先だって、当サイトを訪問した方からちょっとしたお叱りのメールを頂きました。どうやら常連さん(ありがたいことです)だったようですが、「最近は旅・道路ネタの更新に労力を費やして都市伝説がおろそかになりがちなのではないか」と。実際に、連休(連休以外でもですが)には車でどこかに出かけ、そのときのネタを専ら自己満足のためにサイト上へアップしており、大抵1回分の分量が重いこれらのコンテンツにかかずらっている間は、現実問題として都市伝説に割くエネルギーもなくなっています。そういう自覚は持ちつつも、都市伝説一本でサイトを続けていくと気がもたなくなり早晩フェードアウトする自信があるので、やはりガス抜きのために非都市伝説系コンテンツも続けていこうと思う今日この頃です。専ら都市伝説を見に来ている方々、すみません。一本筋の通っていないグダグダの個人サイトに、それでもお付き合いいただけるという方は、今後ともどうか生温かい目で見守っていただけますよう。
せっかくだから冒頭で旅コンテンツにまつわるお詫びをさせていただきましたが、今回は、道端の幽霊と言うか道路にちなんだ怪談ネタです。ドライブだとか国道(酷道)方面の話題に首を突っ込んでいると、まれにその土地土地の道にまつわる面白い話を聞く事があります。418号線は名にしおう酷道だとか、157号線は秘境の趣を呈しているとか、それはそれで面白いのですが、今回は都市伝説がらみなので、ほぼ心霊談限定ということになります。おそらく、道端に現れる幽霊は日本全国で相当な数に上ると思いますが、その中でもわりあい特徴的かなと思われるものを。
なお基本的に国道は、それぞれに与えられた連番の数字が小さいほど国内交通網における重要性が高いと思って間違いありませんが、3桁国道と1桁・2桁国道の間には、質的な面において単純な数字の差以上のかなり大きな隔たりがあります。人里離れた山奥の狭路、隘路、険路の類は圧倒的に3桁国道に集中しており、従って怪談話もそれら3桁国道に多く見られる傾向があります。(ちなみに、さらなる余談になりますが、2桁国道は10号から59号までしかありません。66〜99までは欠番です。)
■国道230号線 ― 【幽霊トンネル】
国道230号線の通る北海道札幌市の小別沢トンネルは、地元では幽霊トンネルとして有名なのだそうです。そもそもこのトンネルは、明治時代に服役中の囚人に掘らせたトンネルらしく、工事中の事故で死亡した囚人や、劣悪な労働環境から病死した人も少なくなかったのだとか。このトンネルに現れるのはそうした死者の霊だそうです。昔ここで事故死した人の霊というパターンの話はあまり無いらしく、「囚人の怨念が…」というのがほぼ定番のパターンのよう。非業の死を遂げ、ボロボロの身なりをした彼ら囚人集団がトンネル内を行進していくとのこと。霊であっても、やはり集団で来られると一層のインパクトがありそうです。なお、集団の中には少しばかり素行不良の者もいるようで、たまたま出会った相手が女性だったりすると、体を触っていくなどと言う話もあります。「色情霊」とかいう奴でしょうか。
■国道357号線 ― 【首無しライダーのタンデム】
千葉県市川市の塩浜交差点に首無しライダーが出るのだとか。前身黒ずくめのツナギ、あるいは白い特攻服など、見た目で差別化を図ったり、奈良の『光速ライダー』のように特有のネーミングで主張したりする同族が存在する中、ここの首無しライダーは男女ペアなのだそうです。男の方がバイクで追いすがり、バックシートに座っていた女の方がハンドルに飛びついてきて操作不能にし、道行くライダーを事故に遭わせると言う話です。
■国道254号線 ― 【川越街道の花嫁】
埼玉県川越市にある国道16号線との交点に、花嫁衣裳の若い女性の幽霊が現れるそうです。果たしてその花嫁がウエディングドレス姿なのか、文金高島田なのか、その他諸々どういういわれのある花嫁なのかは未確認です。花嫁姿の幽霊と道路と言う取り合わせは一種独特で、起源説には興味のわくところです。
■国道160号線 ― 【白骨街道】
