芳彦は、裁判官横田正俊の右反対意見に同調する。
(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助 裁判官 五鬼上堅磐  裁判官 横田正俊 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎
 裁判官齋藤朔郎は死亡につき署名押印することができない。裁判長裁判官 横田喜三郎




○ 最一小判昭和39.11.26 昭和37(オ)1051 貸金請求(第18巻9号1984頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
  民法第四八二条にいう「他ノ給付」が不動産の所有権を移転することにある場合と代物弁済成立の要件。

要旨:
 民法第四八二条にいう「他ノ給付」が不動産の所有権を移転することにある場合には、当事者がその意思表示をするだけではたりず、登記その他引渡行為を終了し、第三者に対する対抗要件を具備したときでなければ、代物弁済は成立しないと解すべきである。
参照・法条:
  民法482条

内容:
 件名  貸金請求 (最高裁判所 昭和37(オ)1051 第一小法廷・判決 破棄差戻)
 原審  仙台高等裁判所

主    文
     原判決を破棄する。
     本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理    由
 上告代理人鈴木右平の上告理由第一点について。
 代物弁済が債務消滅の効力を生ずるには、債務者が本来の給付に代えてなす他の給付を現実に実行することを要し、単に代りの給付をなすことを債権者に約すのみでは足りず、従つて他の給付が不動産の所有権を移転することに存する場合においては、当事者がその意思表示をなすのみでは足りず、登記その他引渡行為を終了し、法律行為が当事者間のみならず、第三者に対する関係においても全く完了したときでなければ代物弁済は成立しないと解すべきである(大正六年八月二二日大審院判決、民録二三輯下一二九三頁参照)。
 しかるに、原判決は、本件について控訴人(被上告人)が被控訴人(上告人)に対し、本件金銭消費貸借契約に基づく債務の履行を担保する趣旨のもとに、万一その履行を怠つたときは、改めて意思表示をするまでもなく、その履行に代えて控訴人所有の本件山林の所有権を被控訴人に移転し、その旨の登記手続をすることを約した事実、右金銭消費貸借の債務の履行期が到来しても、控訴人がこれを弁済しなかつた事実、従つて、控訴人が被控訴人に本件山林の所有権を移転する条件が成就した事実を各確定しただけで、被控訴人に対する右山林の所有権移転登記その他引渡行為の完了した事実を確定することなく、本件金銭消費貸借に基づく債務は右山林の代物弁済により消滅した旨判示しているのである。しからば、原判決には代物弁済についての法理の解釈適用を誤つた違法があるというべく、この違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 よつて、その他の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠)




○ 最二小判昭和40.09.17 昭和39(オ)987 債務額確定等請求(第19巻6号1533頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 一定金額をこえる債務の不存在確認請求の訴訟物。

要旨:
 貸金債務に関する一定金額をこえる債務の存在しない旨の確認請求は、当該貸金債権額から前記一定金額を控除した残債務額についての不存在の確認を求めるものである。
参照・法条:
  民訴法186条,民訴法225条

内容:
 件名  債務額確定等請求 (最高裁判所 昭和39(オ)987 第二小法廷・判決 破棄差戻)
 原審  大阪高等裁判所

主    文
  原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理    由
 上告代理人中谷鉄也の上告理由第一点について。
 所論の点についての原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の認定した事実は、その挙示の証拠関係によつて、これを肯認しうる。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨・選択、事実の認定を非難するに帰し、採用しがたい。
 同第二点について。
 論旨は、利息制限法所定の制限をこえる利息、損害金は、債務者が任意に支払つたときでも、右制限をこえる部分は貸金元本に充当さるべきにもかかわらず、これを否定した原判決は法令の解釈をあやまり、右違法は上告人らの債務不存在確認訴訟の判決に影響を及ぼすことは明らかであるという。
 よつて、案ずるに、原判決の事実摘示によると、上告人らの被上告人に対する請求の趣旨として、「上告人Aの被上告人に対する債務の残存元本は金一四万六、四六五円を超えて存在しないことを確認する。その余の上告人らの被上告人に対する債務の不存在を確認する」の記載があり、その請求の原因の要旨としては、(1)訴外Bは昭和三二年四月二三日被上告人から金一一〇万円を弁済期同三三年三月末日などの約で借り受けたが、同訴外人は、同年九月三日死亡し、上告人ら一一名が相続し、右債務を承継したが、上告人Aにおいて単独で右全債務を引き受けることとし、被上告人も、これを承諾し、その余の上告人らに対する債務わ免除した。(2)そして、上告人Aは、右貸金債務に対し(イ)同三二年一二月二四日金八三万三、五三五円を、(ロ)同三三年四月七日金五万円を、(ハ)同年一二月二八日金七万円を、それぞれ弁済したから、右貸金債務の残元金は金一四万六、四六五円になつた。(3)よつて、上告人らは請求の趣旨記載の判決を求める。というにある。
 上告人らの右請求に対し、原判決は、上告人Aにおいて本件貸金の元本債権に弁済したと主張する(イ)同三二年一二月の金八三万三、五三五円の支払について、その内金五〇万円のみが右元本債権に弁済されたが、その余の三三万三、五三五円は本件貸金債権の利息などに弁済されたにすぎず、かりに、(ロ)同三三年四月の金五万円、(ハ)同年一二月の金七万円の弁済が上告人ら主張のとおり本件貸金債権の元本債権に弁済されたとしても、本件貸金の残金元本債権が上告人Aにおいて自認する金一四万六、四五六円をこえることは明らかであり、しかも、上告人らが主張する債務引受の事実は認めがたい旨判示して、上告人らの本所請求を全部排斥していることが認められる。  しかし、本件請求の趣旨および請求の原因ならびに本件一件記録によると、上告人らが本件訴訟において本件貸金債務について不存在の確認を求めている申立の範囲(訴訟)は、上告人Aについては、その元金として残存することを自認する金一四万六、四六五円を本件貸代金債権金一一〇万から控除した残額九五万三、五三五円の債務額の不存在の確認であり、その余の上告人らにおいては、右残額金九五万三、五三五円の債務額について相続分に応じて分割われたそれぞれの債務額の不存在の確認であることが認られる。
 したがつて、原審としては、右の各請求の当否をきめるためには、単に、前記(イ)の弁済の主張事実の存否のみならず、(ロ)および(ハ)の弁済の各主張事実について審理をして本件申立の範囲(訴訟)である前記貸金残額の存否ないしその限度を明確に判断しなければならないのに、ただ単に、前記(イ)の弁済の主張事実が全部認められない以上、本件貸金の残債務として金一四万六、四六五円以上存在することが明らかである旨説示したのめで、前記(ロ)および(ハ)の弁済の主張事実について判断を加えることなく、残存額の不存在の限度を明確にしなかつたことは、上告人らの本件訴訟の申立の範囲(訴訟物)についての解釈をあやまり、ひいては審理不尽の違法をおかしたものというべく、論旨は、結局、理由あるに帰する(なお、債務者が利息制限法所定の制限こえる金銭貸借上の利息、損害を任意に支払つたときのは、右制限をこえる部分は、元本債権に充当されるものと解すべきことは、当裁判所大法廷判決昭和三九年一一月一八日(民集一八巻九号一八六八頁)の説示するところである。)
 よって、民訴法四〇七条に基づき原判決を破棄し、原審をして右の点についてさらに審理を尽くさせるため、本件を大阪高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 石田和外)



○ 最一小判昭和40.10.07 昭和40(オ)200 貸金請求(第19巻7号1723頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 将来発生する金銭債務を基礎とする準消費貸借。

要旨:
 将来金員を貸与する旨の契約が締結された場合には、その契約が履行される以前でも、その金員をもつて準消費貸借の目的とすることを約することができ、その後右金員が貸与されたとき、右準消費貸借契約は、当然に、効力を生ずる。
参照・法条:
  民法588条

内容:
 件名  貸金請求 (最高裁判所 昭和40(オ)200 第一小法廷・判決 棄却)
 原審  仙台高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人高橋万五郎の上告理由第一について。
 当事者間において将来金員を貸与することあるべき場合、これを準消費貸借の目的とすることを約しうるのであつて、その後該債務が生じたとき、その準消費貸借契約は当然に効力を発生するものと解すべきである。しかして、所論の準消費貸借は所論の金四万円の貸与前に締結されたものであるが、その後右金四万円の貸与のあつたことは、原判文上明らかである。それ故、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用に値しない。同第二について。本件当事者間において、昭和三三年二月二二日準消費貸借契約締結の際、所論の(イ)及び(ロ)の各貸金五万円に対する利息の合意が成立したことは原判文上明らかであり、かつその利率が利息制限法所定の制限をこえるものでなかつたことは、同法一条の規定に照らして明らかである。所論は、畢竟、原判決を正解しないでこれを非難するに帰する。原判決には何等所論の違法はなく、論旨は採用に値しない。
 同第三について。
 原審の認定したところによれば、昭和三四年二月二日本件当事者間において、既存債務を目的として、準消費貸借契約が成立したというのであつて、右認定は挙示の証拠によつて肯認しうるところである。しかして、準消費貸借は既存債務の存在を前提とするものであるから、既存債務が存在せず、または無効のときは、新債務はその有効に存したる範囲に減縮されるべきであるが、所論既存債務についての主張は単に右準消費貸借の成立過程に関するものであつて、この点に関し原判示のごとき認定をしても、何等所論の違法があるものとは認め難く、結局論旨は理由なきに帰し、採用しえない。
 同第四について。
 原審の事実認定は、挙示の証拠によつて肯認しうるところである。しかして、所論違憲の主張は原判決とかかわりない事項に関するものであるから、論旨は採用に値しない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠)




○ 最二小判昭和41.11.18 昭和40(オ)1340 登記抹消請求(第20巻9号1861頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
1 代物弁済予約上の権利は弁済による代位の目的となるか
2 第三取得者の取得後に弁済をする保証人と民法第五〇一条第一号所定の代位の附記登記の要否

要旨:
1 いわゆる代物弁済予約上の権利は、民法第五〇一条本文の「債権ノ担保トシテ債権者カ有セシ権利」にあたり、同条による代位の目的となる。
2 担保権の目的である不動産の第三取得者の取得後に当該債務の弁済をする保証人は、民法第五〇一条第一号所定の代位の附記登記をしなくても、右第三取得者に対して債権者に代位する。

参照・法条:
  民法501条

内容:
 件名  登記抹消請求 (最高裁判所 昭和40(オ)1340 第二小法廷・判決 棄却)
 原審  大阪高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人田口正平の上告理由第一点について。
 民法五〇一条本文によれば、弁済者が代位することを得る権利は、債権の効力および担保としてその債権者が有していた一切の権利であるが、いわゆる代物弁済予約による権利は、金銭消費貸借契約の当事者間において、債権者が、自己の債権の弁済を確保するため、債務者が期限に債務を履行しないときに債務の弁済に代えて特定物件の所有権を債権者に移転することを債務者と予約するものであつて、あたかも担保物件を設定したのと同一の機能を営むものであるから、この予約に基づく権利は、同条一号に列記する先取特権、不動産質権または抵当権と同じく、同条本文にいう債権者が債権の担保として有する権利であると解した原審の見解は相当である。原判決に所論法律の解釈を誤つた違法がなく、論旨は採用できない。
 同第二点について。
 民法五〇一条一号において、保証人が予め代位の附記登記をしなければ担保権につき目的不動産の第三取得者に対して債権者に代位しない旨を定めた所以は、目的不動産の第三取得者は、その取得に当り、既に債務の弁済をなした保証人が右代位権を行使するかどうかを確知することをえさせるためであると解すべきであるから、保証人の弁済後に目的不動産を取得しようとする第三取得者に対しては予め代位の附記登記をする必要があるが、第三取得者の取得後に弁済をする保証人は、右代位のためには同号による附記登記を要しないものというわなければならない。けだし、もし右場合にも代位の附記登記を要求するものとすれば、保証人は、未だ保証債務を履行する必要があるか否か明らかでないうちから、当該不動産につき第三取得者の生ずることを予想して予め代位の附記登記を経由しておく必要があることになるが、これは、保証人に対し難きを強いることになるからである。右と同趣旨の原判決は相当であつて、原判決に所論の法律の解釈を誤つた違法はない。論旨は採用できない。
 同第三点および第四点について。
 原判決は、被上告人A被相続人Bは判示債務の弁済により債権者被上告銀行に代位し、同銀行が訴外Cに対し有していた本件不動産に対する抵当権および代物弁済予約上の権利を取得し、右権利移転の附記登記手続をなした事実を確定している。被上告人A被相続人Bが被上告銀行の有していた抵当権および代物弁済予約上の権利を取得したのは、弁済による代位であつて、権利の譲渡によるものでないことは所論のとおりであるが、右権利移転の附記登記は、本件不動産の第三取得者に対し権利取得を対抗する効力があるものと解するのが相当である。而して、上告人より被上告人Aに対する本訴請求は、被上告人Aが判示抵当権および代物弁済予約上の権利を有しないとして右附記登記の抹消を求めるものであつて、被上告人A被相続人Bにおいて右代物弁済の予約を完結したことを前提とするものではないから、この点に関する原判決の違法をいう所論は、判決の傍論として説示するところを非難するものにすぎない。原判決に所論の違法がなく、論旨はすべて採用できない。よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)




○ 最二小判昭和43.02.16 昭和42(オ)687 貸金請求(第22巻2号217頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 準消費貸借契約における旧債務の存否に関する立証責任

要旨:
 準消費貸借契約において、旧債務の不存在を事由として右契約の効力を争う者は、旧債務の不存在の事実を立証する責任を負う。

参照・法条:
  民法588条

内容:
 件名  貸金請求 (最高裁判所 昭和42(オ)687 第二小法廷・判決 棄却)
 原審  S42.03.13 広島高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人中田義正の上告理由第一の一、二について。
 所論の点に関する原審の認定、判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして正当としてこれを肯認することができ、その判断の過程に所論のごとき違法はなく、論旨は理由がない。
 同第一の三について。
 準消費貸借契約は目的とされた旧債務が存在しない以上その効力を有しないものではあるが、右旧債務の存否については、準消費貸借契約の効力を主張する者が旧債務の存在について立証責任を負うものではなく、旧債務の不存在を事由に準消費貸借契約の効力を争う者においてその事実の立証責任を負うものと解するを相当とするところ、原審は証拠により訴外居藤と上告人間に従前の数口の貸金の残元金合計九八万円の返還債務を目的とする準消費貸借契約が締結された事実を認定しているのであるから、このような場合には右九八万円の旧貸金債務が存在しないことを事由として準消費貸借契約の効力を争う上告人がその事実を立証すべきものであり、これと同旨の原審の判断は正当であり、論旨は理由がない。
 同第一の四について。
 原審の確定した事実関係に照らせば、行政書士網本の介入した本件債権譲渡の承諾ならびに弁済方法に関する契約をもつて無効であると解すべき理由は見い出しがたいから、所論の点に関する原審の判断は正当であり、諭旨は理由がない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)




○ 最大判昭和43.07.17 昭和40(オ)959 貸金請求(第22巻7号1505頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 利息制限法所定の制限をこえる利息の定のある金銭消費貸借において遅延損害金について特約のない場合と遅延損害金の率

要旨:
 利息制限法所定の制限をこえる利息の定のある金銭消費貸借において遅延損害金について特約のない場合には、遅延損害金は、同法第一条第一項所定の利率にまで減縮される利息と同率に減縮されると解するのが相当である。

参照・法条:
  民法419条1項,利息制限法1条1項,同法4条1項

内容:
 件名  貸金請求 (最高裁判所 昭和40(オ)959 大法廷・判決 一部破棄自判一部棄却)
 原審  S40.06.09 福岡高等裁判所

主    文
  原判決中、上告人ら各自に対し、金五万六七五六円および内金四万二五〇〇円に対する昭和三四年五月一日より完済まで年一割八分の割合による金員、内金五〇〇〇円に対する昭和三四年五月一日より完済まで年二割の割合による金員、内金五〇〇〇円に対する昭和三四年二月一五日より完済まで年五分の割合による金員をこえて支払を命じた部分を破棄する。
     前項記載の破棄部分につき、被上告人の控訴を棄却する。
     原判決中、第一項掲記の金員の支払を命じた部分に関する上告人らの上告を棄却する。
     訴訟費用は、第一、二、三審を通じ、上告人らの負担とする。

理    由
 上告代理人藪下晴治の上告理由第一点について。
 訴外亡Aはその所有の熊本県八代郡a村b字c番の一宅地一二一坪一合八勺および同地上所在家屋番号同所d番木造瓦葺平家建居宅一棟建坪二七坪を被上告人に対し、代金四五万円で売り渡したことは、当事者間に争がないとして、原審の適法に確定した事実であり、右代金のうち三六万円をもつて、同訴外人は被上告人に対する本件とは別口の債務の弁済にあてた旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして、首肯できないものではない。また、この認定の過程において、採証法則の違法はない。したがつて、原判決には、所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 同第二点について。
 (一) 金銭債務の不履行による損害賠償の額は、これにつき別段の約定がある場合のほかは、法定利率(年五分、ただし、商事にあつては年六分)によつてこれを定めるのを本則とし、ただ、損害賠償の額について約定がないときでも、利息について約定があり、その利率が法定利率をこえる場合には、その約定利率によるものとすることは、民法四一九条一項の定めるところである。これを、さらに、利息制限法との関係を考慮しながら詳述すれば、消費貸借上の金銭債務の不履行による損害賠償の額は、
 (い)これについて別段の約定(損害賠償の額の予定)がある場合には、その額によるものとし、裁判所はこれを増減することをえないが(民法四二〇条一項)、その額が利息制限法四条一項の制限をこえるときは、右制限額にまで減縮される。
 (ろ) 損害賠償の額について約定がなく、利息の約定がある場合において、
 (イ) 約定利率が法定利率をこえるときは、約定利率により算定する(民法四一九条一項但書)。これは、利息の約定は損害賠償の額の約定ではないが、期限前には法定利率をこえる約定利率による利息を支払うべきものとされていた債務者が、期限後にはそれより低い法定利率の限度で損害金を支払う責に任ずるに過ぎないものとすることは、不履行の責のある債務者に寛大に過ぎ、債権者の保護に欠けるところがあるので、この場合には、損害金もまた利息と同率をもつて算定するのを相当とした趣旨であると解される。もつとも、利息の約定が利息制限法一条一項の制限をこえるときは、利息の額は右制限額にまで減縮されるから、損害金もおのずからそれと同額、すなわち減縮された利率によつて算定することとなるものと解するのが相当である。
 (ロ)約定利率が法定利率をこえないときは、法定利率により算定する(民法四一九条一項本文が適用される)。これは、利息の約定は、本来、損害賠償の額の約定ではないのであるから、利息の約定が法定利率以下である場合には損害賠償の額につき約定のない場合における本則に立ち帰り、法定利率によりその額を算定することとしたものと解される。
 (は) 損害賠償の額について約定がなく、利息の約定もない場合には、法定利率により算定する(民法四一九条一項本文)。
 (二) これを本件についてみるに、原判決は、上告人ら各自に対し、原判示一の(一)(イ)の貸金一七万円については、その四分の一である金四万二五〇〇円に対する昭和三四年五月一日より完済まで年三割六分の割合による遅延損害金、同一の(一)(ロ)の貸金二万円については、その四分の一である金五〇〇〇円に対する昭和三四年五月一日より完済まで年二割四分の割合による遅延損害金の支払を命じていることは、所論のとおりである。そして、本件記録に徴すれば、被上告人は、第一審以来、前示(イ)の一七万円の貸金債権については月三分五厘の利息の約定、前示(ロ)の二万円の貸金債権については月二分の利息の約定があつたことを主張するに止まり、不履行による損害賠償の額について約定があつたことをなんら主張していないのであるから、原審が前示利率による遅延損害金の支払を命じたのは、本件については民法四一九条一項但書の適用があるものとして、被上告人主張の利息に関する約定利率により損害金の支払を命じたものと解するのが相当である。もつとも、原審は、利息について約定があつたときは、それと同時に損害金についても同一内容の約定があつたものと認めるべきであるとの見解のもとに、前示のごとき判断を示したものと解する余地もないではないが、利息と損害金とは法律上の性質を異にすることに着眼し、利息の約定と損害金の約定とを区別して規定しているものと解される前示民法の諸規定、ことに四一九条一項但書の法意に照らせば、前示のごとき見解は、たやすくこれを採用することをえないものと考えられる。けだし、右のごとき見解を採用することができるとすれば、消費貸借上の金銭債務の不履行による損害賠償の額の問題は、利息について約定があるかぎり、結局、前示(い)(損害賠償の額について約定がある場合)に示した原則のみによつてまかなわれることとなり、民法四一九条一項但書がとくに設けられた理由は失われることになると思われるからである。そして、右のごとき見解を採用することができないものとすれば、原判決の前示判断の適否は、もつぱら民法四一九条一項但書の適用の適否によつて判定しなければならないこととなる。
 (三) ところで、民法四一九条一項但書の法意は、債権者は、期限前に利息として適法に支払を求めることができるのと同額のものを、期限後は損害金として支払を求めることができるというのであり、利息の額が利息制限法一条一項の制限額まで減縮される場合には、損害金の額も、おのずから、右のように減縮された限度に止まるべきものと解すべきことは前に説示したとおりである。したがつて、以上とは異なり、利息制限法一条一項の制限をこえる利息の約定も、損害金の額を算定するための基準としてこれを用いる場合には、それが損害賠償額の予定の制限に関する同法四条一項の制限をこえない限度においては有効であり、損害金はそれを基準として算定すべきであるというような解釈は、とうていこれを採用することをえない。
  これを本件についてみるに、利息制限法一条一項の規定に照らせば、原判示(イ)の一七万円の貸金債権について許容される利息の最高利率は年一割八分、(ロ)の二万円の貸金債権についてのそれは年二割であるから、右各債権に関する損害金も右限度をこえて請求することができないことが明らかである。したがつて、原判決が前示各債権につき上告人各自に対し遅延損害金の支払を命じた部分のうち、右限度をこえる部分は失当であり、所論は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
  しかし、原審が適法に確定した事実に法律を適用すれば、被上告人の本訴請求は、その余の部分については理由があるものと認められる。
 よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条、八九条、九六条、九二条、九三条に従い、裁判官奥野健一、同草鹿浅之介、同石田和外、同田中二郎、同大隅健一郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一の反対意見は、次のとおりである。
 民法四一九条一項本文は、金銭債務の不履行について、損害賠償の額は、法定利率によることを原則としながら、その但書として、約定利率が、法定利率をこえるときは、約定利率によるものと規定している。これは、金銭債務につき当事者が、法定利率をこえる約定利率を定めているときは、特別の定めのない限り、当事者の意思は、弁済期の前後を通じて、右約定利率による利息(対価)を授受する趣旨であると解するのが相当であるとの考に基づいたものと思われる。
 そして、右約定利率による利息(対価)の弁済期以後の部分は、不履行による損害賠償に該当する所謂遅延利息であり、しかも、その損害賠償の額は、当事者が予め定めた約定利率によるべきものと定められているのであるから、同条同項但書は、金銭債務について、不履行の場合の損害賠償の額を予定しているものに外ならない。
 それ故、金銭を目的とする消費貸借上の債務に対する弁済期以後の遅延利息については、利息制限法四条の賠償額予定に関する制限の範囲内において約定利率による損害金の請求をすることが許されるものと解すべきであつて、同法一条の適用を受けるべきものではないと解する。けだし、当事者の約定は、強行法規に反しない限り、出来るだけ、これを尊重することが、債権法の原則であつて、利息制限法の制限を超過する約定利率の定めのある場合には、少なくとも利息制限法において許される最高限度の範囲において、その約定利率による遅延利息を授受しようとするのが当事者の意思であると解すべきであるからである。
 したがつて、上告人らが各自被上告人に対し、金五万六七五六円および内金四万二五〇〇円に対する昭和三四年五月一日より完済まで年三割六分の割合による金員、内金五〇〇〇円に対する昭和三四年五月一日より完済まで年二割四分の割合による金員、内金五〇〇〇円に対する昭和三四年二月一五日より完済まで年五分の割合による金員の支払の責に任すべきものであるとした原判決は正当である。
 裁判官草鹿浅之介、同石田和外、同田中二郎は、裁判官奥野健一の右反対意見に同調する。
 裁判官大隅健一郎の反対意見は、次のとおりである。
 一、法律的にいえば、金銭債権における利息は元本利用の対価であるに対し、遅延損害金はその履行遅滞につき損害賠償として支払われる金銭であつて、両者が異なる性質のものであることはいうまでもない。しかしながら、一般取引の常識においては、このような区別を意識することなく、利息も遅延損害金もひとしく元本利用の対価と考えているのが普通である。このことは、遅延損害金がしばしば遅延利息とよばれている事実に徴しても、窺うにかたくない。したがつて、本件における被上告人請求の一七万円の貸金のように、当事者がその利息を年四割二分(月三分五厘)と約束した場合には、債務者は元本が完済されるまではずつと元本の利用に対して年四割二分の対価を支払うこと、法律的にいえば、弁済期までの利息を年四割二分の割合で支払うのみならず、弁済期に弁済をしなかつた場合の遅延損害金も同様に年四割二分の割合で支払うことを約したものと解するのが、当事者の意思からみても、一般取引の常識からいつても自然であるといわざるをえない。その意味で、金銭の貸借契約において「利息年四割二分」と定められている場合には、特段の事情がないかぎり、「利息および遅延損害金年四割二分」と定められているのと同様に解するのが相当である。多数意見によれば、前のような定めがある場合には、利息および遅延損害金ともに利息制限法一条の定めに従い年一割八分の率となるのに対し、後のような定めがある場合には、利息は同法一条により年一割八分、遅延損害金は同法四条一項によりその二倍の年三割六分の率になると解されるであろうが、このような見解は、前述したところからみて、あまりにも形式的な一般の常識に合わない解釈といわなければならない。
 二、民法四一九条一項は、金銭債務の不履行の場合における損害賠償、すなわち遅延損害金の額は、法定利率によるが、法定利率をこえる約定利率の定めがあるときは、その約定利率によるべきものと定めている。多数意見は、この規定からいつて、約定利率の定めがある場合にも、その利率が利息制限法一条所定の制限をこえているため同条により減縮されるときは、遅延損害金の額もその減給された利息の率によるのが当然であり、それをこえる遅延損害金の支払が認められるためには、民法四二〇条一項によりこれに関する明示の特約があることを要するとするのである。しかし、遅延損害金の約束が明示でなければならないと解すべき理由はなく、前述のとおり、利息の約定が同時に遅延損害金の約束をも含むものと解するのが当事者の意思に合すると認められる以上、右の民法の規定の解釈からいつても、本件の一七万円の債権におけるように、利息年四割二分とする旨の定めがある場合には、利息は利息制限法一条により年一割八分の限度においてその効力を有し、遅延損害金は同法四条一項により年三割六分の限度においてその効力を有するものと解するのが合理的であるといわなければならない。旧利息制限法は、遅延損害金の約束につき特別の制限を設けることなく、ただ裁判官の裁量により相当の減額をすることをうるものとする(旧利息制限法五条)と同時に、商事債権についてはこの規定の適用をも排除していた(商法施行法一一七条)のであるから、ここでは、明示の特約がないかぎり、約定遅延損害金の額も利息制限法の規定により減縮された利息の利率によるものとして、多数意見のように解せざるをえなかつたのであるが、現行利息制限法は民事債権および商事債権を通じて遅延損害金の額を一定の利率をもつて制限するたてまえをとつているのであるから、右の民法の規定についても、旧利息制限法のもとにおけるような解釈がそのまま妥当するものでないことを知らなければならない。多数意見はこの点につき無反省に従来の解釈を墨守するものとの批判を免れないであろう。
 なお、法定利率に満たない約定利率により金銭の貸借がなされている場合には、その弁済期の翌日以降の遅延損害金は、民法四一九条一項により、法定利率によつて算定されることになるわけであるが、このことは、前記のように利息について約定がなされているときは、特段の事情がないかぎり、利息および遅延損害金について同率の約定がなされているのと同様に解すべきであるとの見解と矛盾するものではない。けだし、法定利率に満たない約定利率による金銭の貸借がなされる場合には、通常、弁済期までにその弁済がなされることを予定し、履行遅滞による遅延損害金については特段の約定がなされていないものと解するのが相当であり、したがつて、民法四一九条一項が適用されて、遅延損害金は法定利率によつて算定されることとなるからである。元来、金銭の使用は、通常、法定利率に相当する額の利益を生むものであつて、弁済期に弁済を受けることができない債権者は、法定利率に相当する利息を支払つて、他から金銭を借り入れ、弁済期に支払を受けたと同様の目的を達することができるのである。同条項の趣旨とするところは、右のような点に着目し、利息について法定利率に満たない約定利率による金銭の貸借がなされているときでも、弁済期に弁済がされないときは、その不履行の事実を重視して、債権者が債務者に対して請求できる遅延損害金の利率を、とくに法定利率によらしめることとしたものにほかならない。それゆえ、法定利率に満たない約定利率による金銭の貸借がなされた場合につき右のように解しても、なんら矛盾するものではない。
 三、多数意見の根抵には、経済的弱者たる借主の保護の必要という考慮がつよく働いているものと認められる。もとより、借主の保護は十分考えられなければならないが、しかしあたかもその考慮に基づいて制定された利息制限法が、利息の約定につき同法一条の制限を付すると同時に、遅延損害金については同法四条一項の限度の約束を許している以上、その立法の範囲内においては、一般の法律行為におけると同様、当事者の合理的意思に即した解釈がなさるべきである。もしそのため借主にとつて多少不利益な結果を生ずるとしても、それは利息制限法自体の立法的欠陥に起因するものというほかない。加うるに、多数意見のような見解をとつてみても、債務者がいつたんその制限をこえた遅延損害金を支払うときは、もはやその返還を請求することをえないのみならず、貸金業者は当然に今後は利息のほか遅延損害金についても明示の特約をする手段に出るであろうことは見やすいところであつて、はたして借主の保護としてどれだけの効果があるか疑問といわざるをえない。むしろ、この際、利息制限法自体の立法政策的な欠陥を明らかにし、必要があればその改正を促す方途に出ることが、借主保護の目的を実現するためにも適当というべきではなかろうか。
 以上により、上告人らが各自被上告人に対し、金五万六七五六円および内金四万二五〇〇円に対する昭和三四年五月一日より完済まで年三割六分の割合による金員、内金五〇〇〇円に対する昭和三四年五月一日より完済まで年二割四分の割合による金員、内金五〇〇〇円に対する昭和三四年二月一五日より完済まで年五分の割合による金員の支払の責に任ずべさものであるとした原判決は正当であると考える。 (裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 色川幸太郎 裁判官 大隅健一郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美
 裁判官入江俊郎は、海外出張のため署名押印することができない。裁判長裁判官 横田正俊)




○ 最三小判昭和43.10.29 昭和42(オ)967 約束手形金請求(第22巻10号2257頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
1 任意に支払われた法定の制限をこえる利息・損害金と弁済充当の順位に関する特約がある場合の充当関係
2 法定の制限をこえて支払われた利息・損害金を残存元本等に充当するには債務者からその旨の抗弁が提出されることを要するか
3 法定の制限をこえる利息を支払つた連帯債務者は他の連帯債務者に対して制限超過の利息相当金を求償することができるか
4 利息について法定の制限をこえる約定があるが遅延損害金については約定のない貸金債権と民法第四一九条第一項但書および利息制限法第四条第一項の適用の有無

要旨:
1 債権者と債務者間に数口の貸金債権が存在し、弁済充当の順序について特約が存在する場合において、債務者が利息制限法所定の制限をこえる利息を支払つたときは、右超過部分に対する弁済は、右特約の趣旨に従つて次順位に充当されるべき債務で有効に存在するものに充当されるものと解すべきである。(反対意見がある)
2 裁判所は、利息制限法所定の制限をこえて任意に支払われた利息・損害金の存在することが弁論にあらわれ、これを確定した以上、当事者から右制限超過分を残存元本等に充当すべき旨の特別の申立ないし抗弁が提出されなくても、右弁済充当関係を判断することができる。
3 連帯債務者の一人が利息制限法所定の制限をこえる利息を支払つても、他の連帯債務者に対して右制限をこえる利息相当金を求償することはできない。
4 金銭を目的とする消費貸借上の利息について利息制限法第一条第一項の利率の制限をこえる約定があるが、遅延損害金の約定がない場合には、遅延損害金についても利息制限法第一条の制限額にまで減縮され、その限度で支払を求めうるにすぎない。(反対意見がある)

