最近気になるこの名前


 ひきこさん
 2002.12.02


 ひきこさん、をご存知でしょうか。都市伝説には色々な怪異が登場しますが、ひきこさんもそのうちの一つです。口裂け女やカシマレイコほどの知名度は無いようで、知る人ぞ知る、といったところでしょうか。最近、当サイトにひきこさんの情報を求めてやってくる方がちらほらとおられるようです。そこで今回はひきこさんのおはなし。

 なお、当サイトでは都市伝説に登場する『幽霊』や『妖怪』、その他超常的な存在を、統一規格ではありませんが怪異と呼ぶことが多いです。書き手がここで紹介するひきこさんのような正体不明の存在を、幽霊等、断定的に呼ぶことに少しばかり抵抗があるためです。怪異と言う呼称そのものは私が都市伝説に興味をもつきっかけにもなった、女神転生シリーズに登場するカシマレイコや赤マント、ムラサキカガミなどの都市伝説系悪魔の種族が、ほぼ(首なしライダー以外)『怪異』で統一されていたせいです。その程度なので、この呼び方それ自体にはそれほど深い意味合いは無いと思ってください。

 ためしに色々な検索サイトで「ひきこさん」を検索してみると分かるのですが、ネット上にもひきこさんの情報はそう多くありません。Googleやgooで検索を懸けてみて10件程度といったところでしょうか。2ちゃんねる他、一部の掲示板にその名前が散見されますが、ひきこさんにヒットするサイトは数えるほどです。そのために、ひきこさんの事を探しているうちにこのサイトに来る人が多くなっているのでしょう。ひきこさんを知る人の絶対数はそれほど多くないだろうに、ひきこさんの検索をかける人がちらほら見られる・・・・・・。このあたりも知る人ぞ知る話という雰囲気を強めてますね。

 ひきこさんと言うキーワードを頼りにたどり着いたサイトの中には、以下のものとほぼ同じ内容の文章を掲載している所もあるようです。

 
ある小学校にA君という男の子がいました。A君は学校が終わると、いつもなら友達のB君、C君、D君と遊ぶのですが、その日は午後から雨となり、一番遠い家にすんでいるA君は、急いで学校をでました。
 あたりは薄暗くなり、小雨がぱらついてます。ちょうどA君が帰る途中に、大きな橋がありA君はいつもその橋を渡って帰っていました。
 A君は、いつもどおりその橋を歩いていました。すると、ちょうど橋の真ん中くらいに差し掛かったとき河川の端の石段に何かすごいスピードで動いてるものが遠くで見えました。その河川の端の石段は人が歩けるくらいの幅なのですが、あたりが薄暗くあまり見えないので、A君はなにが動いているのか一生懸命目をこらしてみると、、それはおんなのひとでした。
 そのおんなのひとはちょうどA君くらいの人形を引きずっており白いぼろぼろの着物を着ていて髪は長く、顔にかかっており、異様に背が高く顔は遠くからでもはっきりわかるほど、目と口が横に裂けていました。
 そして、よくみてみるとそのおんながすごいスピードでひきずっているものは人形ではなく、A君くらいの小学生だったのです。A君はこわくなり、その場からたちさろうとしました。そのとき、すぐ近くまできてた女がA君に気づき何かを叫びながらA君をおっかけてきました。
 A君は無我夢中で家にたどりつき、その夜はなかなか寝付けないまま次の朝を迎えました。朝になると、昨日とは一転して空は晴天で、A君は昨日のことはさっぱり忘れていました。
 その日は学校が終わると、いつもようにB君、C君、D君と放課後教室に残り、楽しく遊んでいました。すでに6時が過ぎるころ、ふとA君が窓の外を見ると雨が降ってきました。
 そしてA君は昨日のことを思い出したのです・・・・。
 A君はみんなに、昨日の出来事を話しました。
 みんな半信半疑で、A君が言う事をまったく信じてはくれませんでした。
 B君は、A君をかわいそうに思い、窓の外をみているA君に話し掛けると、A君は、窓の外を指差し、みんなにいいました。
『あいつだよ!校門のところにあいつがいるっ!』
 みんなが窓から外をみてみると薄暗い小雨の中一人気味の悪いおんなが下を向き体を震わしながらたっていました。そのおんなは、みんながいる窓のほうをむくとなにか叫びながら、横走りに動きすごい スピードで校舎に向かってきました。
 C君は『やっぱりA君がいってたことは本当だったんだ!みんな逃げろっ』
と叫びました。
 みんなそれぞれ、下の階に下りようとしましたが、すでに下にはあのおんながきておりそのおんなの姿をみんな目の当りにしました。
 おんなの背は学校の天井につくくらいの高さだったのです。
 みんなそれぞれつかまらないように、A君は職員室の方へB君は掃除棚へC君は理科室へ、D君は運良く学校の柵の外へ逃げ切りました。
 みんなはそれぞれ隠れながら、女がいってしまうのをじっとして待っていました。
 そとでは気味の悪いおんなの声とひたっひたっ、たったったったっというすごいスピードで動いている女の足音がずっと聞こえていました。
 朝方になって、C君は理科室を出て、B君のいる教室へ向かいました。
 B君が『C君大丈夫かい?』と呼びかけるとそっと掃除棚が開き、ほっとした様子のC君が出てきました。
 B君もほっとし、D君の行き先を尋ねました。
 D君は学校の柵をこえ、、なんとか家のほうにむかっていったよということで、今度はA君のことを尋ねると、C君は震えながらこういいました。
『僕見たんだ・・・僕・・夜中にあいつの気配がないことに気づいてそっと棚を開けてみたんだ・・・そして外の様子をうかがおうと窓の外を見てみると・・・・あいつが・・あのおんながすごいスピードでA君を引きずりながら走り去っていくのを・・・・』

