清朝絵師呉友如の事件帖

1998.8
A5判上製/2292pages/2,800yen
ISBN 4-87893-755-6
装幀 阿部聡
 


清朝末期の絵師、呉友如の絵入り新聞、『飛影閣画報』。動乱前夜の大清帝国の世上を騒がす事件を追ってます。怪物の出現、謎の病気、壮絶な復讐劇、奇天烈な海外情報に、近代を迎えようとしていた中国の人びとの物事の捉えかたはどう変わり、どうかわらなかったのか。清末の人びとが捉えた「世界」のかたちが浮かびあがる。
目次

 第一回   とにかく走れと大騒ぎの世紀末
        猫の手も邪魔する絵師のお仕事
 第二回   電気の時代にゃ魂も売れる
        エジソン先生も苦労が多い
 第三回   ただの猫なら事件にゃならぬ
        馬ほどでかけりゃ絵にもならぬ
 第四回   掘れば出てくる茶碗のかけら
        なにをか言わん地よりの手紙
 第五回   みんな病気なら正常だろう
        キミのようだねボクのよう
 第六回   死んだ男は化けてうらめしや
        お告げは確かかこっくりさん
 第七回   大きいネズミはワルサに励む
        小さいオトナはそのまま悪い
 第八回   尽きるは真砂で尽きぬは諍いの種
        喧嘩の解決は鼻をも欺く木犀の香
 第九回   愛と憎しみ計りにかけりゃ
        首は転がる血はほとばしる
 第十回   見世物にもならぬは三つ足の怪猫
        要注意!街ゆく美女は大足の姐様
 第十一回 酒屋で絡む怪獣少年は猫嫌い
        怪物は遠きにありて想うもの
 第一二回 怪物どもの勝手にゃさせぬ
        やつらの退治はまかせとけ
 第十三回 博物先生も答えは出せぬ
        山ほど積まれたX鐺案

武田先生はじつにひょうひょうたる文体で「画報」を読み解いておられますが、じつはこれはなかなか大変な作業なのだ。なにせ100年もむかしの異国の大衆紙。辞書なんざにゃのってないはやりのコトバやら言い回しやら…。でも武田先生はミナサマに笑っていただきたい一心でがんばられたそうです。ぜひお楽しみクダサイ!

図版、ちょっとまってね。
 広東省は南海県の、ある老学究。若くして科挙に合格したものの、家で学問を教授して生計をたてて数十年。千年めでたく古希を迎えましたが、まだまだ若いもんには負けぬとて、すこぶる元気でございました。
 ところが、数年前のある日のことでございます。先生の両のひざッ小僧が、突然痛みだしたと思ったら、できものが生じました。できものはだんだん大きくなり、なんとも気味の悪いことに、人の顔のような形になったというのでございます。いわゆる「人面瘡」というやつ。しかも奇態なのは、その口にあたる部分にブタの生肉を入れてやると、口はこれを咀嚼し始めまして、しかも痛みはいくぶんやわらぐというのでございます。
 こうして小康状態が続きましたが、数か月後、こんどは両の肩に、同じようなできものが出てきたのでございました。そればかりではございません、さらに両の頬のあたりにも、人面瘡が出てまいりました。たったひとつの体に、人面が5つもあってよいものでありましょうや。その5つの口が、それぞれにモノを食うというのですから、食費がかさむこといったらありません。
 しかも、お行儀のよろしいのは老先生ご本人の口だけで、人面瘡の4つの口ときたら、食べてから一時間もすると、口に入れたものをいっせいに吐き出すというのです。しかも吐いた後でまた食べたがる。かまわずほおっておくと、耐えがたい痛みが襲ってまいりますので、なにか食わせないわけにはまいりません。ぜいたくなことに、粗末なものなんぞを与えると、できもののくせに顔をしかめ、おいしいものを与えると、ニッコリ笑ってよろこびを表現するというのですから、まったく…。
  かわいそうに、老先生は、いきなり増えた4人の扶養家族のおかげで、永年たくわえた財産も食い尽くされてしまいました。…

人面瘡というコートームケイなおはなしが、おもに食費問題として
ヘーゼンと語られてゆくところがむちゃくちゃオカシイ。

こんな「事件」がたくさんつまっています!

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