参照・法条:
  利息制限法1条,同法2条,同法4条,民法419条,民法442条,民法491条

内容:
 件名  約束手形金請求 (最高裁判所 昭和42(オ)967 第三小法廷・判決 棄却)
 原審  S42.04.27 札幌高等裁判所

主    文
    本件上告を棄却する。
    上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人板井一治名義の上告理由第一点について。
 金銭を目的とする消費貸借上の債務者が、利息制限法所定の制限をこえる利息、損害金を任意に支払つ たときは、右制限をこえる部分は強行法規である同法一条、四条の各一項によつて無効とされ、その部分 の債務は存在しないのであるから、その部分に対する支払は弁済の効力を生じないものである。したがつ て、本件のように数口の貸金債権が存在し、その弁済の充当の順序について当事者間に特約が存在する 場合においては、右債務の存在しない制限超過部分に対する充当の合意は無意味で、その部分の合意は 存在しないことになるから、右超過部分に対する弁済は、充当の特約の趣旨に従つて次順位に充当される べき債務であつて有効に存在するものに充当されることになるものと解すべきである。右のような場合にお ける充当の関係は、法律問題に属するから、これについて所論のように当事者から特別の申立ないし抗弁 が提出されることを要するものではないと解するのが相当である。
 本件において、原審は、当事者の主張に基づき、本件貸金債権を含む上告人の被上告人に対する三口の 貸金債権の約定利息の利率はすべて利息制限法所定の制限をこえていること、被上告人から上告人に対 する弁済金の支払はすべて任意になされたこと、上告人と被上告人との間には弁済の充当の順序について 原判示の特約が存在すること、を確定したのであるから、被上告人の特別な主張をまつまでもなく、被上告 人から支払われた弁済金については、右特約の趣旨に従つて、利息制限法所定の範囲内で、順次、利息、 遅延損害金の弁済に充当されたうえ、その余は当該債務の元本に充当されたものとした原判決の判断は正 当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第二点について。
 弁論主義のもとにおいては、請求の当否を決するために必要な主要事実は、当事者の弁論にあらわれな いかぎり、その事実を判決の基礎とすることは許されないけれども、当事者の弁論にあらわれた以上、その 陳述がいずれの当事者によつてなされたかを問わないし、その事実が確定されれば、これに対する法律効 果の判断は裁判所の職責に属するから、裁判所は、右事実を判決の基礎として斟酌することができるのであ る。
 本件についてこれをみると、所論本件貸金債権以外の三口の債権の存在および上告人と被上告人との間 の右債権についての弁済関係は上告人から主張されたものであるが、被上告人において本件貸金債権に 対する弁済として支払つた旨を主張した原判示(20)および(21)の弁済金合計三二〇万円については、当事 者間にこれを本件貸金債権の弁済に充当する旨の合意または当事者の一方からこれをどの債権の弁済に 充当するかについての指定がなされたことの立証がないとされたのであるから、原審が、上告人から主張さ れた別口の三個の債権の存否、弁済の充当に関する前示特約および被上告人の上告人に対する弁済金の 支払関係のすべてを斟酌し本件貸金請求の当否を決したのは正当であつて、その判断の過程に所論の違 法はない。論旨は独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。
 同第三点および上告人の上告理由について。
 記録を調べても、所論のように、上告人が原審において本件各債権につき損害賠償額の予定の特約の存 在を主張した形跡は認められない。論旨指摘の各準備書面の記載も右特約の存在を主張した趣旨に解する ことはできないし、所論のように、証拠上、右損害賠償額の予定の特約が存在することを窺わせるものが存 在したからといつて直ちにその旨の主張があつたとすることはできず、右主張が存在しない以上、原審が右 特約の存否について判断をしなかつたからといつて、所論判断遺脱の違法があるとはいえない。また、本件 訴訟の経過に照らせば、原審が右特約の有無について釈明しなかつたからといつて釈明義務に違背した違 法があるとはいえない。論旨はいずれも採用することができない。
 上告代理人板井一治名義の上告理由第四点について。
 金銭を目的とする消費貸借上の利息について利息制限法一条一項の利率の制限をこえる約定があるが、 債務の不履行による賠償額の予定については約定がない場合においては、利息の額は右条項所定の制限 額にまで減縮されるとともに、賠償額もおのずから右と同額にまで減縮され、その限度において支払を求めう るにとどまるものと解すべきことは、当裁判所昭和四〇年(オ)第九五九号、同四三年七月一七日大法廷判 決の示すとおりであつて、これと同旨に出た原審の判断は正当である。したがつて、原判決に所論の違法は なく、論旨は採用することができない。
 同第五点について。
 原判決の確定した事実関係のもとにおいては、上告人と被上告人とが連帯債務者となつて訴外上川産業 株式会社から借り受けた金六〇万円について、上告人が右六〇万円およびこれに対する日歩二〇銭の割 合による約定利息を弁済したときは、上告人は被上告人に対し右元本六〇万円およびこれに対する借受け の日から弁済の日までの日歩二〇銭の割合による利息の償還をする旨の約定は、実質的には、上告人の 責任で弁済することにより上告人と被上告人共同の免責をうべきものとされた借受元利金債務の存在を前 提とし、連帯債務者間の内部関係において上告人がその全額を負担する旨の負担部分に関する約定にす ぎないとする原審の判断は正当である。そして、金銭消費貸借上の利息の約定が利息制限法所定の制限 利率をこえるときは、その超過部分に関しては右約定は無効であるから、上告人らは連帯債務者として上川 産業に対しては右超過部分の利息債務を負担せず、したがつて、右超過部分に関しては被上告人には負 担部分たるべきものも存在しなかつたものといわなければならない。してみれば、上告人が上川産業に対し 前記利息制限法所定の制限を超過する利息金相当の金員を任意に支払つたからといつて、被上告人に対 して右制限をこえる部分に相当する金員の求償を請求することは許されない筋合であつて、これと同旨に出 た原判決の判断は正当である。なお、上告人の弁済にかかる利息制限法一条所定の利率の制限をこえる 部分の金員の支払が民法四四二条にいう「避クルコトヲ得サリシ費用其他ノ損害ノ賠償」にあたらないことは いうまでもない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官横田正俊の意見、同田中二郎の反対意見があ るほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 上告理由第一点に対する裁判官横田正俊の意見は、次のとおりである。
 金銭を目的とする消費貸借上の債務者が、利息制限法所定の制限をこえる利息、損害金を任意に支払つ たときは、その弁済は効力を生じ、債権者は右超過部分を適法に保有することができるものと解すべきであ るが(その理由については、当裁判所昭和三五年(オ)第一一五一号、同三九年一一月一八日大法廷判決 における私の反対意見を引用する。)、原審が確定した事実関係によれば、本件における利息、損害金の支 払は、債務者である被上告人と債権者である上告人との間の原判決認定のごとき特約に基づいてなされた というのであるから、被上告人が単に任意にしたものと認めるのは相当でない。そして、そのような場合に は、利息、損害金の約定は利息制限法超過部分については無効であり、したがつて、前示特約のうち弁済 金を右超過部分に充当する旨の部分も無効と解すべきであるから、右超過部分に対する本件弁済は、前示 特約の趣旨にしたがつて有効に存在する他の債務に順次充当されるものと解すべきであるとする多数意見 の結論に私も賛成である。また、上告理由第一点のその他の所論に対する多数意見もすべて正当であるか ら、私はこれに同調する。
 上告理由第四点に対する裁判官田中二郎の反対意見は、左のとおりである。
 多数意見は、「金銭を目的とする消費貸借上の利息について利息制限法一条一項の利率の制限をこえる 約定があるが、債務の不履行による賠償額の予定については約定がない場合においては、利息の額は右 条項所定の制限額にまで減縮されるとともに、賠償額もおのずから右と同額にまで減縮され、その限度にお いて支払を求めうるにとどまるものと解すべきことは、当裁判所昭和四〇年(オ)第九五九号、同四三年七月 一七日大法廷判決の示すとおりであつて、これと同旨に出た原審の判断は正当である」としている。
 しかし、私は、この多数意見には賛成することができない。その理由は、次のとおりである。
 民法四一九条一項は、「金銭ヲ目的トスル債務ノ不履行ニ付テハ其損害賠償ノ額ハ法定利率ニ依リテ之ヲ 定ム但約定利率カ法定利率ニ超ユルトキハ約定利率ニ依ル」旨を定めている。これは、当事者間の約定は、 利息制限法その他強行法規に反しないかぎり、できるだけ、これを尊重することが債権法の原則であるから である。
 ところで、当事者が利息の約定をする場合には、弁済期前の利息と弁済期後の不履行による損害賠償に 該当するいわゆる遅延利息とを区別して定めることもあるが、そのような区別をすることなく、約定利息を定 めることも少なくない。このように、弁済期の前後を区別することなく、利息制限法一条一項の利率の制限を 超える約定がされている場合に、直ちに、債務の不履行による賠償額の予定(遅延利息)については約定が ないと断定することには、少なからず疑問が感ぜられる。弁済期後の賠償額の予定について特に明示的に 約定がされていない場合であつても、当事者としては、利息制限法の許す範囲内で、その約定利率による遅 延利息を授受しようとする意思であつたと解するのが相当であり(貸主としてはもちろん、借主としても、それ をやむを得ないところとして承認しているものということができる。)、この当事者の意思を尊重することこそ、 さきに述べたように、債権法の原則に合するゆえんではないかと考える。すなわち、金銭を目的とする消費 貸借上の債務に対する弁済期後の遅延利息については、利息制限法四条の賠償額予定に関する制限の範 囲内において、約定利率による損害金の請求をすることが許されるものと解すべきである。
 よつて、上告理由第四点は、理由があり、原判決は、この点において破棄を免れないと考える。
 なお、さきに私が同調した右大法廷判決に対する奥野裁判官の反対意見参照。
(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)




○ 最大判昭和43.11.13 昭和41(オ)1281 債務不存在確認等請求(第22巻12号2526頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 債務者が利息制限法所定の制限をこえる利息・損害金を任意に支払つた場合における超過部分の充当による元本完済後の支払額の返還請求の許否

要旨:
 利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払つた債務者は、制限超過部分の充当により計算上元本が完済となつたときは、その後に債務の存在しないことを知らないで支払つた金額の返還を請求することができる。
参照・法条:
  利息制限法1条,同法4条,民法705条

内容:
 件名  債務不存在確認等請求 (最高裁判所 昭和41(オ)1281 大法廷・判決 棄却)
 原審  S41.09.09 東京高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人三輪長生の上告理由一および二について。
 債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は、民法四九一条により、残存元本に充当されるものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであり(昭和三五年(オ)第一一五一号、同三九年一一月一八日言渡大法廷判決、民集一八巻九号一八六八頁参照)、論旨引用の昭和三五年(オ)第一〇二三号、同三七年六月一三日言渡大法廷判決は右判例によつて変更されているのであつて、右判例と異なる見解に立つ論旨は採用することができない。
 同三について。
 思うに、利息制限法一条、四条の各二項は、債務者が同法所定の利率をこえて利息・損害金を任意に支払つたときは、その超過部分の返還を請求することができない旨規定するが、この規定は、金銭を目的とする消費貸借について元本債権の存在することを当然の前提とするものである。けだし、元本債権の存在しないところに利息・損害金の発生の余地がなく、したがつて、利息・損害金の超過支払ということもあり得ないからである。この故に、消費貸借上の元本債権が既に弁済によつて消滅した場合には、もはや利息・損害金の超過支払ということはありえない。
 したがつて、債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に利息・損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当すると、計算上元本が完済となつたとき、その後に支払われた金額は、債務が存在しないのにその弁済として支払われたものに外ならないから、この場合には、右利息制限法の法条の適用はなく、民法の規定するところにより、不当利得の返還を請求することができるものと解するのが相当である。
 今本件についてみるに、原判決の認定によれば、亡Aは上告人に対する消費貸借上の債務につき利息制限法所定の利率をこえて判示各金額の支払をなしたものであるが、その超過部分を元本の支払に充当計算すると、既に貸金債権は完済されているのに、Aは、その完済後、判示の金額を上告人に支払つたものであつて、しかも、その支払当時債務の存在しないことを知つていたと認められないというのであるから、上告人に対して完済後の支払額についてその返還を命じた原審の判断は、正当である。それ故、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官横田正俊、同入江俊郎、同城戸芳彦の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官横田正俊の反対意見は、次のとおりである。
 債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払つたときは、同法一条、四条の各二項により、債務者において制限超過部分の返還を請求することができないばかりでなく、右制限超過部分が残存元本に充当されるものでもないと解すべきである。その理由については、前掲昭和三五年(オ)第一一五一号、同三九年一一月一八日言渡大法廷判決(民集一八巻九号一八七六頁)における私の反対意見を引用する。
 しかるに、原判決の認定によれば、亡Aが上告人に対する債務について支払つた原判示の各金額は、天引された利息を除き、すべて損害金として任意に支払われたものと解されるのにかかわらず、原審は、右支払額中同法四条一項所定の制限をこえる部分を元本に充当計算し、その結果上告人の貸金債権は弁済により消滅したものと判断して、上告人のした代物弁済の予約完結による建物の所有権取得を無効とし、かつ、右充当計算による元本完済後の支払額の返還を上告人に命じているのであつて、原判決は同法四条二項の解釈適用を誤つたものというべきであり、所論は理由がある。よつて、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すのが相当である。
 裁判官入江俊郎、同城戸芳彦は、裁判官横田正俊の右反対意見に同調する。
(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠 裁判官 下村三郎 裁判官 色川幸太郎 裁判官 大隅健一郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)




○ 最二小判昭和43.11.15 昭和41(オ)1373 保証債務金請求(第22巻12号2649頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 共同保証人の一人に対する債務の免除は他の保証人に効果を及ぼすか

要旨:
 共同保証人の一人に対する債務の免除は、他の保証人に効果を及ぼさない。
参照・法条:
  民法437条,民法446条,民法458条

内容:
 件名  保証債務金請求 (最高裁判所 昭和41(オ)1373 第二小法廷・判決 棄却)
 原審  S41.09.14 福岡高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人徳永竹夫の上告理由第一点について。
 所論の点に関する原審の認定は、挙示の証拠により、これを是認することができる。所論の実質は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採用することができない。
 同第二点について。
 原審の確定するところによれば、訴外A(主債務者)は昭和三四年三月訴外B(債権者)との間で原判示の準消費貸借契約を締結し、上告人および訴外Cは右準消費貸借上の債務につき連帯して保証する旨約したというのであり、記録によれば、上告人は、連帯保証人の一人である訴外Cがその後において訴外Bから前記保証債務の免除を受けるにいたつた旨抗弁していることが明らかである。しかしながら、複数の連帯保証人が存する場合であつても、右の保証人が連帯して保証債務を負担する旨特約した場合(いわゆる保証連帯の場合)、または商法五一一条二項に該当する場合でなければ、各保証人間に連帯債務ないしこれに準ずる法律関係は生じないと解するのが相当であるから、連帯保証人の一人に対し債務の免除がなされても、それは他の連帯保証人に効果を及ぼすものではないと解するのが相当である。右によれば、原審が、前記確定した事実関係のもとにおいては、訴外Cに対する債務の免除がなされたとしても、それは上告人に対し効果を及ぼすものではないとし民法四三七条の準用を否定したのは、結論において正当であるから、所論は採用することができない。
 よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官奥野健一の反対意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一の反対意見は、次のとおりである。
 上告代理人徳永竹夫の上告理由第二点について。
 主たる債務者と連帯して数人が保証債務を負担した場合には、各保証人は主たる債務者を通じて、債権者に対して各自全部義務を負担し、各保証人間には連帯債務関係に準ずる法律関係を生ずるものと解するのが相当である(大審院大正六年(オ)第七四号、大正六年三月六日言渡判決、録二三輯四七三頁参照)。このことは、共同保証人間の求償権を定めた民法四六五条一項「……各保証人カ全額ヲ弁済スヘキ特約」という特約には各共同保証人間に連帯の特約ある場合の外に、各共同保証人が主たる債務者と連帯して弁済すべき特約ある場合をも含むものと解すべきところ、この場合に一人の保証人が全額其の他自己の負担部分を超える額を弁済したときの他の共同保証人に対する求償権につき連帯債務者の求償権に関する規定を準用していることは各連帯保証人の相互の関係が連帯債務関係に準ずるものと解したが故であり、また同条二項が「前項ノ場合ニ非スシテ互ニ連帯セサル保証人……」と規定して、前項すなわち同条一項の場合は共同保証人間の関係が、連帯債務関係であることを前提としているものと解すべきであることよりも推知し得るところである。
 そして各連帯保証人の負担部分については、別段の定のない限り、平等であると解すべきであるから(大審院大正八年(オ)第八八七号、大正八年一一月一三日言渡判決、録二五輯二〇〇五頁参照)、連帯債務に関する民法四三七条を準用し、連帯保証人の一人に対して為した債務の免除は、その保証人の負担部分についてのみ他の保証人の利益のためにも、その効力を生ずるものと云うべきである。
 然るに、原判決が「控訴人は、Bにおいて連帯保証人の一人であるCに対しその連帯保証債務を免除しているから、控訴人は金九〇万円の二分の一すなわち金四五万円についてのみ支払義務あるにすぎない旨抗弁する。しかしながら、控訴人は、主債務者であるAの前記債務につき連帯保証をなしたものであるが、連帯保証人については負担部分なるものは存しないのであるから、これを前提とする民法第四三七条の規定は準用の余地がなく、控訴人の前記抗弁は理由がない。」と判断したことは、前示の法理に照し是認し難いところであり、原判決は破棄を免れず、本件を原裁判所に差戻すべきである。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)




○ 最三小判昭和44.11.25 昭和44(オ)280 過払金返還請求(第23巻11号2137頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を元本とともに任意に支払つた場合と右制限に従つた元利合計額をこえる支払額に対する不当利得返還請求の許否

要旨:
 債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を元本とともに任意に支払つた場合においては、その支払にあたり充当に関して特段の意思表示がないかぎり、右制限に従つた元利合計額をこえる支払額は、債務者において、不当利得として、その返還を請求することができると解すべきである。
参照・法条:
  利息制限法1条,利息制限法4条,民法705条

内容:
 件名  過払金返還請求 (最高裁判所 昭和44(オ)280 第三小法廷・判決 破棄差戻)
 原審  S43.10.16 仙台高等裁判所

主    文
  原判決中上告人の敗訴部分を破棄し、右部分につき本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理    由
 上告代理人阿部一雄の上告理由第二点について。
 債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は、民法四九一条により、残存元本に充当されるものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであり(昭和三五年(オ)第一一五一号、同三九年一一月一八日言渡大法廷判決、民集一八巻九号一八六八頁参照)、また、債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に利息・損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当すると、計算上元本が完済となつたとき、その後に支払われた金額は、債務が存在しないのにその弁済として支払われたものに外ならず、不当利得としてその返還を請求しうるものと解すべきことも当裁判所の判例の示すところである(昭和四一年(オ)第一二八一号、同四三年一一月一三日言渡大法廷判決、民集二二巻一二号二五二六頁参照)。そして、この理は、債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を、元本とともに任意に支払つた場合においても、異なるものとはいえないから、その支払にあたり、充当に関して特段の指定がされないかぎり、利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金はこれを元本に充当し、なお残額のある場合は、元本に対する支払金をもつてこれに充当すべく、債務者の支払つた金額のうちその余の部分は、計算上元利合計額が完済された後にされた支払として、債務者において、民法の規定するところにより、不当利得の返還を請求することができるものと解するのが相当である。けだし、そのように解しなければ、利息制限法所定の制限をこえる利息・損害金を順次弁済した債務者と、かかる利息・損害金を元本とともに弁済した債務者との間にいわれのない不均衡を生じ、利息制限法一条および四条の各二項の規定の解釈について、その統一を欠くにいたるからである。
 ところで、本件において、原審の確定するところによれば、上告人は、被上告人らの先代から三〇万円を利息および弁済期後の遅延損害金とも月五分の約で借り受け、右貸付日から弁済日までの一四か月二二日間の月五分の割合による利息・損害金を含め合計五五五、〇〇〇円を任意に被上告人ら先代に支払つたというのであるから、他に特段の事情のないかぎり、元本三〇万円およびこれに対する右期間に相当する利息制限法所定の利率による利息・損害金をこえる部分について、上告人は被上告人らに対し、不当利得の返還を請求しうるものというべきである。
 そうであれば、これと異なる見解のもとに、右制限超過部分について、上告人の本訴請求を排斥した原判決は、右法令の解釈適用を誤つたものというべきであり、この誤りは原判決の結論に影響すること明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は、右部分にかぎり破棄を免れない。そして、本件は、右部分について、さらに審理する必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。  よつて、民訴法四〇七条を適用して、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)




○ 最三小判昭和45.04.21 昭和44(オ)269 所有権移転登記手続等請求(第24巻4号298頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 年数回の組入れを約する重利の予約と利息制限法

要旨:
 年数回の利息の組入れを約する重利の予約は、毎期における組入れ利息とこれに対する利息との合算額が、本来の元本額に対する関係において、一年につき利息制限法所定の制限利率により計算した額をこえない限度においてのみ有効である。
参照・法条:
  民法405条,利息制限法1条

内容:
 件名  所有権移転登記手続等請求 (最高裁判所 昭和44(オ)269 第三小法廷・判決 棄却)
 原審  S43.12.17 東京高等裁判所

主    文
  本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人谷村唯一郎、同塚本重頼、同吉永多賀誠、同菅沼隆志の上告理由第一点について。
 消費貸借契約の当事者間で、利息について定められた弁済期にその支払がない場合に延滞利息を当然に元本に組み入れ、これに利息を生じさせる約定(いわゆる重利の予約)は、有効であつて、その弁済期として一年未満の期限が定められ、年数回の組入れがなされる場合にもそのこと自体によりその効力を否定しうべき根拠はない。しかし、その利率は、一般に利息制限法所定の制限をこえることをえないとともに、いわゆる法定重利につき民法四〇五条が一年分の利息の延滞と催告をもつて利息組入れの要件としていることと、利息制限法が年利率をもつて貸主の取得しうべき利息の最高額を制限していることにかんがみれば、金銭消費貸借において、年数回にわたる組入れをなすべき重利の予約がなされた場合においては、毎期における組入れ利息とこれに対する利息との合算額が本来の元本額に対する関係において、一年につき同法所定の制限利率をもつて計算した額の範囲内にあるときにかぎり、その効力を認めることができ、その合算額が右の限度をこえるときは、そのこえる部分については効力を有しないものと解するのが相当である。
 本件についてこれをみると、原審の確定するところによれば、被上告人は、上告人との間で、昭和三一年八月一日付契約書により譲渡担保の被担保債権合計二一四〇万円(原判示元本一二〇〇万円、七〇〇万円、二四〇万円の各債権)の元利金の支払のため、上告人を受取人とする約束手形を振り出し、二箇月ごとの手形の満期日に利息を支払つて手形を切り替えて行くことにしたが、その後、右利息の支払期(手形の満期日)にその支払がないときは、当然に延滞利息を元本に組み入れる旨の契約(重利の予約)が成立するとともに、後には、その被担保債権に原判示の元本二五万円および五〇万円の各債権が加えられ、右同様の約定がなされたものであるところ、右被担保債権のうち、論旨指摘の四口の債権(前記債権のうち二四〇万円の債権を除くもの)の利率は、昭和三二年九月二〇日までは日歩三銭ないし四銭の約定であつたが、同日、翌二一日以降は日歩五銭に、また、同年一一月二〇日には、同月三〇日以降は日歩八銭に順次改定された、というのである。してみれば、右利息の約定は、各債権につき利息制限法による制限利率をこえる限度では無効であるから、昭和三二年九月二〇日にその利率が日歩五銭(年利一割八分二厘強)に改定されて後は、上告人は右制限利率の範囲内においてのみ利息の支払を求めうるのであるが、そればかりでなく、右利率改定の結果、重利の約定に従つて二箇月ごとの利息の組入れをするときは、ただちに、その組入れ利息とこれに対する利息の合算額が組入れ前の元本額に対する関係において、一年につき同法所定の制限利率をこえる状態に達したことになり、上告人は、右改定後は延滞利息を重利の約定に従つて元本に組み入れる余地を失つたものというべきである。それゆえ、これと同旨に出て、同三二年九月二一日以降利息の元本組入れの効果を認めなかつた原判決には、なんら所論の違法はない。
 つぎに、原審の確定するところによれば、本件においては、弁済期到来後に生ずべき遅延損害金については特別に重利の約束がなされた事実は認められないというのであり、その事実認定は本件記録中の証拠関係に照らして是認するに足りるし、また、利息の支払期を定めてこれについてなされた重利の約束が、当然に遅延損害金についても及ぶとする根拠がない旨の原審の判断もまた正当であるから、遅延損害金については単利計算によるべきものとした原判決に所論の違法はない。論旨引用の大審院判決(昭和一七年二月四日言渡、民集二一巻一〇七頁)は、無利息の貸金債権について生じた遅延損害金に対しても民法四〇五条の適用があることを判示したものにすぎず、本件に適切でない。
 なお、所論は、原判決が昭和三三年五月三一日をもつて最終弁済期と判示したことが違法であるというが、本件被担保債権のうち前掲各債権を含む前記五口合計二二一五万円の債権の弁済期は、当初昭和三二年七月三一日と定められていたところ、その後、同三二年一一月末日までに、さらに同三三年五月三一日までに順次延期されたことは、原審の適法に確定したところであり、その期限がさらに延期されたことは原審において上告人の主張しないところである。そして、原判決のいう最終弁済期の表現が右の趣旨において用いられたものであることは、その判文に照らして明らかであるから、原判決に所論の違法はない。論旨は、すべて採用することができない。
 同第二点について。
 原判決中、所論判示部分は、昭和三三年一二月一日に本件当事者間に成立した原判示の御願書による合意に至るまでの経緯を説明するため、当時本件当事者間に係属していた所論仮処分異議事件の経過を判示したものにすぎず、被上告人が同事件の口頭弁論期日が同年一二月二日に指定される事態になつたことから、上告人に対し和解の申入れをしたとの趣旨を判示したものでないことは、その判文を通読して明らかであるし、また、原判決は、その挙示する証拠として所論乙第一号証をも挙げており、他の証拠とともにこれを斟酌したうえ上告人の主張を排斥したものであることは、その判文に照らして明らかである。のみならず、同号証の記載をもつてしても、いまだ必ずしも、被上告人が本件物件を代物弁済に供することによりその被担保債権を消滅させる意思で上告人に和解の申入れをし、かつ、当事者間に代物弁済契約が成立した旨認定しなければならないものではない。したがつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を争うものにすぎず、採用することができない。
 同第三点について。
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決の挙示する証拠関係に照らして是認するに足り、その判断の過程にも所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第四点について。
 所論の点に関する原審の認定判断は、論旨の挙げる事情を考慮してもなお正当として是認するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第五点について。
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決の挙示する証拠関係に照らして是認するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を争うものにすぎず、採用することができない。
 同第六点について。
 原判決は、論旨引用の証人Aの証言、上告人本人尋問の結果中、原審の認定に反し、上告人の原審における主張にそう部分はこれを採用しないものとして排斥していることが明らかであり、また、論旨引用の被上告人本人尋問の結果をもつてしては、いまだ原審の事実認定を左右するに足りるものとは認められない。論旨は、ひつきよう、原審の裁量に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用するに足りない。
 同第七点について。
 原判決にいう御願書成立の経緯の趣旨が、原判決二〇枚目表第八行から同二五枚目表第一〇行までに認定された事情、ことに、被上告人が、上告人により譲渡担保権の実行として本件物件が処分されて終局的にその所有権を喪失するに至ることをおそれるとともに、その処分にあたつて、上告人から、処分代金をもつて被担保債権の弁済に充当した剰余金の支払を受けえられるかどうかに不安をもつていたこと、そのようなことから、被上告人は、本件物件の所有名義を上告人に移転したのは上告人のために譲渡担保を設定したことによるものではないとして、右処分を妨げるため処分禁止の仮処分を申請してその旨の決定を得、また、上告人を相手方として債務協定の調停を申し立てたが、右仮処分は前示異議事件の審理経過等からして理由のないものとして取消を免れないものと考えた結果、その不安は一層切実なものとなつたこと、原判示の和解の申入れは、このような事情のもとで、被上告人が右の不安の解消を図るために上告人に懇願した結果行なわれたものであることなど、被上告人が和解の申入れをするに至つた事情、動機ならびに右和解の交渉において当事者間で眼目とされた事項として原判決が認定したところを指すものであることは、その判文によつて明らかであり、また、「本件のような当事者間にあつては」という判示が、従来、譲渡担保権者とその設定者の関係にあり、前示のような事情にあつた当事者間においてあらためて代物弁済の合意をするのであるならば、という程の趣旨であることは、原判文によつて容易に了解できるところである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用するに足りない。
 同第八点について。
 原判決の確定するところによれば、昭和三一年八月、被上告人から上告人に本件物件の所有権が移転された趣旨は、当時被上告人が上告人に対し負担するに至つた既存債務を含めて合計二一四〇万円(のちに七五万円が加えられて二二一五万円となつた。)の債務の譲渡担保契約の履行としてなされたものであるが、その内容は、昭和三二年七月三一日の弁済期(のちに弁済期が同三三年五月三一日まで延長されたことはさきに説示したとおりである。)までは、被上告人において右物件を三五〇〇万円以上に一括処分して債務の弁済に充てることができ、右弁済期後は上告人において被上告人の承諾なく自由に第三者に売却できるが、その処分価額が債務額をこえるときはその超過部分はこれを被上告人に交付するというものであつたというのであり、右はとりもなおさず、いわゆる処分清算型の譲渡担保契約であつて、上告人において右物件を処分したときは、上告人はその売却代金とこれをもつてその弁済に充当されるべき被担保債権との差額を被上告人に返還すべき清算義務を負担していたものにほかならないが、原判決は、その判示するような経過で同三三年一二月一日に成立した御願書による合意によつては、右従前の譲渡担保の法律関係が消滅したものとは認められず、右合意の趣旨は、被担保債権の額をあらためて四二〇〇万円と確定したうえ、被上告人に対して、同月二四日までは二回に分割して右金額を弁済することにより本件物件を取り戻す権限と本件物件を一定額以上の代金をもつて処分することにより右金額を弁済する権限を認めるとともに、第一回の支払期限である同月一九日の経過後は上告人において自由に処分でき、その処分代金の中から前記四二〇〇万円を差し引いた額を被上告人に交付する旨の合意が成立したものとしたのであつて、原審の右認定判断は、原判決の確定した事実関係のもとにおいては、正当として是認しうるものである。そして、所論乙第一号証の解釈について異論をいう所論が、結局、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を争うものにすぎないことは、すでに論旨第二点について説示したとおりであり、御願書第一項の文言の解釈について原審の判示が所論のように的はずれのものであるとは解しがたい。また、御願書第四項の文言については、原判決が判示するように被上告人の取得額、ひいて上告人による処分価額の目標を定めたため、「御配慮願上げます」との文言が用いられたと解しうるのであつて、所論のように、上告人が三〇〇〇万円に近い金額を被上告人に贈るよう配慮すべきことを定めたものと解さなければならないものではない。したがつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決の判断を非難するものであつて、採用するに足りない。
 同第九点について。
 御願書により被担保債権として確定された四二〇〇万円の金額は上告人の手による売却処分の結果による清算をなるべく昭和三三年一二月中に終るようにする旨の本件当事者双方の了解のもとに定められた旨の原審の事実認定が是認できることは、すでに論旨第五点に対し説示したとおりであり、かかる了解のもとで、御願書による合意が実行される限度では、右四二〇〇万円につきあらためて利息、損害金を約定したり、支払確保のための手形の授受を行なうことは必要でないものとされた旨の原審の事実認定もまた正当であり、乙第一号証について述べるところは、論旨第二点に対して説示したとおりである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第一〇点について。
 所論引用の各供述証拠中、原審の認定にそわない部分は、原審がこれを採用しなかつたものと解すべきであることは、論旨第六点に対し、また、原審が所論乙第一号証の記載をも斟酌したうえその事実認定をしたものであることは、論旨第二点に対し、それぞれすでに説示したとおりであり、原判決に所論の違法はない。論旨は、排斥を免れない。
 同第一一点について。
 昭和三三年一二月一日に本件当事者間に成立した御願書による合意によつて従来存続していた清算型譲渡担保の法律関係が消滅したものではない旨の原審の認定判断および御願書第三項、第四項により上告人が本件物件を売却した場合に、上告人から被上告人に対する三〇〇〇万円前後の金員の交付はなるべく昭和三三年一二月中に行なう旨の了解が双方の間になされていた旨の原審の事実認定がそれぞれ是認できることは、すでに、論旨第八点および第五点に対して説示したところであるが、かような事実のほか原審認定の事実関係にかんがみれば、御願書による合意は、原審認定のように、同年一二月中ならば、上告人の交付すべき金員も三〇〇〇万円前後になる見とおしであつたところから、同月中に清算されることが前提となつて定められたもので、被上告人がその約旨に従い同月二四日までに総額四二〇〇万円を弁済するときは他に御願書による合意成立の日から弁済までの損害金を付加することがなくても本件物件の返還を受けることができることを定めた趣旨であつて、それ以上に、同日の経過により上告人がその所有権を確定的に取得して、被上告人の上告人に対する右金員の支払義務が消滅し、上告人は被上告人に対し御願書第四項記載の三〇〇〇万円前後の金員を被上告人に交付する義務のみが残り、被上告人がその被担保債権を弁済することによつて本件物件の回復を図ることが不可能となるというような状態になる趣旨のものではない、と解するのが相当であり、特段の事情のないかぎり、被上告人としては、前記四二〇〇万円の弁済期限の経過後であつても、右金額とこれに対する相当の損害金(その計算関係および金額は原審が判示するとおりである。)とを上告人に弁済するときは、その被担保債権の消滅を理由に本件物件の返還を請求することができ、他面、上告人としても、同年一二月の経過後に本件物件を処分するに至つたときは、右四二〇〇万円にこれに対する相当の損害金を加えた金額を被担保債権額としてその売却代金額から控除し、その差額を被上告人に交付することを要し、またこれをもつて足りる趣旨のものと解するのが相当である。所論乙第三号証の記載および上告人が同号証による被上告人の申出を承諾しなかつたことはなんら右の判断を妨げるものではない。してみれば、これと同旨に出た原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第一二点について。
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決の挙示する証拠関係(原判決の確定した事実関係を含む。)に照らして是認するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官田中二郎の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 上告理由第一点に対する裁判官田中二郎の意見は、つぎのとおりである。
 私も上告理由第一点が採用できないとする点においては多数意見と結論を異にするものではないが、その理由を異にするので、つぎに述べる。
 原判決は、本件譲渡担保契約の被担保債権のうち、元本二四〇万円、一二〇〇万円、七〇〇万円、二五万円および五〇万円の各債権については、それぞれ利息の約定(その利率は二四〇万円の債権については当初から日歩一〇銭であり、その他の各債権については昭和三三年五月三一日の弁済期当時は日歩八銭であつた。)があつたことを確定しながら、右弁済期当時、その弁済期後の遅延損害金について予め特別の予定がなされたことを認めるに足りる証拠はないとし、右弁済期の翌日から生ずべき遅延損害金は、他に特別の事情のないかぎり、右約定利率を利息制限法一条により修正した利率によるべきであつたことになるとしている。右の説示は、昭和四三年七月一七日大法廷判決(民集二二巻七号一五〇五頁)における多数意見と同一であるが、私は、金銭を目的とする消費貸借上の債務に対する弁済期後の遅延利息については、弁済期後の賠償額の予定について特に明示的に約定がされていない場合であつても、当事者としては、利息制限法の許す範囲内でその約定利率による遅延利息を授受しようとする意思であつたと解すべきであり、したがつて、同法四条の制限の範囲内において約定利率による損害金の請求をすることが許されるものと解する。その詳細は、右大法廷判決に際し私が同調した奥野裁判官の反対意見および昭和四三年一〇月二九日第三小法廷判決(民集二二巻一〇号二二五七頁)の私の反対意見のとおりであるから、これを引用する。それゆえ、私の見解によれば、上告人は、同法四条の規定に従つて、二四〇万円、一二〇〇万円および七〇〇万円の各債権については年三割の、また、その他の前記各債権については年三割六分の損害金の請求をすることができることとなる。ところで、原判決は、さらに、右各債権の約定利息については、重利の約束がされたことを確定しながら、その遅延損害金については重利の約束がされたことを認めるに足りる証拠はなく、また、利息に関する重利の約束が当然に遅延損害金についても及ぶ根拠がないとし、その損害金は単利計算によるべきものとしている。しかし、当事者間に約定利息について重利の約束がされた場合においては、右に損害賠償の予定に関し述べたと同じ趣旨において、弁済期後に生ずべき遅延損害金につき特に明示的に重利の約束がされていなくても、それを排除する明示または黙示の合意が認められるなど特段の事情がないかぎり、当事者には遅延損害金についてもその約束をする意思があつたものと認めるのが相当であると考える。  このような観点に立つときは、前記各債権の遅延損害金の割合について利息制限法四条の適用を排除し、また、その損害金について特段の事情を示すことなく重利の約束の存在を否定した原判決の認定判断には、法令解釈の誤り、理由不備の違法があるものといわなければならない。
 しかし、他方、本件のような二箇月ごとの期限を付した利息の組入れ契約については、利息制限法および民法四〇五条の法意に従つた制限があるものとする多数意見の見解には私も賛成であつて、これを遅延損害金についての重利の約束に適用すれば、本件における遅延損害金の割合は、前示のように、いずれも利息制限法四条所定の率をこえ、その制限の範囲内において支払を求めることが許されるにすぎない状態にあつたのであるから、私の見解に従つても、上告人が遅延損害金について重利の約束の効果を主張する余地はなかつたというべきである。そればかりでなく、原判決は、本件当事者間においては、原判示の御願書による合意が成立した際、右合意によつて定められた四二〇〇万円の金額についての早期決済がされなかつた場合には、従前の前記被担保債権についてその弁済期後の遅延損害金の率を前記約定利率と同一の率に定める暗黙の合意が成立したものと認定したうえ、同法四条の制限に従つた利率により遅延損害金を算定しているのであるから、前記違法は、原判決の結論に影響を及ぼさなかつたことが明らかである。
 なお、その他の所論に対する多数意見は正当と考えるから、私もこれに同調する。
(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美)