 彼女の本当の名前は,『森妃姫子』と言います。
 背が高くて,活発で良く笑う可愛い娘でしたが、先生にえこひいきされたことと、この名前が偉そうだと言う事で,彼女は長い間虐められてきました。かばんの中に子猫の死骸を入れられたり,給食に蟲を入れられたり,上靴をカッターでズタズタにされたり、教科書をゴミ箱に 捨てられたり,掃除用具のロッカーに押し込めて閉じ込められたり。
 思いつく限りの虐めを受けて来ました。
 ある日,虐めグループが彼女の手を紐で縛って,足を持って学校中引き摺り回しました。
「ひいきのひきこ、ひっぱってやるよ!」
 ひきこさんは痛がって泣き叫びましたが、誰一人として助けようとせず,それを笑いながら見ているだけでした。学校を一周して教室に戻ってきたとき、彼女の顔には曲がり角に打ち付けられた時に出来た酷い傷がありました。
 それで、ひきこさんはとうとう学校に来なくなりました。
 ずっと、長い間家の中に篭って,布団を被って泣き続けるだけの毎日でした。家では父親が酒乱で,ひきこさんを殴ります。母親と一緒になって,またもひきこさんを引き摺り回します。
 それでも、ひきこさんは泣きながら家具にしがみついて,学校に行こうとしません。そのうち、部屋から出てこなくなったので,親は一切ご飯を与えないことにしました。やがて,しばらくして親が部屋を覗きこむと,其処には空腹で虫を捕まえて食べているひきこさんの姿がありました。
 親は気持ち悪がって彼女を閉じ込めたまま、部屋から出そうとしませんでした。ただ、日に一度、コンビニの100円おにぎりと水を差し入れるだけで、彼女は部屋から出ることなく、何年も何年も、その部屋の中だけで過ごしました。

