1985年11月25日 |
親愛なるドナルド・エヴァンズ、
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1985年12月10日 |
ジョーンは、たくさんの興味ぶかい話をしながら、ぼくを彼女の家に連れて行ってくれました。そこにははじめて見る作品のいくつかと、あなたのスナップ写真が数葉。写真はどれも、画集で見ていた一枚とはまったくちがうあなたを示していました。とくに、マンハッタンのどこかの建物の屋上で撮られたというものは、こちらをじっと見つめていました。
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1985年12月13日 |
あなたが描いた四千枚の切手、それを描くことでつくられていった空想の四十二の国々と、その気候、風物、通貨、言語、そして人々。あなたはそれらを、充分に秩序立てて描いたばかりではなく、あなたにとっての唯一の書物ともいうべき『世界のカタログ』の中に、それらの発行にかんする詳細なデータを付して、封じ込めていった。あなたが描くたびに、その書物はふくらみ、ひとたびあなたが描かなくなると、増殖と飽和の果てで中断された書物は、かえって、世界という吹き曝しの地平をひろげてみせるようです。
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1985年12月19日 |
ドナルド・エヴァンズ、
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1985年12月20日 |
ジョーンが語ったあなたの肖像を書き留めておきます。
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1985年12月21日 |
ぼくは彼らに、ぼくが書こうとしている本のプランを話しました。それは、少しずつ土地と日付を変えながら、葉書でドナルド・エヴァンズに、短い日記を送りつづける、というものです。葉書にはもちろん、あなたの切手が貼られることでしょう。
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1986年1月1日 |
ミシシッピーの河口域の、見渡すかぎりの水の上、長い長い単線の鉄橋を汽車が渡って、ニューオリンズ駅。 十歳のとき、あなたは切手を蒐めるだけでは飽きたらずに、とうとう自分でそれをつくりはじめました。見知らぬ現実の国々の名にまぎれながらあふれてきた想像上の国々を、よりいっそうリアルにするためででした。想像を実現するために、あなたは絵具だけではなく、命名の力をつかった。名づけるという行為によって組み立てられる、制度をつかった。王立郵便局の窓口から王権の中心まで、あなたの水彩絵具は、架空の制度の長い長い橋を一挙に渡ってしまったようです。小さな神の、戯れの仕事のように。ただし、あなたの仕事にある、子供じみた熱中と浩然とした大人の冷静とを混同しすぎてはいけないし、たがいを引き離してしまってもいけない、とぼくは思うのです。 |