英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ギリシャ語、ロシア語、サンスクリット語、……。これらの言語には、共通の祖先があるという。その共通の祖先の言葉から今日の各国語が生まれてきたとされる。
その語は、〔インド・ヨーロッパ祖語〕と呼ばれる。〔インド・ゲルマン祖語〕と呼ぶ場合もある。英語では、Indo-European; Indo-Germanic; Proto-Indo-European と呼ばれる。ただ、現在、この言語を話す者は一人もいない。文献も残っているわけではないので、子孫の言葉から遡って、こんな言葉だっただろうという推測がなされているだけだ。推測と言っても、具体的に語の形(つづり)が示されているものが多い。
子孫語に共通して使われている単語の研究の結果、リトアニアから南ウクライナに至る地域の住民が使っていた言葉で、この住民たちが紀元前3,500年ごろに、四方八方に移動し始めて広がったとわかっている。
中学の社会科の歴史的分野や高校世界史で習ったのではないだろうか。インドの文明(インダス文明)のところで、「アーリア人の侵入」があり、先住民を支配し、「カースト制度」をつくり上げた。
この〔アーリア人〕こそが、インド・ヨーロッパ祖語から分かれた、〔サテム語〕系の民族だ。サテム語系は、ロシアやペルシア・インドなど、東方に広がった。古代ペルシア語の「百」が「サテム」と言うことから名づけられた。
Indo-Iranian; Armenian; Albanian; Balto-Slavic とさらに系統分けする。
ラテン語で「百」を「ケントム」と言う。ギリシャやローマなど、西ヨーロッパに広がった言葉をケントム語系と呼んでいる。
Anatorian; Hellenic; Italic; Celtic; Hittite; Tocharian; Germanic という系統に分かれる。
英語は、ゲルマン語の系列に入る。ゲルマン語は、西ゲルマン、北ゲルマン、東ゲルマンの系列分けがなされる。東ゲルマン語は、ゴート族によって話された〔ゴート語〕があったが、8世紀初めに使われなくなった。〔ゴート族〕の移動が〔ゲルマン民族大移動〕の発端となった。ちなみに、〔ゴシック様式〕というのは、もとは「ゴート族の」の意味。
北ゲルマン語系は、アイスランド、ノルウェイ、デンマーク、スウェーデン等、北欧に広がっていく。
英語は、西ゲルマン語に入る。西ゲルマン語は、さらにアルプスに近い高地のゲルマン語と、北の海に近い低地のゲルマン語と系列が分かれる。
英語は、このゲルマン低地語の流れを汲んでいる。
のちのローマ時代に〔ガリア〕と呼ばれる現在のフランスや北イタリア、ベルギー辺りには、ケルト人(Celt)が広がっていた。
ブリテン島には、元々別の民族が暮らしていたのだが、このケルト人たちは、紀元前の数百年間に、次々とブリテン島に移住した。
第1波は、紀元前600年ごろから紀元前450年頃だといわれる。第2波のケルト人は、現在のフランス、ブルターニュ地方に暮らしていた。よって、ブルトン人と呼ばれた。この第2波は紀元前400年ごろから紀元前250年ごろの間に、ブリテン島に移住した。ブリテン島という名は、このブルトン人の名前にちなむ。のちにローマ人たちは、現在のイギリスをブリタニアと呼ぶ。
第2波に追われて、第1波のケルト人たちは、遠くスコットランド高地や、海を渡ってマン島やアイルランド島に逃れる。
第3波のケルト人は、紀元前250年から紀元前100年の間に、ブリテン島に移る。この第3波に追われて、第2波はウェールズやコーンウォール半島に移る。
言うまでもないが、ケルト人たちはケルト語系の言葉を話した。まだ英語は使われていない。Celtic「ケルト語」は、英語では[ケルティック][セルティック]と発音する。どこかで聞いたことがあると思う。スコットランドのサッカーリーグで活躍する中村俊介選手の所属するチームが、この名だ。「ケルト人(の)」「ケルト族(の)」という意味も持つ。現在は英語を話していても、「ケルト族」の誇りを持っているのだ。
ケルト語もゲルマン語と同じように、ケントム語系である。ケルト語は、さらに2つに大別される。アイルランド語、スコットランドのゲール語、マン島のゲール語は、〔Qケルト語〕と呼ばれる。ちょうど大陸からやって来たケルト人の第1波の人たちが移住して行った地域に当たる。マン島のゲール語は、ネッド・マッドレルという最後のネイティヴ・スピーカーがいたが、1974年に亡くなっている。
第2波の人たちの言葉は、〔Pケルト語〕と呼ばれる。ウェールズ語、コーンウォール半島のコーニッシュというケルト語がこれに当たる。コーニッシュは、ベリー・ペントリースという名の最後のネイティヴ・スピーカーが、1777年に亡くなっている。
【参考文献】
『図説英語史入門』An Illustrated History of English 大修館書店
中尾俊夫・寺島廸子著 ¥1,900+税
アマゾンへ
『講談英語の歴史』PHP新書 渡部昇一著 ¥660+税
アマゾンへ
『英語の歴史』講談社現代新書 中尾俊夫著 ¥660+税
アマゾンへ
“The American Heritage Dictionary of Indo-European Roots second edition”
revised and edited by Calvert Watkins $20.00
アマゾンへ