実務の友   権利濫用に関する最高裁判例集
最新更新日2004.12.18-2006.07.17
 文章内容を検索する場合は,[Ctrl]+[F]キー(同時押し)で,現れた検索画面に検索用語を入力して検索します。
索  引

 1 最高裁一小判昭和31.12.20民集10巻12号1581頁
 土地の無断転貸による解除権の行使につき,権利濫用の判断が違法とされた一事例
 2 最高裁三小判昭和33.07.01民集12巻11号1640頁
 温泉の掘さくが権利の濫用にならないとされた事例
 3 最高裁一小判昭和37.05.24民集16巻5号1157頁
 交通事故の被害者が損害賠償の確定判決を得た後、負傷が快癒し、5年を経て自殺した加害者の父母に対し強制執行をした場合、権利の濫用にあらたらないとはいえないとされた事例
 4 最高裁三小判昭和39.10.13民集18巻8号1578頁
 内縁の夫死亡後その所有家屋に居住する寡婦に対して亡夫の相続人のした家屋明渡請求が,権利の濫用にあたるとされた事例
 5 最高裁三小判昭和40.12.21民集19巻9号2212頁
 立木の不法伐採搬出を理由とする損害賠償請求が権利の濫用にあたるとされた事例
 6 最高裁三小判昭和43.09.03民集22巻9号1767頁
 対抗力を具備しない土地賃借権者に対し建物収去土地明渡を求めることが権利濫用となる場合において土地占有を理由とする損害賠償を請求することの許否
 7 最高裁二小判昭和43.09.06民集22巻9号1862頁
 建物収去土地明渡の強制執行が権利の濫用にあたるとされた事例
 8 最高裁大判昭和43.12.25民集22巻13号3548頁
 自己の債権の支払確保のため約束手形の裏書を受けた手形所持人が右原因債権の完済後に振出人に対してする手形金請求と権利の濫用
 9 最高裁一小判昭和45.06.11民集24巻6号509頁
 執行債権の不存在が明白な場合と取立訴訟
10 最高裁三小判昭和47.06.27民集26巻5号1067頁
 隣接居宅の日照通風を妨害する建物建築につき不法行為の成立が認められた事例
11 最高裁二小判昭和48.11.16民集27巻10号1391頁
 約束手形の裏書を受けた手形所持人が裏書の原因関係である法律行為が無効であるときに振出人に対してする手形金請求と権利濫用
12 最高裁三小判昭和51.05.25民集30巻4号554頁
 消滅時効の援用が権利濫用にあたるとされた事例
13 最高裁三小判平成09.07.01民集51巻6号2251頁
 一体として利用されている二筆の借地のうち一方の土地上にのみ借地権者所有の登記されている建物がある場合において、両地の買主による他方の土地の明渡請求が権利の濫用に当たるとされた事例