○ 最三小判昭和46.03.16 昭和45(オ)617 求償金請求(第25巻2号173頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 債権者に対する関係では主債務者であるが内部関係においては実質上の連帯保証人にすぎない者に対する他の連帯保証人の求償権

要旨:
 甲が債権者に対する関係では主債務者であるが、内部関係においては実質上の主債務者乙の連帯保証人にすぎない場合において、連帯保証人丙が債権者に対し自己の負担部分をこえる額を弁済したときは、丙は、甲に対し丙の負担部分をこえる部分についてのみ甲の負担部分の範囲内で求償権を行使することができる。
参照・法条:
  民法465条1項,民法442条

内容:
 件名  求償金請求 (最高裁判所 昭和45(オ)617 第三小法廷・判決 破棄差戻)
 原審  S45.02.23 福岡高等裁判所

主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理    由
 上告代理人栗原賢太郎の上告理由について。
 本件記録によれば、上告人は、訴外Aが実質上の債務者であり、上告人は保証人たる地位以上のものではない旨、そしてこのことは被上告人も十分了知していたものであるから、上告人としては負担部分二分の一の限度でしか求償に応ずる義務はない旨主張していたことが明らかである。ところが、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)は、この主張について、Aが実質上の主債務者ともみられるが、被上告人は連帯保証人であつたのであるから、上告人の分別の利益の主張は理由がない旨判示して、右主張を排斥したうえ、被上告人が弁済して免責を得た債務全額を含む金額につき上告人に求償義務があると判断しているのである(なお、原判決の事実摘示には、上告人が分別の利益を主張したように記載されているが、本件記録上、かかる主張をした形跡は認められない。)。
 しかしながら、分別の利益は、数人の共同保証人がある場合に、保証人の債権者に対する関係における問題であつて、保証人と債務者、ないしは保証人相互の内部関係については、なんらかかわりのない問題である。そして、債権者との消費貸借契約の際には、主債務者として契約を締結しているため、債権者に対する関係では、主債務者であることを否定しえない者であつても、内部関係においては、実質上の主債務者でない場合には、実質上の主債務者ないし連帯保証人から求償権を行使されても、当然に、これに応ずべき義務を負うものではない(最高裁判所昭和四〇年(オ)第九八六号同四一年一月二八日第二小法廷判決、裁判集民事八二号一九七頁参照)。すなわち、保証人と債務者、ないし保証人相互間の求償権の有無および範囲は、内部の実質的な法律関係に従つて定められるべきものである。
 そして、本件においては、債権者である訴外株式会社西日本相互銀行に対する関係についてはともかく、A、被上告人および上告人の内部関係では、実質上の主債務者がAであり、上告人が実質上の連帯保証人にすぎないとすれば、連帯保証人である被上告人が、債務の全額を弁済した場合においても、被上告人は、民法四六五条一項の規定により、自己の負担部分(特約がなければ平等の負担部分)をこえる部分についてのみ、同法四四二条の規定の準用によつて上告人に対し求償権を行使しうるにとどまることが明らかである(大審院大正八年(オ)第八八七号同年一一月一三日判決、民録二五輯二〇〇五頁、同昭和六年(オ)第一一一三号同年一二月二三日判決参照)。
 それゆえ、被上告人が連帯保証人であつたと認定するのみで、ただちに上告人の前記主張を排斥して被上告人の主張する金員全額につき上告人に求償義務がある旨判示した原判決の判断には、法令の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならず、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、論旨は理由がある。
 したがつて、原判決は破棄を免れないが、上告人が実質上は主債務者であるか否か、連帯保証人であるか否か、後者であるとすれば、被上告人との間に負担部分についての特約があるか否か等につき、さらに審理を尽くさせる必要があるので、本件を原審に差し戻すのを相当とする。
 よつて、民訴法四〇七条一項の規定に従い、裁判官の全員の一致により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)




○ 最一小判昭和55.01.24 昭和53(オ)1129 不当利益金返還(第34巻1号61頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 商行為である金銭消費貸借に関し利息制限法所定の制限を超えて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求権の消滅時効期間

要旨:
 商行為である金銭消費貸借に関し利息制限法所定の制限を超えて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求権の消滅時効期間は、一〇年と解すべきである。
参照・法条:
  民法167条,民法703条,商法522条,利息制限法1条,利息制限法4条

内容:
 件名  不当利益金返還 (最高裁判所 昭和53(オ)1129 第一小法廷・判決 棄却)
 原審  S53.06.19 東京高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人鈴木光春、同井口寛二の上告理由一ないし三について
 債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に金銭消費貸借上の利息・損害金の支払いを継続し、その制限超過部分を元本に充当すると、計算上元本が完済となつたとき、その後に支払われた金額は、債務が存在しないのにその弁済として支払われたものにほかならず、債務者において不当利得としてその返還を請求しうるものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和四一年(オ)第一二八一号同四三年一一月一三日大法廷判決・民集二二巻一二号二五二六頁)、また、債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を元本とともに任意に支払つた場合においても、その支払にあたり充当に関して特段の意思表示がないかぎり、右制限に従つた元利合計額をこえる支払額は、債務者において不当利得としてその返還を請求することができるものと解すべきことも、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和四四年(オ)第二八〇号同年一一月二五日第三小法廷判決・民集二三巻一一号二一三七頁)。原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人の不当利得返還請求権の発生を認めた原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、ひつきよう独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同四、五、七、八について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき若しくは原審において主張しなかつた事項について原判決を論難するものにすぎず、いずれも採用することができない。
 同六について
 商法五二二条の適用又は類推適用されるべき債権は商行為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ、利息制限法所定の制限をこえて支払われた利息・損害金についての不当利得返還請求権は、法律の規定によつて発生する債権であり、しかも、商事取引関係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めた立法趣旨からみて、商行為によつて生じた債権に準ずるものと解することもできないから、その消滅時効の期間は民事上の一般債権として民法一六七条一項により一〇年と解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官団藤重光、同中村治朗の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官団藤重光の反対意見は、次のとおりである。
 わたくしは、中村裁判官の反対意見に同調する。
 裁判官中村治朗の反対意見は、次のとおりである。
 私は、上告理由六につき多数意見と見解を異にし、論旨を採用して原判決を破棄すべきものと考える。その理由は、次のとおりである。  商法五二二条本文の時効期間の規定が、商事取引関係の迅速な解決を図るため、商行為によつて生じた債権につき一般民事債権の場合に比し短期の消滅時効期間を定めたものであること、及び商行為に属する法律行為から直接生じた債権でなくても、なお右規定の趣旨にかんがみてこれに準ずべき債権とみられるものについては、同条の適用又は類推適用により商事債権として右短期の消滅時効期間に服するものと解すべきことについては、私も多数意見と全く見解を一にするものであり、多数意見と私見との違いは、多数意見が本件不当利得返還請求権は右の「準ずべき債権」にあたらないとするのに対し、私見はこれにあたると解する点にある。
 本件不当利得返還請求権は、被上告人が上告人から借り受けた金員につき上告人に対して支払つた約定利息金及び元金のうち、利息制限法の適用上過払となる金額について、上告人が法律上の原因なくして利得したものとしてその返還を請求するというものである。そして上告人の主張によれば、被上告人は商人で、前記消費貸借契約は被上告人がその営業のために行つたものであり、同契約は附属的商行為にあたるというのであるから、問題は、商行為に属する契約の全部又は一部が無効であるため、右契約上の義務の履行としてされた給付による利得につき生ずる不当利得返還請求権を、時効期間の関係で、商行為によつて生じた債権に準ずべき債権と解すべきかどうかに帰着すると考えてよいと思われる(もつとも、利息制限法に違反する約定が反公序良俗性ないし強い違法性をもち、これに基づいてされた給付による利得の保持自体がこのような評価を受けるものであれば、また別の考慮を必要とするであろうが、利息制限法上過払となる金員の支払は、単に契約が一部無効であるため債務がないのにあるものとしてその履行がされたというにすぎないものと考えられるので、上記のように一般化して事を論ずれば足りると思う。)。
 ところで、商事契約の解除による原状回復義務が商法五二二条の商事債務たる性質を有することは、当裁判所の判例とするところであるが(最高裁昭和三三年(オ)第五九九号同三五年一一月一日第三小法廷判決・民集一四巻一三号二七八一頁)、その趣旨は、契約解除による原状回復は、契約によつて生じた法律関係を清算するものとしていわばこれと裏腹をなすものであり、商事契約に基づく法律関係の早期結了の要請は、その解除に伴う既発生事態の清算関係についてもひとしく妥当するから、解除による原状回復義務についても、契約そのものに基づく本来の債務と同様商事債務としての消滅時効期間に服せしめるべきであるとするにあると考えられる。ところで、一般に、契約解除による原状回復は、契約上の義務の履行としてされた財貨の移動につき、その後契約の解除によつてそれが法律上の原因を欠くこととなつたため、これによる利得を相互に返還せしめて契約の履行前の状態に復せしめようとするものであり、法律上の原因によらない利得の返還という点においては、右の原状回復義務は、本質的には不当利得返還義務にほかならないということができるのである。他方、不当利得返還の場合の中でも、契約上の義務の履行としてされた給付が右契約の無効等の理由により法律上の原因を欠くこととなり、その給付による利得につき不当利得返還義務が生ずるような場合は、契約の履行によつて生じた関係を清算するものである点において契約解除による原状回復の場合と全く選ぶところがない。そうすると、このような場合の不当利得の返還は、契約解除による原状回復と同じく、契約によつて生じた法律関係を清算するものとしてこれと裏腹をなし、右契約が商事契約である場合には、右の清算関係についても早期結了の要請がひとしく妥当するものということができるのであり、一が契約解除という法律行為を媒介として生ずる法律関係であり、他が法律行為を媒介としないで法律の規定から直接に生ずるそれであるということは、右の両者を異別に取り扱う合理的理由となるものではないというほかはないように思われる。私は、以上のような理由から、商事契約の無効等の理由によつて右契約に基づいてされた給付による利得につき不当利得返還請求権が生ずる場合には、右債権は、商事債権ないしはこれに準ずるものとして、商法五二二条所定の消滅時効期間に服すべきものと解するのが相当であると考えるものであり、これと異なる多数意見には賛同することができない。そして、原判決は、本件不当利得返還請求権につき、本件消費貸借が商行為であると否とに関係なく、一般民事債権としてその消滅時効期間を一〇年とし、上告人の時効の抗弁を排斥したものであるから、右は法令の解釈適用を誤つたものといわざるをえず、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点に関する論旨は理由があるものとして原判決を破棄し、更に審理を尽させるため、本件を原審に差し戻す旨の裁判をすべきものと考える。
(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山 亭 裁判官 戸田 弘 裁判官 中村治朗)




○ 最二小判平成2年1月22日 昭和62(オ)1531 債務不存在等確認(第44巻1号332頁) (判例時報1349号58頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
 貸金業の規制等に関する法律四三条一項にいう「債務者が利息として任意に支払つた」及び同条三項にいう「債務者が賠償として任意に支払つた」の意義

要旨:
 貸金業の規制等に関する法律四三条一項にいう「債務者が利息として任意に支払つた」及び同条三項にいう「債務者が賠償として任意に支払つた」とは、債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によつて支払つたことをいい、債務者において、その支払つた金銭の額が利息制限法一条一項又は四条一項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しない。
参照・法条:
  貸金業の規制等に関する法律43条1項,貸金業の規制等に関する法律43条3項,利息制限法1条1項,利息制限法4条1項

内容:
 件名  債務不存在等確認 (最高裁判所 昭和62(オ)1531 第二小法廷・判決 棄却)
 原審  S62.09.18 大阪高等裁判所

主    文
  本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人井尻潔の上告理由一、二、三及び五について
 貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)は、貸金業者の事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営を確保し、資金需要者等の利益の保護を図るための措置として、貸金業者は、貸付けに係る契約を締結したときは、貸付けの利率、賠償額の予定に関する定めの内容等、法一七条一項各号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする書面(以下「契約書面」という。)をその相手方に交付しなければならないものとし(法一七条一項)、さらに、その債権の全部又は一部について弁済を受けたときは、その都度、受領金額及びその利息、賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額等、法一八条一項各号に掲げる事項を記載した書面(以下「受取証書」という。)を当該弁済をした者に交付しなければならないものとして(法一八条一項)、債務者が貸付けに係る契約の内容又はこれに基づく支払の充当関係が不明確であることなどによって不利益を被ることがないように貸金業者に契約書面及び受取証書の交付を義務づける反面、その義務が遵守された場合には、債務者が利息又は賠償として任意に支払った金銭の額が利息制限法一条一項又は四条一項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超えるときにおいても、これを有効な利息又は賠償金の債務の弁済とみなすこととしている(法四三条一項、三項)。以上のような法の趣旨にかんがみれば、債務者が貸金業者に対してした金銭の支払が法四三条一項又は三項によって有効な利息又は賠償金の債務の弁済とみなされるには、契約書面及び受取証書の記載が法の趣旨に合致するものでなければならないことはいうまでもないが、法四三条一項にいう「債務者が利息として任意に支払った」及び同条三項にいう「債務者が賠償として任意に支払った」とは、債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によってこれらを支払ったことをいい、債務者において、その支払った金銭の額が利息制限法一条一項又は四条一項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解するのが相当である。  これを本件についてみると、所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、上告人が貸金業者である被上告人Aに対してした金銭の支払は、上告人が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によってされたことが明らかであるから、これを法四三条一項又は三項にいう債務者が利息又は賠償として任意に支払ったものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同四について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認し得ないものではなく、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同六について
 記録によって認められる本件訴訟の経緯に照らすと、原審が所論の措置をとらなかったことに違法はない。論旨は、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤島 昭 裁判官 島谷六郎 裁判官 香川保一 裁判官 奧野久之 裁判官 草場良八)




○ 最一小判平成10.04.30 平成5(オ)789 貸金(第52巻3号930頁) (判例時報1349号58頁)(最高裁HP該当判例)
判示事項:
 訴訟上の相殺の抗弁に対し訴訟上の相殺を再抗弁として主張することの許否

要旨:
 訴訟上の相殺の抗弁に対し訴訟上の相殺を再抗弁として主張することは、許されない。
参照・法条:
  民法505条,民訴法114条2項

内容:
 件名  貸金 (最高裁判所 平成5(オ)789 第一小法廷・判決 破棄自判)
 原審  H05.02.24 福岡高等裁判所

主    文
     原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。

理    由
 上告代理人辰巳孝雄の上告理由第一点について
 一 本件は、承継前被上告人Aが上告人に対し、貸金及び準消費貸借金を請求した訴訟である。原審の適法に確定した事実関係の概要と訴訟の経過は、次のとおりである。
 1 上告人は、Aから、第一審判決別紙計算書1(以下「計算書1」という。)、同計算書5(以下「計算書5」という。)及び同計算書4(以下「計算書4」という。)記載のとおり金員を借り受け、それぞれ月六分の割合による利息を天引きされた金額を受領した。  2 上告人が計算書1「22」の貸金債権(以下「貸金債権(一)」という。)の担保として交付した約束手形(以下「手形(一)」という。)、計算書5「22」の貸金債権(以下「貸金債権(二)」という。)の担保として交付した約束手形(以下「手形(二)」という。)及び計算書4「22」の貸金債権(以下「貸金債権(三)」という。)の担保として交付した約束手形(以下「手形(三)」という。)がいずれも不渡りとなり、上告人とAは、手形(一)の債権を目的とする準消費貸借契約(以下、同契約に基づく債権を「準消費貸借金債権(一)」という。)及び手形(二)の債権を目的とする準消費貸借契約(以下、同契約に基づく債権を「準消費貸借金債権(二)」という。)を締結した。Aが貸金債権(一)(二)(三)について天引きした利息のうち利息制限法所定の制限利率による利息を超過した額を各貸金元本に充当した残額は、貸金債権(一)が一四二万四四八九円、貸金債権(二)が九四万七一六七円、貸金債権(三)が九五万〇三〇九円となる。したがって、準消費貸借金債権(一)(二)は、貸金債権(一)(二)の右金額の限度で効力を有することになる。
 3 各計算書「1」ないし「21」の各貸金債権(計算書5「10」を除く。)について天引きされた利息は、利息制限法所定の制限利率による利息を超過しており、上告人は、Aに対し、右超過利息額と同額の不当利得返還請求債権を取得した。その額は、計算書1に係るもの(以下「不当利得返還請求債権(一)」という。)が一六二万六九五三円、計算書5に係るもの(以下「不当利得返還請求債権(二)」という。)が九七万七四二六円、計算書4に係るもの(以下「不当利得返還請求債権(三)」という。)が一〇六万一一七三円である。  4 Aは、右準消費貸借金債権(一)(二)及び原判決の引用する第一審判決請求原因1の貸金債権を請求し、これに対し、上告人は、右債権の成立を争うとともに、平成四年四月一三日の第一審第一七回口頭弁論期日において、不当利得返還請求債権(一)を自働債権として準消費貸借金債権(一)と、不当利得返還請求債権(二)を自働債権として準消費貸借金債権(二)と、いずれも対当額で相殺する旨の訴訟上の相殺の意思表示をした(抗弁)。Aは、右期日において、手形(三)の債権を自働債権として不当利得返還請求債権(一)(二)のうち発生時期の早いものから順次対当額で相殺する旨の訴訟上の相殺の意思表示をした(再抗弁)。上告人は、平成五年二月一日の原審第四回口頭弁論期日において、不当利得返還請求債権(三)を自働債権として手形(三)の債権と対当額で相殺する旨の訴訟上の相殺の意思表示をした(再々抗弁)。
 二 原審は、次のように判示して、Aの請求を一部認容した。
 1 原判決の引用する第一審判決請求原因1の貸金の事実は認められない。
 2 上告人による不当利得返還請求債権(一)(二)を自働債権とする相殺の意思表示(抗弁)と、Aによる手形(三)の債権を自働債権とする相殺の意思表示(再抗弁)とは、同一の口頭弁論期日における各準備書面の陳述によってされているが、Aの準備書面の陳述が時間的に早くされたから、Aによる右相殺の意思表示が先に効力を生じたと解すべきである。
 3 手形(三)の債権を自働債権として不当利得返還請求債権(一)(二)の発生時期の早いものと順次対当額で相殺すると、不当利得返還請求債権(一)については計算書1「1」ないし「9」の各超過支払額欄記載の金額(ただし、「9」については、四九〇九円の限度)の合計六一万八二四五円の限度で、不当利得返還請求債権(二)については計算書5「1」ないし「8」の各超過支払額欄記載の金額の合計三八万一七五五円の限度で、それぞれ相殺の効力が生ずる。その結果、不当利得返還請求債権(一)の残額は一〇〇万八七〇八円、不当利得返還請求債権(三)の残額は五九万五六七一円となる。
 4 不当利得返還請求債権(三)を自働債権として手形(三)の債権を受働債権とする上告人の相殺の意思表示(再々抗弁)は、手形(三)の債権を自働債権とし不当利得返還請求債権(一)(二)を受働債権とするAの相殺の意思表示(再抗弁)により手形(三)の債権が既に消滅したため、その効果が発生しない。
 5 不当利得返還請求債権(一)の残額一〇〇万八七〇八円を自働債権として準消費貸借金債権(一)と対当額で相殺すると、同債権は元本四三万六七九七円及びこれに対する遅延損害金の範囲で残存し、不当利得返還請求債権(二)の残額五九万五六七一円を自働債権として準消費貸借金債権(二)と対当額で相殺すると、同債権は元本三六万五四六九円及びこれに対する遅延損害金の範囲で残存するから、これら残存する債権の範囲において本件請求は理由がある。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 1 被告による訴訟上の相殺の抗弁に対し原告が訴訟上の相殺を再抗弁として主張することは、不適法として許されないものと解するのが相当である。けだし、(一)訴訟外において相殺の意思表示がされた場合には、相殺の要件を満たしている限り、これにより確定的に相殺の効果が発生するから、これを再抗弁として主張することは妨げないが、訴訟上の相殺の意思表示は、相殺の意思表示がされたことにより確定的にその効果を生ずるものではなく、当該訴訟において裁判所により相殺の判断がされることを条件として実体法上の相殺の効果が生ずるものであるから、相殺の抗弁に対して更に相殺の再抗弁を主張することが許されるものとすると、仮定の上に仮定が積み重ねられて当事者間の法律関係を不安定にし、いたずらに審理の錯雑を招くことになって相当でなく、(二)原告が訴訟物である債権以外の債権を被告に対して有するのであれば、訴えの追加的変更により右債権を当該訴訟において請求するか、又は別訴を提起することにより右債権を行使することが可能であり、仮に、右債権について消滅時効が完成しているような場合であっても、訴訟外において右債権を自働債権として相殺の意思表示をした上で、これを訴訟において主張することができるから、右債権による訴訟上の相殺の再抗弁を許さないこととしても格別不都合はなく、(三)また、民訴法一一四条二項(旧民訴法一九九条二項)の規定は判決の理由中の判断に既判力を生じさせる唯一の例外を定めたものであることにかんがみると、同条項の適用範囲を無制限に拡大することは相当でないと解されるからである。
 2 これを本件についてみると、手形(三)の債権を自働債権として不当利得返還請求債権(一)(二)と相殺する再抗弁の主張は不適法であるから、不当利得返還請求債権(一)(二)全額を自働債権として相殺の効果が生じ、これにより準消費貸借金債権(一)(二)の全額が消滅すると解すべきであって、本件請求は理由がないというべきである。
四 したがって、これと異なる判断の下に、本件請求を一部認容すべきものとした原判決には、訴訟上の相殺に関する法令の解釈を誤った違法があり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上に述べたところからすれば、本件請求は理由がなく、これを棄却した第一審判決は結論において正当であるから、被上告人らの控訴はこれを棄却すべきものである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 大出峻郎)




○ 最三小判平成10.05.26 平成8(オ)497 約束手形金(第52巻4号985頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 甲がAの強迫により消費貸借契約の借主となり貸主乙に指示して貸付金を丙に給付させた後に右強迫を理由に契約を取り消した場合の乙から甲に対する不当利得返還請求につき甲が右給付により利益を受けなかったものとされた事例

要旨:
 甲がAの強迫により消費貸借契約の借主となり貸主乙に指示して貸付金を丙に給付させた後に右強迫を理由に契約を取り消したが、甲と丙との間には事前に何らの法律上又は事実上の関係はなく、甲がAの言うままに、乙に対して貸付金を丙に給付するように指示したなど判示の事実関係の下においては、乙から甲に対する不当利得返還請求について、甲が右給付によりその価額に相当する利益を受けたとみることはできない。
参照・法条:
  民法96条1項,民法537条,民法587条,民法703条

内容:
 件名  約束手形金 (最高裁判所 平成8(オ)497 第三小法廷・判決 破棄自判)
 原審  H07.11.17 大阪高等裁判所

主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人中谷茂、同山口勉、同前田基博の上告理由第一点一の1及び第二点について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 上告人は、平成三年三月一五日、Aから強迫を受けて、被上告人との間に、上告人が被上告人から三五〇〇万円を弁済期日同年六月一五日、利息年三割六分の割合等の約定により借り受ける旨の本件消費貸借契約を締結した。この際、上告人は、Aの指示に従って、被上告人に対し、貸付金は北斗道路株式会社の当座預金口座に振り込むよう指示し、被上告人は、これに応じて、利息等を控除した残金三〇三三万七〇〇〇円を、右口座に振り込んだ。
 2 上告人は、平成六年二月二四日、被上告人に対し、Aの強迫を理由に本件消費貸借契約を取り消す旨の意思表示をした。
 二 本件において、被上告人は、上告人は本件消費貸借契約に基づき給付された金員につき悪意の受益者に当たるとして、民法七〇四条に基づき、被上告人が北斗道路の当座預金口座に振り込んだ金員のうち二九四一万七九一七円及びこれに対する上告人が悪意となった日の後である平成三年六月一六日から支払済みまで年一割五分の割合による利息の支払を求めている。
 原審は、被上告人が前記のとおり振込みを行ったのは上告人の指示に基づくものであったから、上告人は右振込みに係る金員の交付を受けてこれを利得したというべきであるなどとして、被上告人の不当利得返還請求について、利息の割合を民法所定の年五分として、これを認容した。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。  消費貸借契約の借主甲が貸主乙に対して貸付金を第三者丙に給付するよう求め、乙がこれに従つて丙に対して給付を行った後甲が右契約を取り消した場合、乙からの不当利得返還請求に関しては、甲は、特段の事情のない限り、乙の丙に対する右給付により、その価額に相当する利益を受けたものとみるのが相当である。けだし、そのような場合に、乙の給付による利益は直接には右給付を受けた丙に発生し、甲は外見上は利益を受けないようにも見えるけれども、右給付により自分の丙に対する債務が弁済されるなど丙との関係に応じて利益を受け得るのであり、甲と丙との間には事前に何らかの法律上又は事実上の関係が存在するのが通常だからである。また、その場合、甲を信頼しその求めに応じた乙は必ずしも常に甲丙間の事情の詳細に通じているわけではないので、このような乙に甲丙間の関係の内容及び乙の給付により甲の受けた利益につき主張立証を求めることは乙に困難を強いるのみならず、甲が乙から給付を受けた上で更にこれを丙に給付したことが明らかな場合と比較したとき、両者の取扱いを異にすることは衡平に反するものと思われるからである。
 しかしながら、本件の場合、前記事実関係によれば、上告人と北斗道路との間には事前に何らの法律上又は事実の関係はなく、上告人は、Aの強迫を受けて、ただ指示されるままに本件消費貸借契約を締結させられた上、貸付金を北斗道路の右口座へ振り込むよう被上告人に指示したというのであるから、先にいう特段の事情があった場合に該当することは明らかであって、上告人は 右振込みによって何らの利益を受けなかったというべきである。
 そうすると、右とは異なり、上告人の指示に基づき被上告人が北斗道路に対して貸付金の振込みをしたことにより上告人がこれを利得したとして、被上告人の不当利得返還請求の一部を認容すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、その余の論旨について検討するまでもなく、原判決中右請求の一部を認容した部分は、破棄を免れない。そして、右部分について、被上告人の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却すべきである。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣)




○ 最一小判平成11.01.21 平成8(オ)250 請求異議等(第53巻1号98頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
 債務者の利息の支払が貸金業者の預金等の口座に対する払込みによってされた場合における貸金業の規制等に関する法律四三条一項によるみなし弁済と同法一八条一項に規定する書面の交付の要否

要旨:
 貸金業の規制等に関する法律四三条一項によるみなし弁済の効果を生ずるためには、債務者の利息の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされた場合であっても、特段の事情のない限り、貸金業者は右の払込みを受けたことを確認した都度、直ちに、同法一八条一項に規定する書面を債務者に交付しなければならない。
参照・法条:
  貸金業の規制等に関する法律43条1項,貸金業の規制等に関する法律(平成9年法律102号による改正前のもの)18条,利息制限法1条1項

内容:
 件名  請求異議等 (最高裁判所 平成8(オ)250 第一小法廷・判決 棄却)
 原審  H07.10.27 名古屋高等裁判所

主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人松原徳満の上告理由第一について
 貸金業者との間の金銭消費貸借上の利息の契約に基づき、債務者が利息として任意に支払った金銭の額が、利息制限法一条一項に定める制限額を超える場合において、右超過部分の支払が貸金業の規制等に関する法律四三条一項によって有効な利息の債務の弁済とみなされるためには、右の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされたときであっても特段の事情のない限り、貸金業者は、右の払込みを受けたことを確認した都度、直ちに、同法一八条一項に規定する書面(以下「受取証書」という。)を債務者に交付しなければならないと解するのが相当である。けだし、同法四三条一項二号は、受取証書の交付について何らの除外事由を設けておらず、また、債務者は、受取証書の交付を受けることによって、払い込んだ金銭の利息、元本等への充当関係を初めて具体的に把握することができるからである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 同第二について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 大出峻郎)




○ 最一小判平成11.03.11 平成10(オ)1465 過払金返還請求反訴(第53巻3号451頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
1 貸金の元利金の分割払による返済期日が「毎月X日」と定められた場合にX日が日曜日その他の一般の休日に当たるときの返済期日の解釈
2 貸金の元利金の分割払による返済期日が「毎月X日」と定められた場合に貸金業の規制等に関する法律一七条に規定する書面に記載すべき「各回の返済期日」

