Maiking


「葉書でドナルド・エヴァンズに」は、今を去ること15年前、ポーラ文化研究所発行のヴィジュアル・カルチャー・マガジン「is」no.32-45(1986-1989)に
連載された作品です。
連載誌面は一通一通が葉書のようにレイアウトされ、エヴァンズの
切手もちりばめられて、たいへん美しいものでした。

そしてこのたび単行本化が2001年、連載終了後なぜこんなに
年月がたったのかというと…平出先生は10年間、推敲しておられたのだ!
「では葉書もずいぶん増やされたのですね?」とお伺いすると、
「いえ、減りました」とにっこりなさる平出先生。詩人おそるべし!

(でもほんとうの理由はU章を読んでください
このご本は架空の切手の国々への通信ではあるけれど、
「架空の通信」の本ではない。「ほんとうの旅」の本なのです)。

印刷ゲラになってからも著者校半年、3校ゲラもまっかか、
4校は「会社からは禁帯出ですよー」と泣いてる担当者に
「だいじょうぶ。伺います。」とにっこり朱入れ。
でも、加筆してくださるたび、ふるえちゃうぐらいよい御文章になってゆくのだ。
泣きながら喜ぶ担当者でございました。

責了後(もうあとは印刷所サンの責任、ということで印刷所サンに戻すことを
責了といいます)、平出先生が「
is」に書いておられた
「本は避けられない」を再読してうむうむ、とナットク。

「葉書でドナルド・エヴァンズに」造本はエヴァンズを日本ではじめて
紹介なさった横田茂さん(横田茂ギャラリー)が手がけてくださいました。
本表紙(カバーを外した本体)の淡い黄緑色がすべての基本に
なっています。これは横田さんの指定によって特別に調合したインクで
(インクを調合することを印刷用語では「調肉」というのだ。
印刷工場に行くと「調肉室」というプレートがかけてあってちょっとスゴイね)、
見返し紙も裏表このインクの濃淡で刷るというゼイタクさ。
神田須田町の気合いの入った印刷所、栗田印刷さんのワザものです。


各章の扉の前にはやわらかなクリーム色で刷られた薄紙が配されています。
この紙と、巻頭の化粧扉は同じ紙。ただし均量がすこし変えてあります。
これはレター・ペーパーで、透かし文字が入ってる。
意外とカワイイもようなのだ。ヒントは紙の名前「ゴールド・カップ」。

横田ギャラリーさんで造本打ち合わせをしていたとき、
ハプニングがありました。国際的なコンセプチュアル・アーティストの
Morgan O’Hara さんがたまたま横田さんを訪ねていらしたのですが、
O’Hara さんはその場でとらえた、ひとびとの印象や動きを
左右の手にした鉛筆で線描にしてゆくというとてもふしぎなアートを
制作しておられて、その打ち合わせの様子を描きだしてくださったのでした。
本づくりのアイディアが提案され、定まってゆく過程が
描線になってあらわれでている作品です。

本文印刷はグレー・インク。これは刷るのが意外にむつかしかった!
濃いとただの黒になってしまうし、薄いと字がかすれてるみたいに見えちゃう。
「これ、グレーに見えますかね」などとだんだんわけがわからなくなって
濃度設定にえらく時間がかかってしまった。生産ノルマがあるのに
いやなカオひとつせずにおつきあい下さった図書印刷・沼津工場枚葉課の
みなさん、ありがとうございました。

オビのデザインは平出先生おんみずからなさいました。
和田シャチョーより「先生の遊びゴコロを見た!」の発言アリ。

とゆーわけで「葉書でドナルド・エヴァンズに」は、
さりげなーく造本にお金のかかった本なんであります。
ちょっと高いけど、ゆるしてくれたまえ。
所持しているとじわじわとその良さが伝わってくることでしょう。


さいごに、装丁の横田さん、小沢書店の長谷川さん(ご本の最後のほうで
平出先生と「バー・セントルム」をたずねる友人とはこの方です!)、
is」編集長山内さんに深く感謝いたします。