 1 最高裁一小判昭和31.12.20民集10巻12号1581頁 (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
  建物所有のための土地の賃貸借につき無断転貸を理由として契約解除の意思表示をした賃貸人が、土地の明渡しを受けてデパートを建設することを企図していた場合、賃借人および転借人の生活上の脅威等原審認定のごとき事実(原判決理由参照)があるだけでは、その解除権の行使を権利濫用とすることはできない。
(参照・法条)
  民法1条,民法612条
(判決理由抜粋)
 「原判決によれば、(略)「(略) 賃貸人の賃貸借契約の解除並びに賃貸物の所有権の行使は民法第一条の趣旨に従い社会正義に照らし正当の理由あると認められる場合に限り許されるものといわねばならない」と前提し、論旨摘録のとおり(1)ないし(7)の事実を確定し、これに基づいて「当事者双方に存する事情を対照して考察するに控訴人(上告人)は、被控訴人(被上告人)Aのなした本件土地の転貸によつて殆んど不利益を受けるところはないし、また同被控訴人となした賃貸借契約を解除しなければならないような特段の必要も認められないのに対し被控訴人らは本件の各家屋を収去し本件土地を明渡すことによつてその住居を失い、数年ないし十数年の長きにわたつて継続して来た営業を廃止せざるを得ないこととなり、その生活に対する脅威、経済的損害は甚大であり、現今の如く住宅が極度に払底している実情からみて社会経済上からも看過し得ない損失といわねばならない。」と判示し、これを理由として本件解除権及び所有権の行使はいずれも正当なる範囲を逸脱し権利の濫用に陥つたものに外ならないと断定したのである。
 しかし、民法六一二条は無断転貸による解除権の行使につき何等の制約も規定してはいない。建物の所有を目的とする土地の賃貸借においても必ずしも常に原判決のいうような事情があるわけではなく、むしろ賃貸物の使用者が何人であるかということは賃貸人の利害に関するところが少くはない。賃借地の使用状況はその使用者によつて異り、その使用状況の如何は賃借地の経済的、物理的毀損に影響なしとはいい得ないのである。それ故法律は賃貸借の内容の如何を問わず一様に無断転貸を賃貸人に対する背信行為として賃貸借契約を解除し得ベきことを規定したものと解せられるのである。元来法律上権利を与えられた者は任意その権利を行使し得るのが原則である。けだし社会生活においては所詮共同生活者相互の利害関係の競合は避け得られないのであるから、法律が一定の者のために一定の内容の権利を認める限り、それは必然的にその者の利益のために他の者の利益を排斥することを意味するものに外ならない。従つて権利者がその権利を行使することによつてたとえ他人に損害を生ぜしめることがあつても、ただその一事だけでこれを妨ぐベきいわれはない。しかし法律は一方に権利を認めた場合においても、他面その行使が往々他人に著しい損害を与える虞あるときは、特にその行使につき正当の事由あることを要請する等これが制約を規定する方途に出でるのである(例えば借家法第一条ノ二の如きがそれである)。そして更に法律はその本質上道徳に対する背反を肯定することはできないのであるから、もし権利の行使が社会生活上到底認容し得ないような不当な結果を惹起するとか、或は他人に損害を加える目的のみでなされる等公序良俗に反し道義上許すべからざるものと認められるに至れば、ここにはじめてこれを権利の濫用として禁止するのである(民法一条)。然るに無断転貸による解除権の行使については、正当の事由あることを要請している法律の規定はない。借地法及び借家法においてさえ解除権の行使についてはかかる制約を規定してはいない。前者においては更新請求に関する同法四条及び擬制更新に関する同六条で異議につき正当の事由あることを要請したに止まり、また後者においてはその一条ノ二で更新拒絶権及び解約権の行使についてのみ正当の事由あることを要請しているに止まる。されば前説示のように原審が無断転貸により上告人において本件賃貸借の解除権を取得したことを認めながらその解除権の行使について賃貸人たる上告人側の判示事情と賃借人たる被上告人A及び転借人たる同人以外の被上告人ら側の判示事情とを対比して正当の範囲を逸脱したものと判示したのは、無断転貸による解除権に関しては借家法一条ノ二の如き規定なきに拘わらずこれあるが如く解せんとした嫌があるばかりでなく、原審は被上告人Aの民法六一二条一項違反によつて本件賃貸借の解除権を取得した上告人においてその解除権を行使したのは、本件宅地にデパートを建設せんとする企図に出でたものであることを認定しているのであるから、たとえ本訴当事者双方に判示のような事情があつたからとて、これを以て直ちに上告人の本件解除権ないし所有権の行使に信義誠実の原則にもとり、公序良俗に反し道義上許すべからざる権利の濫用ありとなすには足りない。それ故原判決が判示事実関係を認定しただけで権利の濫用ありとなしたのは民法一条の適用を誤つた違法があり全部破棄を免れない。 」


 2 最高裁三小判昭和33.07.01民集12巻11号1640頁 (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
  新規温泉の掘さくがなされる前と後とにおいて既存の温泉井の温泉成分に変化があつた事実は認められず、その水位・ゆう出量・温度については軽微な変化は認められるとしても、新規掘さくがその主たる原因とは断定できず、しかもこの変化は、ポンプ座の位置を下げ、モーターを若干強力なものに取り替える等の措置により容易に既存の温泉井の利用・経営に支障を来たさないよう補い得る程度のものである場合には、新規温泉の掘さくが権利の濫用にわたるということはできない。
(参照・法条)
  民法1条
(判決理由抜粋)
 「原審の認定する事情の下では、被上告人の温泉掘さくが権利の濫用になるとは考えられず、所論は、原審の認めない事実を前提とするものであるか、もしくは、権利濫用の成否につき右と異なる独自の見解を主張するに帰する。なお、論旨の引用する大審院判例は、原審の判断と矛盾するものではない。それ故、所論は採用することができない。 」