要旨:
1 毎月一回ずつの分割払によって元利金を返済する約定の消費貸借契約において、返済期日を単に「毎月X日」と定めただけで、その日が日曜日その他の一般の休日に当たる場合の取扱いが明定されなかった場合には、特段の事情がない限り、契約当事者間にX日が右休日であるときはその翌営業日を返済期日とする旨の黙示の合意があったことが推認される。
2 毎月一回ずつの分割払によって元利金を返済する約定の消費貸借契約において、返済期日を単に「毎月X日」と定めただけで、その日が日曜日その他の一般の休日に当たる場合の取扱いが明定されなかった場合において、契約当事者間にX日が右休日であるときはその翌営業日を返済期日とする旨の黙示の合意があったと認められるときは、貸金業の規制等に関する法律一七条に規定する書面によって明らかにすべき「各回の返済期日」としては、明示の約定によって定められた「毎月X日」という日が記載されていれば足りる。

参照・法条:
  民法92条,民法142条,貸金業の規制等に関する法律43条,貸金業の規制等に関する法律(平成九年法律第一〇二号による改正前のもの)17条,利息制限法1条1項,利息制限法4条1項,貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和五八年大蔵省令第四〇号)13条1項1号チ

内容:
 件名  過払金返還請求反訴 (最高裁判所 平成10(オ)1465 第一小法廷・判決 破棄差戻)
 原審  H10.04.17 広島高等裁判所

主    文
     原判決中、被上告人aの請求に関する部分及び同bの請求に関する上告人敗訴の部分を破棄する。
     前項の各部分につき、本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理    由
 上告代理人坂下宗生、同谷口玲爾、同坂本秀徳の上告理由第一について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人は、貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)所定の登録を受けた貸金業者である。
 2 上告人は、平成四年九月三〇日、cに対し、一五〇万円を、利息及び遅延損害金の利率を年三九・八〇パーセントとし、平成四年一〇月から同九年九月まで毎月二五日に六〇回にわたって元金二万五〇〇〇円ずつを経過利息と共に返済するとの約定で貸し渡し、被上告人bは、同日、上告人に対し、右消費貸借契約に係るcの債務を連帯保証する旨を約した。
 3 上告人は、平成五年六月四日、cに対し、一〇〇万円を、利息及び遅延損害金の利率を年三九・八〇パーセントとし、平成五年七月から同一〇年六月まで毎月三日に六〇回にわたって元金一万六〇〇〇円ずつ(最終回は五万六〇〇〇円)を経過利息と共に返済するとの約定で貸し渡し、被上告人aは、同日、上告人に対し、右消費貸借契約に係るcの債務を連帯保証する旨を約した。
 4 上告人は、右各消費貸借契約及び連帯保証契約の締結に際して、c及び被上告人らに対し、それぞれ貸付契約説明書及び償還表と題する書面を交付した。右各貸付契約説明書には、右2の返済期日について「毎月二五日」、右3の返済期日について「毎月三日」と記載されていたが、右期日が日曜日その他の一般の休日に当たる場合の取扱いについての記載はなかった。
 5 c及び被上告人らは、上告人に対し、原判決の別紙充当計算表1及び2のとおり、元本並びに約定の利率による利息及び遅延損害金を支払った。これを利息制限法所定の制限利率に引き直して計算すると、被上告人aの連帯保証に係る消費貸借契約については六六万一一二〇円、被上告人bの連帯保証に係る消費貸借契約については五二万八八六一円の過払い(以下「本件過払い」という。)が生じていることになる。
 二 本件は、被上告人らが、上告人に対し、本件過払いが上告人の不当利得であるとしてその返還を求める事件である(被上告人aの請求金額は六五万五一三四円、被上告人bの請求金額は九一万八六〇五円)。上告人は、法一七条一、二項及び一八条一項(いずれも平成九年法律第一〇二号による改正前のもの。以下同じ。)に規定するところに従い、c及び被上告人らに対し、法一七条一項各号及び二項に掲げる事項について契約の内容を明らかにする書面(以下「一七条書面」という。)並びに法一八条一項各号に掲げる事項を記載した書面(以下「受取証書」という。)を交付しており、法四三条所定の要件が満たされているから、本件過払いは有効な利息又は遅延損害金の債務の弁済とみなされると主張している。
 原審は、右事実関係の下において、(一)返済期日として定められた日が休日に当たる場合に返済期日をその前日とするのか翌日とするのかは当該契約条項の解釈にゆだねられ、書面にその旨の記載がない場合に当然にそのいずれかに定まるものではない、(二)上告人が交付した前記貸付契約説明書及び償還表は、その記載自体において返済期日が休日に当たる場合の取扱いが不明確であるから、「各回の返済期日及び返済金額」(法一七条一項八号、二項、貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和五八年大蔵省令第四〇号)一三条一項一号チ)の記載としては不十分である、(三)したがって、法四三条の規定によりみなし弁済の効果を生ずるための要件である一七条書面の交付がされたとはいえないから、受取証書の交付の有無について判断するまでもなく、本件過払いを有効な利息又は遅延損害金の債務の弁済とみなすことはできないとして、本件過払いの限度で(被上告人aについては前記請求金額の限度で)被上告人らの請求を認容した。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 1 毎月一回ずつの分割払によって元利金を返済する約定の消費貸借契約において、返済期日を単に「毎月X日」と定めただけで、その日が日曜日その他の一般の休日に当たる場合の取扱いが明定されなかった場合には、その地方においては別異の慣習があるなどの特段の事情がない限り、契約当事者間にX日が右休日であるときはその翌営業日を返済期日とする旨の黙示の合意があったことが推認されるものというべきである。現代社会においてはそれが一般的な取引の慣習になっていると考えられるからである(民法一四二条参照)。
 そして、右黙示の合意があったと認められる場合においては、一七条書面によって明らかにすべき「各回の返済期日」としては、明示の約定によって定められた「毎月X日」という日が記載されていれば足りると解するのが相当である。けだし、契約当事者間に右黙示の合意がある場合には、一七条書面にX日が右休日に当たる場合の取扱いについて記載されていなくても、契約の内容が不明確であることにより債務者や保証人が不利益を被るとはいえず、法が一七条書面に「各回の返済期日」を記載することを要求した趣旨に反しないからである。  2 これを本件について見ると、上告人がc及び被上告人らに交付した各貸付契約説明書には、返済期日として「毎月二五日」又は「毎月三日」と記載されるにとどまり、これらの日が右休日に当たる場合の取扱いについての記載はなかったのであるが、前記の推認を否定すべき特段の事情があったことの主張立証はないから、上告人とc及び被上告人らとの間に二五日又は三日が右休日に当たる場合にはその翌営業日を返済期日とする旨の黙示の合意があったことが推認されるものというべきである。したがって、右各貸付契約説明書は、「各回の返済期日」の記載に欠けるところはなく、法一七条の要件を満たすものということができる。
 四 そうすると、原判決中、これと異なる判断の下に、一七条書面が交付されたとはいえないことを理由に法四三条の適用を否定し、被上告人らの請求の全部又は一部を認容すべきものとした部分には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中の右部分は破棄を免れない。そして、右部分について、受取証書の交付の有無について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)




○ 最二小判平成15.07.18 平成13(受)1032、1033 不当利得請求事件(第57巻7号895頁) (最高裁HP該当判例)
判示事項:
1 信用保証会社の受ける保証料及び事務手数料が貸金業者の受ける利息制限法3条所定のみなし利息に当たるとされた事例
2 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払ったことによって生じた過払金と他の借入金債務への充当

要旨:
1 貸金業者甲の受ける利息,調査料及び取立料と甲が100%出資して設立した子会社である信用保証会社乙の受ける保証料及び事務手数料との合計額が利息制限法所定の制限利率により計算した利息の額を超えていること,乙の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の割合に比べて非常に高く,乙の受ける保証料等の割合と甲の受ける利息等の割合との合計は乙を設立する以前に甲が受けていた利息等の割合とほぼ同程度であったこと,乙は甲の貸付けに限って保証しており,甲から手形貸付けを受ける場合には乙の保証を付けることが条件とされていること,乙は,甲に対し,保証委託契約の締結業務,保証料の徴収業務,信用調査業務及び保証の可否の決定業務の委託等をしており,債権回収業務も甲が相当程度代行していたことなど判示の事実関係の下においては,乙の受ける保証料等は,甲の受ける利息制限法3条所定のみなし利息に当たる。
2 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない。

参照・法条:
  利息制限法1条1項,利息制限法2条,利息制限法3条,民法136条2項,民法488条,民法489条,民法491条

内容:
 件名  不当利得請求事件 (最高裁判所 平成13(受)1032、1033 第二小法廷・判決 一部棄却,一部破棄差戻し)
 原審  H13.04.09 東京高等裁判所 (平成12(ネ)5749)

主    文
 1 平成13年 (受)第1032号上告人の上告を棄却する。
 2 原判決中,平成13年(受)第1033号上告人らの敗訴部分を破棄し,同部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
 3 第1項に関する上告費用は,平成13年(受)第1032号上告人の負担とする。

理    由
 第1 事案の概要
 1 原審が確定した事実関係等は,次のとおりである。
 (1) C株式会社は,中小企業等への金員の貸付けを業とする平成13年(受)第1032号上告人・同第1033号被上告人(以下「1審被告」という。)との間で,平成5年6月11日付けの手形貸付取引約定及び同月14日付けの基本取引約定により,次の内容の継続的貸付契約(以下「本件貸付契約」という。)を締結した。
 ア 元本極度額 3000万円
 イ 特約 C株式会社振出しの手形が不渡りとなったときは,C株式会社は,1審被告に対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失する。
 (2) 平成13年(受)第1032号被上告人・同第1033号上告人A(以下「1審原告A」という。)は平成9年8月5日,同B(以下「1審原告B」という。)は平成6年6月21日,1審被告に対し,C株式会社の1審被告に対する本件貸付契約に基づく債務について,それぞれ400万円の限度で連帯保証した。
 (3) 1審被告は,本件貸付契約に基づき,C株式会社に対し,平成5年6月11日から平成10年3月24日までの間,手形貸付けの方法で,第1審判決別紙1記載のとおり,利息制限法(以下「法」という。)1条1項所定の制限利率を超える利率で反復継続して金員を貸し付け,返済を受けた(以下,上記一連の取引を「本件取引」という。)。
 なお,同別紙に記載した「借入日」の「返済額」には,貸付額から天引きされた同別紙記載の1審被告に対する利息,調査料及び取立料とD信用保証株式会社に対する保証料及び事務手数料(以下「保証料等」という。)との合計額が計上されている。
 (4) 1審被告の受ける調査料及び取立料は,法3条所定のみなし利息に当たる(以下,利息とみなし利息を合わせて「利息等」という。)。
 (5) 平成10年3月末,C株式会社振出しの手形が不渡りとなった。
 (6) 1審原告Aは,1審被告に対し,上記連帯保証債務の履行として,平成10年4月9日及び同月17日に各200万円を支払った。
 (7) 1審原告Bは,1審被告に対し,上記連帯保証債務の履行として,平成10年4月10日,同月14日,同月23日及び同月28日に各50万円,同年5月7日に200万円を支払った。
 (8) D信用保証株式会社は,1審被告の貸付金取引の借主に対する信用保証を行うために,1審被告が100%出資して平成3年5月に設立した子会社であり,D信用保証株式会社の利益は,最終的には1審被告に帰属するということができる。D信用保証株式会社は,1審被告の貸付けに限って保証しており,1審被告から手形貸付けを受ける場合,D信用保証株式会社の保証を付けることが条件とされている。D信用保証株式会社の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の割合に比べて非常に高く,D信用保証株式会社の設立後,1審被告は貸付利率の引下げ等を行ったが,D信用保証株式会社の受ける保証料等の割合と1審被告の受ける利息等の割合との合計はD信用保証株式会社を設立する以前に1審被告が受けていた利息等の割合とほぼ同程度であった。D信用保証株式会社は,1審被告の借主との間の保証委託契約の締結業務及び保証料徴収業務を1審被告に委託しており,信用調査業務についても1審被告に任せ,保証の可否の決定業務をも事実上1審被告に委託していた。また,信用保証会社が貸付金取引の借主の債務を保証する主たる目的は,借主が返済を怠った場合,信用保証会社が貸主に対して代位弁済を行い,借主に対して求償金の回収業務を行うことにあるにもかかわらず,D信用保証株式会社については,債権回収業務も1審被告が相当程度代行していた。D信用保証株式会社は,その組織自体がこのような各業務を自ら行う体制にはなっていなかった。
 2 本件は,1審原告らが,1審被告に対し,本件取引につき法所定の制限を超える利息等として支払われた部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を求める事案である。
 第2 平成13年(受)第1032号上告代理人滝田裕,同川戸淳一郎の上告受理申立て理由について
 【要旨1】1審被告の受ける利息等とD信用保証株式会社の受ける保証料等の合計額が法所定の制限利率により計算した利息の額を超えていること,前記第1の1(8)記載のD信用保証株式会社の設立経緯,保証料等の割合,業務の内容及び実態並びにその組織の体制等によれば,1審被告は,法を潜脱し,100%子会社であるD信用保証株式会社に保証料等を取得させ,最終的には同社から受ける株式への配当等を通じて保証料等を自らに還流させる目的で,借主をしてD信用保証株式会社に対する保証委託をさせていたということができるから,D信用保証株式会社の受ける保証料等は,法3条所定のみなし利息に当たるというべきである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
 第3 平成13年(受)第1033号上告代理人松山満芳の上告受理申立て理由について
 1 原審は,1審被告とC株式会社は,基本取引約定及び手形貸付取引約定を取り交わし,これに基づく複数の貸付金取引を並行して行っていたのであるから,C株式会社がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を支払い,この制限超過部分を元本に充当した結果生じた過払金については,1審被告の貸主としての期限の利益を保護した上で他の借入金債務に充当するとすることが,1審被告とC株式会社の意思であると合理的に推認され,1審被告は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができると判断した。
 2 しかしながら,原審の上記判断のうち,過払金が他の借入金債務に充当されるとの判断は是認することができるが,この場合に1審被告が充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができるとの判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けとその返済が繰り返される金銭消費貸借取引においては,借主は,借入れ総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられることから,弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果当該借入金債務が完済され,これに対する弁済の指定が無意味となる場合には,特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に対する弁済を指定したものと推認することができる。また,法1条1項及び2条の規定は,金銭消費貸借上の貸主には,借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎とする法所定の制限内の利息の取得のみを認め,上記各規定が適用される限りにおいては,民法136条2項ただし書の規定の適用を排除する趣旨と解すべきであるから,過払金が充当される他の借入金債務についての貸主の期限の利益は保護されるものではなく,充当されるべき元本に対する期限までの利息の発生を認めることはできないというべきである。
 したがって,【要旨2】同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である。
 そうすると,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決中1審原告らの敗訴部分は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第4 結論
 以上のとおりであるから,1審被告の上告は,これを棄却することとし,1審原告らの上告に基づいて,原判決中1審原告らの敗訴部分を破棄し,同部分につき,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷 玄)



○ 最一小判平成15.09.11 平成12年(受)第1000号 不当利得返還請求事件 ( 最高裁HPから入手,現在HPに掲載なし)

判示事項:
1 信用保証会社の受ける保証料及び事務手数料が貸金業者の受ける利息制限法3条所定のみなし利息に当たるとされた事例
2 基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払ったことによって生じた過払金と他の借入金債務への充当

内容:  件名 不当利得返還等,不当利得返還請求事件 (最高裁判所 平成12(受)1000 平成15年09月11日 第一小法廷判決 破棄差戻し)
 原審 福岡高等裁判所 (平成11(ネ)120)

主    文
       原判決を破棄する。
       本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
理    由
 第1 事案の概要
 1 原審が確定した事実関係等は,次のとおりである。
 (1) Dの名称で塗装業を営む上告人Aは,平成元年11月2日,商工ローンの名称により保証付手形貸付け等を業とする被上告人との間で,次の内容の継続的手形貸付契約(以下「本件貸付契約」という。)を締結した。
 ア 元本極度額 1000万円
 イ 返済方法 手形面記載の満期日に,同記載の支払場所において,手形金額(元金)を手形決済の方法により一括返済する。
 ウ 特約 上告人A振出しの手形が不渡りになったときは,上告人Aは被上告人に対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失する。
 (2) 上告人Bは,平成6年10月21日,被上告人に対し,本件貸付契約に基づき上告人Aが被上告人に対して負担する債務について,(ア) 極度額を600万円,(イ) 保証対象を上告人Aが被上告人に対して前同日現在負担する債務及び保証期間内において負担する債務,(ウ) 保証期間を前同日から平成11年10月21日までとし,連帯保証した。
 (3) 上告人Cは,平成6年6月9日,被上告人に対し,本件貸付契約に基づき上告人Aが被上告人に対して負担する債務について,(ア) 極度額を400万円,(イ) 保証対象を上告人Aが被上告人に対して前同日現在負担する債務及び保証期間内において負担する債務,(ウ) 保証期間を前同日から平成11年6月9日までとし,連帯保証した。
 (4) 被上告人は,本件貸付契約に基づき,上告人Aに対し,平成元年11月2日から平成7年12月13日までの間,手形貸付けの方法で,第1審判決別紙一の「貸付日」欄記載の日に「支払期日」欄記載の日を弁済期として「手形額面」欄記載の金額を,利息制限法(以下「法」という。)1条1項所定の制限利率を超える利率で反復継続して貸し付けた(以下,上記一連の取引を「本件取引」という。)。
 ただし,上告人Aに交付された金員は,各貸付額から,@弁済期までの約定利息金,A被上告人が徴収する調査料及び取立料,B平成3年7月以降の貸付けについてはE信用保証株式会社に対する保証料及び事務手数料(平成5年7月14日以降の貸付けについては,事務手数料として振替手数料618円が加算されている。以下,保証料及び事務手数料を合わせて「保証料等」という。)を控除した残額である。
 (5) 被上告人の受ける調査料及び取立料は,法3条所定のみなし利息に当たる(以下,利息とみなし利息を合わせて「利息等」という。)。
 (6) 本件貸付契約に基づき上告人Aが振り出した手形のうち,平成7年8月4日までの間の貸付けに係る手形は,いずれもその満期日に決済され,各貸付金はいずれも弁済されており,同月11日から同年12月13日までの間の貸付けに係る手形6通(@振出日平成7年8月11日,金額140万円,A振出日前同日,金額115万円,B振出日同年9月8日,金額100万円,C振出日同年10月12日,金額115万円,D振出日同年11月2日,金額190万円,E振出日同年12月13日,金額125万円)は,不渡り又は決済未了となっている。
 (7) 上告人Cは,被上告人に対し,上記(6)@ないしEの手形金債務の保証債務の履行として,平成8年2月20日,同月22日及び同月23日,各100万円(合計300万円)を支払った。
 (8) 被上告人は,上告人Bに対し,平成8年5月15日,上記(6)Cの手形金債務の保証債務履行請求権を被保全債権として,上告人B所有の動産につき,仮差押命令の申立てをし,同月22日,仮差押命令を得て,その後執行申立てをし,同執行がされ,これが現在まで継続している。
 (9) E信用保証株式会社は,被上告人の貸付金取引の借主に対する保証を行うために,被上告人が100%出資して平成3年5月27日に設立した連結子会社である。E信用保証株式会社は,被上告人の貸付けに限って保証しており,被上告人の手形貸付けについては,E信用保証株式会社の保証を付けることが条件とされている。E信用保証株式会社の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の割合に比べて非常に高く,E信用保証株式会社の設立後,被上告人は貸付利率の引下げ等を行ったが,E信用保証株式会社の受ける保証料等の割合と被上告人の受ける利息等の割合との合計はE信用保証株式会社を設立する以前に被上告人が受けていた利息等の割合とほぼ同程度であった。E信用保証株式会社は,被上告人の借主との間の保証委託契約の締結業務及び保証料徴収業務をすべて被上告人に委託しており,信用保証委託契約の締結に際しても独自の審査を行っていなかった。借主に債務不履行が発生したときも,被上告人が債権回収のための訴えの提起などを行っていた。E信用保証株式会社の取締役には被上告人の代表取締役及び取締役数名が就任しており,その本店は被上告人の旧支店の建物内に置かれ,従業員の多くも被上告人の元従業員であった。
 2 本件は,被上告人に対し,(1) 上告人Aが,上記の保証料等も法3条所定のみなし利息に当たり,これも含めて本件取引につき支払った利息等のうち法所定の制限を超える部分を元本に充当すると,過払金が生じているなどとして,不当利得返還請求権に基づき過払金の返還,(2) 上告人Cが,被上告人に対して支払った合計300万円が被上告人の不当利得であるとして,不当利得返還請求権に基づきその返還,(3) 上告人Bが,上記過払金の充当の結果上記1(6)トの手形金債務が既に消滅しており,被上告人の上告人Bに対する仮差押命令の取得及びその執行は不法行為を構成するとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料の支払をそれぞれ求める事案である。
 第2 上告代理人松田安正外238名の上告受理申立て理由第三(上告受理申立理由第一点)について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 E信用保証株式会社と被上告人との関係を考慮しても,E信用保証株式会社の法人格が形がい的又は濫用的なものであるとはすぐにはいえないし,E信用保証株式会社の受ける保証料等は,被上告人の受ける利息等とは別個のものであり,これを法3条所定のみなし利息とみることはできないというほかない。
 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができず,本件の事実関係の下においては,E信用保証株式会社の受ける保証料等は,本件取引に関し被上告人の受ける法3条所定のみなし利息に当たるというべきである(最高裁平成13年(受)第1032号,第1033号同15年7月18日第二小法廷判決・裁判所時報1343号6頁参照)。
 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第3 上告代理人松田安正外238名の上告受理申立て理由第四(上告受理申立理由第二点)の四2について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 本件取引における各貸付けに対する弁済によって生じた各過払金は,各貸付けごとに生じているものと認められ,他の借入金債務には充当されない。
 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を残元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務の利息及び元本に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である(前掲最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決参照)。
 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第4 結論
 以上のとおりであるから,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉 コ治 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎)



○ 最三小判平成15.09.16 平成14年(受)第622号 過払金返還請求本訴,貸金請求反訴事件 (最高裁HPから入手,現在HPに掲載なし)

判示事項:
1 信用保証会社の受ける保証料及び事務手数料が貸金業者の受ける利息制限法3条所定のみなし利息に当たるとされた事例
2 基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金融消費貸借取引において,借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払ったことによって生じた過払金と他の借入金債務への充当

内容:
 件名 過払金返還請求本訴,貸金請求反訴事件 (最高裁判所 平成14年(受)第622号 平成15年09月16日 第三小法廷判決 破棄差戻し)
 原審 広島高等裁判所松江支部 (平成13年(ネ)第56号)

主    文
       原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
       前項の部分につき,本件を広島高等裁判所に差し戻す。
理    由
 第1 事案の概要
 1 原審が確定した事実関係等は,次のとおりである。
 (1) 食料品の卸売を業とする上告人は,平成2年1月23日,金銭の貸付けを業とする被上告人との間で,次の内容の継続的手形貸付契約(以下「本件貸付契約」という。)を締結した。
 ア 元本極度額 300万円。なお,上告人と被上告人は,元本極度額を平成4年2月7日600万円に,平成5年7月19日1000万円に,それぞれ増額した。
 イ 支払方法等 手形面記載の満期日に,手形面記載の支払場所で,手形決済の方法による。
 ウ 特約 上告人振出しの手形が不渡りとなったときは,上告人は,被上告人に対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失する。
 エ 損害金 期限の利益の喪失の日の翌日から年率37%の割合とする。
 (2) 被上告人は,本件貸付契約に基づき,上告人に対し,平成2年1月23日から平成10年12月4日までの間,手形貸付けの方法で,第1審判決別紙被告主張計算書記載のとおり,利息制限法(以下「法」という。)1条1項所定の制限利率を超える利率で反復継続して金員を貸し付けた(以下,上記一連の取引を「本件取引」という。)。
 ただし,被上告人は,このうち,平成3年7月16日以降の貸付けについては,被上告人に対する利息,調査料及び取立料のほか,A信用保証株式会社に対する保証料及び事務手数料(以下「保証料等」という。)を天引きしていたが,平成10年7月9日以降の貸付けについては,これらの金員の天引きをせずに,後払いとすることとした。
 (3) 被上告人の受ける調査料及び取立料は,法3条所定のみなし利息に当たる(以下,利息とみなし利息を合わせて「利息等」という。)。
 (4) A信用保証株式会社は,被上告人の貸付金取引の借主に対する信用保証を行うために,被上告人が100%出資して設立した子会社であり,被上告人と役員の一部が共通している。A信用保証株式会社は,被上告人の貸付けに限って保証しており,被上告人の手形貸付けについては,A信用保証株式会社の保証を付けることが条件とされている。A信用保証株式会社の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の割合に比べて非常に高く,A信用保証株式会社の設立後,被上告人は貸付利率の引下げ等を行ったが,A信用保証株式会社の受ける保証料等の割合と被上告人の受ける利息等の割合との合計はA信用保証株式会社を設立する以前に被上告人が受けていた利息等の割合とほぼ同程度であった。A信用保証株式会社は,被上告人の借主との間の保証委託契約の締結業務及び保証料徴収業務を被上告人に委託しており,信用調査業務についても被上告人が主体となって行い,債権回収業務も被上告人が相当程度代行していた。
 (5) 本件貸付契約に基づき上告人が振り出した手形のうち,平成10年4月15日までの間の貸付けに係る手形は,いずれもその満期日に決済され,各貸付金はいずれも弁済されたが,同年6月8日から同年12月4日までの間の貸付けに係る手形7通は,不渡り又は決済未了となっている。
 2 本件本訴請求事件は,上告人が被上告人に対し,本件取引につき法所定の制限を超える利息等として支払った部分を元本に充当すると過払金が生じているなどとして,過払金の不当利得返還を請求する事案であり,本件反訴請求事件は,被上告人が上告人に対し,本件取引に基づく貸金残額の返還を請求する事案である。
 第2 上告代理人三枝久の上告受理申立て理由について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 被上告人とA信用保証株式会社とは緊密な関係があることは認められるが,被上告人が借主から徴収した保証料等を毎月2回A信用保証株式会社に対して支払っていること,A信用保証株式会社が被上告人に対して代位弁済する場合には,実際にA信用保証株式会社から被上告人に対して小切手による支払がされていることに照らせば,収支の点で両者が混同している状態にあるとはいえない。A信用保証株式会社が被上告人の100%子会社であり,役員の一部が共通しているとはいえ,A信用保証株式会社の法人格が完全に形がい化し,実体的な評価として被上告人と一体であるとまでいうことはできない。そうすると,A信用保証株式会社の受ける保証料等は法3条所定のみなし利息に当たるということはできない。
 また,本件取引上の各貸付けに対する弁済によって生じた過払金を他の借入金債務に充当する場合,上告人が期限までの利息を支払う必要があること,各過払金を他の借入金債務に当然充当する旨の合意がされたことをうかがわせる事情は見いだせないことに照らせば,各貸付けに対する弁済によって生じた過払金は,他の借入金債務には充当されないというべきである。
 2 しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 本件の事実関係の下においては,A信用保証株式会社の受ける保証料等は,本件取引に関し被上告人の受ける法3条所定のみなし利息に当たるというべきである(最高裁平成13年(受)第1032号,第1033号同15年7月18日第二小法廷判決・裁判所時報1343号6頁参照)。
 また,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を残元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である(前掲最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決参照)。
 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第3 結論
 以上のとおりであるから,原判決中上告人の敗訴部分を破棄し,更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖)




○ 最二小判平成16.02.20 平成14年(受)第912号 不当利得金返還請求事件(第58巻2号380頁) (最高裁HP該当判例) 裁判所時報1358号,判例タイムズ1147号107頁,金融法務事情1707号98頁,判例時報1853号28頁

判示事項:
 債務者が貸金業者から交付された貸金業の規制等に関する法律18条1項所定の事項が記載されている書面で振込用紙と一体となったものを利用して貸金業者の銀行口座に対する払込みの方法によって利息の支払をした場合と同項所定の要件の具備

要旨:
 貸金業者が,貸金の弁済を受ける前に,その弁済があった場合の貸金業の規制等に関する法律18条1項所定の事項が記載されている書面で貸金業者の銀行口座への振込用紙と一体となったものを債務者に交付し,債務者がこの書面を利用して同銀行口座に対する払込みの方法によって利息の支払をしたとしても,同法43条1項の適用要件である同法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできない。
参照・法条:
  貸金業の規制等に関する法律18条1項,貸金業の規制等に関する法律43条1項,利息制限法1条1項

内容:
 件名  不当利得金返還請求事件 (最高裁判所 平成14(受)912 第二小法廷・判決 破棄差戻し)
 原審  H14.02.28 札幌高等裁判所 (平成13(ネ)323)

主    文
     原判決を破棄する。
     本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理    由
 上告代理人樋川恒一,同濱本光一,同竹之内洋人,同新川生馬,同森越壮史郎,同八十島保の上告受理申立て理由について
 1 原審が確定した事実関係等は,次のとおりである。
 (1) 株式会社A(以下「A」という。)は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む被上告人との間で,平成5年11月26日,金銭消費貸借契約等継続取引に関する基本取引約定を締結し,Aの代表取締役である上告人は,同日,この約定に基づきAが被上告人に対して負担する債務について,根保証元本限度額を200万円,保証期間を同10年11月25日までとする連帯保証をした。Aと被上告人は,平成7年9月27日,上記基本取引約定を更新したが,その際,上告人と被上告人は,上記連帯保証に係る契約について,根保証元本限度額を400万円,保証期間を同12年9月26日までとする旨改定をした。
 (2) 上記基本取引約定に基づき,被上告人は,Aに対し,@ 平成5年11月26日に返済期日を同6年1月5日として200万円を,A 同7年9月27日に返済期日を同年11月5日として200万円を,いずれも日歩8銭の利率で貸し付けた(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」という。)。
 本件各貸付けの元本の返済期日は,1か月ずつその都度延長されることが繰り返された。
 (3) 被上告人は,毎月,Aに対し,本件各貸付けの元本の返済期日である毎月5日の約10日前である前月25日ころに,返済期日から先1か月分についての本件各貸付けに係る利息及び費用(以下,利息及び費用を合わせて「利息等」という。)の銀行振込みによる支払を求める旨の各書面(被上告人の銀行口座への振込用紙と一体となったもの。以下「本件各請求書」という。)を送付した。なお,この利息等の金額は,利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超えるものであった。また,本件各請求書には,充当関係が不明な一部の書面を除き,利息等として支払われる金額の充当関係等の法18条1項に掲げる事項の記載がされていた。
 上告人は,本件各貸付けに係る債務の弁済として,A名義で,原判決別紙計算書の番号2から22まで及び24から77までの各「取引年月日」欄記載の各年月日に各「返済額(円)」欄記載の金額を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各貸付けにつき支払われた利息等のうち利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じており,この過払金は,実質的には上告人が負担したものであると主張して,不当利得返還請求権に基づき,また,仮に,Aによる返済と認められる部分があるとすれば,その部分については,主債務者であるAに対する求償債権を保全するため,Aが被上告人に対して有する不当利得返還請求権を上告人が代位行使すると主張して,債権者代位権に基づき,過払金の返還を求める事案である。
 3 原審は,次のとおり判断し,本件各弁済による被上告人の不当利得返還債務は存在しないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 貸金業者が,法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)を返済期日の前に債務者に交付し,しかもこの書面が貸金業者の銀行口座への振込用紙と一体となって作成されているような場合には,債務者が上記書面を用いてそこに記載された弁済額と一致する金額を銀行振込みの方式により払い込む以上,債務者は,振込手続をするのと同時に又はその直後の時期に,弁済額の具体的な充当の内訳等を含む同項所定の事項を漏れなく認識しているものとみることができ,また,振込手続を完了して振込金受取書の交付を受けた時点において,上記書面の交付は同項所定の要件を満たすことになるとみることができる。したがって,その振込み後に,貸金業者が債務者に対し,更に18条書面の交付をしなくとも,上記書面の交付により同項所定の要件を満たすことになる。
 本件においては,充当関係が不明な一部の書面を除き,本件各貸付けの返済期日の約10日前ごとに,被上告人からAに対し,法18条1項所定の事項の記載がある本件各請求書が交付されているから,上告人が本件各請求書と一体となった振込用紙を利用して,本件各請求書に記載された弁済額と一致する金額を被上告人に対して振り込んだ支払については,同項所定の要件を満たすものというべきである。
 したがって,本件各貸付けに係る利息の約定に基づき,上告人によってされた利息の制限額を超える金銭部分の任意の支払は,法43条1項により有効な利息の債務の弁済とみなされる。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が,利息の制限額を超え,利息制限法上,その超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)と,上記業務規制に違反した場合の罰則(平成15年法律第136号による改正前の法49条3号)が設けられていること等にかんがみると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものである。
 また,利息の制限額を超える金銭の支払が貸金業者の預金口座に対する払込みによってされたときであっても,特段の事情のない限り,法18条1項の規定に従い,貸金業者は,この払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければならないと解すべきである(最高裁平成8年(オ)第250号同11年1月21日第一小法廷判決・民集53巻1号98頁参照)。
 そして,18条書面は,弁済を受けた都度,直ちに交付することが義務付けられていることに照らすと,貸金業者が弁済を受ける前にその弁済があった場合の法18条1項所定の事項が記載されている書面を債務者に交付したとしても,これをもって法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできない。したがって,【要旨】本件各請求書のように,その返済期日の弁済があった場合の法18条1項所定の事項が記載されている書面で貸金業者の銀行口座への振込用紙と一体となったものが返済期日前に債務者に交付され,債務者がこの書面を利用して貸金業者の銀行口座に対する払込みの方法によって利息の支払をしたとしても,法18条1項所定の要件を具備した書面の交付があって法43条1項の規定の適用要件を満たすものということはできないし,同項の適用を肯定すべき特段の事情があるということもできない。
 そうすると,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,その余の点について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 亀山継夫 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 滝井繁男)



