My visit was unexpected, and no sooner did they see me entering than they saluted me from afar on all sides; and Chaerephon, who is a kind of madman, started up and ran to me, seizing my hand, and saying, How did you escape, Socrates?--(I should explain that an engagement had taken place at Potidaea not long before we came away, of which the news had only just reached Athens.)
My visit was unexpected,
問題ない。「私の訪問は予期しないものだった」。
体育場内の人々は、ソクラテスがポティダイアの戦陣にいるものと思っているのだ。「私が来るなどとは思ってもいなかったようだ」と訳しておこう。
and no sooner did they see me entering than they saluted me from afar on all sides;
no sooner A than B だ。「AするとすぐにB」="as soon as A, B"
直訳は「AはBより全然早くない」と少し大げさ。現実には、ちょっとくらいは早いはず。でも、そう言いたいくらい「すぐ」なんだ。
Aは、They saw me entering. と“S+知覚動詞+O+現在分詞”になっている。「SはOが現在分詞しているのを見た」。
この部分は、no sooner と〔否定語〕が前に来たので〔倒置〕が起こっている。〔疑問文〕の順になるので、did they see me entering.
afar は、ちょっと古いか。from afar で「遠くから」。on all sides=in all directions「あらゆる方向(から)」。体育場は四角くて、東西南北の廊下そって椅子があったのかも知れない。そうすると「四方から」の方がいいか、とも考えたが、あまり決めつけすぎるのもよくないか。
「私が中に入って行くのに気づくと、彼らは自分のいる場所から私に挨拶をした」と全体的にまろやかにした。no sooner...than... も無視に近い。「遠くから」も入っていない。「近くに寄って来ていない」ことがわかればいいのだろうという解釈。
and Chaerephon, who is a kind of madman, started up and ran to me, seizing my hand, and saying,
who is a kind of madman は、関係代名詞節で、主語の Chaerephon を説明するために挿入されている。原則は〔後訳〕だが、先に訳しちゃえ。a kind of で「一種の」「のようなもの」。madman を「キチガイ」と訳すのはカイレポンがかわいそう。まあ、「一種の」とついているのでいいのか。「気違いのようなカイレポン」を「感激屋の」としておく。
カイレポンは、後に、デルポイ(デルフォイ;デルフィ)のアポロン神殿に出かけ、「ソクラテスに勝る知者はいない」という神託を受けてくる。ソクラテスは、それを聞いて、知者と呼ばれる人との問答を繰り広げることになる。その行為がソクラテス死刑の一因とも言われる。カイレポンは、哲学史上の一大事件の一翼を担っているのである。
Chaerephon started up and ran to me, seizing my hand, and saying,
関係詞節の挿入を抜くと上記のようになる。seizing... と and saying は、接続詞付きの〔分詞構文〕だろう。seizing の前には、and の省略。〔付帯状況〕といったところか。
=Chaerephon started up, ran to me, seized my hand, and said,
とは、いかにも芸がないが、こう考えればいい。本当かな。
「感激屋のカイレポンは、立ち上がって私のところに走ってきた。そして、荒々しく私の手を取って、こう言った」
How did you escape, Socrates?
「どうやって逃げてきたんですか、ソクラテス」
これは簡単。立派に戦ってきたであろうソクラテスに対して「逃げてきた」は失礼だが、冗談めかして喜びを爆発させているのではないか。カイレポンは、この上なくうれしいのだ。
「どうやって逃げ出してきたのです? ソクラテス」
--(I should explain that an engagement had taken place at Potidaea not long before we came away,
この should は何だろう。「説明しなければならなかった」なのか、「説明したはずだ」「多分説明した」だろうか。保留して、次を見てみる。
that以降の節は、explain の〔目的語〕になる〔名詞節〕。節中の〔時制〕は、had taken と〔過去完了〕。これは before に導かれる〔副詞節〕が〔過去形〕なので、これよりも以前という〔大過去〕だろう。過去の時点での〔完了〕や〔結果〕でもいいけれど。
an engagement とは何か? 「約束」「婚約」、「婚約」はない。英和辞典で調べてみる。「婚約」「約束」「幼児」「雇用」「契約」「交戦」「歯車の噛み合わせ」。「交戦」はこの話に一番関係がありそうだが、それでは「交戦が起こったとたん逃げ出してきた」ことになる。そんな不名誉なことを、ソクラテスがするわけがない。「停戦協定」が結ばれたのなら納得できる。「契約」や「約束」はこれに近い。歴史的に見れば、アテネはポティダイアを降伏させたはずだから、「降伏文書調印」くらいだろうか。ここまで書くのは気が引けるので、「停戦協定」にしよう。ちなみに、「婚約指輪」は、(×)engage ring ではなく、(○)engagement ring が正しい。
take place は、「起こる」「行われる」。「結ばれる」にしよう。「締結」の方が格好がいいか。
not long before
long は副詞で、before we came away を修飾しているのか。でも、本来はhad taken place を修飾する〔副詞〕のはず。ここは、はっきりとしたことは言わない事にして、「長く」という意味より「ずっと前」という意味がふさわしい。long ago の ago を修飾する使い方だ。ago の代わりに before we came away があるのだ。
ということは、「私たちが離れてくるずっと以前ではない時期に、ポティダイアで停戦協定が結ばれた」という内容。
not long before で、「すぐに」「まもなく」と訳す例が辞書にある。納得。
「私は次のように説明しなければならなかった。ポティダイアで停戦協定が結ばれ、私たちはその後すぐにそこを離れてきた」
of which the news had only just reached Athens.)
the news of which ということで、「その知らせがちょうどアテネに届いたばかり」という表面上の意味は分かる。
which は何を指しているのだろう。
an engagement だけか、
an engagemant had taken place at Potidaea か、
それとも、an engagemant had taken place at Potidaea not long before we came away か。
真ん中が素直か。
このすぐ後、the engagemaent が「とても厳しいもので」「知人の多くも命を落とした」とあるので、「停戦協定」を破棄し「戦闘」「交戦」に変えざるを得なくなる。それならば、「戦闘が終わってから」と書いてくれた方が分かりやすいのに、と愚痴りながら。
「(『ポティダイアで戦闘が行われ、それが終わってから、すぐに私たちは帰ってきたんだ。その知らせがアテネに着いたのも私たちが帰ってきたのとほぼ同時だったんだ』と、私は説明したはずだ。)」
ナレーター(ソクラテス):
(そこにいた人々は)私が来るなどとは思ってもいなかったようだ。私が中に入って行くのに気づくと、彼らは自分のいる場所から私に挨拶をした。感激屋のカイレポンは、立ち上がって私のところに走ってきた。
そして、荒々しく私の手を取って、こう言った。
「どうやって逃げ出してきたんです? ソクラテス」
(ポティダイアで戦闘が行われ、それが終わってから、すぐに私たちは帰ってきた。そして、その知らせがアテネに着いたのも、私たちが帰ってきたのとほぼ同時だったといったことを、私は説明したはずだ。)
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