 3 最高裁一小判昭和37.05.24民集16巻5号1157頁 (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
  自動車事故により傷害を受けた者が、将来営業活動不能による損害賠償を命ずる確定判決をえた後、負傷が快癒し、電話を引くなどして堂々と営業している反面、加害者が右賠償義務の負担を苦にして自殺するなどの事故があつたにも拘らず、右判決確定後五年を経て、加害者の相続人である父母に対し強制執行をする等の事情があつたとすれば右の強制執行は権利の濫用にあたらないとはいえない。
(参照・法条)
  民訴法545条,民法1条
(判決理由抜粋)
 「本訴は右強制執行に対する民訴五四五条に基づく請求異議の訴であつて、その理由とするところは、被上告人の前示負傷は右判決確定後回復し昭和二八年頃には電話を架設して荷馬車挽営業を自ら堂々と営んでいるから、右確定判決はもはや事情の変更により執行に適せざるに至つたものであり、このような判決に基づき強制執行をなすのは権利の濫用であり、一面信義誠実の原則にも反するものである旨主張するものであるところ、原判決は、被上告人の負傷が前記判決確定後回復し被上告人が荷馬車挽営業を営むことができるに至つている旨の上告人らの主張は、ひつきようするに前記確定判決において認定された被上告人の負傷の程度、労働力の喪失による得べかりし利益の喪失を争い、結局前記確定判決において確定された被上告人の中原Aに対する損害賠償請求権の存在を否定するに帰着するものであるから、かような主張は判決の既判力理論により判決確定後において許されないのは勿論、また民訴五四五条二項にいわゆる口頭弁論終結後に異議の原因の生じた場合にも該当しないものである。故に本件異議の訴はその理由ないものであつて、排斥を免れないものである旨判示していることは原判文上明らかである。思うに、確定判決上の権利と雖も信義に従い誠実に行使すべきであつて、これを濫用してならないことは、多言を要しない筋合であるところ、前記判決において被上告人が中原Aに対して認められた損害賠償請求権は将来の営業活動不能の前提の下に肯定されたのであるから、もし被上告人の前示負傷が上告人ら主張のように快癒し自らの力を以て営業可能の状態に回復するとともに、電話を引きなどして堂々と営業(その規模内容は論旨が特記している)を営んでいる程に事情が変更しているものとすれば、しかも一方において上告人ら主張のように中原Aは右損害賠償債務の負担を苦にして列車に飛込自殺をするなどの事故があつたに拘らず前記判決確定後五年の後に至つてAの父母である上告人らに対し前示確定判決たる債務名義に執行文の付与を受け突如として本件強制執行に及んだものとすれば、それが如何に確定判決に基づく権利の行使であつても、誠実信義の原則に背反し、権利濫用の嫌なしとしない。然るに原判決は叙上の点については、何ら思を運らした形跡がなく、ただ漫然と判決の既判力理論と民訴五四五条二項の解釈にのみ偏して本件を解決せんとしたのは、到底審理不尽理由不備の誹りを免れないものと言わざるを得ない。なお、原審は、大審院が昭和一五年二月三日の判決(民集一九巻一一〇頁)においてなした「……斯ノ如キ債務名義ニ因リ無制限ニ上告人ニ対シ強制執行ヲ敢テスルコトハ不法行為ニ属スルコト論ヲ俟タザルトコロナリ。民訴五四五条が異議ノ訴ヲ認メタルハ、不当ナル強制執行ノ行ハレザランコトヲ期スルモノニ外ナラザルヲ以テ、判決ニョリ確定シタル請求ガ判決ニ接着セル口頭弁論終結後ニ変更消滅シタル場合ノミナラズ、判決ヲ執行スルコト自体ガ不法ナル場合ニアリテモ、亦異議ノ訴ヲ許容スルモノト解スルヲ正当ナリトス」云々との判示に深く思を致すべきである。
 されば、論旨は結局理由あるに帰し、原判決は叙上の点において破棄を免れないものと認める。 」


 4 最高裁三小判昭和39.10.13民集18巻8号1578頁 (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
  内縁の夫死亡後その所有家屋に居住する寡婦に対して亡夫の相続人が家屋明渡請求をした場合において、右相続人が亡夫の養子であり、家庭内の不和のため離縁することに決定していたが戸籍上の手続をしないうちに亡夫が死亡したものであり、また、右相続人が当該家屋を使用しなければならない差し迫つた必要が存しないのに、寡婦の側では、子女がまだ、独立して生計を営むにいたらず、右家屋を明け渡すときは家計上相当重大な打撃を受けるおそれがある等原判決認定の事情(原判決理由参照)があるときは、右請求は、権利の濫用にあたり許されないものと解すべきである。
(参照・法条)
  民法1条3項
(判決理由抜粋)
 「論旨は、原判決が本訴請求を権利の濫用として許されないと判断したのは民訴一八六条に違反するものであるという。しかし、記録により明らかである被上告人の主張の経過に照らせば、被上告人が所論権利濫用の主張をもなすものと解される旨の原審の判断は、首肯し得ないではない。しかして、上告人および被上告人間の身分関係、本件建物をめぐる右両者間の紛争のいきさつ、右両者の本件建物の各使用状況およびこれに対する各必要度等の事情につき、原審がその挙示の証拠により確定した事実関係に照らせば、被上告人に対する上告人の本件建物明渡請求が権利の濫用として許されない旨の原審の判断は、正当として肯認するに足りる。 」


