『オルレアン』の系譜


 ダルマ
2002.11.12 


 女性数人のグループがパリに旅行へ行った時のことだった。
 表通りを少し外れたところにブティックが1件あるのを見つけて、寄って行こうということになった。その店は、少し奥まったところにあるという立地と同様に、扱っている商品も地味めの垢抜けないものがほとんどで、品揃えはさほどのものではなかった。それでも、グループのうちの1人は少し気になるものがあったらしく、他のメンバーと別れて、もうしばらく店内を物色していくことにした。
 他のメンバーはにぎやかな表通りの店でウインドウショッピングを楽しんだ後、そろそろいいだろうと思い、先ほどの店に向かった。すると、女性はすでにその店になく、店員が言うには(言葉の関係でコミュニケーションがうまくいったとはいえないが)どうやら、少し前に店を出て行ったらしい。
 みんなは「やれやれ仕方ないな」という反応はしたものの、夜になればホテルに帰るだろうと思い、さほど気にも留めずにホテルに引き上げていった。ところが、その女性は夜になってもホテルに戻ってこなかった。さすがに心配になって、朝を待って地元の警察に通報をした。それでも一行のパリ滞在中に行方不明の女性は見つからず、皆は後ろ髪を惹かれる思いで帰国の途についた。
 その後分かった話によると、問題のブティックがらみで行方不明になる人が以前から数名いたらしい。その人たちの行方についてはっきりしたことは分からないが、一説によると薬物を注射されたあと、人身売買のマーケットに流されていくのだという。そのあとは、裏世界で慰み物にされたり、挙句に密売用に臓器を抜き取られてしまうとも言われている。


 上の話は私が何年か前に知り合いに聞いた話です。話してくれた本人も「パリだったかバリだったか」というようなことを言っていたし、細部はうろ覚えだったのですが、大体上のような話だったと思います。

 試着室に入った人が行方不明になる話はモラン著の『オルレアンのうわさ』で詳しく扱われています。大まかな筋は、「オルレアンにあるユダヤ人が経営するブティックで試着室に入った人がそのまま行方不明になる」というもので、これはオルレアンで実際に存在したうわさですが、そういう事件は実際には起こった形跡がないということでした。ちなみにオルレアンはパリから南に100kmほど行った所にある都市ということで、上の話が「オルレアンのうわさ」の影響を受けていることはまず間違いないのではないでしょうか。なお、「オルレアンのうわさ」も、さらに古いルーツを辿ることが出来ます。

 この話は非常にバリエーションが多いのですが、上の話はその中でもっとも「オルレアンのうわさ」に近いものでしょう。しかし、この話は日本に入って来る時に、ある特異な結末を付け加えられることになります。ここでは、その発展の系譜を辿ってみます。

 ある日本人夫婦がインドに旅行したときのことだった。その旅行はいわゆるパック旅行で、あらかじめ計画されていた日程を消化していき、いよいよインド滞在も後一日となった。その日は一日フリーで、ホテルに滞在することになっていたのだが、夫婦にはひとつ気になっていることがあった。それは、パックの内容が通り一遍の観光をしただけで、地元の人の日常に触れる機会がほとんど無かったことだった。そのことを同行した添乗員に伝えたが、帰ってきたのは「土地の事情を知らない観光客はあまり地元民の出入りするところには近づかないほうが良い。特に市場には近づかないほうが良い」という答えだった。
 夫婦はそのときは一応添乗員の言うことを聞き入れたものの、海外旅行経験は多く、旅慣れているという自負もあったので、予定の入っていなかったその日、こっそりと出かけて市内観光をすることにした。
 市場は多くの人であふれており、夫婦が持っていた地元の人の生活をのぞきたいという希望は満たされた。
 ひと通り市内の観光を終えた後、妻が途中で興味を持った衣料品店に寄って行こうと言った。地元の人たちが着るような服を記念に買って行こうと考えてのことだったのだが、結局普段の買い物のようにかなりの時間を費やすことになった。付き合っていた夫のほうはだいぶくたびれていたが、妻がめぼしいものを見つけて試着室へ入っていくのを見届けた後、外の風にあたろうと思って店の外に出て行った。
 ところが、すぐに終わるだろうと思って待っているのに、妻がなかなか店から出てこない。ずいぶん待たされてイライラしていたので、我慢できなくなり店の中へ入っていき、妻にいい加減にするように言おうと思ったが、店内に肝心の妻がいない。店員に聞いても言葉が通じないため、一向に要領を得ない。業を煮やした夫は、地元の警察に駆け込み捜査を依頼した。しかし、その結果は芳しいものではなく、突如消えてしまった妻の足取りはわからなかった。結局夫は、妻に会えないまま日本に帰ることになった。
 夫はその後数回インドへ赴き、妻がいなくなったあの街を歩き回り手がかりを掴もうとしたが、やはり何の進展もなかった。
 妻の捜索を目的としたインド滞在が数回目を迎えたとき、日本語で「人間ダルマ」と書かれた看板のある小屋が目に付いた。そこはいわゆる見世物小屋だった。まったく成果の上がる気配のない人捜しに疲れたのか、日本から遠く離れたインドで日本語を目にしたことに、何か感じるところがあったためか、彼はその見世物小屋に寄っていこうという気になった。
 しかし、そこで彼は衝撃的な光景を目にした。建物の中の舞台には両手両足を失い、しゃべれないように舌も抜かれ、ダルマのような姿になった女性が全裸で転がされていた。そして、その女性は、数年前のあの日、行方不明になった彼の妻だったのである。

