宅重豊彦 星野悦郎:3MIX-MP法による感染根管治療成績 日歯保誌41(5)970〜974 1998
:研究の目的は3MIX-MP(マクロゴールとプロピレングリコールを添加したメトロニダゾール、ミノサイクリン、シクロフロキサシンの混合)での歯内治療を評価することであった。この研究では3MIX-MPを使用し、4年後を観察した総546例を対象とした。ほとんどの症例(548例、99%)は瘻孔や膿瘍形成、排膿、腫脹、咬合痛の消失と、根尖部透過像の縮小や消失によって良好と判断された。臨床症状に関わらず、治療回数は2回か3回(平均2.4回)で、3MIX-MPは根管内や歯根周囲組織の病変を早期に効率よく殺菌し、歯根周囲の歯周組織の修復を促すことを示している。根管とそれに付随する空間の細菌たとえば根管壁象牙質の象牙細管に侵入・生息している細菌、壊死歯髄内侵入・生息している細菌、根管内を汚染している細菌、根尖病巣や根尖病巣に面したセメント質に侵入している細菌などに、圧倒的多数の嫌気性菌が占めている。根管の無菌化処置とともに、密な根管充填による根管の密閉により根尖病巣が治癒するとされており、抗菌薬剤の混合(3MIX)がこれら全ての細菌に殺菌的に作用することから、歯内療法に抗菌薬剤混合の応用の有効性が示唆されいる。
【材料および方法】市販のメトロニダゾール、ミノサイクリン、シプロフロキサシンを3:3:1の割合で混合し、さらにマクロゴール軟膏をプロピレングリコールで練った物(1:1、MP)と混合する(3MIX-MP)混合後は保存せず、新鮮に調製する。
【治療術式】
貼薬のために根管口部に直径1mm、深さ2mm程度の窩洞(貼薬着座)を形成する。根管内の探査目的に15号リーマーを挿入し、根管内軟組織の有無、根管内の閉鎖状況を調べたが、根尖孔に到達させることは避ける。使用直前に3MIX-MPを調製し、貼薬直座に置く。上記の初回の無菌化されると考えられるので歯根膜症状がなければ2回目の治療で根管拡大、根管充填(通法どおりガッタパーチャ−とシーラーで側方加圧根管充填)を行った。根尖にいたらなかった「開かない」症例では到達したところまで根管充填し、その後貼薬直座に3MIXを充填した。
【対象】
被験歯を、術前X線写真診査により、びまん性骨吸収、歯根肉芽腫あるいは歯根嚢胞と思われる根尖部透過像を認めた症例をA群とし、歯根膜腔の軽度の拡大を認めた症例あるいは根尖に透過像の特に見られなかった症例をB群と分類し、A群は226例、B群は320例を対象とした。
【臨床成績】
術後4年過ぎた症例は、いずれの症例も感染根管治療に関連した自覚症状は見られなかった。根管拡大や根管充填の状況によらず良好な結果が得られた。治療回数はいずれも2回代で臨床症状の軽重と治療回数は特に関連がなかった。
【考察】
本療法では、臨床症状の軽重、腫脹の有無、膿瘍の有無などに関係なく、平均治療回数が3回未満なのは、1〜2回の3MIX-MPの貼薬で無菌化が確実に行われ、臨床症状の素早い改善が得られたことを示していると考えられる。
また、細菌に汚染された象牙質削片を根尖孔外に突き出し、歯根膜に感染を起こす弊害を避けることができたことも理由のひとつと考えられる。従来、死腔の存在によって臨床成績の不良が考えられているが、病巣が無菌化されていれば、たとえ死腔が存在しても歯周組織の健全な回復がなされ、根尖部へのセメント質の添加などにより根管が根尖部軟組織と遮断されている可能性がある。3MIX-MPは3MIXをペースト状にすることで操作性が高まるとともに、病巣深部への浸透性が良くなり、薬効が高まっている可能性がある。
【結論】3MIX-MPによる病巣無菌化組織修復療法により術前と、術後4年過ぎた状態を比較し99%で治療成績良好と判断され、根管充填を含んだ治療回数は、臨床症状の軽重にかかわらず3回未満という結果から、無菌化処置し、清潔な状態で根管処置をすることの有効性が示された。びまん性骨吸収、根尖部透過像も消失、縮小していることから根尖部歯周組織の組織修復がなされたと思われた。
<参考>
1)メトロニダゾール;トリコモナス膣炎の特効薬で、嫌気的電子伝達系の阻害とそれに伴うメトロニダゾールの変性物によるDNAの合成阻害によって、偏性嫌気性菌に有効である。
2)シプロフロキサン;ピリドンカルボン酸系の抗菌剤で、DNAの立体構造を維持する酵素の活性を阻害する。感染象牙質内の通性嫌気性菌に有効である。
3)プロピレングリコール;非経口投与を目的とした、いくつかの水不溶性薬剤のための溶媒。有機溶媒で、溶解度の小さい薬物を溶解し製剤化するために使用される。ジアゼパム、フェニトイン、フェノバルビタールなど注射用液を調製するために一部使用される。