 5 最高裁三小判昭和40.12.21民集19巻9号2212頁 (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
  債権者が譲渡担保ならびに代物弁済契約に基づいて債務者から立木の所有権を取得したことを理由に右立木につき伐採搬出を許す旨の仮処分命令を得て、これを伐採搬出したが、右契約が臨時物資需給調整法に基づく木炭需給調整規則(昭和二四年農林省令第七四号)に違反する木炭出荷義務を担保するためになされたために無効であり、したがつて、債権者が右立木の所有権の取得し得ないとされた場合であつても、右契約締結が債務者の懇請によりその窮状を救うためになされたものであり、また、債務者側に右契約に関し原判示の事情(原判決引用の一審判決理由参照)があるときは、債務者から債権者に対し右立木の不法伐採搬出を理由とする損害賠償を求めることは、権利の濫用にあたる。
(参照・法条)
  民法1条
(判決理由抜粋)
 「論旨は、被上告人の権利濫用の抗弁を容れて上告人の反訴請求を棄却した原判決は権利濫用の法理の解釈適用を誤つたものであるという。しかし、上告人および被上告人先代亡A間の原判示消費貸借契約に伴い本訴立木譲渡担保ならびに代物弁済契約が締結された経緯、右契約の履行をめぐる右当事者間の交渉の経過、被上告人が本訴立木の伐採および製炭をなすに至つた事情等について原判決がその挙示の証拠により確定した事実関係に照らせば、本訴立木譲渡担保ならびに代物弁済契約が無効のゆえに上告人が依然として本訴立木の所有権を保有するとしても、被上告人の右立木伐採を理由に上告人から被上告人に対して損害賠償を求めることは信義誠実の原則に違反し権利の濫用として許されない旨の原審の判断は、是認することができる。論旨は、ひつきようするに、原審の認定にそわない事実をもあわせ主張して、原審の適法にした証拠の取捨判断ないし事実認定判断を非難するに帰するものであつて、採用できない。 」


 6 最高裁三小判昭和43.09.03民集22巻9号1767頁 (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
  対抗力を具備しない土地賃借権者に対し建物収去土地明渡を求めることが権利濫用となる場合においても、土地所有権の取得者が、右賃借権者に対し、違法に土地を占有するものであることを理由に損害の賠償を請求することは、許される。
(参照・法条)
  民法709条
(判決理由抜粋)
 「原審が確定した事実によれば、上告人は、被上告人が本件(イ)の土地の所有権を取得した日以降、被上告人に対抗しうる権原を有することなく、右土地の仮換地および換地上に本件建物を所有して、同土地を占有している、というのである。そして、被上告人が上告人の従前同土地について有していた賃借権が対抗力を有しないことを理由として上告人に対し建物収去・土地明渡を請求することが権利の濫用として許されない結果として、上告人が建物収去・土地明渡を拒絶することができる立場にあるとしても、特段の事情のないかぎり、上告人が右の立場にあるということから直ちに、その土地占有が権原に基づく適法な占有となるものでないことはもちろん、その土地占有の違法性が阻却されるものでもないのである。したがつて、上告人が被上告人に対抗しうる権原を有することなく、右土地を占有していることが被上告人に対する関係において不法行為の要件としての違法性をおびると考えることは、被上告人の本件建物収去・土地明渡請求が権利の濫用として許されないとしたこととなんら矛盾するものではないといわなければならない。されば、上告人が前記土地を占有することにより被上告人の使用を妨害し、被上告人に損害を蒙らせたことを理由に、上告人に対し、損害賠償を命じた原判決は正当である。叙上と異なる見地に立つて原判決を攻撃する所論は採用できない。 」