 都市伝説がらみでは「○○ダルマ」というタイトルで語られることの多い話です。上の話では「人間ダルマ」となっていますが、他に「日本だるま」、「ジャパニーズこけし」などの呼称があります。事情を知る人の間では「ダルマ」と呼ぶのが最も通りがよいでしょう。インドの話となっていますが、この種の話の初期バージョンと同様にパリが舞台になっていることもあります。

 このバージョンの話では、試着室云々というよりもラストの「ダルマのような姿」という部分の印象が強烈で、試着室の部分は省略されても、両手足を切断される部分だけ残っていることが多いようです。また、場合によって被害者は、目をくりぬかれたり、頭髪を剃られたりしていることもあります。試着室の代わりにトイレなどで誘拐されることもあります。

 アメリカの都市伝説を研究しているブルンヴァンは、著書『くそっ!なんてこった!』の中で、とある日本人から聞いた話として同様の話を紹介していますが、彼の反応から察するには、人が消える試着室の話はともかく、両手足切断と言う展開は日本独特のもののようです。

 このタイプの話は東京で特に広まっている話らしく、その中でも特徴的なのは、都内である数人組にナンパされて付いて行くと、同じように監禁され手足を切断されて性欲処理用に監禁されるという話でしょうか。しかし、多くは海外旅行に行った先で・・・というパターンです。結末としては見世物小屋のほかに、マフィアなどの裏世界で見世物・慰み物にされたりするパターンもあります。下の話はさしずめ、国内と海外をつなぐ折衷バージョンでしょうか。

 女の子たちが二人で大阪に遊びに行った。しかし、人ごみの中で二人ははぐれてしまい、しかもそのうちの一方の女の子はそのまま行方不明になってしまった。当然警察沙汰となり、捜索が始まったが女の子は見つからなかった。
 半年後、女の子の両親のもとに警察から、娘らしき人物が香港で発見されたという連絡があった。両親はとるものもとりあえず香港に向かった。そこで案内されたのは入り口に「日本だるま」と書かれた看板のかかった見世物小屋だった。そしてそこで見世物にされていたのは、両手両足をもがれ、誰の子ともわからぬ子を孕まされた我が子だったのだが、すでに発狂してしまっていた。その様子を見た両親は「こんな生き物は私たちの子ではありません」と言った。
 女の子は今も精神病院に極秘で入院しているのだという。

 この話では試着室は登場しません。また、行方不明になる場所は大阪となっています。女の子はやはり手足を切断された姿で発見されますが、その後が語られています。被害者のその後が語られる場合、ほぼ例外なく事件は極秘裏に闇へと葬り去られていきます。中には被害者の親が代議士であったり、社会的に権力のある人だったのでその力で事実をもみ消してしまう場合もあります。そのため、これほどの大事件が世間でおおっぴらに公表されないのだ、ということを語ろうとしているのでしょうか。

 ほとんどの場合、被害にあうのは女性ですが、中には男性が被害にあう場合もあります。

 「ダルマ」の話がチェーンメール化した例では、実在の大学に通う男子大学生が旅行先の中国で、「ダルマ」にされると言うものがあります。この話では、ダルマにされた男性は、彼を偶然目撃した日本人旅行者に自分の素性を告げ、助けを求めるなど、内容がより生々しくなっています。