○ 最二小判平成16.02.20 平成15(オ)386、平成15(受)390 不当利得返還請求事件(第58巻2号475頁) (最高裁HP該当判例) 裁判所時報1358号,判例タイムズ1147号101頁,金融法務事情1707号98頁,判例時報1853号32頁
判示事項:
1 利息の天引きと貸金業の規制等に関する法律43条1項に規定するみなし弁済
2 貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に該当するための要件
3 貸金業者から債務者に対して弁済の直後に貸金業の規制等に関する法律18条1項所定の事項を記載した書面の交付がされたものとみることができないとされた事例

要旨:
1 貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における天引利息については,貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用はない。
2 貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に該当するためには,当該書面に同項所定の事項のすべてが記載されていなければならない。
3 貸金業者が貸金の弁済を受けた日から20日余り経過した後に債務者に当該弁済についての書面を送付したとしても,貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用要件である同法18条1項所定の事項を記載した書面の弁済直後における交付がされたものとみることはできない。
(1〜3につき補足意見がある。)
参照・法条:
  貸金業の規制等に関する法律17条1項,貸金業の規制等に関する法律18条1項,貸金業の規制等に関する法律43条1項,利息制限法1条1項,利息制限法2条

内容:
 件名  不当利得返還請求事件 (最高裁判所 平成15(オ)386、平成15(受)390 第二小法廷・判決 破棄差戻し)
 原審  H14.11.28 東京高等裁判所 (平成14(ネ)1142)

主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理    由
 上告代理人及川智志外102名の上告受理申立て理由について
 1 原審が確定した事実関係は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む被上告人との間で,平成7年5月19日,上告人が被上告人から手形割引,金銭消費貸借等の方法により継続的に信用供与を受けるための基本的事項について合意した(以下,この合意を「本件基本契約」という。)。上告人は,被上告人に対し,本件基本契約の合意内容を記載した「手形割引・金銭消費貸借契約等継続取引に関する承諾書並びに限度付根保証承諾書」を差し入れ,その後,被上告人からの借入金の増額に伴い,5回にわたり,上記書面とほぼ同一内容の書面を作成し,提出した。被上告人は,これらの書面の提出を受ける都度,上告人に対し,その写し(以下「本件各承諾書写し」という。)を交付した。
 (2) 本件基本契約に基づき,被上告人は,上告人に対し,それぞれ,平成7年5月19日から同11年8月13日にかけての原判決別紙取引1から30までの計算表の「契約日」欄記載の各年月日に,「貸付金額」欄記載の各金銭を貸し付けたが,元本の支払方法は一括払,弁済期日は「弁済期日」欄記載の日,利率は日歩8銭とし,同表の各番号1の「支払金額」欄記載の各金銭を「利息始期」欄記載の日から「利息終期」欄記載の日までの利息及び手数料として天引きした。その後,被上告人と上告人は,平成12年2月4日,原判決別紙取引1,3及び14の計算表の各貸付けを同取引31の計算表の貸付けとし,同取引21,23及び27の計算表の各貸付けを同取引32の計算表の貸付けとする準消費貸借契約を締結した(以下,これらの金銭消費貸借及び準消費貸借取引に係る原判決別紙取引1から32までの計算表の各貸付けを,それぞれ「取引1の貸付け」,「取引2の貸付け」などといい,これらの貸付けを「本件各貸付け」と総称する。)。  被上告人は,上告人に対し,@ 取引1から20まで及び取引22の各貸付けに際し,上告人が被上告人に差し入れた各「借用証書」とほぼ同一内容が記載された「お客様控え」と題する各借用証書控え(以下「本件各借用証書控え」という。)を,A 取引21及び取引23から29までの各貸付けに際し,上告人が被上告人に差し入れた各「債務弁済契約証書」の写し(以下「本件各債務弁済契約証書写し」という。)を,テ 取引30の貸付けに際し,上告人が被上告人に差し入れた「金銭消費貸借契約証書」の写し(以下「本件金銭消費貸借契約証書写し」という。)を,それぞれ交付した。
 なお,本件各貸付けのうちの幾つかの貸付けについては,当初の元本の返済期日が1か月ずつその都度延長されることが繰り返された。  (3) 被上告人は,上告人に対し,本件各貸付けの元本又は利息の返済期日である毎月5日の約10日前である前月の25日ころに,返済期日から先1か月分についての本件各貸付けに係る利息及び費用(以下,利息及び費用を合わせて「利息等」という。)の銀行振込みによる支払を求める旨の各書面(被上告人の銀行口座への振込用紙と一体となったもの。以下「本件各取引明細書」という。)を送付した。なお,この利息等の金額は,利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超えるものであった。
 上告人は,被上告人に対し,それぞれ,本件各貸付けの弁済として,原判決別紙取引1から32までの計算表の番号2以下の「支払日」欄記載の各年月日に,「支払金額」欄記載の各金銭を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。なお,上告人による本件各弁済の日から20日余り経過した後に,被上告人から上告人に送付された本件各取引明細書には,前回の支払についての充当関係が記載されているものがあった。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各貸付けにつき支払われた利息等のうち利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を求める事案である。
 3 原審は,次のとおり判断し,本件各弁済による被上告人の不当利得返還債務は存在しないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 (1) 利息制限法2条は,利息の天引きがされた場合の同法1条1項の規定の適用の仕方,すなわち,受領額を元本として計算した場合の約定利率が同項の制限に服することを定めているのであるから,法43条1項が一定の要件の下に利息制限法1条1項の規定の適用を排除しているのは,同法2条の規定の適用をも排除する趣旨と解するのが相当である。したがって,利息の天引きについても,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上でこれを支払えば,法43条1項の規定の適用対象となる任意の弁済に当たる。
 (2) 被上告人は,上告人に対し,本件各承諾書写しを交付しているほか,取引1から30までの各貸付けに係る金銭消費貸借契約締結の際には,本件各借用証書控え,本件各債務弁済契約証書写し又は本件金銭消費貸借契約証書写しを交付している。本件各借用証書控えには,契約日,貸付金額,弁済期,返済方法,利率(日歩及び実質年率)及び損害金の約定のほか,契約番号,貸付金利息及び諸費用の額,受領金額等が記載されており,また,本件各債務弁済契約証書写し及び本件金銭消費貸借契約証書写しには,契約日,貸付金額,弁済期,返済方法,利息の約定(先払の旨と日歩,実質年率),損害金の約定のほか,事務手数料の額等が記載されており,これらの書面の交付により,本件各貸付けについては法17条1項の要件を具備した書面の交付がされたものといえる。
 (3) 上告人による本件各弁済の日から20日余り経過した後に,被上告人から上告人に送付された本件各取引明細書には,前回の支払についての充当関係が記載されているものがある。被上告人がその支払を確認するためにはある程度の時間を要すると考えられるほか,予定されている次回の支払期限の前には別途,本件各取引明細書が送付されており,債務者である上告人が次回の支払をするに当たって,具体的に既払金の充当関係やこの支払後の残元本の額等を知ることができたものと認められるから,上記のように支払から20日余り経過した後にその支払についての充当関係が記載された本件各取引明細書が送付された各支払については,法18条1項所定の要件を具備した書面の交付がされたものといえる。
 4 しかしながら,原審の上記判断は,いずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。  (1) 利息制限法2条は,貸主が利息を天引きした場合には,その利息が制限利率以下の利率によるものであっても,現実の受領額を元本として同法1条1項所定の利率で計算した金額を超える場合には,その超過部分を元本の支払に充てたものとみなす旨を定めている。そして,法43条1項の規定が利息制限法1条1項についての特則規定であることは,その文言上から明らかであるけれども,上記の同法2条の規定の趣旨からみて,法43条1項の規定は利息制限法2条の特則規定ではないと解するのが相当である。
 したがって,【要旨1】貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における天引利息については,法43条1項の規定の適用はないと解すべきである。これと異なる原審の前記3(1)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (2) 法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制限法上,その超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守したときには,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)と,上記業務規制に違反した場合の罰則(平成15年法律第136号による改正前の法49条3号)が設けられていること等にかんがみると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものである。
 法43条1項の規定の適用要件として,法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)をその相手方に交付しなければならないものとされているが,【要旨2】17条書面には,法17条1項所定の事項のすべてが記載されていることを要するものであり,その一部が記載されていないときは,法43条1項適用の要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。
 上告人は,原審において,平成7年5月19日に被上告人との間で本件基本契約を締結した際に,被上告人に対し,根抵当権設定に必要な書類を提出した旨の主張をしており,仮に,この主張事実が認められる場合には,その担保の内容及び提出を受けた書面の内容を17条書面に記載しなければならず(平成12年法律第112号による改正前の法17条1項8号,平成12年総理府令・大蔵省令第25号による改正前の貸金業の規制等に関する法律施行規則13条1項1号ハ,ヌ),これが記載されていないときには,法17条1項所定の事項の一部についての記載がされていないこととなる。ところが,原審は,上記主張事実についての認定判断をしないで,本件各承諾書写し,本件各借用証書控え,本件各債務弁済契約証書写し及び本件金銭消費貸借契約証書写しの交付により,本件各貸付けにつき法17条1項所定の要件を具備した書面の交付があったと判断したものであって,原審の前記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (3) 法18条1項は,貸金業者が,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,同項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)をその弁済をした者に交付しなければならない旨を定めている。  本件各弁済は銀行振込みの方法によってされているが,利息の制限額を超える金銭の支払が貸金業者の預金口座に対する払込みによってされたときであっても,特段の事情のない限り,法18条1項の規定に従い,貸金業者は,この払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければならないと解すべきである(最高裁平成8年(オ)第250号同11年1月21日第一小法廷判決・民集53巻1号98頁参照)。
 そして,17条書面の交付の場合とは異なり,18条書面は弁済の都度,直ちに交付することを義務付けられているのであるから,18条書面の交付は弁済の直後にしなければならないものと解すべきである。
 【要旨3】前記のとおり,上告人による本件各弁済の日から20日余り経過した後に,被上告人から上告人に送付された本件各取引明細書には,前回の支払についての充当関係が記載されているものがあるが,このような,支払がされてから20日余り経過した後にされた本件各取引明細書の交付をもって,弁済の直後に18条書面の交付がされたものとみることはできない(なお,前記事実関係によれば,本件において,その支払について法43条1項の規定の適用を肯定するに足りる特段の事情が存するということはできない。)。これと異なる原審の前記3(3)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,上記の諸点についての論旨はいずれも理由があり,その余の論旨及び上告理由について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官滝井繁男の補足意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 裁判官滝井繁男の補足意見は,次のとおりである。
 私は,法廷意見に賛成するものであるが,利息制限法と法43条1項との関係についての論旨にかんがみ,この点についての私の意見を補足して述べておきたい。
 法43条1項は,債務者が利息制限法を超える利息を支払った場合であっても,その支払が任意に行われ,かつ,貸金業者が法所定の業務規制に従って法17条及び18条各所定の要件を具備した書面を債務者に交付しているときは,その支払を例外的に有効な利息の債務の弁済とみなしている。
 ここで任意の弁済とは,債務者が自己の自由な意思に基づいて支払ったことをいうべきところ,本件のような天引きが行われたときは,債務者が天引き分を自己の自由な意思に基づいて利息として支払ったものということはできないから,この点からも,天引きされた部分に関する限り法43条1項の適用を受けることはできないものといわなければならない。
 また,本件各貸付けの中には,取引21,23,27,30の各貸付けのように,元本の弁済期を契約日の約5年後とした上で,その間,利息の制限額を超える部分を含む利息等を1か月ごとに前払することとし,その支払を怠れば,期限の利益を失い,債務全額を即時弁済することを求められるとともに,年40.004%の割合による損害金を支払わなければならないとの内容の条項を含んだ取引約定書を用いているものがある。
 このような条項を含む取引においては,約定に従って利息の支払がされた場合であっても,その支払は,その支払がなければ当初の契約において定められた期限の利益を失い,遅延損害金を支払わなければならないという不利益を避けるためにされたものであって,債務者が自己の自由な意思に従ってしたものということはできない。
 このような期限の利益喪失条項は,当事者間の合意に基づくものではあるが,そのような条項に服さなければ借り入れることができない以上,利息制限法の趣旨に照らして,この約定に基づく支払を任意の支払ということはできないものというべきである。
 また,法43条1項の規定が,利息制限法上無効となる約定に従ってされた利息の支払であっても,金融業者が厳格な遵守を求められている前記業務規制に従って法17条及び18条各所定の要件を具備した書面を債務者に交付している場合に限ってその任意の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めていることなどから,その適用要件の解釈を厳格にすべきことは法廷意見の指摘するとおりである。このような,法43条1項の規定の趣旨からすると,17条書面及び18条書面には,単に所定の事項がすべて記載されていなければならないというにとどまらず,所定の事項が正確かつ容易に債務者に理解できるように記載されていることが求められているものといわなければならない。
 以上によれば,17条書面は,本来,一通の書面によるべきものである。そして,法17条1項が債務者に同項所定の事項についての正確な認識を得させることを目的とするものであることを考慮すると,例外的に複数の書面によらざるを得ない場合であっても,各文書に所定の事項がすべて記載されていることはもとより,各文書間の相互の関連が明らかになっていて,その記載内容が債務者に正確かつ容易に理解し得るようになっていなければならないというべきである。
 これを本件についてみると,本件各貸付けの中には,契約時に上告人に交付された本件各借用証書控えには,約1か月後に元本を一括弁済するとの定めがあるものの,別に交付された本件各承諾書写しには,被上告人が認めた場合には,別途送付される取引明細書記載の利息を支払うことを条件に,所定の期間継続取引ができるとの約定をした上で,この約定によって1か月ごとの取引の延長を繰り返しているものが少なくない。
 上記の約定に基づいて弁済期が延長された場合は,契約内容に変更があったものとみるべきであって,その変更内容を記載した17条書面の交付が必要であると解されるところ,本件においては,被上告人は,17条書面として,これを記載した書面を上告人に交付していない。もっとも,本件では弁済期の10日前ころに,被上告人から上告人に当該借入金に係る1か月分の前払利息等の銀行振込みを求める本件各取引明細書が送付されていることから,上告人は,それによって所定の日までに所定の利息等を振り込めば弁済期が延長されることを理解し得るものの,振込みが所定の期日に遅れた場合又は所定の金額に足りない振込みが行われた場合には,上告人は,その次の前払利息を催告する際に送付される本件各取引明細書に前回の支払の充当関係が記載されているのを見るまでは,弁済期が延長されたかどうかを知ることはできないのである。このような点を考慮すると,上記の本件各借用証書控え,本件各承諾書写し,本件各取引明細書は,その相互の関連が必ずしも明らかではなく,これらの書面によって,上告人が法17条1項所定の事項を正確かつ容易に理解し得るかは疑問であり,また,17条書面が遅滞なく交付されたとみることもできない。
 したがって,上記各書面の交付によっては,法17条1項所定の要件を具備した書面の交付があるとはいえないから,法43条1項所定の要件を備えているものとはいえないものというべきである。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫)



○ 最二小判平成16.07.09 平成16年(オ)第424号、平成16年(受)第425号 債務不存在確認,貸金等請求事件 (最高裁HPから入手,現在HPに掲載なし)
要旨:
1 貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づく天引利息については,貸金業法43条1項の適用はない。
2 貸金業法18条書面の交付は弁済の直後にしなければならず,弁済を受けてから7ないし10日以上後に領収書が交付された場合,弁済の直後に18条書面を交付したものとみることはできない。

内容:  件名 債務不存在確認,貸金等請求事件 (最高裁判所 平成16(オ)424、平成16(受)425 平成16年07月09日 第二小法廷判決 破棄差戻し)
 原審 東京高等裁判所 (平成15(ネ)1642)

主    文
       原判決中上告人らの敗訴部分を破棄する。
       前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理    由
 上告代理人和田聖仁の上告受理申立て理由について
 1 原審が確定した事実関係は,次のとおりである。
 (1) 写真の現像等を業とする株式会社である上告人株式会社Y1は,平成9年6月23日,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む被上告人との間で,「約定書(基本約定)」を取り交わし,上告人Y2及び上告人Y3は,同年8月25日,被上告人に対し,この約定に基づき上告人株式会社Y1が被上告人に対して負担する債務について,保証債務極度額を600万円,保証期間を平成14年6月22日までとする連帯保証をした。
 上告人株式会社Y1及び上告人Y2は,平成11年5月18日,被上告人との間で,上記「約定書(基本約定)」と同旨の「基本取引約定書兼根保証契約書」(以下,「約定書(基本約定)」又は「基本取引約定書兼根保証契約書」による取引約定を「本件基本取引約定」という。)を取り交わした。
 (2) 被上告人は,本件基本取引約定に基づき,上告人株式会社Y1に対し,平成9年6月23日から平成12年2月14日までの間,第1審判決別紙計算書の「年月日」欄(ただし,対応する「貸金額」欄が空欄のものを除く。)記載の日に「貸金額」欄記載の金銭を貸し付けたが,その際,「天引額」欄記載の金額を天引きした上で「交付額」欄記載の金額を交付した(これらの貸付けを同計算書記載の番号に従い,「貸付け1」などという。)。
 上告人株式会社Y1は,被上告人に対し,貸付け1から30までについては,同計算書の「年月日」欄(ただし,対応する「支払額」欄が空欄のものを除く。)記載の日に「支払額」欄記載の金額を弁済しており,これらの貸付けは完済になっている。
 (3) また,被上告人は,本件基本取引約定に基づき,上告人株式会社Y1に対し,平成12年5月11日から平成13年7月19日までの間,同計算書の「年月日」欄(ただし,対応する「貸金額」欄が空欄のものを除く。)記載の日に「貸金額」欄記載の金銭を利息等を天引きすることなく貸し付けた(これらの貸付けについても,同計算書記載の番号に従い,「貸付け31」などという。)。
 上告人株式会社Y1は,被上告人に対し,貸付け31から39までについては,同計算書の「年月日」欄(ただし,対応する「支払額」欄が空欄のものを除く。)記載の日に「支払額」欄記載の金額を弁済したが,貸付け40から42までについては弁済していない。
 (4) 貸付け31から33までについては,手形決済の方法で弁済がされており,被上告人は,上告人株式会社Y1から各弁済を受けてから7ないし10日以上後に,領収書(以下「本件各領収書」という。)を上告人株式会社Y1に交付している。
 2 本件は,上告人株式会社Y1が,被上告人に対し,上記各貸付けにつき支払われた利息等のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を請求し,被上告人が,上告人株式会社Y1並びにその保証人である上告人Y2及び上告人Y3に対し,貸付け40から42までの貸金の返還を請求する事案である。
 3 原審は,次のとおり判断し,上告人株式会社Y1の請求を棄却し,被上告人の請求を一部認容した。
 (1) 利息制限法2条は,利息の天引きがされた場合の同法1条1項の規定の適用の仕方,すなわち,受領額を元本として計算した場合の利率が同項の制限に服することを定めているのであるから,法43条1項が一定の要件の下に利息制限法1条1項の規定の適用を排除しているのは,利息の天引きがされた場合の規定である同法2条の規定の適用をも排除する趣旨と解するのが相当である。したがって,利息の天引きについても,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上でその天引きを承諾したのであれば,法43条1項所定の任意の弁済に当たる。
 利息の天引きがされた貸付け1から30までについては,被上告人が上告人株式会社Y1に対して法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)及び法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)をいずれも交付した事実が認められ,法43条1項の規定の適用要件を満たすものということができる。
 (2) 利息の天引きがされていない貸付け31から33までについては,被上告人が上告人株式会社Y1に対して17条書面を交付しており,かつ,各弁済については,被上告人は,上告人株式会社Y1から各弁済を受けた都度,直ちに,18条書面を上告人株式会社Y1に対して交付したものということができる。
 したがって,上記各弁済については,法43条1項により有効な利息の債務の弁済とみなされる。
 4 しかしながら,原審の上記判断は,いずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 貸金業者との間の金銭消費貸借上の約定に基づき利息の天引きがされた場合における天引利息については,法43条1項の規定の適用はないと解するのが相当である(最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。したがって,貸付け1から30までについては,法43条1項の規定の適用要件を欠くものというべきである。これと異なる原審の前記3(1)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (2) 法18条1項は,貸金業者が,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,18条書面をその弁済をした者に交付しなければならない旨を定めている。
 そして,17条書面の交付の場合とは異なり,18条書面は弁済の都度,直ちに交付することが義務付けられているのであるから,18条書面の交付は弁済の直後にしなければならないものと解すべきである(前掲最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決参照)。
 前記のとおり,被上告人は,前記各弁済を受けてから7ないし10日以上後に上告人株式会社Y1に対して本件各領収書を交付しているが,これをもって,上記各弁済の直後に18条書面を交付したものとみることはできない(なお,前記事実関係によれば,本件において,上記各弁済について法43条1項の規定の適用を肯定するに足りる特段の事情が存するということはできない。)。したがって,貸付け31から33までについても,法43条1項の規定の適用要件を欠くものというべきである。これと異なる原審の前記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,上記の各点についての論旨はいずれも理由があり,その余の論旨及び上告理由について判断するまでもなく,原判決中上告人らの敗訴部分は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 津野 修)



○ 最三小判平成17.07.19 平成16年(受)第965号 過払金等請求事件 (最高裁HP該当判例)
要旨:
 貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,特段の事情のない限り,信義則上これを開示すべき義務を負う

内容:  件名 過払金等請求事件 (最高裁判所 平成16年(受)第965号 平成17年07月19日 第三小法廷判決 破棄差戻し)
 原審 大阪高等裁判所 (平成15年(ネ)第3348号)

主    文
       原判決を破棄する。
       本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理    由
上告代理人B,同Aの上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む貸金業者である。
(2) 被上告人は,第1審判決別紙「利息制限法による計算書」記載のとおり,平成4年2月26日から平成14年10月10日まで,109回にわたって上告人に金銭を貸し付け,129回にわたって上告人から弁済を受けた。
(3) 上記各貸付け(以下「本件各貸付け」という。)の約定利率は,利息制限法1条1項所定の制限利率を超過している。
(4) A弁護士は,平成14年10月,上告人から債務整理を依頼され,同年11月1日付け通知書で,被上告人に対し,上告人の代理人となる旨の通知をするとともに,上告人と被上告人との間の全取引の明細が整わないと返済の計画を立てることができず,返済案の提示が遅れる旨付記した上,過去の全取引履歴の開示を要請した。しかし,被上告人は,取引履歴を全く開示しなかった。
(5) A弁護士は,同月25日,同弁護士の事務所の事務員(以下「事務員」という。)に指示して,債権届を至急提出するよう被上告人に電話連絡をさせた。その際,被上告人の担当者は,和解を前提とする話合いを申し出たが,事務員は,先に取引履歴の開示を求める旨返事をした。
(6) A弁護士は,同年12月10日及び平成15年1月10日にも,事務員に上記電話連絡と同様の電話連絡をさせ,さらに,同年2月12日付け書面及び同年3月13日付け取引履歴開示請求書により全取引履歴の開示を求めたが,被上告人はこれに応じなかった。
(7) 上記取引履歴開示請求書には,B弁護士も上告人の代理人になること,同年3月20日までに取引履歴を開示するよう求めることが記載されていたので,被上告人の担当者は,同月14日,B弁護士に電話をして和解を申し出たが,同弁護士は,早急に取引履歴の開示を求めると言ってこれを断り,同年4月4日の電話で,被上告人に対して更に取引履歴の開示を求めた。これに対して,被上告人の担当者は,「みなし弁済の規定の適用を主張する。和解交渉をさせていただくが,取引履歴の開示はできない。」 と答えた。
(8) B弁護士と被上告人の担当者との間では,同月15日,16日にも電話で同様のやり取りがあり,結局,上告人は,同月18日,本件訴訟を提起した。
(9) 本件訴訟は,上告人が,被上告人に対し,本件各貸付けにつき支払われた利息について,利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超える部分を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を求めるとともに,貸金業者である被上告人は,貸金業法等の法令又は契約関係から生ずる信義誠実の原則に基づき取引履歴の開示義務があるのに,合理的な理由なく上告人からの開示要求に応じなかったものであり,そのために上告人の債務整理が遅れ,上告人は精神的に不安定な立場に置かれたとして,不法行為による慰謝料の支払を求めるものであるが,過払金の返還請求については,第1審で認容され,被上告人はこれに対して不服を申し立てなかった。
(10) 被上告人は,本件訴訟(第1審)において上告人との間の全取引履歴の開示をした。
2 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断し,上告人の慰謝料請求を棄却すべきものとした。
(1) 貸金業法その他の法令上,貸金業者の取引履歴の開示義務を定めた明文規定はない。貸金業法19条は,取引履歴の開示義務を定めたものではなく,金融庁事務ガイドライン3−2−3は,行政上の監督に関する指針と考えられるもので,法的な権利義務を定めたものとは理解できないし,その内容も一般的な開示義務があるとしたものとは理解し難い。
また,貸金業者と債務者との間には,契約関係があり,これに基づく権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行うべきものであるが,信義誠実の原則から,当然に,取引履歴の開示義務が導かれると解することも困難である。
(2) 債務者の開示要求に対し,貸金業者が取引経過に関する情報を開示しないことが,信義誠実の原則に著しく反し,社会通念上容認できないものとして,不法行為上,違法と評価される場合もあり得る。
しかし,本件の場合,上告人は,債務を確定し債権者への平等弁済等を図るためではなく,過払金返還請求をするために,取引履歴の不開示による上告人の債務整理手続への影響等の個別事情は一切明らかにせず,取引履歴の開示要求をしたものであり,これに応じなかった被上告人の行為をもって,信義則に著しく反し,社会通念上容認できないものとして,不法行為上違法と評価され,損害賠償義務が発生すると断定することは困難である。
(3) 債務整理が遅れたことによる上告人の精神的負担は,消費貸借という取引行為に起因するものであるから,基本的には,過払金返還請求(遅延損害金を含む。)が認められることにより損害がてん補される関係に立つものというべきであり,それを超えた特別の精神的損害が発生するような事情は見当たらない。
3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 貸金業法19条及びその委任を受けて定められた貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)16条は,貸金業者に対して,その営業所又は事務所ごとに,その業務に関する帳簿(以下「業務帳簿」という。)を備え,債務者ごとに,貸付けの契約について,契約年月日,貸付けの金額,貸付けの利率,弁済金の受領金額,受領年月日等,貸金業法17条1項及び18条1項所定の事項(貸金業者の商号等の業務帳簿に記載する意味のない事項を除く。)を記載し,これを保存すべき義務を負わせている。そして,貸金業者が,貸金業法19条の規定に違反して業務帳簿を備え付けず,業務帳簿に前記記載事項を記載せず,若しくは虚偽の記載をし,又は業務帳簿を保存しなかった場合については,罰則が設けられている(同法49条7号。貸金業法施行時には同条4号)。
(2) 貸金業法は,貸金業者は,貸付けに係る契約を締結するに当たり,17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)を債務者に交付し,弁済を受けた都度,直ちに18条1項所定の事項を記載した書面(以下,17条書面と併せて 「17条書面等」 という。)を弁済者に交付すべき旨を定めている(17条,18条)が,長期間にわたって貸付けと弁済が繰り返される場合には,特に不注意な債務者でなくても,交付を受けた17条書面等の一部を紛失することはあり得るものというべきであり,貸金業法及び施行規則は,このような場合も想定した上で,貸金業者に対し,同法17条1項及び18条1項所定の事項を記載した業務帳簿の作成・備付け義務を負わせたものと解される。
(3) また,貸金業法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払ったものについては,利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超えるものであっても,17条書面等の交付があった場合には有効な利息債務の弁済とみなす旨定めており(以下,この規定によって有効な利息債務の弁済とみなされる弁済を「みなし弁済」という。),貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限利率を超える約定利率で貸付けを行うときは,みなし弁済をめぐる紛争が生ずる可能性がある。
(4) そうすると,貸金業法は,罰則をもって貸金業者に業務帳簿の作成・備付け義務を課すことによって,貸金業の適正な運営を確保して貸金業者から貸付けを受ける債務者の利益の保護を図るとともに,債務内容に疑義が生じた場合は,これを業務帳簿によって明らかにし,みなし弁済をめぐる紛争も含めて,貸金業者と債務者との間の貸付けに関する紛争の発生を未然に防止し又は生じた紛争を速やかに解決することを図ったものと解するのが相当である。金融庁事務ガイドライン3−2−3(現在は3−2−7)が,貸金業者の監督に当たっての留意事項として, 「債務者,保証人その他の債務の弁済を行おうとする者から,帳簿の記載事項のうち,当該弁済に係る債務の内容について開示を求められたときに協力すること。」 と記載し,貸金業者の監督に当たる者に対して,債務内容の開示要求に協力するように貸金業者に促すことを求めている(貸金業法施行時には,大蔵省銀行局長通達(昭和58年9月30日付け蔵銀第2602号)「貸金業者の業務運営に関する基本事項について」第2の4(1)ロ(ハ)に,貸金業者が業務帳簿の備付け及び記載事項の開示に関して執るべき措置として,債務内容の開示要求に協力しなければならない旨記載されていた。)のも,このような貸金業法の趣旨を踏まえたものと解される。
(5) 以上のような貸金業法の趣旨に加えて,一般に,債務者は,債務内容を正確に把握できない場合には,弁済計画を立てることが困難となったり,過払金があるのにその返還を請求できないばかりか,更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど,大きな不利益を被る可能性があるのに対して,貸金業者が保存している業務帳簿に基づいて債務内容を開示することは容易であり,貸金業者に特段の負担は生じないことにかんがみると,貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うものと解すべきである。そして,貸金業者がこの義務に違反して取引履歴の開示を拒絶したときは,その行為は,違法性を有し,不法行為を構成するものというべきである。
(6) 前記事実関係によれば,上告人の取引履歴の開示要求に上記特段の事情があったことはうかがわれない。そして,上告人は,債務整理を弁護士に依頼し,被上告人に対し,弁護士を通じて,半年近く,繰り返し取引履歴の開示を求めたが,被上告人がこれを拒絶し続けたので,上告人は,その間債務整理ができず,結局,本件訴訟を提起するに至ったというのであるから,被上告人の上記開示拒絶行為は違法性を有し,これによって上告人が被った精神的損害については,過払金返還請求が認められることにより損害がてん補される関係には立たず,不法行為による損害賠償が認められなければならない。
4 以上と異なる見解に立って,上告人の被上告人に対する請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,慰謝料の額について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)



○ 最一小判平成17.12.15 平成17年(受)第560号 不当利得返還請求事件 (最高裁HPから入手)
要旨:
 貸金業法17条1項に規定する書面に同項所定の事項について確定的な記載をすることが不可能な場合に同書面に記載すべき事項
 いわゆるリボルビング方式の貸付けについて,貸金業法17条1項に規定する書面に「返済期間及び返済回数」及び各回の「返済金額」として記載すべき事項

内容:  件名 不当利得返還請求事件 (最高裁判所 平成17年(受)第560号 平成17年12月15日 第一小法廷判決 棄却)  原審 名古屋高等裁判所 (平成16年(ネ)第610号)