 7 最高裁二小判昭和43.09.06民集22巻9号1862頁 (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
  建物収去土地明渡および金銭支払を命じた確定判決を得た債権者が、廃材としての時価が金四万円をこえない右建物に対し、自らこれを競落して収去する予定のもとに、右確定判決に基づいてまず強制競売の申立をしたところ、予想に反して最低競売価額が金一四八万円と定められたにもかかわらず、そのまま競売手続が進行するに任せ、そのために、名義書替料程度の金銭を支払えば敷地を賃借できると考えて右最低競売価額で競落許可決定を得た競落人から、右賃借の申出を受けると、地価の八割に相当する坪金六万四〇〇〇円位の権利金を支払えば、賃貸してもよい旨答えて、競落人をして敷地の賃貸借について希望を抱かせ、競落人が競落代金を完済し、右建物の所有権移転登記と引渡とを受けたのちも、右賃貸条件を固執して、ここに同人に対する右建物収去土地明渡の強制執行のために承継執行文を得たなど原判示のような事情(原判決理由参照)があるときは、右強制執行は、権利の濫用として許されない。
(参照・法条)
  民法1条,民訴法545条
(判決理由抜粋)
 「所論は、原判決には民法一条の適用を誤つた違法があると主張する。よつて按ずるに、原判決において原審が示した事実の認定は、すべて挙示の証拠関係に照らして肯認するに足りる。そして右原判示によれば、(一)上告人が本件確定判決を得た後、上告人から強制執行を委任された松本包寿弁護士は、直接訴外Aらに対し建物収去土地明渡の強制執行に着手することなく、まず右収去されるべき本件建物に対し強制競売の申立をするという異例な執行方法を執つたのであるが、それは一つには上告人の無用な失費を避ける意図に基づくもので、他に首肯するに足りる理由があつたわけではなかつた、(二)しかし同弁護士は、収去されるべき運命にある本件建物については競落するものはないであろうから、上告人自ら極く低廉な価額で競落して適宜の方法で収去を図るべく予定していた、(三)収去されるべき建物としての本件建物の時価は、廃材としての価額である金四万円を超えないものであつたが、右申立による強制競売手続においては、最低競売価額が予想に反して金一四八万円という高額に定められたにもかかわらず、同弁護士は、競買の申出をするものはあるまいとの当初の予測を変えず、万一競落人が出た場合は、そのものに対する承継執行文を得て建物収去土地明渡の強制執行をするのも止むをえないとし、競売手続を公正に行なわせることに協力すべき債権者の責任を顧みず、右最低競売価額を右収去した場合の廃材の価額に訂正させるような措置は何も執らないで、漫然、競売手続をその進行に任せた、(四)被上告人は、本件建物収去土地明渡を命じた確定判決のあること、本件建物を収去した場合には廃材としての価値しかないであろうことを知つたが、土地所有者自身が地上建物を相当を価額で競売に付している以上、いわゆる名義書替料程度の金員を支払えば、結局敷地を貸借できるであろうとの見通しを持ち、右金一四八万円で競買の申出をし、競落許可決定を得た。ところで被上告人から敷地賃借の申出を受けた松本包寿弁護士としては、上記の経緯にかんがみるならば、賃貸条件について柔軟な強度を示して交渉に応ずるのが当然であり、もし建物収去の意思を翻さないならば、明確にその意思を伝えて被上告人に競落残代金の納付を断念させ、その被害を最小限度にとどまらせるよう配慮すべきであつたのに、坪当り金六万四〇〇〇円の権利金を支払えば賃貸を考慮してもよいと答え、被上告人に賃貸借契約の成立についての希望を抱かせる結果となつた、(五)被上告人は、繰り返えして右権利金の減額方を要求し、また本件のような場合には当然に借地権を生ずるという独断的な見解を固める一方、競落代金を完済し、本件建物の所有権移転登記と引渡しとを受けるにいたつた、(六)そして上告人は、右賃貸条件を一歩も譲らず、右強制競売手続において配当金を受領した後、前記確定判決について被上告人に対する建物収去土地明渡の承継執行交の付与を受けたというのであり、原判示のように、被上告人の側にも慎重な調査を欠き強引にことを進めすぎたきらいがあるにしても、右に摘記した各事実その他原審認定の事実関係のもとでは、上告人は、自己の権利の実現のみを目的とする余り、結果において被上告人に莫大な損害を与えるような方法で権利を行使しようとするものであつて、上告人が本件承継執行文を得て被上告人に対し本件建物収去土地明渡の強制執行をすることは、権利の濫用として許されないとした原審の判断は、正当として是認することができる。 」


 8 最高裁大判昭和43.12.25民集22巻13号3548頁 (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
  自己の債権の支払確保のため約束手形の裏書を受けた手形所持人は、その後右債権の完済を受けて裏書の原因関係が消滅したときは、特別の事情のないかぎり、以後右手形を保持すべき正当の権原を有しないことになり、手形上の権利を行使すべき実質的理由を失つたものであつて、右手形を返還しないで自己が所持するのを奇貨として、自己の形式的権利を利用し振出人に対し手形金を請求するのは、権利の濫用にあたり、振出人は、右所持人に対し手形金の支払を拒むことができる。
(参照・法条)
  手形法77条,手形法17条,民法1条2項,民法1条3項
(判決理由抜粋)
 「原審の確定した事実を要約すれば、訴外Aは上告人に対して二口合計一四万円の債務を負担しこれにつき本件電話加入権を売渡担保に供していたところ、さらに上告人は右債務元利金の支払確保のため、被上告人振出にかかる本件約束手形を、その受取人日宝商事株式会社より裏書譲渡を受けて所持人となつたのであるが、その後前記電話加入権は上告人により売却処分され、その売得金一七五、〇〇〇円が右債務の弁済に充当されて、その元利金は完済されたにもかかわらず、上告人は本件手形を返還せずして、振出人たる被上告人に対し、本件手形金の支払を求めるため本訴に及んだというのである。
 思うに、自己の債権の支払確保のため、約束手形の裏書譲渡を受け、その所持人となつた者が、その後右債権の完済を受け、裏書の原因関係が消滅したときは、特別の事情のないかぎり爾後右手形を保持すべき何らの正当の権原を有しないことになり、手形上の権利を行使すべき実質的理由を失つたものである。然るに、偶々手形を返還せず手形が自己の手裡に存するのを奇貨として、自己の形式的権利を利用して振出人から手形金の支払を求めようとするが如きは、権利の濫用に該当し、振出人は、手形法七七条、一七条但書の趣旨に徴し、所持人に対し手形金の支払を拒むことができるものと解するのが相当である。
 右の法理に照らし、本件手形の振出人たる被上告人は、前示事実関係の下においては、上告人の本件手形金の支払請求を拒むことができるものと解すべきであるから、裏書の原因が消滅したから手形上の権利が当然に裏書人に復帰する旨の原判決の判断は是認できないが、原判決は結局結論において正当であつて、論旨は理由がない。 」