 この内容が事実である可能性が高いので、皆さんにお知らせします。
 私の知り合いのA君が、友達であるB君から受けた相談内容です。
 B君は、この前、中国の一人旅から帰ってきたばかりです。
 以下にB君の話をまとめました……

 B君は国内外問わずによく一人旅をする、いわゆるベテランでした。
 この秋は中国に行っていました。
 山々の集落を点々と歩き、中国4〜5千年の歴史を満喫していたそうです。
 ある集落に行く途中の山道で『達者』と書いてある店がありました。
 人通りも少ネい薄暗い山道で店があるのは今思えば不思議なことですが、その時は『達者』という看板だけに何かの道場かなと軽い気持ちでその店に入ったそうです。
 実は、B君も後で分かった事なんですが、『達者』と書いて『ダルマ』と読むそうです。

*************(注)*************

さて、ここで『ダルマ』というものを説明しよう。
 現在、おもちゃの『おきあがりこぶし』や選挙の時などに目を入れる『達磨(だるま)』へ日本でも有名です。しかし、これの原形となった『達者(だるま)』は結構知らない人が多いのです。B君もその1人だったのですが。
 『達者(だるま)』というのは、約70年前の清朝の時代の拷問、処刑方法の一つで、人間の両手両足を切断し、頭と胴体だけの状態にしたものである。
 映画や本で『西大后』というのがあるが、この中でも『達者』は登場している。
 ここでは、すばらしく美しい女中に西大后が嫉妬し、その女中を達者にし、塩水の入った壷に漬け込み、すぐに死なないように、食べ物だけは与えたという。
 また、しっかりと化膿止めや止血を行えば、いも虫状態のまま何年も生き存えるという。ただし、食事は誰かが与えてやらねばならないが。
 最近では、さすがの私でもウソやろというような噂まで飛び交っている。
 例えば、超S(サディスティック)な奴で、達者でないとSEXできないという性癖を持つ奴(男女問わず)がいるらしい。また、そいつらは、達者屋で随時新しい達者を購入するらしい。等など。
 しかし、もし本当ならば、その達者になる奴は何者なのであろうか。中国マフィアが貧民から奴隷として連れてきた奴や、そのマフィアに処刑されたものなのだろうか?
 まぁ、何にせよ『だるまさんが転んだ』というような遊びは、昔、本物の達者の子供を使って遊んでいたとする何とも残酷な話である。

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          (本論に戻る)
 さて、その店の中は薄暗く、数人の中国人がいたそうです。
 奥のほうに人形が並んでおり、品定めをしようとよく見ると目や口が動くのです。
 そうです。達者だったのです。B君はもちろん達者など知りません。いや知っていても本当にそれを目の前にすると恐れおののくでしょう。B君は周りの中国人が近づいてくる気配がしたのですぐさまその店を出ようとしました。
 そのときです。
 後ろの達者の一つが喋ったのです。しかも、日本語で。
 おまえ、日本人だろ。俺の話を聞いてくれ!俺は○○大学3回生の○○だ。助けてくれ!
 しかし、B君は何も聞いていない、また、日本語も分からないかのように無視してその店を出ました。

その後すぐB君は帰国し、○○大学の○○について調べてみたそうです。すると、確かに今年立教大学の学生が中国に一人旅に行き、行方不明になっているそうです。両親も捜索願をだしているとか。
 B君はこのことをどう対処したらよいか悩んでいるそうです。変に動いて自分も達者にされるかも。とか。何故そのとき○○の話をキいてやらなかったか責められるかも。とか。とにかく早く忘れたいからこれ以上は聞かんといてくれとのこと。
 いやはや、私も達者の噂は知っていたものの本当に存在するとは思っていなかっただけに、びびっています。在日中国人に尋ねたところ、戦前はよくいたらしい。しかし、現在はそんなことをしたら罰せられるそうだ。まぁ、当たり前であるが。
 しかし、中国系マフィアなどは現在も見せしめなども含めて、そういうことをする可能性は多いにあるらしい。
 ご意見、ご感想お待ちしております。