主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人の負担とする。
         
理    由
 上告人の上告受理申立て理由第一について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 上告人は,平成3年4月13日,被上告人との間で,次の内容の金銭消費貸借基本契約を締結し,その契約書を被上告人に交付した(以下,この契約を「本件基本契約」といい,この契約書を「本件基本契約書」という。)。
 ア 借入限度額 20万円
 借主は,借入限度額の範囲内であれば繰り返し借入れをすることができる。
 イ 借入利率 年43.8%
 ウ 返済方法 毎月15日限り元金1万5000円以上と支払日までの経過利息を支払う。
 (3) 上告人は,平成3年4月13日から平成14年5月20日までの間,被上告人に対し,本件基本契約に基づき,第1審判決別紙計算書の「年月日」欄記載の日に,「借入額」欄記載のとおり金銭を貸し付け(以下,これらの貸付けを併せて「本件各貸付け」という。),被上告人から,同計算書の「年月日」欄記載の日に,「返済額」欄記載のとおり弁済を受けた(以下,これらの弁済を併せて「本件各弁済」という。)。
 (4) 上告人は,本件各貸付けの都度,被上告人に対し,営業店の窓口における貸付けの場合には「領収書兼取引確認書」又は「残高確認書」と題する書面を,現金自動入出機(ATM)を利用した貸付けの場合には「領収書兼ご利用明細」と題する書面(以下,この書面と上記「領収書兼取引確認書」又は「残高確認書」と題する書面を併せて「本件各確認書等」という。)を,それぞれ交付した。
 (5) 本件基本契約書と本件各確認書等のいずれにも,法17条1項6号に掲げる「返済期間及び返済回数」や貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和58年大蔵省令第40号。以下「施行規則」という。)13条1項1号チに掲げる各回の「返済金額」の記載はない。
 2 本件は,被上告人が,上告人に対し,本件各弁済の弁済金のうち,利息制限法所定の制限利率により計算した金額を超えて支払った部分を元本に充当すると過払金を生じていると主張して,不当利得返還請求権に基づいて,過払金の返還等を求める事案である。
 これに対し,上告人は,貸金業者は,貸付けに係る契約を締結したときは,法17条1項各号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする書面(以下「17条書面」という。)を貸付けの相手方に交付しなければならないとされているところ,本件基本契約は,返済方法について返済額の決定を被上告人にゆだねる内容となっているため,上告人において法17条1項6号に掲げる「返済期間及び返済回数」や施行規則13条1項1号チに掲げる各回の「返済金額」を記載することは不可能であるから,上告人が被上告人に対して法17条1項所定のその余の事項を記載した書面を交付していれば,17条書面を交付したことになるのであって,本件各弁済は法43条1項の規定の適用要件を満たしており,同項により,利息制限法1条1項所定の制限利率により計算した金額を超えて支払った利息部分は有効な利息債務の弁済とみなされ,元本に充当されることにはならないから,過払金は生じていないと主張して,被上告人の上記主張を争っている。  3(1) 貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)等にかんがみると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものであり,17条書面の交付の要件についても,厳格に解釈しなければならず,17条書面として交付された書面に法17条1項所定の事項のうちで記載されていない事項があるときは,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである(最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。そして,仮に,当該貸付けに係る契約の性質上,法17条1項所定の事項のうち,確定的な記載が不可能な事項があったとしても,貸金業者は,その事項の記載義務を免れるものではなく,その場合には,当該事項に準じた事項を記載すべき義務があり,同義務を尽くせば,当該事項を記載したものと解すべきであって,17条書面として交付された書面に当該事項に準じた事項の記載がないときは,17条書面の交付があったとは認められず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
 (2) 前記事実関係によれば,本件各貸付けは,本件基本契約に基づいて行われたものであるが,本件基本契約の内容は,@ 被上告人は,借入限度額の範囲内であれば繰り返し借入れをすることができる,A 被上告人は,元金について,返済すべき金額の最低額(以下「最低返済額」という。)を超える金額であれば,返済額を自由に決めることができる,というものであることが明らかである。
 すなわち,本件各貸付けは,本件基本契約の下で,借入限度額の範囲内で借入れと返済を繰り返すことを予定して行われたものであり,その返済の方式は,追加貸付けがあっても,当該追加貸付けについての分割払の約束がされるわけではなく,当該追加貸付けを含めたその時点での本件基本契約に基づく全貸付けの残元利金(以下,単に「残元利金」という。)について,毎月15日の返済期日に最低返済額及び経過利息を支払えば足りるとするものであり,いわゆるリボルビング方式の一つである。したがって,個々の貸付けについての「返済期間及び返済回数」や各回の「返済金額」(以下,「返済期間及び返済回数」と各回の「返済金額」を併せて「返済期間,返済金額等」という。)は定められないし,残元利金についての返済期間,返済金額等は,被上告人が,今後,追加借入れをするかどうか,毎月15日の返済期日に幾ら返済するかによって変動することになり,上告人が,個々の貸付けの際に,当該貸付けやその時点での残元利金について,確定的な返済期間,返済金額等を17条書面に記載して被上告人に交付することは不可能であったといわざるを得ない。
 (3) しかし,本件各貸付けについて,確定的な返済期間,返済金額等を17条書面に記載することが不可能であるからといって,上告人は,返済期間,返済金額等を17条書面に記載すべき義務を免れるものではなく,個々の貸付けの時点での残元利金について,最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等を17条書面に記載することは可能であるから,上告人は,これを確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずるものとして,17条書面として交付する書面に記載すべき義務があったというべきである。そして,17条書面に最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等の記載があれば,借主は,個々の借入れの都度,今後,追加借入れをしないで,最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済していった場合,いつ残元利金が完済になるのかを把握することができ,完済までの期間の長さ等によって,自己の負担している債務の重さを認識し,漫然と借入れを繰り返すことを避けることができるものと解され,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準じた効果があるということができる。  前記事実関係によれば,本件基本契約書の記載と本件各確認書等の記載とを併せても,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載があると解することはできない。したがって,本件各貸付けについては,17条書面の交付があったとは認められず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
 4 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は,採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉 コ治 裁判官 才口千晴)



○ 最二小判平成18.01.13 平成16年(受)第1518号 貸金請求事件 (最高裁HP該当判例)
要旨:
 貸金業法施行規則15条2項の法適合性
 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の効力
 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下での制限超過部分の支払の任意性の有無

内容: 貸金請求事件 (最高裁判所 平成16年(受)第1518号 平成18年01月13日 第二小法廷判決 破棄差戻し)  原審 広島高等裁判所松江支部 (平成16年(ネ)第30号)

主    文
       原判決を破棄する。
       本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         
理    由
 第1 事案の概要
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 被上告人は,平成12年7月6日,上告人Y1に対し,300万円を,次の約定で貸し付け(以下「本件貸付け」という。),上告人Y2は,同日,被上告人に対し,上告人Y1の本件貸付けに係る債務について連帯保証をした。
 ア 利息 年29%(年365日の日割計算)
 イ 遅延損害金 年29.2%(年365日の日割計算)
 ウ 返済方法 平成12年8月から平成17年7月まで毎月20日に60回にわたって元金5万円ずつを経過利息と共に支払う。
 エ 特約 上告人Y1は,元金又は利息の支払を遅滞したときには,当然に期限の利益を失い,被上告人に対して直ちに元利金を一時に支払う(以下「本件期限の利益喪失特約」という。)。
 (3) 被上告人は,本件貸付けに係る契約を締結した際に,上告人Y1に対し,「貸付及び保証契約説明書」及び「償還表」と題する書面を交付した。
 貸付及び保証契約説明書には,利息の利率を利息制限法1条1項所定の制限利率を超える年29%とする約定が記載された後に,本件期限の利益喪失特約につき,「元金又は利息の支払いを遅滞したとき(中略)は催告の手続きを要せずして期限の利益を失い直ちに元利金を一時に支払います。」と記載され,期限後に支払うべき遅延損害金の利率を同法4条1項所定の制限利率を超える年29.2%とする約定が記載されていた。
 (4) 上告人Y1は,被上告人に対し,本件貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙元利金計算書の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
 被上告人は,上告人Y1に対し,本件各弁済の都度,直ちに「領収書兼利用明細書」と題する書面(以下「本件各受取証書」という。)を交付した。
 本件各受取証書には,貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和58年大蔵省令第40号。以下「施行規則」という。)15条2項に基づき,法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて,契約番号が記載されていた。
 2 本件は,被上告人が,本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用されるから,利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超える部分の支払も有効な債務の弁済とみなされるなどと主張して,上告人らに対し,本件貸付けの残元本189万4369円及び遅延損害金の支払を求める事案である。
 3 原審は,本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用されるとして,被上告人の請求を全部認容すべきものとした。
 第2 上告代理人山口利明の上告受理申立て理由二(1)について
 後記第4の2(2)のとおり,本件期限の利益喪失特約のうち,上告人Y1が支払期日に利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超える部分(以下「制限超過部分」という。)の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は無効であり,上告人Y1は,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
 しかしながら,法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,同項各号に掲げる事項についてその契約の内容を明らかにする書面をその相手方に対して交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を相手方に正確に知らしめることによって,後日になって当事者間にその内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解される。したがって,法17条1項及びその委任に基づき定められた施行規則13条1項は,飽くまでも当事者が合意した内容を正確に記載することを要求しているものと解するのが相当であり,当該合意が法律の解釈適用によって無効又は一部無効となる場合についても同様と解される。
 そうすると,上告人Y1と被上告人が合意した本件期限の利益喪失特約の内容を正確に記載している貸付及び保証契約説明書は,法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの),施行規則13条1項1号ヌ(平成12年総理府令第148号による改正前のもの)所定の「期限の利益の喪失の定めがあるときは,その旨及びその内容」の記載に欠けるところはないというべきである。
 以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
 第3 同二(2)について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 施行規則15条2項は,貸金業者は,法18条1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同項2号所定の契約年月日の記載に代えることができる旨規定しているのであり,契約年月日の記載がなくとも,契約番号の記載により,弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を特定するのに不足することはないから,契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書は,法18条1項所定の事項の記載に欠けるところはない。
 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 法18条1項が,貸金業者は,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,同項各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない旨を定めているのは,貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図るためであるから,同項の解釈にあたっては,文理を離れて緩やかな解釈をすることは許されないというべきである。
 同項柱書きは,「貸金業者は,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは,その都度,直ちに,内閣府令で定めるところにより,次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない。」と規定している。そして,同項6号に,「前各号に掲げるもののほか,内閣府令で定める事項」が掲げられている。
 同項は,その文理に照らすと,同項の規定に基づき貸金業者が貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに当該弁済をした者に対して交付すべき書面(以下「18条書面」という。)の記載事項は,同項1号から5号までに掲げる事項(以下「法定事項」という。)及び法定事項に追加して内閣府令(法施行当時は大蔵省令。後に,総理府令・大蔵省令,総理府令,内閣府令と順次改められた。)で定める事項であることを規定するとともに,18条書面の交付方法の定めについて内閣府令に委任することを規定したものと解される。したがって,18条書面の記載事項について,内閣府令により他の事項の記載をもって法定事項の記載に代えることは許されないものというべきである。
 (2) 上記内閣府令に該当する施行規則15条2項は,「貸金業者は,法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同項第1号から第3号まで並びに前項第2号及び第3号に掲げる事項の記載に代えることができる。」と規定している。この規定のうち,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は,他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから,内閣府令に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。
 (3) 以上と異なる見解に立って,法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書は,同項所定の事項の記載に欠けるところはないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第4 同二(3)について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 貸金業者において法43条1項の規定に基づき取得を容認され得る約定利息の支払を債務者が怠った場合に期限の利益を喪失する旨の合意は,何ら不合理なものとはいえず,また,債務者が,この合意により,約定利息の支払を強制されることになるということはできないから,上告人Y1のした利息の制限額を超える額の金銭の支払は,同項にいう「利息として任意に支払った」ものということができる。
 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として支払った金銭の額が,利息の制限額を超える場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには,その支払が任意に行われた場合に限って,例外的に,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,制限超過部分の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨,目的(法1条)等にかんがみると,法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきである(最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁,最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。
 そうすると,法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解される(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照)けれども,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
(2) 本件期限の利益喪失特約がその文言どおりの効力を有するとすると,上告人Y1は,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになる上,残元本全額に対して年29.2%の割合による遅延損害金を支払うべき義務も負うことになる。このような結果は,上告人Y1に対し,期限の利益を喪失する等の不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができず,本件期限の利益喪失特約のうち,上告人Y1が支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同項の趣旨に反して無効であり,上告人Y1は,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,制限超過部分の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
 そして,本件期限の利益喪失特約は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないけれども,この特約の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
 したがって,本件期限の利益喪失特約の下で,債務者が,利息として,利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできないと解するのが相当である。
 そうすると,本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,上告人Y1が任意に制限超過部分を支払ったとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 第5 結論
 以上のとおりであるから,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中川了滋 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 古田佑紀)



○ 最一小判平成18.01.19 平成15年(オ)第456号、平成15年(受)第467号 貸金請求事件 (最高裁HP該当判例)
要旨:
 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の効力
 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下での制限超過部分の支払の任意性の有無

内容:  件名 貸金請求事件 (最高裁判所 平成15年(オ)第456号、平成15年(受)第467号 平成18年01月19日 第一小法廷判決 破棄差戻し)
 原審 広島高等裁判所 (平成14年(ネ)第307号)

主    文
       原判決を破棄する。
       本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理    由
 上告代理人板根富規,同青木貴央の上告受理申立て理由第2の3について
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 被上告人は,平成7年5月23日,Aに対し,300万円を,次の約定で貸し付け(以下「旧貸付け」という。),上告人は,同日,被上告人に対し,Aの旧貸付けに係る債務について連帯保証をした。
 ア 利息 年29.80%(年365日の日割計算)
 イ 遅延損害金 年39.80%(年365日の日割計算)
 ウ 返済方法 平成7年6月から平成12年5月まで毎月27日に60回にわたって元金5万円ずつを経過利息と共に支払う。
 エ 特約 Aは,元金又は利息の支払を遅滞したときには,当然に期限の利益を失い,被上告人に対して直ちに元利金を一時に支払う(以下「本件期限の利益喪失特約」という。)。
 (3) 被上告人は,旧貸付けに係る契約を締結した際に,Aに対し,平成7年5月23日付け金銭消費貸借契約証書,同日付け貸付契約説明書及び償還表を交付した。
 上記金銭消費貸借契約証書及び貸付契約説明書(以下「旧契約書等」という。)には,利息の利率を利息制限法1条1項所定の制限利率を超える年29.80%とする約定が記載された後に,本件期限の利益喪失特約につき,「元金又は利息の支払を遅滞したとき(中略)は催告の手続きを要せずして期限の利益を失いただちに元利金を一時に支払います。」と記載され,期限後に支払うべき遅延損害金の利率を同法4条1項所定の制限利率を超える年39.80%とする約定が記載されていた。
 (4) Aは,被上告人に対し,旧貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙原告側元利金計算書(2)の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を弁済し,被上告人は,Aに対し,弁済の都度,「領収書兼利用明細書」と題する書面を交付した。
 (5) 被上告人は,平成10年2月20日,Aに対し,340万円を,返済方法を平成10年3月から平成15年2月まで毎月27日に60回にわたって元金5万6000円ずつ(最終回は9万6000円)を経過利息と共に支払うものとするほかは,本件期限の利益喪失特約を含めて旧貸付けと同じ約定で貸し付け(以下「本件貸付け」という。),上告人は,同日,被上告人に対し,Aの本件貸付けに係る債務について連帯保証をした。
 (6) 被上告人は,本件貸付けに係る契約を締結した際に,Aに対し,平成10年2月20日付け金銭消費貸借契約証書,同日付け貸付契約説明書及び償還表を交付した。
 上記金銭消費貸借契約証書及び貸付契約説明書(以下「本件契約書等」という。)には,旧契約書等に記載された前記(3)の約定と同旨の約定が記載されていた。
 (7) Aは,平成10年2月20日,被上告人から交付を受けた本件貸付金340万円の中から,被上告人に対し,前記(4)の各弁済のうち利息制限法1条1項所定の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超えて利息として支払った部分につき法43条1項の規定の適用があることを前提に計算された旧貸付けに係る残債務の弁済として,合計141万2640円を支払った。被上告人は,この支払によって,旧貸付けに係る債務が完済されたものと取り扱っている。
 (8) Aは,被上告人に対し,本件貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙原告側元利金計算書(1)の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を弁済し(以下,これらの弁済と前記(4),(7)記載の各弁済とを併せて「本件各弁済」と総称する。),被上告人は,Aに対し,弁済の都度,「領収書兼利用明細書」と題する書面を交付した。
 (9) Aは,平成10年9月28日に支払うべき元利金の支払を怠り,期限の利益を喪失した。
 2 本件は,被上告人が,本件各弁済のうち利息の制限額を超えて利息として支払った部分について,法43条1項の規定が適用されるから,有効な利息の債務の弁済とみなされると主張して,上告人に対し,連帯保証債務履行請求権に基づき,本件貸付けの残元本233万5954円及び遅延損害金の支払を求める事案である。
 3 原審は,次のとおり判断し,本件各弁済のうち利息の制限額を超えて利息として支払った部分については法43条1項の規定が適用されるとして,被上告人の請求を全部認容すべきものとした。
 期限の利益喪失特約は,債務者に対して約定どおりの債務の履行を促す効果を有するものであるが,同特約が公序良俗に反するなど著しく不当なものでない限り,同特約の存在とその適用による不利益の警告は,債務者に対する違法不当な圧力とはいえず,弁済の任意性に影響を及ぼさないというべきである。本件期限の利益喪失特約は,公序良俗に反するなど著しく不当なものには至らないから,その存在を理由に本件各弁済の任意性を否定することはできない。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制限法上,その超過部分(以下「制限超過部分」という。)につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには,その支払が任意に行われた場合に限って,例外的に,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,制限超過部分の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めたものである。このような法43条1項の規定の趣旨にかんがみると,同項の適用に当たっては,制限超過部分の支払の任意性の要件は,明確に認められることが必要である。法21条1項に規定された行為は,貸金業者として最低限度行ってはならない態様の取立て行為を罰則により禁止したものであって,貸金業者が同項に違反していないからといって,それだけで直ちに債務者がした制限超過部分の支払の任意性が認められるものではない。
 そうすると,法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解するのが相当である(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照)が,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。そして,債務者が制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったか否かは,金銭消費貸借契約証書や貸付契約説明書の文言,契約締結及び督促の際の貸金業者の債務者に対する説明内容などの具体的事情に基づき,総合的に判断されるべきである。
(2) ところで,本件期限の利益喪失特約がその文言どおりの効力を有するとすると,Aは,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになる上,残元本全額に対して年39.80%の割合による遅延損害金を支払うべき義務も負うことになる。しかし,このような結果は,Aに対し,期限の利益を喪失する等の不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができず,本件期限の利益喪失特約のうち,Aが支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同項の趣旨に反して無効であり,Aは,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,制限超過部分の支払を怠ったとしても,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
 そして,本件期限の利益喪失特約は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないけれども,旧契約書等及び本件契約書等における本件期限の利益喪失特約の文言は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する年39.80%の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
 したがって,本件期限の利益喪失特約の下で,債務者が,利息として,利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできない。
 そうすると,本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,Aが任意に制限超過部分を支払ったとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,上告理由について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そこで,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 横尾和子 裁判官 泉 コ治 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)



○ 最三小判平成18.01.24 平成16年(受)第424号 不当利得返還請求事件 (最高裁HP該当判例)
要旨:
 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の効力
 債務者が利息制限法所定の制限を超える約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下での制限超過部分の支払の任意性の有無

内容:  件名 不当利得返還請求事件 (最高裁判所 平成16年(受)第424号 平成18年01月24日 第三小法廷判決 破棄差戻し)  原審 福岡高等裁判所 (平成15年(ネ)第229号)

主    文
       原判決を破棄する。
       本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

        理    由
 第1 事案の概要
 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む貸金業者であり,平成12年法律第112号による改正前の出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律の一部を改正する法律(昭和58年法律第33号)附則(以下「出資法附則」という。)9項所定の業務の方法による貸金業のみを行う日賦貸金業者である。
 (2) 被上告人は,利息年109.5%,支払期日に約定の元本及び利息の支払を1回でも怠ったときは,当然に期限の利益を失い,直ちに残元本全部と利息,損害金を支払うとの条項(以下「本件期限の利益喪失条項」という。)を含む約定で,@〜Iのとおり,上告人X1に金銭を貸し付け,また,J〜Oのとおり,同上告人が代表者を務める上告人有限会社X2(以下「上告会社」という。)に金銭を貸し付けた(以下,これらの貸付けを,番号に従い,「本件@貸付け」などといい,「本件各貸付け」と総称する。)。本件A貸付けは,本件@貸付けの約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに契約が締結されたものであり,また,本件B〜I貸付けについても,同様に,その直前の貸付けの約定の返済期間の途中で,貸増しが行われたものである。本件J〜O貸付けについても,本件@〜I貸付けと同じ方法で貸付けが行われたものである。
 @ 平成 8年 7月 1日  50万円
 A 平成 8年10月24日  50万円
 B 平成 9年 1月29日  50万円
 C 平成 9年 5月28日  50万円
 D 平成 9年 9月 3日  50万円
 E 平成 9年12月 1日  50万円
 F 平成10年 2月28日  50万円
 G 平成10年 6月 3日  50万円
 H 平成10年 9月 2日  50万円
 I 平成10年12月24日  50万円
 J 平成11年 5月31日  50万円
 K 平成11年 9月14日  50万円
 L 平成11年12月29日  50万円
 M 平成12年 4月 7日  60万円
 N 平成12年 6月26日  60万円
 O 平成12年 9月22日  60万円
 (3) 被上告人は,上告人らに対し,本件各貸付けに際し,借用証書の写しをそれぞれ交付したところ,本件A〜I,K,L貸付けの各借用証書には,「契約手渡金額」欄があり,同欄の下部には,「上記のとおり借用し本日この金員を受領しました。」との記載があるにもかかわらず,上記「契約手渡金額」欄には,上記各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付けの残元本の金額との合計金額が記載されていた。
 (4) また,本件@〜J貸付けにおいては,日曜日,第2土曜日,第3土曜日,国民の祝日,年末年始休暇(毎年12月31日から翌年1月5日までの6日間)及び夏期休暇(毎年8月13日から同月17日までの5日間)には,集金をしない旨の合意があったにもかかわらず(以下,集金をしない旨の合意のある日のことを「集金休日」という。),本件@〜F貸付けの各借用証書には,集金休日の記載はなく,また,本件G〜J貸付けの各借用証書には,日曜日,第2土曜日,第3土曜日,国民の祝日及び「その他取引をなさない慣習のある休日」を集金休日とする旨の記載がされていた。
 (5) 被上告人は,上告人X1から,平成10年12月24日,本件H貸付けの弁済として,3257円を受領したにもかかわらず,被上告人が同上告人に交付した同日付けの領収書には,受領金額が2303円と記載されていた。
 (6) 本件A貸付けについては,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに本件B貸付けに係る契約が締結され,本件A貸付けに係る債務が消滅したために,同債務については,返済期間が100日未満となったものであり,また,本件C〜G,M,N貸付けについても,同様に,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たにその直後の貸付けに係る契約が締結され,旧債務が消滅したために,旧債務については,返済期間が100日未満となったものである。
 (7) 本件各貸付けについては,いずれも,契約締結時の契約内容においては,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により取り立てる日数が,返済期間の全日数の100分の70以上と定められていたところ,実際の貸付けにおいては,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めれば,返済期間の全日数の100分の70以上であったが,返済のされなかった日を除けば,返済期間の全日数の100分の70未満であった。
 (8) 上告人X1は,被上告人に対し,本件@〜I貸付けの弁済として,第1審判決別紙1の「年月日」欄記載の各年月日に,「支払額」欄記載の各金銭を支払い,また,上告会社は,被上告人に対し,本件J〜O貸付けの弁済として,同判決別紙3の「年月日」欄記載の各年月日に,「支払額」欄記載の各金銭を支払った(以下,これらの支払を「本件各弁済」と総称する。)。
 2 本件は,上告人らが,被上告人に対し,本件各弁済のとおり支払われた利息等のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超える部分(以下「制限超過部分」という。)等を元本に充当すると過払金が生じているとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を請求する事案である。
 3 原審は,本件各弁済には貸金業法43条1項の規定が適用されるから,本件各貸付けの債務は残存しており,被上告人の不当利得返還債務は存在しないとして,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
 第2 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の2の点,第3の5及び6のうち貸金業法17条1項の解釈適用の誤りをいう点,第3の10の点について
 1 原審は,次のとおり判断するなどして,本件各貸付けについては,貸金業法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面が交付されたものといえるとした。
 (1) 本件A〜I,K,L貸付けの各借用証書の「契約手渡金額」欄には,各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付金の残元本の金額との合計金額が記載されているが,借用証書には,別途,従前の貸付けの残高が記載されているのであるから,これらの借用証書であっても,貸金業法17条1項3号の「貸付けの金額」の記載要件を充足する。
 (2) 本件J貸付けの借用証書には,夏期休暇の期間を集金休日とする旨の記載が欠けているが,上記期間を集金休日とすることについては,被上告人があらかじめ上告人X1に連絡をしており,また,同上告人も,かかる取扱いについて格別の異議を述べていなかったことなどに照らすと,上記期間は,上記借用証書において集金休日とされている「その他取引をなさない慣習のある休日」に該当するものであるから,この借用証書であっても,貸金業法17条1項所定の要件を具備した書面といえる。本件@〜I貸付けの借用証書についても同様のことがいえる。
 (3) 被上告人が平成10年12月24日に本件H貸付けの弁済を受けた際に上告人X1に交付した同日付け領収書の受領金額の記載は誤りであるが,被上告人においてあえて虚偽の金額を記載したわけではなく,また,上記誤記は上告人X1に不利益を被らせるものでもなかったのであるから,この領収書であっても,貸金業法18条1項所定の要件を具備した書面といえる。
 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 貸金業法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が利息の制限額を超え,利息制限法上,制限超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた貸金業法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守したときには,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めている。貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として,貸金業に対する必要な規制等を定める貸金業法の趣旨,目的と,同法に上記業務規制に違反した場合の罰則が設けられていること等にかんがみると,同法43条1項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものである。
 貸金業法43条1項の規定の適用要件として,貸金業者は同法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)を貸付けの相手方に交付しなければならないものとされており,また,貸金業者は同法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)を弁済をした者に交付しなければならないものとされているが,17条書面及び18条書面には同法17条1項及び18条1項所定の事項のすべてが記載されていることを要するものであり,それらの一部が記載されていないときは,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない(最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁,最高裁平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁参照)。
 そして,貸金業法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに,17条書面を交付すべき義務を定め,また,同法18条1項が,貸金業者につき,貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに,18条書面を交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容や弁済の内容を書面化することで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容や弁済の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると解される。したがって,17条書面及び18条書面の貸金業法17条1項及び18条1項所定の事項の記載内容が正確でないときや明確でないときにも,同法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきであって,有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない。
 (2) 17条書面には「貸付けの金額」を記載しなければならないが(貸金業法17条1項3号),前記事実関係によれば,本件A〜I,K,L貸付けの各借用証書には,「契約手渡金額」欄があり,同欄の下部には,「上記のとおり借用し本日この金員を受領しました。」との記載があるにもかかわらず,上記「契約手渡金額」欄には,上記各貸付けに係る契約の際に被上告人から上告人らに実際に手渡された金額ではなく,実際に手渡された金額とその直前の貸付金の残元本の金額との合計金額が記載されていたというのであるから,これらの借用証書の上記事項の記載内容は正確でないというべきである。そうすると,これらの借用証書の写しの交付をもって,本件A〜I,K,L貸付けについて17条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは,借用証書に別途従前の貸付けの債務の残高が記載されているとしても,左右されるものではない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (3) 17条書面には「各回の返済期日及び返済金額」を記載しなければならないが(貸金業法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの),貸金業の規制等に関する法律施行規則(以下「施行規則」という。)13条1項1号チ),前記事実関係によれば,本件@〜F貸付けの各借用証書においては,集金休日の記載がされていなかったというのであるから,これらの借用証書の上記事項の記載内容は正確でなく,また,本件G〜J貸付けの各借用証書においては,「その他取引をなさない慣習のある休日」を集金休日とする旨の記載がされていたというのであるから,これらの借用証書の上記事項の記載内容は明確でないというべきである。そうすると,これらの借用証書の写しの交付をもって,本件@〜J貸付けについて17条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは,これらの借用証書に記載されていない期日を集金休日とすることについて,被上告人があらかじめ上告人らに連絡しており,上告人らがかかる取扱いについて格別の異議を述べていなかったとしても,左右されるものではない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (4) 18条書面には「受領金額及びその利息,賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額」を記載しなければならないが(貸金業法18条1項4号),前記事実関係によれば,被上告人が本件H貸付けの弁済を平成10年12月24日に受けた際に上告人X1に対して交付した同日付けの領収書においては,受領金額の記載が誤っていたというのであるから,この領収書の上記事項の記載内容は正確でないというべきである。そうすると,この領収書の交付をもって,本件H貸付けの平成10年12月24日の弁済について18条書面の交付がされたものとみることはできない。このことは,被上告人においてあえて虚偽の金額を記載したわけではなく,また,上記誤記が上告人X1に不利益を被らせるものでなかったとしても,左右されるものではない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 3 以上によれば,上記の諸点についての論旨はいずれも理由があり,原判決は破棄を免れない。
 第3 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の12及び13のうち貸金業法17条1項の解釈適用の誤りをいう点について
 後記第4の2(2)のとおり,本件期限の利益喪失条項のうち,上告人らが支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は無効であり,上告人らは,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
 しかしながら,前記のとおり,貸金業法17条1項が,貸金業者に17条書面の交付義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を書面化することで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者間に貸付けに係る合意の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあるのであるから,同項及びその委任に基づき定められた施行規則13条1項は,飽くまでも当事者が合意した内容を正確に記載することを要求しているものと解するのが相当であり,このことは,当該合意が法律の解釈適用によって無効又は一部無効となる場合であっても左右されるものではないと解される。
 そうすると,上告人らと被上告人が合意した期限の利益喪失条項の内容を正確に記載している本件各貸付けの各借用証書は,貸金業法17条1項8号(平成12年法律第112号による改正前のもの),施行規則13条1項1号ヌ(ただし,本件@〜M貸付けについては,同号リ(平成12年総理府令・大蔵省令第25号による改正前のもの))所定の「期限の利益の喪失の定めがあるときは,その旨及びその内容」の記載に欠けるところはないというべきである。
 論旨は採用することができない。
 第4 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の12及び13のうち本件各弁済には任意性がないと主張する点について  1 原審の判断は,次のとおりである。
 本件期限の利益喪失条項の存在により,上告人らが制限超過利息の支払を強制されているとは解されないし,「任意に」支払ったとは,本件各貸付けについての利息に充当されることを認識した上で,支払うか否かを自己の意思に基づいて判断することが可能なことをいうものであり,支払うこととした動機が上記条項の適用を免れるためであるか否かは,支払の任意性を左右するものではないから,本件各弁済は,任意にされたものといえる。
 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 貸金業法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってこれを支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解されるものの(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照),前記のとおり,同項の規定の適用要件については,これを厳格に解釈すべきものであるから,債務者が,事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には,制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず,同項の規定の適用要件を欠くというべきである。
 (2) 本件期限の利益喪失条項がその文言どおりの効力を有するとすれば,上告人らは,支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には,元本についての期限の利益を当然に喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるが,このような結果は,上告人らに対し,期限の利益を喪失する不利益を避けるため,本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから,同項の趣旨に反し容認することができない。本件期限の利益喪失条項のうち,制限超過部分の利息の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,利息制限法1条1項の趣旨に反して無効であり,上告人らは,支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。
 そして,本件期限の利益喪失条項は,法律上は,上記のように一部無効であって,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないものであるが,この条項の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本及び制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避するために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。
 したがって,本件期限の利益喪失条項の下で,債務者が,利息として,制限超過部分を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって支払ったものということはできないと解するのが相当である。
 そうすると,本件において上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,上告人らが任意に制限超過部分を支払ったとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
 第5 上告代理人松尾紀男の上告受理申立て理由第3の4及び7の各点について
 1 原審の判断は,次のとおりである。
 (1) 出資法附則9項2号所定の要件を具備するか否かは,契約締結時の契約内容によって判断されるべきであると解されるところ,本件各貸付けについては,いずれも,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたのであるから,上記要件を具備する。
 (2) 出資法附則9項3号所定の要件については,日賦貸金業者が貸付けの相手方の営業所等において自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めて,返済期間の全日数の100分の70以上であれば,具備すると解されるところ,本件各貸付けについては,いずれも,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めれば,返済期間の全日数の100分の70以上であったのであるから,上記要件を具備する。
 2 しかしながら,原審の上記判断のうち,1の(2)の部分は是認することができるが,1の(1)の部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 出資法附則8項が,日賦貸金業者について出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律5条2,3項の特例を設け,一般の貸金業者よりも著しく高い利息について貸金業法43条1項の規定が適用されるものとした趣旨は,日賦貸金業者が,小規模の物品販売業者等の資金需要にこたえるものであり,100日以上の返済期間,毎日のように貸付けの相手方の営業所又は住所において集金する方法により少額の金銭を取り立てるという出資法附則9項所定の業務の方法による貸金業のみを行うものであるため,債権額に比して債権回収に必要な労力と費用が現実に極めて大きなものになるという格別の事情があるからであると考えられる。そうすると,日賦貸金業者について貸金業法43条1項の規定が適用されるためには,契約締結時の契約内容において出資法附則9項所定の各要件が充足されている必要があることはもとより,実際の貸付けにおいても上記各要件が現実に充足されている必要があると解するのが相当である。
 (2) 前記事実関係によれば,本件A貸付けについては,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たに本件B貸付けに係る契約が締結され,本件A貸付けに係る債務が消滅したために,同債務については,返済期間が100日未満となったものであり,また,本件C〜G,M,N貸付けについても,同様に,契約締結時の契約内容においては,返済期間が100日以上と定められていたところ,約定の返済期間の途中で,残元本に貸増しが行われ,貸増し後の元本の合計金額を契約金額として,新たにその直後の貸付けに係る契約が締結され,旧債務が消滅したために,旧債務については,返済期間が100日未満となったというのである。そうすると,本件A,C〜G,M,N貸付けについては,契約締結時の契約内容においては出資法附則9項2号所定の要件が充足されていたが,実際の貸付けにおいては上記要件が現実に充足されていなかったのであるから,貸金業法43条1項の規定の適用はない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
 (3) これに対し,前記事実関係によれば,本件各貸付けについては,いずれも,契約締結時の契約内容においては,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により金銭を取り立てる日数が,返済期間の全日数の100分の70以上と定められており,実際の貸付けにおいても,上告人らの営業所等において被上告人が自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めれば,返済期間の全日数の100分の70以上であったというのである。そして,出資法附則9項3号の文理に照らすと,日賦貸金業者が貸付けの相手方の営業所等において自ら集金する方法により金銭を取り立てた日数が,返済のされなかった日を含めて,返済期間の全日数の100分の70以上であれば,実際の貸付けにおいて同号所定の要件が現実に充足されているといえると解すべきである。そうすると,本件各貸付けについては,契約締結時の契約内容において出資法附則9項3号所定の要件が充足されていることはもとより,実際の貸付けにおいても上記要件が現実に充足されていたといえるのであるから,この点において貸金業法43条1項の規定の適用が否定されるものではない。これと同旨の原審の判断は是認することができる。この点に関する論旨は採用することができない。
 第6 結論
 以上のとおりであるから,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,判示第4につき裁判官上田豊三の意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 判示第4についての裁判官上田豊三の意見は,次のとおりである。
 私は,上告人らが本件各弁済を任意にしたものであるとする原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反はないと考える。その理由は次のとおりである。
 1 利息制限法所定の制限利率を超える利息の支払約定は,その制限超過部分については無効であり,債務者が制限超過部分を含む約定どおりの利息を任意に支払った場合でも,制限超過部分は残元本に充当され,計算上元本が完済された後に支払われた金銭は原則として返還請求をすることができるというのが,かつて累次の最高裁判例によって確立された判例理論であった。
 しかるに,昭和58年に貸金業法が制定され,上記判例理論が一部修正されることになった。すなわち,同法は,貸金業を営む者について登録制度を実施し,その事業に対し必要な規制を行うとともに,貸金業者の業務の適正な運営を確保し,もって資金需要者等の利益の保護を図り,国民経済の適切な運営に資することを目的として制定されたものであるが,同法43条1項は,貸金業者が厳格な業務規制である17条書面及び18条書面の交付義務を遵守することの見返りとして,任意に支払われた制限超過部分につき,有効な利息債務の弁済とみなし,制限超過部分に元本充当の効果を生じさせないこととし,その返還請求をすることができないものとしたのである。
 2 同法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によって支払ったことをいい,債務者において,その支払った金銭の額が利息の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解するのが相当である(最高裁昭和62年(オ)第1531号平成2年1月22日第二小法廷判決・民集44巻1号332頁参照)。
 利息債務の弁済が強制執行や競売により実現される場合には,それは「債務者の意思による」支払とはいえないので,同法43条1項にいう任意性を否定すべきである。また,詐欺や強迫に基づいて利息債務の弁済が行われたり,あるいはその弁済が同法21条で禁止している債権者等の取立行為に起因する場合には,債務者の利息弁済の意思の形成には瑕疵があり,その弁済は債務者の「自由な」意思に基づく支払とはいえないので,同様に任意性を否定すべきである。
 これに対し,約定の元本のほかに約定の利息(それには制限超過部分が含まれている。)を支払わなければ元本についての期限の利益を失うという,期限の利益喪失条項がある場合において,債務者が約定利息を支払っても,そのことだけでその支払の任意性が否定されるものではないと解するのが相当である。このような場合に債務者が約定利息を支払う動機には様々なものがあり,約束をしたのでそれを守るという場合もあるであろうし,あるいは約定利息を支払わなければ期限の利益を失い,残元本全額と経過利息を直ちに一括して支払わなければならなくなると認識し,そのような不利益を回避するためにやむなく支払うという場合もあろうと思われる。前者の場合には,およそ約定利息の支払に対する心理的強制を債務者に及ぼしているとはいい難い。これに対し,後者の場合には,約定利息の支払に対する心理的強制を債務者に及ぼしていることは否定することができない。しかし,このような心理的強制は,詐欺や強迫あるいは同法21条で禁止している債権者等の取立行為と同視することのできる程度の違法不当な心理的圧迫を債務者に加え,あるいは違法不当に支払を強要するものとは評価することができず,なお債務者の「自由な」意思に基づく支払というべきである。
 3 多数意見は,上記の期限の利益喪失条項の下で債務者が制限超過部分を支払った場合には,特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって支払ったものということはできないと解するのであるが,そのように解することは,貸金業者が17条書面及び18条書面を交付する義務を遵守するほかに,「制限利息を超える約定利息につき,期限の利益喪失条項を締結していないこと」あるいは「元本及び制限利息の支払を怠った場合にのみ期限の利益を失う旨の条項を明記すること」という要件を,貸金業法43条1項のみなし弁済の規定を適用するための要件として要求するに等しい結果となり,同法の立法の趣旨を離れ,みなし弁済の範囲を狭くしすぎるのではないかと思われる。
 さらに,そもそも,債務者が貸金業者との間に制限利息を超える約定利息の支払を約し,その約定利息につき期限の利益喪失条項のある契約を締結するのは,そうするほかには金融を得る途がないので万やむを得ないといった心理的強制にかられて締結していることが多いのではないかと思われる。そのような心理的強制にかられて締結した契約も,債務者の自己の自由な意思に基づくもの,すなわち任意性を否定することはできないものではないかと思われる。そうである以上,このような契約に基づく約定利息の支払についても,債務者の自己の自由な意思に基づくもの,すなわち任意性を否定することはできないものではないかと思われる。
 4 本件において,上告人らが本件各弁済をしたのは,約定利息につき期限の利益喪失条項のある下でしたものではあるが,詐欺や強迫あるいは同法21条で禁止している取立行為に基づいてしたものであることをうかがわせる事情は認められないので,本件各弁済は,上告人らが約定利息の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によってしたもの,すなわち上告人らが利息として任意に支払ったものというべきである。したがって,これと同旨の原審の判断は正当であり,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反はないと考える。
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)