 9 最高裁一小判昭和45.06.11民集24巻6号509頁 (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
  第三債務者は、取立訴訟においては、債務名義の内容である執行債権の存在しないことが明白であつても、取立権の行使が権利の濫用または信義則違反であるとして争うことはできない。
(参照・法条)
  民訴法623条,民法1条
(判決理由抜粋)
 「職権をもつて按ずるに、民事訴訟法上の強制執行にあつては、執行機関は、強制執行をするだけの機関であつて、債務名義さえあれば、その債務名義に表示された実体上の請求権の存否またはその行使自体の違法性の有無(請求権の行使が権利の濫用または信義則違反にあたるか否か等。以下同様とする。)を調査することなく、執行を実施すべきものとされている。したがつて、債務者は、実体上の請求権と一致しない債務名義に基づいて執行を受ける可能性があるから、実体上の請求権の存否またはその行使の違法性の有無について実質的審査を受ける機会を与えられる必要がある。しかし、右の実質的審査を簡易迅速を趣旨とする執行手続内で行なうことは不適当なので、この実質的審査は、執行手続から切り離して、請求異議の訴という通常の判決手続によることとなつている。すなわち、執行手続についての争訟手続と、債務名義の内容である実体上の請求権の存否またはその行使自体の違法性の有無についての争訟手続とは、峻別されているのである。それゆえ、執行手続である取立訴訟においては、債務名義の内容である執行債権の存否またはその行使の違法性の有無を争うことはできないものと解すべきである。しかるに、原判決は、取立訴訟においても、債務名義の内容である執行債権が実体上消滅していることが客観的に明白な場合には、取立権の行使は許されないと判示しているのであつて、その判示が右に説示したところと異なることは、明らかである。
 されば、上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。 」