 さらに別の友人です。
 同じような話知ってるよ。なんか,卒業旅行で,ある女の子が中国の山奥に言ったんだとさ.中国の山奥ともなると,治安なんてもちろん届かない.しかもすごい反日感情がものすごい強い.でその女の子がある集落に言ったら、そこで,例のだるまがあったんだって.それは日本人で,「俺は**大学の*****だ」と言って助けを求めたんだけど,その女の子は,たまたま中国語が話せたみたいで,相手が,笑いを誘うと一緒に笑わざるを得ないって言う状況で,何とか日本人と言うことがばれないようにしてそのまま帰ってきたんだって.そうして実際ほんとにいる人なのか問い合わせたら,やっぱり旅行に行ったまま行方不明になってるんだって.それを聞いた俺の友達の女の子は,中国に卒業旅行するのやめたんだって,これは俺の友達の友達に当たるわけで,本当の話なんだ.怖いね.さらに神秘の国、中国。

以上でした。どう?

 上がチェーンメール化したダルマの話です。誤字等は原文のままの表記にしてあります。

 確かに「両手足を切断しダルマのような姿にする」という残虐な行為は、中国では昔、処刑法として実際に行われていたことで、映画「西大后」では、劇中で実際に、西大后の不興をかった女性が両手足を切断され、かめの中から首だけを出した状態で暗い密室に幽閉される場面も描かれています。文中、70年前と言っているのが解せませんが。このダルマの噂が広まったとされる時期は「西大后」が公開され、問題の残虐な処刑のシーンが話題になった時期と近いらしく、映画の影響を受けたのではないか、と考えられます。
なお、「ダルマメール」をはじめ、チェーンメールがらみの話題はこちらへ

 『ダルマ』の話は、日本では70年代ごろから広まりだしたもので、当時は今ほど海外旅行が一般的ではなかったのと、話の内容の関係から、海外旅行・海外生活経験のある若い女性(海外駐在員の身内や女子大生など)の間で広まった話のようです。最近では試着室で姿を消すくだりが消滅し、ただ単に行方不明になった人が手足を切断されて見つかる話も増えてきているのは前述の通りです。

 また舞台がヨーロッパからアジアへと移りました。以前に比べて海外旅行でアジアに向かう人の数が増加した関係で、より身近な舞台設定が選ばれるようになったのでしょう。そして、被害者は女性ばかりではなく男性も含まれるようになっています。

 メールの例は、こうした流れを象徴しています。被害者は男性で、彼が行方不明になったいきさつには一切触れられずに、最初からダルマ状態になって中国の奥地で発見されるというものでした。事件に巻き込まれるまでの過程の描写が省略されてきた背景には、海外旅行が一般的ではなかった時代の、外国に対する不安や恐れが薄れてきた影響があるのでしょうか。当サイトに寄せられた情報の中には、神戸の中国系雑貨店で姿を消した人が廃コンテナの中でダルマになって見つかったというものもありました。もしかしたら『ダルマ』は、身近にありながら混沌と神秘に満ち溢れた(と一般的に考えられがちな)中国の話になりつつあるのかもしれません。

二人連れの女性が上海に旅行していた時のことでした。
 ある雑貨店に入ったとき、一人だけが先に店の外に出たのですが、
 もう一人の人がなかなか出てきませんでした。
 不思議に思って店の人に尋ねるともう店を出たとのこと。
 不審に思いながらも、ひょっとしたら見逃したのかもしれないと思って
 ホテルに帰っては見たものの、日付が変わっても帰ってこない。
 そこで有名なパリの話を思い出して警察に出かけてみたが、
 あまりにもあいまいな話なので、結果は思わしくなく、
 いつまでも滞在するわけには行かないのでその人は日本に帰りました。
 その旅行を企画した会社の担当者が、おかしな噂が立つのを恐れて
 独自に創作を続けたところ、結局その女性は見つかったそうです。
 その女性は、手足を切り落とされて老酒の入ったカメにつけられていたそうです。
 そして、その後マフィアのボスに買われていったのだそうです。
 しばらくして、どこかからの圧力がかかり、女性の行方を追うことはできなくなったそうです。

 最近掲示板の方に寄せられた情報です。話としてはかなりオーソドックスな内容という印象ですが、ある本の中で『実際にあった話』として紹介されていたそうです。まがりなりにも本という形で出版されるとは、かなり洗練された話になっていることの証明ではないでしょうか。上の例は、今の日本の『ダルマ』にかかる現状(?)をもっともよく反映した話なのかもしれません。