国道160号線は、富山県氷見市から石川県七尾市にかけて、能登半島の富山湾岸を延びていく道路です。白骨街道と呼ばれるのは氷見駅から下田子あたりの区間らしく、原因不明の事故が相次ぎ、幽霊の目撃情報のようなものもちょくちょくあるのだとか。「白骨街道」とは、地元民がそう呼んでいるそうです。この手の物騒なネーミングは、好事家の間で通用する通称に限って言えば結構な数があるのかもしれませんが、聞くところによるとこの「白骨街道」という呼称は、近隣では特に心霊現象に関心のない人たちにもなかなかの知名度を誇っているとのこと。ちなみに、ここに現れる幽霊自体には特筆すべき点はなさそうです。
■国道191号線 ― 【全裸の美女】
山口県萩市の大刈峠では、夏場になると全裸の女性の幽霊が現れるそうです。出現ポイント近くは、カーブの連続する区間らしく、彼女に会うためにはブレーキをかけずにそのカーブに突っ込むという、チキンレースのような真似をしなければならないのだとか。ここで全裸女性の幽霊を見たという体験者が、実際にはスピードの彼方に何を見たのか定かではありません。何となく、走り屋伝説のような雰囲気の漂う話ですが、ご近所の方はくれぐれも、無理して挑んで件の美女とあの世でご対面、などという事がないようにお願いします。
■国道444号線 ―【佐賀の化け猫】
少し発想が古いかもしれませんが、佐賀と言えば鍋島の化け猫騒動です。それにちなんでかどうかは定かではありませんが、佐賀県臼杵郡白石町内には、化け猫が現れるスポットがあるとのこと。かつての化け猫の系譜に連なる危険な妖猫なのか、道行く車を事故に巻き込む危ない怪異のようです。444号と言う4並びも、少なからず不吉な噂に影響していそうです。
■国道246号線 ― 【じゅんいち君道路】
国道246号線は東京の皇居近くから、静岡県の沼津市あたりまで続く国道です。かなり長い区間、東名高速道路に寄り添うようにして延びています。その途中、神奈川県の善波峠あたりは、『じゅんいち君道路』と呼ばれています。もうずいぶん有名になった感のある道です。1965年、高校生**準一さん(17歳)が車で走っていた時に、前方の車を追い越そうとして対向車線からはみ出して来たトラックと正面衝突して亡くなりました(当時は16歳以上であれば一部の自動車に限り運転する事が出来たとのこと)。その後、この付近には『もう死なないで 準一』という看板が立てられました。ただこの看板がかなり目立つもので、幸か不幸かこのあたりを通りかかるドライバーに強く訴えかけるものがあったらしく、やがて奇妙な噂が流れるようになりました。曰く、「このあたりに子供の幽霊が現れる」。そして、その子供の幽霊の名前が「じゅんいち」であると。この子供の幽霊は同じ「じゅんいち」という名前のドライバーを事故に遭わせようとしていたのだといいます。亡くなったのは17歳の男性であるにもかかわらず、子供の幽霊が現れると言うあたりは、やはり興味を引かれる部分です。
また、別の話では、「看板を見て声に出してはいけない」というものもあります。同じ時、「幽霊になったじゅんいち君が、死後もその場所に留まり、道行く車にたびたびはねられてしまう」というものも聞きました(※もにかさん、情報提供ありがとうございました)。はじめてこの話を聞いたときは「もう死なないで」だから死後も車にはねられると言う話になったのか、と一人で得心していましたが、この看板が『もう死なないで 準一』という独特の言い回しになったのは、「遺族の方が、事故で亡くなる準一さんの夢を繰り返し見たから…」という話もあります。裏は取っていませんので、とりあえずはご参考までに。
なお、現在ではこの看板は老朽化が進んだために撤去されたそうです。余談ですが、手元の地図では問題の区間に近い新善波トンネルのあたりに、例の「!」の標識をかたどった記号が描かれていました。幽霊談?が地図に載るほど有名なのか、と気負い込んで確認してみたところ、『崩落危険箇所』の意味だったようで。
■国道153号線 ― 【伊勢神トンネル】
ダムドファイルと言う番組があります。もともと東海地区ローカルのホラードラマだったはずですが、気がつくと放送エリアが東海3県の外にまで拡大しているのだそうです。最近はいざ知らず、ごく最初期には、「実際に心霊スポットと囁かれる場所でロケを敢行!」というのがちょっとしたウリだったように思います。そして、同番組初期に登場したのが、愛知県名古屋市と長野県塩尻市を結ぶ国道153号線の途上、愛知県東加茂郡足助町と北設楽郡稲武町の間にある伊勢神峠の伊勢神トンネルでした。正確には本線から少し上の方に登ったところにある旧トンネル・伊勢加美トンネルの方が噂のスポットなのですが、いずれにせよ地元では心霊スポットとしてかなり有名な場所です。