○ 最二小判平成18.03.17 平成17(テ)21 貸金等請求事件 (最高裁HPから入手)
要旨:
 債務者の貸金業者に対する貸金の弁済について貸金業法43条1項又は3項の適用を認めた高等裁判所の上告審としての判決が,特別上告審において,法令の違反があるとして職権により破棄された事例

事件番号 平成17(テ)21 事件名 貸金等請求事件 裁判年月日 平成18年03月17日 法廷名 最高裁判所第二小法廷 裁判種別 判決 結果 破棄自判
原審裁判所名 大阪高等裁判所 原審事件番号 平成17(ツ)5 原審裁判年月日 平成17年03月25日

主    文
  原判決を破棄する。
  原々判決を破棄し,本件を神戸地方裁判所に差し戻す。

理    由
 第1 上告代理人辰巳裕規の上告理由について
 高等裁判所が上告審としてした終局判決に対して最高裁判所に更に上告をするこ とが許されるのは,民訴法327条1項所定の場合に限られるところ,本件上告理 由は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反を主張するものであって,同項に 規定する事由に該当しない。
 第2 職権による検討
 1 原々審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)3条所 定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 被上告人は,平成11年1月27日,Aに対し,380万円を,次の約定 で貸し付け(以下「本件貸付け」という。),上告人は,同日,被上告人に対し, Aの本件貸付けに係る債務について連帯保証をした。
 ア利息年29.80%(年365日の日割計算)
 イ遅延損害金年36.50%(年365日の日割計算)
 ウ返済方法平成11年3月から平成16年2月まで毎月10日に60回にわ たって元金6万3000円ずつ(最終回は8万3000円)を経過利息と共に支払 う。
 エ特約Aは,元金又は利息の支払を遅滞したときには,当然に期限の利益を 失い,被上告人に対して直ちに元利金を一時に支払う(以下「本件期限の利益喪失 特約」という。)。
 (3) 被上告人は,本件貸付けに係る契約を締結した際に,Aに対し,「貸付契 約説明書」及び「償還表」と題する書面を交付した。
 貸付契約説明書には,利息の利率を利息制限法1条1項所定の制限利率を超える 年29.80%とする約定が記載された後に,本件期限の利益喪失特約につき, 「元金又は利息の支払いを遅滞したとき(中略)は催告の手続きを要せずして期限 の利益を失いただちに元利金を一時に支払います。」と記載され,期限後に支払う べき遅延損害金の利率を同法4条1項(平成11年法律第155号による改正前の もの。以下同じ。)所定の制限利率を超える年36.50%とする約定が記載され ていた。
 (4) Aは,被上告人に対し,本件貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決 別紙元利金計算書の「入金日」欄記載の各年月日に「入金額」欄記載の各金額を支 払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
 被上告人は,Aに対し,本件各弁済の都度,「領収書兼利用明細書」と題する書 面(以下「本件各受取証書」という。)を交付した。
 本件各受取証書には,貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和58年大蔵省 令第40号。以下「施行規則」という。)15条2項に基づき,法18条1項2号 所定の契約年月日の記載に代えて,契約番号が記載されていた。
 (5) Aは,原々審係属中の平成16年6月21日,被上告人に対し,本件貸付 けに係る債務の弁済として,2万4080円を支払った。
 2 本件は,被上告人が,本件各弁済には法43条1項又は3項の規定が適用さ れるから,利息制限法1条1項又は4条1項に定める利息又は賠償額の予定の制限 額を超える部分の支払も有効な債務の弁済とみなされると主張して,上告人に対 し,連帯保証債務履行請求権に基づき,本件貸付けの残元本211万9617円及 び遅延損害金の支払を求める事案である。
 3 原々審は,次のとおり判断し,本件各弁済には法43条1項又は3項の規定 が適用されるとして,被上告人の請求を全部認容すべきものとした。
 (1) 法18条1項柱書きは,法の趣旨に反しない範囲で,同項の規定に基づき 貸金業者が貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに 当該弁済をした者に対して交付すべき書面(以下「18条書面」という。)の記載 要件の詳細を内閣府令に委任したものと解され,この委任を受けて,施行規則15 条2項が規定されたものである。そして,法18条1項1号から3号までに掲げる 事項の記載がなくとも,契約番号が記載されていれば,当該弁済がどの貸付けの契 約に基づく債務についてされたかを特定することができ,弁済者に不利益が生ずる こともないから,施行規則15条2項は,法18条1項柱書きの趣旨を逸脱するも のとは解されない。
 よって,施行規則15条2項に基づき,法18条1項2号所定の契約年月日の記 載に代えて契約番号を記載した本件各受取証書は,法18条1項所定の事項の記載 に欠けるものではなく,本件各受取証書の交付をもって,18条書面の交付がされ たものというべきである。
 (2) 法43条1項が,一定の要件の下に,利息制限法1条1項所定の利息の制 限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超える利息の取得を容認し,法1 7条1項9号,施行規則13条1項1号ヌが,「期限の利益の喪失の定め」をする ことを容認している以上,法43条1項の規定の適用を受けることを前提として, 利息の制限額を超える約定利息の支払を怠った場合を期限の利益喪失事由とするこ ともまた,法的に許容されているものというべきである。そして,債務者は,本件 期限の利益喪失特約があっても,利息制限法所定の制限利率に従って支払をするこ とを表明して,利息の制限額の限度で支払をすることは何ら妨げられないのである から,本件期限の利益喪失特約の存在自体が,債務者に対して利息の制限額を超え る約定利息の支払を強制するものであるということはできない。Aのした利息の制 限額を超える額の金銭の支払は,法43条1項にいう「利息として任意に支払っ た」ものということができる。
 4 原審は,前記事実関係の下においては,本件各弁済について法43条1項又 は3項の規定の適用を認めた原々審の判断は正当として是認することができるとし て,上告人の上告を棄却した。
 5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次 のとおりである。
 (1) 法18条1項は,その文理に照らすと,18条書面の記載事項は,同項1 号から5号までに掲げる事項(以下「法定事項」という。)及び法定事項に追加し て内閣府令(法施行当時は大蔵省令。後に,総理府令・大蔵省令,総理府令,内閣 府令と順次改められた。)で定める事項であることを規定するとともに,18条書 面の交付方法の定めについて内閣府令に委任することを規定したものと解される。 したがって,18条書面の記載事項について,内閣府令により他の事項の記載をも って法定事項の記載に代えることは許されないものというべきである。
 上記内閣府令に該当する施行規則15条2項の規定のうち,弁済を受けた債権に 係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,法18条1項1 号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は,他の事 項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから,内 閣府令に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである (最高裁平成16年(受)第1518号第二小法廷同18年1月13日判決・民集 60巻1号登載予定参照)。
 そうすると,法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて契約番号が記載 された本件各受取証書の交付をもって,18条書面の交付がされたものとみること はできない。
 (2) 本件期限の利益喪失特約のうち,Aが支払期日に利息の制限額を超える部 分(以下「制限超過部分」という。)の支払を怠った場合に期限の利益を喪失する とする部分は,利息制限法1条1項の趣旨に反して無効であり,Aは,支払期日に 約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば,制限超過部分の支払を怠ったと しても,期限の利益を喪失することはなく,支払期日に約定の元本又は利息の制限 額の支払を怠った場合に限り,期限の利益を喪失するものと解するのが相当であ る。
 そして,本件期限の利益喪失特約は,法律上は,上記のように一部無効であっ て,制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないけれど も,この特約の存在は,通常,債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超 過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ち に一括して支払い,これに対する年36.50%の割合による遅延損害金を支払う べき義務を負うことになるとの誤解を与え,その結果,このような不利益を回避す るために,制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものと いうべきである。
 したがって,本件期限の利益喪失特約の下で,債務者が,利息として,利息の制 限額を超える額の金銭を支払った場合には,上記のような誤解が生じなかったとい えるような特段の事情のない限り,債務者が自己の自由な意思によって制限超過部 分を支払ったものということはできないと解するのが相当である(前掲最高裁平成 18年1月13日第二小法廷判決参照)。
 そうすると,上記特段の事情の存否につき審理判断することなく,Aが任意に制 限超過部分を支払ったものということはできない。
 6 以上と異なる原々審及び原審の前記判断には,いずれも判決に影響を及ぼす ことが明らかな法令の違反がある。したがって,原判決及び原々判決を破棄し,本 件を原々審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官津野修裁判官滝井繁男裁判官今井功裁判官 中川了滋裁判官古田佑紀)



○ 最三小判平成19.02.13 平成18(受)1187 不当利得返還等請求本訴,貸金返還請求反訴事件 (最高裁HP該当判例)
要旨:
 貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合に,第1の貸付けに対する弁済金のうち利息制限法の制限超過利息を元本に充当すると過払金が発生し,その後,第2の貸付けに係る債務が発生したときにおける上記過払金の同債務への充当の可否
 商行為である貸付けに対する弁済金のうち利息制限法の制限超過利息を元本に充当することにより生ずる過払金を返還する場合に,悪意の受益者が付すべき民法704条前段の利息の利率は,民法所定の年5分である

事件番号 平成18(受)1187 事件名 不当利得返還等請求本訴,貸金返還請求反訴事件 裁判年月日 平成19年02月13日 法廷名 最高裁判所第三小法廷 裁判種別 判決
原審裁判所名 広島高等裁判所 松江支部 原審事件番号 平成17(ネ)92 原審裁判年月日 平成18年03月31日

主    文
 1 原判決中,被上告人に関する部分のうち,本訴請求に関する部分並びに反訴請求に関する部分のうち100万円及びこれに対する平成16年12月1日から支払済みまで年30%の割合による金員の支払を求める部分を破棄する。
 2 前項の部分につき,本件を広島高等裁判所に差し戻す。
 3 上告人のその余の上告を棄却する。
 4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人馬場正裕の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。) について
1 本件本訴請求事件は,被上告人が上告人に対し,平成5年3月及び平成10 年8月の2回の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息 の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超えて利息として支払われた 部分を元本に充当すると原判決別紙利息制限法計算書3のとおり過払金が発生して いるとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金416万9976円及びこれに 対する年6分の割合(商事法定利率)による民法704条前段所定の利息の支払を 求める事案であり,本件反訴請求事件は,上告人が被上告人に対し,上記各貸付け に係る債務の各弁済には,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」とい う。)43条1項の規定が適用されるから,利息の制限額を超える部分の支払も有 効な利息の債務の弁済とみなされるとして,上記各貸付けの残元本合計393万円 及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人は,貸金業法3条所定の登録を受けた貸金業者である。
(2)ア 上告人は,平成5年3月26日,被上告人に対し,300万円を次の約 定で貸し付けた(以下「本件第1貸付け」という。)。
 (ア) 利息年40.004%
 (イ) 支払方法最終支払日を平成5年5月末日とし,同日限り元本及び利息を持参して支払う。
イ 上告人と被上告人は,平成5年5月末日ころ,本件第1貸付けについて,元 本の弁済期を期限の定めのないものとする旨合意した。
ウ 被上告人は,平成5年4月26日から平成15年12月19日までの間,上 告人に対し,本件第1貸付けに係る債務の弁済として,原判決別紙利息制限法計算 書1の「年月日」欄記載の各年月日に,「弁済額」欄記載の各金銭を支払った。
エ 上記ウの各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を 元本に充当すると,平成8年10月31日以後,過払金が発生している。
(3)ア上告人は,平成10年8月28日,被上告人に対し,100万円を次の 約定で貸し付けた(以下「本件第2貸付け」といい,これと本件第1貸付けとを併 せて「本件各貸付け」という。)。
 (ア) 利息年40.004%
 (イ) 支払方法最終支払日を平成10年9月27日とし,同日限り元本及び利 息を持参して支払う。
イ 上告人と被上告人は,平成10年9月27日ころ,本件第2貸付けについ て,元本の弁済期を期限の定めのないものとする旨合意した。
ウ 被上告人は,上告人に対し,本件第2貸付けに係る債務の弁済として,原判 決別紙利息制限法計算書2の「年月日」欄記載の各年月日に,「弁済額」欄記載の 各金銭を支払った。
(4) 上告人と被上告人との間で,継続的に貸付けが繰り返されることを予定し た基本契約(以下,単に「基本契約」という。)は締結されていない。
3 原審は,前記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人の本訴 請求を全部認容すべきものとし,上告人の反訴請求を全部棄却すべきものとした。
(1) 本件各貸付けに係る債務の各弁済に当たって貸金業法18条1項所定の要 件を具備した書面が被上告人に交付されていないので,上記各弁済については,同 法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。
(2) 同一の貸主から複数の貸付けを受ける借主としては,基本契約に基づき継 続的に貸付けが繰り返される場合でなくても,過払金を考慮して全体として借入総 額が減少することを望み,複数の権利関係が発生するような事態が生ずることは望 まないのが通常の合理的意思であると考えられ,過払金が発生した後に別口の借入 金が発生したときであっても,その別口の借入金の弁済に過払金を充当する意思を 有していると推認するのが相当であるから,上告人と被上告人との間で基本契約が 締結されておらず,本件第1貸付けについて過払金が発生した平成8年10月31 日の後に,本件第2貸付けに係る債務が発生したものであるとしても,本件第1貸 付けについての過払金は,本件第2貸付けに係る債務に当然に充当されると解され る。
(3) 本件各貸付けに係る債務についての過払金は,上告人の不当利得となる が,上告人は,上記過払金が発生した時点から民法704条の悪意の受益者という べきである。
(4) 上記過払金の返還債務は,実質的に,上告人の商行為によって生じた債務 というべきであり,また,上告人が,過払金を営業のために使用し,収益を上げて いるのは明らかであるから,上告人が上記債務に付すべき民法704条前段所定の 利息の利率は,商事法定利率の年6分と解すべきである。
4 しかしながら,原審の上記3(2)及び(4)の判断は是認することができない。
 その理由は,次のとおりである。
(1) 原審の上記3(2)の判断について
 貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合において,第1の貸付けに 係る債務の各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本 に充当すると過払金が発生し(以下,この過払金を「第1貸付け過払金」とい う。),その後,同一の貸主と借主との間に第2の貸付けに係る債務が発生したと きには,その貸主と借主との間で,基本契約が締結されているのと同様の貸付けが 繰り返されており,第1の貸付けの際にも第2の貸付けが想定されていたとか,そ の貸主と借主との間に第1貸付け過払金の充当に関する特約が存在するなどの特段 の事情のない限り,第1貸付け過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2 の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず,第2の貸付けに係る債務に は充当されないと解するのが相当である。なぜなら,そのような特段の事情のない 限り,第2の貸付けの前に,借主が,第1貸付け過払金を充当すべき債務として第 2の貸付けに係る債務を指定するということは通常は考えられないし,第2の貸付 けの以後であっても,第1貸付け過払金の存在を知った借主は,不当利得としてそ の返還を求めたり,第1貸付け過払金の返還請求権と第2の貸付けに係る債権とを 相殺する可能性があるのであり,当然に借主が第1貸付け過払金を充当すべき債務 として第2の貸付けに係る債務を指定したものと推認することはできないからであ る。
 これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,上告人と被上告人との間で 基本契約は締結されておらず,本件第1貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息の 制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生した平 成8年10月31日の後に,本件第2貸付けに係る債務が発生したというのである から,上記特段の事情のない限り,本件第1貸付けに係る債務の各弁済金のうち過 払金となる部分は,本件第2貸付けに係る債務に充当されないというべきである。
 そうすると,本件において上記特段の事情の有無について判断することなく,上 記過払金となる部分が本件第2貸付けに係る債務に当然に充当されるとした原審の 上記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(2) 原審の上記3(4)の判断について
 商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として 支払われた部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得として返還 する場合において,悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率 は,民法所定の年5分と解するのが相当である。なぜなら,商法514条の適用又 は類推適用されるべき債権は,商行為によって生じたもの又はこれに準ずるもので なければならないところ,上記過払金についての不当利得返還請求権は,高利を制 限して借主を保護する目的で設けられた利息制限法の規定によって発生する債権で あって,営利性を考慮すべき債権ではないので,商行為によって生じたもの又はこ れに準ずるものと解することはできないからである。これと異なる原審の上記3 (4)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中,被上告人に関する部分のう ち,本訴請求に関する部分並びに反訴請求に関する部分のうち100万円及びこれ に対する平成16年12月1日から支払済みまで年30%の割合による金員の支払 を求める部分(本件第2貸付けについての請求部分)は破棄を免れない。そこで, 前記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻す こととする。
 なお,その余の部分に関する上告については,上告受理申立ての理由が上告受理 の決定において排除されたので,棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官那須弘平 裁判官上田豊三 裁判官藤田宙靖 裁判官堀籠幸男 裁判官田原睦夫)



○ 最一小判平成19.06.07 平成18(受)1887 損害賠償等請求事件 (最高裁HP該当判例)
要旨:
 いわゆるカードローンの基本契約が,同契約に基づく借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には他の借入金債務が存在しなければこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものと解された事例

事件番号 平成18(受)1887 事件名 損害賠償等請求事件 裁判年月日 平成19年06月07日 法廷名 最高裁判所第一小法廷 裁判種別 判決
原審裁判所名 広島高等裁判所 原審事件番号 平成17(ネ)360 原審裁判年月日 平成18年07月20日


主    文
 1 原判決中不当利得返還請求に係る部分につき本件上 告を棄却する。
 2 その余の本件上告を却下する。
 3 上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人水中誠三ほかの上告受理申立て理由第1,第3及び第4について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人は,貸金業の規制等に関する法律3条所定の登録を受けて貸金業を 営む貸金業者である。
(2) 上告人は,昭和63年6月ころ,被上告人との間で,被上告人を会員とす るクレジットカード会員契約を締結し,被上告人に対し,「Aカード」という名称 のクレジットカードを交付した。上記契約には金銭消費貸借に関する契約の条項 (以下,この条項を「本件基本契約1」という。)が含まれていたところ,後記 (4)記載の期間における本件基本契約1の内容は,次のとおりである。
ア 借入方法
 会員は,借入限度額の範囲内において1万円単位で繰り返し上告人から金員の借 入れをすることができる。
イ 返済方法
 指定された回数に応じて毎月同額の元本及び利息を分割して返済する方法(いわ ゆる元利均等分割返済方式),毎月末日の借入残高に応じて定められる一定額を返 済する方法(いわゆる残高スライドリボルビング方式)又は1回払の方法の中から 会員が選択する。
ウ 借入利率
 元利均等分割返済方式による借入れにつき原則として年26.4%,それ以外の 返済方式による借入れにつき原則として年27.6%とする。
エ 利息の計算方法
 前月27日の返済後の残元金に対し前月28日から当月27日までの実質年利 (日割計算)を乗じて算出する。
オ 返済金の支払方法
 毎月27日に会員の指定口座からの口座振替の方法により支払う。
(3) 上告人は,平成3年12月ころ,被上告人との間で,被上告人を会員とす るローンカード会員契約(以下「本件基本契約2」といい,本件基本契約1と併せ て「本件各基本契約」という。)を締結し,被上告人に対し,「B」という名称の ローンカードを交付した。後記(4)記載の期間における上記契約の内容は,次のと おりである。
ア 借入方法
 会員は,借入限度額の範囲内において1万円単位で繰り返し上告人から金員の借 入れをすることができる。
イ 返済方法
 翌月に一括して返済する方法又は毎月の借入残高に応じて定められる一定額を返 済する方法(いわゆる残高スライドリボルビング方式)のいずれかから会員が選択 する。
ウ 借入利率年22.6%
エ 利息の計算方法
 前月27日の返済後の残元金に対し前月28日から当月27日までを1か月とし て計算する。
オ 返済金の支払方法
 毎月27日に会員の指定口座からの口座振替の方法により支払う。
(4) 上告人は,被上告人に対し,平成3年8月2日から平成16年1月31日 までの間,本件基本契約1に基づき,原判決別紙計算表2Aの「年月日」欄記載の 各年月日に「借入金額」欄記載の各金員を貸し付け,被上告人は,上告人に対し, 同計算表の「年月日」欄記載の各年月日に「弁済額」欄記載の各金員を支払った。
 上告人は,被上告人に対し,平成3年12月24日から平成16年1月31日ま での間,本件基本契約2に基づき,原判決別紙計算表2@の「年月日」欄記載の各 年月日に「借入金額」欄記載の各金員を貸し付け,被上告人は,上告人に対し,同 計算表の「年月日」欄記載の各年月日に「弁済額」欄記載の各金員を支払った(以 下,本件各基本契約に基づくそれぞれ一連の取引を「本件各取引」という。)。
2 本件は,被上告人が,上告人に対し,本件各取引のそれぞれにつき,本件各 基本契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の 利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」とい う。)を元本に充当すると,過払金が発生し,かつ,この過払金を同一の基本契約 において弁済当時存在する債務又はその後に発生する新たな貸付けに係る債務に充 当してもなお過払金が残存しているとして,不当利得返還請求権に基づき,本件各 取引において発生した過払金の支払等を求める事案である。
3 原審は,前記事実関係の下において,本件各取引はそれぞれが本件各基本契 約に基づいて反復して行われた融資取引であること,本件各基本契約においては借 入金の利息や返済方法等の基本的な事項が定められていること,本件各基本契約締 結の際に重要な事項に関する審査は終了しており,各貸付けの際には事故発生の有 無等の消極的な審査がされるにすぎないこと,貸付けと返済は利用限度額の範囲内 で頻繁に繰り返されることが予定されていることなどの本件各基本契約と各貸付け の性質・関係に照らすと,本件各取引はそれぞれが全体として一個の取引であり, 各取引内において,被上告人が支払った制限超過部分が元本に充当された結果過払 金が発生し,その後に新たな貸付けに係る債務が発生した場合であっても,当該過 払金は上記貸付けに係る債務に当然に充当されるものと解すべきであると判断し て,被上告人の上告人に対する不当利得返還請求を一部認容した。
4 所論は,過払金の充当に関する原審の上記判断の法令違反をいうものであ る。
 よって検討するに,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付け が繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務に つき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本 に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特 約が存在するなど特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に充当 されると解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1032号,第103 3号同15年7月18日第二小法廷判決・民集57巻7号895頁,最高裁平成1 2年(受)第1000号同15年9月11日第一小法廷判決・裁判集民事210号 617頁参照)。これに対して,弁済によって過払金が発生しても,その当時他の 借入金債務が存在しなかった場合には,上記過払金は,その後に発生した新たな借 入金債務に当然に充当されるものということはできない。しかし,この場合におい ても,少なくとも,当事者間に上記過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意 が存在するときは,その合意に従った充当がされるものというべきである。
 これを本件についてみるに,前記事実関係等によれば,上告人と被上告人との間 で締結された本件各基本契約において,被上告人は借入限度額の範囲内において1 万円単位で繰り返し上告人から金員を借り入れることができ,借入金の返済の方式 は毎月一定の支払日に借主である被上告人の指定口座からの口座振替の方法による こととされ,毎月の返済額は前月における借入金債務の残額の合計を基準とする一 定額に定められ,利息は前月の支払日の返済後の残元金の合計に対する当該支払日 の翌日から当月の支払日までの期間に応じて計算することとされていたというので ある。これによれば,本件各基本契約に基づく債務の弁済は,各貸付けごとに個別 的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件各基本契 約に基づく借入金の全体に対して行われるものと解されるのであり,充当の対象と なるのはこのような全体としての借入金債務であると解することができる。そうす ると,本件各基本契約は,同契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金のうち制 限超過部分を元本に充当した結果,過払金が発生した場合には,上記過払金を,弁 済当時存在する他の借入金債務に充当することはもとより,弁済当時他の借入金債 務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を 含んでいるものと解するのが相当である。原審の前記判断は,これと同旨をいうも のとして,是認することができる。論旨は採用することができない。
 なお,上告人は,取引履歴の開示拒絶の不法行為に基づく慰謝料請求の敗訴部分 につき上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同 部分に関する上告は却下することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官甲斐中辰夫 裁判官横尾和子 裁判官泉徳治 裁判官 才口千晴 裁判官涌井紀夫)



○ 最二小判平成19.07.13 平成18(受)276 不当利得返還等請求事件 (最高裁HP該当判例)
要旨:
 利息制限法の制限超過利息を受領した貸金業者が判例の正しい理解に反して貸金業法18条1項に規定する書面の交付がなくても同法43条1項の適用があるとの認識を有していたとしても,民法704条の「悪意の受益者」の推定を覆す特段の事情があるとはいえないとされた事例

事件番号 平成18(受)276 事件名 不当利得返還等請求事件 裁判年月日 平成19年07月13日 法廷名 最高裁判所第二小法廷 裁判種別 判決 結果 破棄差戻し
原審裁判所名 東京高等裁判所 原審事件番号 平成17(ネ)3075 原審裁判年月日 平成17年10月27日