10 最高裁三小判昭和47.06.27民集26巻5号1067頁 (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
  居宅の日照、通風は、快適で健康な生活に必要な生活利益であつて、法的な保護の対象にならないものではなく、南側隣家の二階増築が、北側居宅の日照、通風を妨げた場合において、右増築が、建物基準法に違反するばかりでなく、東京都知事の工事施行停止命令などを無視して強行されたものであり、他方、被害者においては、住宅地域内にありながら日照、通風をいちじるしく妨げられ、その受けた損害が、社会生活上一般的に忍容するのを相当とする程度を越えるものであるなど判示の事情があるときは、右二階増築の行為は、社会観念上妥当な権利行使としての範囲を逸脱し、不法行為の責任を生ぜしめるものと解すべきである。
(参照・法条)
  民法1条,民法709条
(判決理由抜粋)
 「思うに、居宅の日照、通風は、快適で健康な生活に必要な生活利益であり、それが他人の土地の上方空間を横切つてもたらされるものであつても、法的な保護の対象にならないものではなく、加害者が権利の濫用にわたる行為により日照、通風を妨害したような場合には、被害者のために、不法行為に基づく損害賠償の請求を認めるのが相当である。もとより、所論のように、日照、通風の妨害は、従来与えられていた日光や風を妨害者の土地利用の結果さえぎつたという消極的な性質のものであるから、騒音、煤煙、臭気等の放散、流入による積極的な生活妨害とはその性質を異にするものである。しかし、日照、通風の妨害も、土地の利用権者がその利用地に建物を建築してみずから日照、通風を享受する反面において、従来、隣人が享受していた日照、通風をさえざるものであつて、土地利用権の行使が隣人に生活妨害を与えるという点においては、騒音の放散等と大差がなく、被害者の保護に差異を認める理由はないというべきである。
 本件において、原審は、挙示の証拠により、上告人の家屋の二階増築部分が被上告人居住の家屋および庭への日照をいちじるしくさえぎることになつたこと、その程度は、原判示のように、右家屋の居室内および庭面への日照が、季節により若干の変化はあるが、朝夕の一時期を除いては、おおむね遮断されるに至つたほか、右増築前に比較すると、右家屋への南方からの通風も悪くなつた旨認定したうえ、かようにも日中ほとんど日光が居宅に差さなくなつたことは、被上告人の日常万般に種々影響を及ぼしたであろうことは容易に推認することができると判示している。
 ところで、南側家屋の建築が北側家屋の日照、通風を妨げた場合は、もとより、それだけでただちに不法行為が成立するものではない。しかし、すべて権利の行使は、その態様ないし結果において、社会観念上妥当と認められる範囲内でのみこれをなすことを要するのであつて、権利者の行為が社会的妥当性を欠き、これによつて生じた損害が、社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度を越えたと認められるときは、その権利の行使は、社会観念上妥当な範囲を逸脱したものというべく、いわゆる権利の濫用にわたるものであつて、違法性を帯び「不法行為の責任を生ぜしめるものといわなければならない。
 本件においては、原判決によれば、上告人のした本件二階増築行為は、その判示のように建築基準法に違反したのみならず、上告人は、東京都知事から工事施行停止命令や違反建築物の除却命令が発せられたにもかかわらず、これを無視して建築工事を強行し、その結果、少なくとも上告人の過失により、前述のように被上告人の居宅の日照、通風を妨害するに至つたのであり、一方、被上告人としては、上告人の増築が建築基準法の基準内であるかぎりにおいて、かつ、建築主事の確認手続を経ることにより、通常一定範囲の日照、通風を期待することができ、その範囲の日照、通風が被上告人に保障される結果となるわけであつたにかかわらず、上告人の本件二階増築行為により、住宅地域にありながら、日照、通風を大巾に奪われて不快な生活を余儀なくされ、これを回避するため、ついに他に転居するのやむなきに至つたというのである。したがつて、上告人の本件建築基準法違反がただちに被上告人に対し違法なものとなるといえないが、上告人の前示行為は、社会観念上妥当な権利行使としての範囲を逸脱し、権利の濫用として違法性を帯びるに至つたものと解するのが相当である。かくて、上告人は、不法行為の責任を免れず、被上告人に対し、よつて生じた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。上告人に右損害賠償の義務を認めた原判決は正当であり、論旨は、採用することができない。 」


11 最高裁二小判昭和48.11.16民集27巻10号1391頁 (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
  約束手形の裏書を受けた手形所持人が、裏書の原因関係である法律行為が無効であるにかかわらず、手形を所持していることを奇貨として振出人に対し手形金を請求することは、特段の事情のないかぎり、権利の濫用として許されない。
(参照・法条)
  手形法77条,手形法17条,民法1条2項,民法1条3項
(判決理由抜粋)
 「思うに、債権の支払確保のため約束手形の裏書を受けた所持人がその債権の完済消滅後に振出人に対してする右手形金の請求が権利濫用として許されないことは当裁判所の判例(昭和三八年(オ)第三三〇号大法廷昭和四三年一二月二五日判決民集二二巻一三号三五四八頁)とするところであるが、同様に、債権支払確保および債権保証のため約束手形の裏書を受けた手形所持人は、裏書原因である法律行為が無効であるときには、特段の事情のないかぎり、手形を保持し手形上の権利を行使すべき実質的理由をなんら有しないのであるから、自己が手形を所持していることを奇貨として振出人に対し手形金を請求することは権利の濫用であつて許されないと解すべきである。
 してみると、本件手形の裏書原因は前述のように無効であるので、右裏書によりこれを所持するにいたつた上告人の被上告人に対する本件手形請求は許されないといわなければならず、同旨の原審の判断は正当である。」


12 最高裁三小判昭和51.05.25民集30巻4号554頁 (最高裁判例HP該当判例) 
(判決要旨)
  家督相続をした長男が、家庭裁判所における調停により、母に対しその老後の生活保障と妹らの扶養及び婚姻費用等に充てる目的で農地を贈与して引渡を終わり、母が、二十数年これを耕作し、妹らの扶養及び婚姻等の諸費用を負担したなど判示の事実関係のもとにおいて、母から農地法三条の許可申請に協力を求められた右長男がその許可申請協力請求権につき消滅時効を援用することは、権利の濫用にあたる。
(参照法条)
  民法1条3項,民法145条
(判決理由抜粋)
 「原審が確定した事実関係によれば、上告人が家督相続により亡父の遺産全部を相続したのち、家庭裁判所における調停の結果、上告人から母である被上告人Aに対しその老後の生活の保障と幼い子女(上告人の妹ら)の扶養及び婚姻費用等に充てる目的で本件第二の土地(第一審判決別紙目録第二記載の土地)を贈与し、その引渡もすみ、同被上告人が、二十数年間にわたつてこれを耕作し、子女の扶養、婚姻等の諸費用を負担したこと、その間、同被上告人が上告人に対し右土地につき農地法三条所定の許可申請手続に協力を求めなかつたのも、既にその引渡を受けて耕作しており、かつ、同被上告人が老齢であり、右贈与が母子間においてされたなどの事情によるものであること、が認められるというのである。この事実関係のもとにおいて、上告人が同被上告人の右所有権移転許可申請協力請求権につき消滅時効を援用することは、信義則に反し、権利の濫用として許されないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。」