ところがこの伊勢神トンネル、「スポット」好きのレベルがある一定以上の水準に達した人に聞くと、その評価が一般的に語られているそれとは正反対になると言う不思議なスポットでもあります。事情通に言わせると、「偽スポット」ということになるのです。これはネットを少し探していくだけでも比較的容易にたどり着ける情報なのですが、要するに「トンネルについて何のいわれも因縁ないから、霊が現れるはずもない」という理屈で、こうした熟練者の前で「心霊スポット・伊勢神トンネル」を語ると白眼視されるようなところもあります。
旧トンネルのほうはもともと、明治時代に馬車交通に供するためにつくられたトンネルで、幅員は狭く、照明もなく、現在の自動車交通には向きません。従って、ここで交通事故死者が出ると言うのは考えにくいことですし、人も通わぬ深山幽谷にあるわけではないため、ここで人知れず死んでいった人の存在と言うのも想定しにくいところがあります。そればかりか、現在は多くの車が走る本線トンネルの方こそ工事の際に数人の死者が出ており、「死者も出ていないのに心霊スポットの旧トンネル、痛ましい事故があったのに心霊談の無い新トンネル」と噂のいい加減さが指摘されることもあります。トンネル自体が古くて雰囲気があり、伊勢神・伊勢加美という曰くありげな名前から、話が一人歩きしてしまったのかもしれません。ちなみに「伊勢神」とは、峠の上に伊勢神宮の遥拝所があったことに由来するのだそうです。
問題の旧伊勢神トンネルは、日本国内に二つしか現存していない珍しい石造りトンネルというところに価値があり、実際に県の登録文化財にもなっています。ところが実際に現地を訪ねてみると、スプレーペンキによる落書きがされていたりして、非常にやるせない気持ちになります。おそらくは面白半分で遊びに来た人が軽い気持ちでしたことなのでしょう。しかし、この面白半分で遊びに来る人と言うのが非常に罪作りで、深夜にやってきて大騒ぎするため、近隣住民の方は怒り心頭のようです。ローカルニュースにも取り上げられ、「心霊スポットだ」と騒ぎ立てるマスコミに対する怒りを露にしていました。インターネットサイトにおいて、このような形でこのトンネルを紹介するのも、同じように品性を疑われる行為なのかもしれません。
冒頭でも述べた通り、日本国内には相当な数の道路怪談があります。墓地や病院など、もっとあの世に近そうな場所も多いのに、これほど道路に関する幽霊談の類が多いというのは一見すると奇妙ではありますが、よくよく考えてみると、健康上に差し迫った問題が無く、自殺の意思も無い人に迫る死の危険と言ったら、交通事故が一番現実的であり、その点では人の死に場所としての道路は、特筆するほどのものではないのでしょう。
その交通事故率については、財団法人交通事故総合分析センターという団体が具体的に数値化して発表しています。少し古いデータになりますが、同センターの発表によると平成11年度には人口10万人につき7.2人が交通事故死しているとのこと。車(二輪・原付含む)に関して言えば、自動車1万台につき約1人が何らかの形で事故死する計算になるのだとか。居住地、自動車の利用頻度、その他諸々の要因によって個々人が交通事故に遭う可能性は変動するでしょうし、数値化するとかえって自分が交通事故に巻き込まれる恐れを直感的に理解できなくなくなるということもあります。しかし、何気なく道を行くときに、道端に供えられた花などを見た経験のある人は多いと思います。交通事故を自分自身のすぐ傍らにあるものとは考えないまでも、遠い世界の出来事と考える人もまずいないでしょうし、可能性としては日本各地の往来の、どこで人が死んでいたとしてもおかしくは無いわけです。にもかかわらずその事実が、直感的には幽霊談とは結びつきにくく、一部特定の箇所だけが心霊スポットとして脚光を浴びるのは、大多数の場所では道の上を多くの人やモノが行き交うことで死と結びつく異界の雰囲気が希釈され、対極にある停滞の究極=死の属性がごまかされているだけなのかも知れません。
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