主    文
  原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
  前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理    由
 上告代理人内藤満の上告受理申立て理由について
 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。) 3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 被上告人は,利息制限法1条1項所定の制限利率(以下,単に「制限利 率」という。)を超える利率の利息の約定で,次のとおり,上告人に金員を貸し付 けた(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」と総称する。)。
  @ 平成7年10月2日7万円
  A 平成8年4月4日12万円
  B 平成8年10月2日17万円
  C 平成9年4月7日22万円
  D 平成9年10月8日25万円
  E 平成10年4月7日24万円
  F 平成10年10月7日25万円
  G 平成11年4月6日28万円
  H 平成11年10月4日30万円
  I 平成12年4月26日30万円
  J 平成12年10月3日35万円
  K 平成13年5月8日35万円
  L 平成13年11月1日35万円
  M 平成14年5月2日30万円
  N 平成14年11月5日30万円
  O 平成15年5月1日30万円
  P 平成15年11月4日30万円
 (3) 上告人は,被上告人に対し,本件各貸付けに係る債務の弁済として,第1 審判決別紙1の「年月日」欄記載の各年月日に「弁済額」欄記載の各金員を支払っ た(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
 (4) 被上告人は,本件各弁済のうち,被上告人の店舗への持参の方法による支 払がされた場合にはその都度「領収書兼残高確認書」と題する書面(以下「本件各 領収書」という。)を交付したが,被上告人の預金口座に対する払込みの方法によ る支払がされた場合には本件各領収書を交付しなかった。
 被上告人は,本件各弁済のすべてに貸金業法43条1項の適用があることを前提 として,受領した弁済金につき充当計算をし,本件各領収書を作成した。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各弁済の弁済金のうち,利息制限 法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超 過部分」という。)を元本に充当すると,第1審判決別紙1のとおり過払金が発生 しており,かつ,被上告人は上記過払金の受領が法律上の原因を欠くものであるこ とを知っていたとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還及び過払金の 発生時から支払済みまでの民法704条前段所定の利息の支払を求める事案であ る。
 被上告人は,上告人に対し,本件各貸付けの都度,各回の返済期日,各回の返済 金額及びその元本・利息の内訳並びに融資残額を記載した償還表を交付しており, 上告人はこれを知った上で被上告人の預金口座に払込みをしていたものであるか ら,預金口座に対する払込みの場合に貸金業法18条1項に規定する事項を記載し た書面(以下「18条書面」という。)を交付しなくても,被上告人は本件各弁済 の時点において貸金業法43条1項の適用要件を満たしていると信じていたのであ って,民法704条の「悪意の受益者」ではないと主張している。
 3 原審は,次のとおり判断して,被上告人は民法704条の「悪意の受益者」 であると認めることはできないとした。
 悪意の受益者とは,法律上の原因のないことを知りながら利得した者をいうとこ ろ,法律上の原因の存否は,受益者の利得について問題とされるものである以上, 受益者が法律上の原因がないことを知っているというためには,当然,当該利得の 存在を知っていることをも要するものというべきであるが,被上告人が過払金の発 生当時において,過払金の発生を知っていたと認めることはできない。仮に,受益 者が法律上の原因がないことを基礎付ける事実を認識している場合には自己の利得 に法律上の原因がないとの認識を有していたことが事実上推定されると解したとし ても,この点に関する最高裁平成8年(オ)第250号同11年1月21日第一小 法廷判決・民集53巻1号98頁(以下「平成11年判決」という。)の前はもと より,最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民 集58巻2号380頁(以下「平成16年判決」という。)までは,18条書面の 交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合 には貸金業法43条1項が適用されるとの見解も主張され,これに基づく貸金業者 の取扱いも少なからず見られたのであるから,本件では上記推定は妨げられるとい うべきである。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次 のとおりである。
 金銭を目的とする消費貸借において制限利率を超過する利息の契約は,その超過 部分につき無効であって,この理は,貸金業者についても同様であるところ,貸金 業者については,貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有 効な利息の債務の弁済として受領することができるとされているにとどまる。この ような法の趣旨からすれば,貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部 分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金 は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものとい うべきである。そうすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受 領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当 該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を 有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限 り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法70 4条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
 これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人 は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過 部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したが,預金口座に対する払込みの方法によ る支払がされた場合には18条書面を交付しなかったというのであるから,これら の本件各弁済については貸金業法43条1項の適用は認められず,被上告人は,上 記特段の事情のない限り,過払金の取得について悪意の受益者であることが推定さ れるものというべきである。
 平成11年判決は,制限超過部分の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対す る払込みによってされる場合について,貸金業法43条1項2号が18条書面の交 付について何らの除外事由を設けていないこと,及び債務者は18条書面の交付を 受けることによって払い込んだ金銭の利息,元本等への充当関係を初めて具体的に 把握することができることを理由に,上記支払が貸金業法43条1項によって有効 な利息の債務の弁済とみなされるためには,特段の事情がない限り貸金業者は上記 払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなけれ ばならないと判示したものである。
 被上告人は,上告人に対し,償還表を交付したと主張しているが,この償還表 は,本件各貸付けの都度上告人に交付されるもので,約定の各回の返済期日及び返 済金額等を記載したものであるというのであるから,上記償還表に各回の返済金額 の元本・利息の内訳が記載されていたからといって,実際に上記償還表に記載され たとおりの弁済がされるとは限らないし,払い込まれた弁済金が上記償還表に記載 されたとおりに,利息,元本等に充当されるとも限らない。したがって,平成11 年判決の上記説示によれば,貸金業法43条1項の適用が認められるためには,上 記償還表が交付されていても,更に18条書面が交付される必要があることは明ら かであり,上記償還表が交付されていることが,平成11年判決にいう特段の事情 に該当しないことも明らかというべきである。なお,平成16年判決は,債務者が 貸金業者から各回の返済期日の前に貸金業法18条1項所定の事項が記載されてい る書面で振込用紙と一体となったものを交付されている場合であっても,同項所定 の要件を具備した書面の交付があったということはできないとしたものであり,被 上告人が交付したと主張する上記償還表のような貸付けに際して貸金業者から債務 者に交付される書面について判示したものではない。
 そうすると,少なくとも平成11年判決以後において,貸金業者が,事前に債務 者に上記償還表を交付していれば18条書面を交付しなくても貸金業法43条1項 の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の 事情があるというためには,平成11年判決以後,上記認識に一致する解釈を示す 裁判例が相当数あったとか,上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であったと いうような合理的な根拠があって上記認識を有するに至ったことが必要であり,上 記認識に一致する見解があったというだけで上記特段の事情があると解することは できない。
 したがって,平成16年判決までは,18条書面の交付がなくても他の方法で元 金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合には貸金業法43条1項が適 用されるとの見解も主張され,これに基づく貸金業者の取扱いも少なからず見られ たというだけで被上告人が悪意の受益者であることを否定した原審の判断には,判 決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れ ない。そこで,前記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため,本件を 原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今井功 裁判官 津野修 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)



○ 最二小判平成19.07.13 平成17(受)1970 不当利得返還請求事件 (最高裁HP該当判例)
要旨:
 貸金業者が返済方式を元利均等方式とする貸付けをするに際し,貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に当たるものとして借用証書の写しを借主に交付した場合において,(1)当該借用証書写しの「各回の支払金額」欄に,一定額の元利金の記載と共に「別紙償還表記載のとおりとします。」との記載があり,償還表は借用証書写しと併せて一体の書面をなすものとされ,各回の返済金額はそれによって明らかにすることとされていること,(2)「各回の支払金額」欄に元利金として記載されている一定額と償還表に記載された最終回の返済金額が一致していないことなど判示の事実関係の下では,償還表の交付がなければ,同項の要求する各回の「返済金額」の記載がある書面の交付があったとはいえない。
 貸金業者が利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領したが,その受領につき貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,民法704条の「悪意の受益者」であると推定される。

事件番号 平成17(受)1970 事件名 不当利得返還請求事件 裁判年月日 平成19年07月13日 法廷名 最高裁判所第二小法廷 裁判種別 判決 結果 その他 判例集巻・号・頁
原審裁判所名 東京高等裁判所 原審事件番号 平成16(ネ)4567 原審裁判年月日 平成17年07月27日


主    文
  1 原判決中,上告人の敗訴部分のうち不当利得返還請求に関する部分を破棄する。
  2 前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。
  3 上告人のその余の上告を却下する。
  4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理    由
上告代理人遠山秀典の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。) 3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 被上告人は,利息の定めを後記(3)のとおりとし,返済方式を元利均等方式 とする旨の条項を含む約定で,次のとおり,上告人に金員を貸し付けた(以下,こ れらの貸付けを,番号に従い,「本件@貸付け」などといい,「本件各貸付け」と 総称する。)。
  @ 平成5年1月28日10万円   A 平成5年8月5日15万円   B 平成6年2月10日20万円   C 平成7年1月11日20万円   D 平成8年4月24日30万円   E 平成9年6月6日32万円   F 平成10年2月16日32万円   G 平成10年9月4日30万円   H 平成12年4月7日20万円   I 平成12年9月7日30万円   J 平成13年3月29日30万円   K 平成13年9月4日35万円   L 平成14年5月8日15万円   M 平成15年10月22日20万円  (3) 本件各貸付けの約定利率は,本件@〜D貸付けについては年40.004 %(年365日の日割計算。以下利率につき同じ。),本件E〜H貸付けについて は年39.785%,本件I〜M貸付けについては年28.981%とされてい た。
 (4) 被上告人は,上告人に対し,本件各貸付けに際し,借用証書の写しである 「省令第16条第3項に基づく書面の写」と題する書面(以下「本件各契約書面」 という。)をそれぞれ交付した。本件各契約書面には,「各回の支払金額」欄に, 一定額の元利金の記載と共に「別紙償還表記載のとおりとします。」との記載があ ったほか,過不足金が生じたときは最終回に清算する旨の定めもあり,被上告人が 交付したと主張し,証拠として提出している償還表に記載された最終回の返済金額 は元利金として記載された一定額とは異なっていた。被上告人は,本件K〜M貸付 けに係る契約を締結した際には,上告人に対し,償還表を交付した。
 (5) 上告人は,被上告人に対し,本件各貸付けに係る債務の弁済として,原判 決別紙計算書の「年月日」欄記載の各年月日に「支払額」欄記載の各金員を支払っ た(以下,これらの各支払を「本件各弁済」という。)。
 (6) 本件各弁済の中には,被上告人から上告人に交付された「領収書兼残高確 認書」と題する書面の記載内容が,貸金業法18条1項に規定する事項を満たさな いものもあるが,被上告人は,それらの書面についても,上記事項を満たし,同法 43条1項が適用されるものと考えていた。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各貸付けの弁済金のうち,利息制 限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限 超過部分」という。)を元本に充当すると,第1審判決別紙1のとおり過払金が発 生しており,かつ,被上告人は上記過払金の受領が法律上の原因を欠くものである ことを知っていたとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金及び過払金の発生 時から支払済みまでの民法704条前段所定の利息の支払等を求める事案である。
 3 原審は,次のとおり判断して,本件各契約書面は,貸金業法17条1項所定 の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)ということができるとし て,同法18条1項所定の事項を記載した書面の交付を欠く弁済を除く本件各弁済 について同法43条1項が適用されることを前提に過払金の額を算定し,かつ,過 払金について,被上告人は本訴の訴状が送達されるまでは悪意の受益者であるとい うことはできないとした。
 (1) 本件各契約書面には,「各回の支払金額」欄に元利金として一定額の記載 があるから,本件@〜J貸付けに係る本件各契約書面は,償還表が別紙として添付 されているか否かにかかわらず,貸金業法17条1項9号,貸金業の規制等に関す る法律施行規則(以下「施行規則」という。)13条1項1号チの各回の「返済金 額」の記載要件を充足する。
 (2) 民法704条にいう「悪意」とは,法的に不当利得の返還義務を負ってい ることを認識していることを意味するものであり,貸金業者において貸金業法43 条1項が適用される可能性があることを認識している場合には上記の認識があると はいえない。貸金業者は,資金を高利で運用して利益を得るという経済活動をして いるとはいえ,個々の顧客について常に同項の適用の有無を把握していたと断定す ることはできず,このことは被上告人についても同様である。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次 のとおりである。
 (1) 原審の上記3(1)の判断について
 貸金業法17条1項が,貸金業者につき,貸付けに係る契約を締結したときに, 17条書面を交付すべき義務を定めた趣旨は,貸付けに係る合意の内容を書面化す ることで,貸金業者の業務の適正な運営を確保するとともに,後日になって当事者 間に貸付けに係る合意の内容をめぐって紛争が発生するのを防止することにあると 解されるから,貸金業法17条1項所定の事項の記載があるとして交付された書面 の記載内容が正確でないときや明確でないときには,同法43条1項の適用要件を 欠くというべきである(最高裁平成15年(受)第1653号同18年1月24日 第三小法廷判決・民集60巻1号319頁参照)。
 これを本件についてみると,17条書面には各回の「返済金額」を記載しなけれ ばならないところ(貸金業法17条1項9号(平成12年法律第112号による改 正前は同項8号),施行規則13条1項1号チ),前記事実関係等によれば,本件 各契約書面の「各回の支払金額」欄には「別紙償還表記載のとおりとします。」と の記載があり,償還表は本件各契約書面と併せて一体の書面をなすものとされ,各 回の返済金額はそれによって明らかにすることとされているものであって,「各回 の支払金額」欄に各回に支払うべき元利金が記載されているとしても,最終回の返 済金額はそれと一致しないことが多く,現に本件においても相違しているのであ り,その記載によって各回の返済金額が正確に表示されるものとはいえないという べきである。
 それにもかかわらず,原審は,本件@〜J貸付けにつき,償還表の交付の有無に ついての認定判断をしないで,本件各契約書面の交付をもって,17条書面の交付 があったものと認められると判断したものであるから,原審の上記3(1)の判断に は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 (2) 原審の上記3(2)の判断について
 金銭を目的とする消費貸借において利息制限法1条1項所定の制限利率(以下, 単に「制限利率」という。)を超過する利息の契約は,その超過部分につき無効で あって,この理は,貸金業者についても同様であるところ,貸金業者については, 貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利息の債務の 弁済として受領することができるとされているにとどまる。このような法の趣旨か らすれば,貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残 元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として 借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。そ うすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受 領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同 項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったこ とについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因 がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受 益者」であると推定されるものというべきである。
 これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人 は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過 部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したが,少なくともその一部については貸金 業法43条1項の適用が認められないというのであるから,上記特段の事情のない 限り,過払金の取得について悪意の受益者であると推定されるものというべきであ る。
 そうすると,上記特段の事情の有無について判断することなく,貸金業者におい て貸金業法43条1項が適用される可能性があることを認識している場合には悪意 の受益者ということはできないとして,同項が適用されない弁済について被上告人 は訴状送達の日までは悪意の受益者であるということはできないとした原審の上記 3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべ きである。
 5 以上によれば,論旨はいずれも理由があり,原判決中,上告人の敗訴部分の うち,不当利得返還請求に関する部分は破棄を免れない。そこで,償還表の交付の 有無,上記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため,上記部分につき 本件を原審に差し戻すこととする。
 なお,上告人は,取引履歴の開示拒絶の不法行為に基づく慰謝料請求もしたが, 同請求については上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないから,同請求に 関する上告は却下することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 津野修 裁判官 今井功 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)



○ 最三小判平成19.07.17 平成18(受)1666 不当利得金返還請求事件 (最高裁HP該当判例)
要旨:
 貸金業者が利息制限法の制限超過利息を受領したがその受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合と民法704条の「悪意の受益者」であることの推定

事件番号 平成18(受)1666 事件名 不当利得金返還請求事件 裁判年月日 平成19年07月17日 法廷名 最高裁判所第三小法廷 裁判種別 判決 結果 その他 判例集巻・号・頁
原審裁判所名 大阪高等裁判所 原審事件番号 平成18(ネ)530 原審裁判年月日 平成18年06月27日


主    文
  1 原判決中,上告人の敗訴部分のうち,平成6年5月4日以降の取引に係る不当利得返還請求に関する部 分を破棄する。
  2 前項の部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
  3 上告人のその余の上告を棄却する。
  4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人井上元,同中井洋恵の上告受理申立て理由(ただし,排除されたもの を除く。)について
 1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。) 3条所定の登録を受けた貸金業者である。
 (2) 上告人は,被上告人との間で,平成元年4月25日ころ,クレジットカー ドを利用して被上告人から繰り返し金銭の借入れを受けることができる旨,返済日 は毎月27日とし,返済方法は元利均等分割返済方式とする旨の条項を含むクレジ ットカード会員契約(以下「本件カード契約」という。)を締結した。
 上記借入れの約定利率は,利息制限法1条1項所定の制限利率(以下,単に「制 限利率」という。)を超過している。
 (3) 被上告人は,上告人に対し,本件カード契約に基づき,第1審判決別紙計 算書(ただし,原判決による訂正後のもの。以下同じ。)の「年月日」欄記載の各 年月日に「借入金額」欄記載の各金員を貸し付け(以下,これらの各貸付けを「本 件各貸付け」と総称する。),上告人は,被上告人に対し,同計算書の「年月日」 欄記載の各年月日に「返済金額」欄記載の各金員を支払った(以下,これらの各支 払を「本件各弁済」と総称し,本件カード契約に基づく全体としての取引を「本件 取引」という。)。
 (4) 被上告人は,本件各弁済に貸金業法43条1項の規定の適用がある旨の主 張立証をすることなく,本件各弁済の弁済金のうち,利息制限法1条1項所定の利 息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。) をその当時存在する他の貸金債権に充当することを前提とした計算書を提出してい る。この計算書では,貸金債権が存在することになっているが,被上告人は,本訴 提起前の平成17年1月12日に上告人代理人弁護士に対し,10万6622円の 過払金があると届け出ている(以下「本件届出」という。)。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各弁済の弁済金のうち,制限超過 部分を元本に充当すると,第1審判決別紙原告計算書のとおり過払金が発生してお り,かつ,被上告人は上記過払金の受領が法律上の原因を欠くものであることを知 っていたとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金239万6557円及び民 法704条前段所定の法定利息(以下,単に「法定利息」という。)1万3558 円並びに本件取引の終了の日以降の上記過払金に対する年5分の割合による法定利 息又は遅延損害金の支払を求める事案である。
 3 前記事実関係等の下において,第1審は,過払金及び法定利息の合計額23 7万0127円並びに過払金に対する法定利息又は遅延損害金の支払を求める限度 で上告人の請求を認容し,その余の請求を棄却した。被上告人が,第1審判決中被 上告人敗訴部分を不服として控訴したところ,原審は,本件取引のうち平成3年5 月27日までの取引は一体をなすものであり,同日までの本件各弁済によって発生 した不当利得返還請求権については,それまでに金額が確定し権利行使が可能にな ったものということができるから,同日から10年の経過により,時効消滅してい るとしてこれを認めず,同日以降の最初の貸付日である平成6年5月4日以降の本 件取引について,次のとおり判断して,上告人の請求を過払金19万9964円及 びこれに対する本件届出の日以降の法定利息の支払を求める限度で認容し,その余 の請求を棄却した。
 (1) 本件取引により発生する貸金債権と不当利得返還請求権の清算について は,本件各貸付けは合算されて1個の貸付けとなり,弁済は,その1個の債権に対 するものとして扱い,過払金が生じた場合は不当利得返還請求権が発生し,その後 貸付けがされた場合には,その貸金債権と不当利得返還請求権が当然に差引計算さ れるという上告人主張の計算方法によるというのが当事者の合理的意思であると認 められる。
 (2) 被上告人が本件各貸付けによる貸金債権が別個のものであることを前提と する充当計算をしてきたことからすると,被上告人が貸金債権が残存すると考える ことにも相当の理由があり,被上告人が本件届出において過払金の発生を自認する までは悪意の受益者であると認めることはできない。
 4 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理 由は,次のとおりである。
 貸金業者が借主に対して制限利率を超過した約定利率で貸付けを行った場合,貸 金業者は,貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利 息の債務の弁済として受領することができるにとどまり,同規定の適用がない場合 には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済に なった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識 しているものというべきである。そうすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債 務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められ ないときは,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そ のような認識を有するに至ったことがやむを得ないといえる特段の事情がある場合 でない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち 民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
 これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人 は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過 部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したことが明らかであるところ,被上告人 は,本訴において貸金業法43条1項の適用があることについて主張立証せず,本 件各弁済の弁済金のうち,制限超過部分をその当時存在する他の貸金債権に充当す ることを前提とした計算書を提出しているのであるから,上記各弁済金を受領した 時点において貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有していたとの主張をし ているとはいえず,上記特段の事情を論ずる余地もないというほかない。被上告人 が受領した弁済金について本件各貸付けによる貸金債権が別個のものであることを 前提とする充当計算をしてきたとしても,それによって上記判断が左右されること はない。したがって,本件各弁済によって過払金が生じていれば,被上告人は上告 人に対し,悪意の受益者として法定利息を付してこれを返還すべき義務を負うもの というべきであるから,原審の上記3(2)の判断には,判決に影響を及ぼすことが 明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中,上告人の敗訴部分のうち,平 成6年5月4日以降の本件取引に係る不当利得返還請求に関する部分は破棄を免れ ない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 なお,平成6年5月4日より前の本件取引に係る不当利得返還請求に関する上告 については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却 することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 堀籠幸男 裁判官 藤田宙靖 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 近藤崇晴)



○ 最一小判平成19.07.19 平成18(受)1534 不当利得返還請求事件 (最高裁HP該当判例)
要旨:
 同一の貸主と借主の間で基本契約を締結せずにされた多数回の金銭の貸付けが,1度の貸付けを除き,従前の貸付けの切替え及び貸増しとして長年にわたり反復継続して行われており,その1度の貸付けも,前回の返済から期間的に接着し,前後の貸付けと同様の方法と貸付条件で行われたものであり,上記各貸付けは1個の連続した貸付取引と解すべきものであるという判示の事情の下においては,各貸付けに係る金銭消費貸借契約は,各貸付けに基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,当該過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。

事件番号 平成18(受)1534 事件名 不当利得返還請求事件 裁判年月日 平成19年07月19日 法廷名 最高裁判所第一小法廷 裁判種別 判決 結果 棄却 判例集巻・号・頁
原審裁判所名 東京高等裁判所 原審事件番号 平成17(ネ)5065 原審裁判年月日 平成18年05月30日


主    文
  本件上告を棄却する。
  上告費用は上告人の負担とする。

理    由
 上告代理人山田有宏ほかの上告受理申立て理由第1について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,貸金業の規制等に関する法律3条所定の登録を受けて貸金業を 営む貸金業者である。
 (2) 上告人は,昭和61年ころから平成16年4月5日までの間,Aに対して 金銭を貸し付け,Aから返済を受けるということを繰り返していた。両者の間の平 成5年10月25日以降の貸付け(以下「本件各貸付け」という。)及び返済の状 況は,第1審判決別紙3のとおりである。本件各貸付けにおいては,元本及び利息 制限法1条1項所定の制限利率を超える利率の利息を指定された回数に応じて毎月 同額を分割して返済する方法(いわゆる元利均等分割返済方式)によって返済する 旨の約定が付されていた。
 (3) 本件各貸付けは,平成15年7月17日の貸付けを除き,いずれも借換え であり,従前の貸付けの約定の返済期間の途中において,従前の貸付金残額と追加 貸付金額の合計額を新たな貸付金額とする旨合意した上で,上告人がAに対し新た な貸付金額から従前の貸付金残額を控除した額の金員(追加貸付金)を交付し,そ れによって従前の貸付金残金がすべて返済されたものとして取り扱うというもので あった。上記借換えの際には,書類上は,別個の貸付けとして借入申込書,契約 書,領収書等が作成されているが,いずれの際も,Aが上告人の店頭に出向き,即 時書面審査の上,上記のとおり追加貸付金が交付されていた。上告人は,Aに対 し,約定どおりの分割返済が6回程度行われると借換えを勧めていた。
 (4) Aは,平成15年4月2日に,いったん,それ以前の借入れに係る債務を 完済するための返済をしたが,その約3か月後である同年7月17日には,従前の 貸付けと同様の方法と貸付条件で貸付けがされ,平成16年1月6日,従前の貸付 けと同様の借換えがされ,その後同年4月5日まで元本及び利息の分割返済が重ね られた。
 (5) Aは平成16年7月28日に破産宣告を受け,被上告人が破産管財人に選 任された。
 2 本件は,被上告人が,上告人に対し,Aが破産宣告前に上告人との間の金銭 消費貸借契約に基づいてした弁済につき,利息制限法1条1項所定の利息の制限額 を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充 当すると過払金が発生しているとして,不当利得返還請求権に基づき過払金の返還 等を求める事案である。
 原審は,本件各貸付けは1個の連続した貸付取引であり,その元利充当計算は各 取引を一連のものとして通算してすべきであって,Aが支払った制限超過部分が元 本に充当された結果過払金が発生し,その後に新たな貸付けに係る債務が発生した 場合であっても,当該過払金は新たな貸付けに係る債務に充当されるものと解すべ きであると判断して,被上告人の上告人に対する不当利得返還請求を一部認容し た。
 所論は,過払金の充当に関する原審の上記判断の法令違反をいうものである。 3 前記事実関係によれば,本件各貸付けは,平成15年7月17日の貸付けを 除き,従前の貸付けの切替え及び貸増しとして,長年にわたり同様の方法で反復継 続して行われていたものであり,同日の貸付けも,前回の返済から期間的に接着 し,前後の貸付けと同様の方法と貸付条件で行われたものであるというのであるか ら,本件各貸付けを1個の連続した貸付取引であるとした原審の認定判断は相当で ある。
 そして,本件各貸付けのような1個の連続した貸付取引においては,当事者は, 一つの貸付けを行う際に,切替え及び貸増しのための次の貸付けを行うことを想定 しているのであり,複数の権利関係が発生するような事態が生ずることを望まない のが通常であることに照らしても,制限超過部分を元本に充当した結果,過払金が 発生した場合には,その後に発生する新たな借入金債務に充当することを合意して いるものと解するのが合理的である。
 上記のように,本件各貸付けが1個の連続した貸付取引である以上,本件各貸付 けに係る上告人とAとの間の金銭消費貸借契約も,本件各貸付けに基づく借入金債 務について制限超過部分を元本に充当し過払金が発生した場合には,当該過払金を その後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解する のが相当である。
 原審の前記判断は,これと同旨をいうものとして,是認することができる。論旨 は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉徳治 裁判官 才口千晴)



○ 最二小判平成20.01.18 平成18(受)2268 不当利得返還等請求事件(最高裁Web判例集) (最高裁HP該当判例)
要旨:
 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当することの可否
 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当する旨の合意が存在すると解すべき場合

事件番号 平成18(受)2268 事件名 不当利得返還等請求事件 裁判年月日 平成20年01月18日 法廷名 最高裁判所第二小法廷 裁判種別 判決 結果 破棄差戻し 判例集巻・号・頁
原審裁判所名 名古屋高等裁判所 原審事件番号 平成18(ネ)435 原審裁判年月日 平成18年10月06日


主   文
   原判決中,主文第1項及び第2項を破棄する。
   前項の部分につき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
理   由
 上告代理人太田三夫の上告受理申立て理由について
 1 本件は,上告人を貸主,被上告人を借主としていわゆるリボルビング方式の 金銭消費貸借に係る二つの基本契約が締結され,各基本契約に基づいて取引が行わ れたところ,被上告人が,上記取引を一連のものとみて,これに係る各弁済金のう ち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以 下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると過払金(不当利得)が生じてい ると主張して,上告人に対し過払金の返還を請求する事案である。最初に締結され た基本契約に基づく取引について生じた過払金をその後に締結された基本契約に基 づく取引に係る債務に充当することができるかどうかが争われている。
 2 原審が確定した事実関係の概要は次のとおりである。
 (1) 上告人は,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号によ り法律の題名が貸金業法と改められた。)3条所定の登録を受けた貸金業者であ る。
 (2) 被上告人は,上告人との間で,平成2年9月3日,次の約定により,継続 的に金銭の借入れとその弁済が繰り返されるリボルビング式金銭消費貸借に係る基 本契約(以下「基本契約1」という。)を締結した。
 ア 融資限度額50万円(被上告人はこの範囲で自由に借増しができる。)
 イ 利息年29.2%
 ウ 遅延損害金年36.5%
 エ 返済日毎月1日
 オ 返済方法借入時の借入残高に応じた一定額以上を毎月弁済日までに支払う。
 (3) 被上告人は,平成2年9月3日から平成7年7月19日までの間,第1審 判決別紙法定金利計算書1の番号1から74までの年月日欄記載の日に借入金額欄 又は弁済額欄記載のとおり金銭の借入れと弁済を行った。これにより,基本契約1 の約定利率による利息及び元金は,平成7年7月19日に完済された計算となる。
 なお,この間の弁済につき,制限超過部分を元本に充当されたものとして計算をし た残元金は,上記法定金利計算書1の番号1から74までの残元金欄記載のとおり であって,平成7年7月19日の時点における過払金は42万9657円となる。
 (4) 被上告人は,上告人との間で,平成10年6月8日,次の約定により,継 続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返されるリボルビング式金銭消費貸借に係る 基本契約(以下「基本契約2」という。)を締結した。
 ア 融資限度額50万円(被上告人はこの範囲で自由に借増しができる。)
 イ 利息年29.95%
 ウ 遅延損害金年39.5%
 エ 返済日毎月27日
 オ 返済方法借入時の借入残高に応じた一定額以上を毎月弁済日までに支払う。  (5) 被上告人は,平成10年6月8日から平成17年7月7日までの間,第1 審判決別紙法定金利計算書2の番号1から146までの年月日欄記載の日に借入金 額欄又は弁済額欄記載のとおり金銭の借入れと弁済を行った。
(6) 上告人は,基本契約2の契約書の作成に際し,被上告人から,借入申込書 の提出を受け,健康保険証のコピーなどを徴求した上,被上告人の勤務先に電話し て在籍の確認をした。
 上記契約書作成に際しての審査項目のうち,被上告人の融資希望額,勤務先,雇 用形態,給与の支給形態,業種及び職種,住居の種類並びに家族の構成は,基本契 約1を締結したときのものと同一であり,年収額及び他に利用中のローンの件数, 金額についても大差はない状況であった。また,基本契約2を取り扱った上告人の 支店は基本契約1を取り扱った支店と同一であった。
 3 原審は,次のとおり判示して,第1審判決中,被上告人の過払金返還請求の うちの一部を棄却した部分を取り消し,上告人に対し,第1審の認容額である28 万7552円及びうち27万2973円に対する平成17年11月19日から支払 済みまで年5分の割合による金員に加えて,43万8157円及びうち41万48 29円に対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を命じた。
 (1) 同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返される金銭 消費貸借契約においては,借主は,借入総額の減少を望み,複数の権利関係が発生 するような事態が生じることは望まないのが通常であると考えられるから,仮にい ったん約定利息に基づく元利金が完済され,その後新たな借入れがされた場合で も,少なくともそれらの取引が一連のものであり,実質上一個のものとして観念さ れるときは,利息制限法違反により生じた過払金は新たな借入金元本の弁済に当然 に充当されるものと解するのが相当である。
 (2) 本件においては,基本契約1の完済時から基本契約2の締結時まで取引中 断期間が約3年間と長期間に渡ったものの,この間に基本契約1を終了させる手続 が執られた事実はないこと,基本契約2締結の際の審査手続も基本契約1が従前ど おり継続されることの確認手続にすぎなかったとみることができることを考慮する と,基本契約1と基本契約2とで利率と遅延損害金の率が若干異なっており,毎月 の弁済期日が異なっているとしても,基本契約1及び基本契約2は,借増しと弁済 が繰り返される一連の貸借取引を定めたものであり,実質上一体として1個のリボ ルビング方式の金銭消費貸借契約を成すと解するのが相当であるから,基本契約1 につき平成7年7月19日の弁済時に生じた過払金42万9657円は,その後平 成10年6月8日に50万円の貸付けがされた時点で,何らの意思表示をすること なく同貸付金債務に当然に充当される(したがって,基本契約1の取引により生じ た過払金について,上告人の主張に係る消滅時効は成立しない。)。これにより, 平成10年6月8日から平成17年7月7日までの借入れ及び弁済について,制限 超過部分を元本に充当されたものとして計算をすると,法定金利計算書1の番号7 5から220までに記載のとおり,平成17年7月7日の時点において過払金元金 68万7802円が,同年11月18日までに過払金利息3万7907円がそれぞ れ発生している。
 これに対し,第1審判決は,平成7年7月19日に生じた過払金42万9657 円は平成10年6月8日の貸付金債務に充当されないとする判断を前提として被上 告人の請求を一部認容しているが,その判断は誤りであるから,第1審の認容額に 加えて上記のとおりの金員の支払を命ずる。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次 のとおりである。
 (1) 同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されること を予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金 のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,過払金が発 生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず, その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契 約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引によ り発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事 情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基 づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である(最高裁平成18年 (受)第1187号同19年2月13日第三小法廷判決・民集61巻1号182 頁,最高裁平成18年(受)第1887号同19年6月7日第一小法廷判決・民集 61巻4号1537頁参照)。そして,第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が 反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に 基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無, 借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無, 第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間にお ける貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と 第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基 本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引 と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価す ることができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である。
 (2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,基本契約1に基づく 取引について,約定利率に基づく計算上は元利金が完済される結果となった平成7 年7月19日の時点において,各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過 払金42万9657円が発生したが,その当時上告人と被上告人との間には他の借 入金債務は存在せず,その後約3年を経過した平成10年6月8日になって改めて 基本契約2が締結され,それ以降は基本契約2に基づく取引が行われたというので あるから,基本契約1に基づく取引と基本契約2に基づく取引とが事実上1個の連 続した貸付取引であると評価することができる場合に当たるなど特段の事情のない 限り,基本契約1に基づく取引により生じた過払金は,基本契約2に基づく取引に 係る債務には充当されないというべきである。
 原審は,基本契約1と基本契約2は,単に借増しと弁済が繰り返される一連の貸 借取引を定めたものであり,実質上一体として1個のリボルビング方式の金銭消費 貸借契約を成すと解するのが相当であることを根拠として,基本契約1に基づく取 引により生じた過払金が基本契約2に基づく取引に係る債務に当然に充当されると する。しかし,本件においては,基本契約1に基づく最終の弁済から約3年間が経 過した後に改めて基本契約2が締結されたこと,基本契約1と基本契約2は利息, 遅延損害金の利率を異にすることなど前記の事実関係を前提とすれば,原審の認定 した事情のみからは,上記特段の事情が存在すると解することはできない。
 そうすると,本件において,上記特段の事情の有無について判断することなく, 上記過払金が基本契約2に基づく取引に係る債務に当然に充当されるとした原審の 判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中,主文第1項及び第2項は破棄 を免れない。そこで,前記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため, 本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今井功 裁判官 津野修 裁判官 中川了滋 裁判官 古田佑紀)

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