13 最高裁三小判平成09.07.01民集51巻6号2251頁 (最高裁判例HP該当判例)
(参照法条)
  民法1条3項,建物保護に関する法律1条,借地借家法10条1項
(判決要旨)
  AB二筆の土地の借地権者甲が、ガソリンスタンドの営業のために、A地上に登記されている建物を所有して店舗等として利用し、隣接するB地には未登記の簡易なポンプ室や給油設備等を設置し、右両地を一体として利用していて、B地を利用することができなくなると右営業の継続が事実上不可能となり、甲が右ポンプ室を独立の建物としての価値を有するものとは認めず登記手続を執らなかったこともやむを得ないと見られ、他方、右両地の買主乙には将来の土地の利用につき格別に特定された目的は存在せず、乙が売主の説明から直ちに甲は使用借主であると信じたことについては落ち度があるなど判示の事情の下においては、乙が右両地を特に低廉な価格で買い受けたものではなかったとしても、乙のB地についての明渡請求は、権利の濫用に当たり許されない。
(判決理由抜粋)
 「三 原審の右二2の判断は是認することができるが、二3の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 建物の所有を目的として数個の土地につき締結された賃貸借契約の借地権者が、ある土地の上には登記されている建物を所有していなくても、他の土地の上には登記されている建物を所有しており、これらの土地が社会通念上相互に密接に関連する一体として利用されている場合においては、借地権者名義で登記されている建物の存在しない土地の買主の借地権者に対する明渡請求の可否については、双方における土地の利用の必要性ないし土地を利用することができないことによる損失の程度、土地の利用状況に関する買主の認識の有無や買主が明渡請求をするに至った経緯、借地権者が借地権につき対抗要件を具備していなかったことがやむを得ないというべき事情の有無等を考慮すべきであり、これらの事情いかんによっては、これが権利の濫用に当たるとして許されないことがあるものというべきである。
 これを本件について見るに、五三番五の土地は、上告会社の経営するガソリンスタンドの給油場所及びその主要な営業用施設の設置場所として、上告会社の本店である本件建物の存在する五三番七の土地と共に営業の用に供されていたのであり、これらの土地は社会通念上相互に密接に関連する一体として利用されていたものということができ、仮に上告会社において五三番五の土地を利用することができないこととなれば、ガソリンスタンドの営業の継続が事実上不可能となることは明らかであり、上告会社には同土地を利用する強い必要性がある。その反面、買主である被上告会社には、これらの土地の将来の利用につき、格別に特定された目的が存在するわけではない。そして、被上告会社は、五三番五の土地の右のような利用状況は認識しつつも、補助参加人の説明により、上告会社は右各土地を補助参加人との間の使用貸借契約に基づいて占有しているにすぎないと信じ、本件の明渡請求に及んだものである。なるほど、補助参加人は上告会社の監査役であり、弁護士でもある上、上告会社の代表者等と血縁関係にあったというのであるから、被上告会社において補助参加人の上告会社の経営事情に関する発言の内容を信ずることもあり得ないではなかったといえる。しかしながら、営利法人である上告会社が、右各土地上に堅固の建物である本件建物を建築し、既に長期にわたりガソリンスタンドの営業を継続してきていたとの事情に照らし、被上告会社において、補助参加人の説明のみから、上告会社の右各土地の占有権原が権利関係の不安定な使用貸借契約によるものにすぎないと信じ、上告会社がその営業の廃止につながる右各土地の明渡しにも直ちに応ずると考えたのであるとすると、そのことについては、なお、落ち度があったというべきである。他方、上告会社は、五三番五の土地には、登記手続の対象にはならない地下の石油貯蔵槽や地上の給油施設のほか、ポンプ室を有していたにすぎず、右ポンプ室の規模等に照らし、上告会社が、これを独立の建物としての価値を有するものとは認めず、登記手続を執らなかったことについては、やむを得ないと見るべき事情があったものということができる。そうすると、上告会社において五三番五の土地を五三番七の土地と一体として利用する強度の必要性が存在し、右につき事情の変更が生ずべきことも特段認められない本件においては、被上告会社が右各土地を特に低廉な価格で買い受けたのではないことを考慮しても、なおその上告会社に対する五三番五の土地についての明渡請求は、権利の濫用に当たり許されないものというべきである。」


[ Top Menu ]