 ひきこさんは雨が好きでした。
 家の外で鳴くひきがえるの醜い顔は,自分の顔に刻まれた傷の醜さを忘れさせてくれます。
 ひきこさんは可愛いヒキガエルを食べました。
 それから、しばらくして、雨の日にひきこさんが小学生を襲うようになりました。窓から抜け出て、異常にひょろ長くなった背丈で、嘗て自分を虐めた小学生を今度は逆に引き摺るようになったのです。
 彼女は顔を見られるのを極端に嫌がって,みんなが傘を差して視界が悪くなる雨の日以外は家の中に引きこもっています。しかし、雨が降ると近隣の小学校の付近に出没しては、小学生を追いかけるのです。
 何でも,ひきこさんはおかしくなってしまって、傷が治りそうになるたびに自分でカッターナイフで切りつけて,それで口と目が裂けてしまったとか。不思議と、目立つ容貌にも関わらず,彼女を目撃するのは小学生だけでした。そして、彼女は自分の顔を見た小学生を決して逃がしはしないのです。
小学生を見つけると,恐い顔で追いかけながら『何故逃げるー!私の顔は醜いか!醜いかァァァー!!』と叫びながら追ってきます。
 この時,何故かひきこさんはまっすぐ走れません。カニみたいに横向きに走るのに,異常に足が速いのです。そして、足を捕まえると,そのままズルズルと引き摺って、猛スピードで走り出します。階段も平気で引き摺ったまま走るので,そのうち小学生はズタズタの肉塊になります。それでも、次の小学生を見つけるまでは彼女はその足を離さないのです。
 彼女の家には、引き摺られた二人の親と,引き摺られた小学生がコレクションされています。それで、雨が降ると彼女はその時一番お気に入りの子を連れて出かけるのだそうです。だけど、ひきこさんは虐められッ子だったので、虐められている子は襲われないそうです。それと、名札に嘗て自分を虐めた子と同じ名前が書いてあると、恐がって近寄ってこないそうです。
 ひきこさんに出会ったら,助かる方法は幾つかあります。
 一つはさっき言ったように、虐められっこか、虐めっ子と同じ名前であること。
 もう一つは,『私の顔は醜いか』と聞かれたときに,逃げずに『引っ張るぞ!引っ張るぞ!』と叫ぶこと。
 この時,普通に『綺麗だ』と言うと,気に入って引っ張りたがります。また、『醜い』と言うと、怒って引っ張りたがります。更に『まぁまぁですよ』と答えても、口裂け女じゃないので無駄です。
 ひきこさんは歪んだ復讐の為小学生を引っ張りますが,結局自分も引っ張られたことがトラウマなのです。

 最後にもう一つ。
 ひきこさんは自分の顔を見るのが凄く嫌なので、鏡を見せられると逃げ出します。雨の日は、小学生は傘と一緒に鏡を持ち歩くといいかも知れませんね。

 かなりの長文なのでちょっと整理してみると・・・・・・。

 本名は、森妃姫子。年齢は不明だが、話の流れから察するに若い女性。異常と言っても良いほどの長身。白いぼろぼろの着物を着ている。容貌は、目と口が横に大きく裂けていて醜い部類に入る。最大の特徴は、人形のように引きずっている小学生。文中には肉塊になるまでという記述が見られるのでまず間違いなく死体。

 現時点では口裂け女などほどには多くのバリエーションがないようなので、これがひきこさんにまつわるほぼ全ての情報なのではないでしょうか。数ある怪異の中でも、かなり壮絶な設定がなされているのではないでしょうか。私の個人的なビジュアルイメージは、山咲トオルあたりが書くホラー漫画の女怪の風情です。想像するとかなり恐いひきこさんですが、結局のところ何者なのでしょう?以前このコラムで扱った口裂け女の話題に倣って簡単ながら分析していこうと思います。

1、誕生の経緯
 これについてはかなりはっきりと語られています。直接のきっかけは小学生時代?に受けたいじめですが、その後の家族の対応もかなりまずいもので、それが妃姫子さんの心にかなりのダメージを与えたことは容易に想像できます。事実、荒んだ生活が彼女の精神状態を異常なものにしたという言及もあります。

 ひきこさんの容貌は、『一見すると美人』だった口裂け女と違い、はっきり醜いと述べられていますが、これはもともとは『可愛』かったのが、自分でつけた傷が原因となって醜い容貌になったとされているようです。心に傷を負った人は、ふとしたはずみに自分の体に傷をつける自傷行為を繰り返す場合があるそうですが、妃姫子さんの場合もおそらく心の傷が原因でしょう。

 そんな不遇な生活を送っているうちに、妃姫子さんはひきこさんへと変貌していきます。『妃姫子さん』はごく普通の人間、『ひきこさん』はかなりの異常性を持った怪異です。しかし、両者の間を決定的に隔てる要素に関する説明は、この話の中に登場しません。例えば首なしライダーやテケテケの話などは、ひきこさんと同じく超常的な存在ですが、恨みや未練を残して死んでいった者の亡霊という説明がされることがあります。でも『妃姫子さんは恨みを抱いて死んでいき、怨霊(あるいは妖怪)になった』とか、『妃姫子』さんと『ひきこさん』の間を隔てる決定的な要素に関する説明は、この話の中に登場しません。

 かと言ってひきこさんを人間と言ってしまうのにも抵抗があるでしょう。彼女の行動はあまりに人間離れしています。ずっと以前から存在している概念にひきこさんをカテゴライズするならば、『鬼』ということになるのでしょうか。

 今では鬼というと、赤や青で角の生えたアレのイメージですが、もともとは恨みや憎悪、嫉妬、時には思慕などの強い思いにかられた人間が変化するものとされていました。死してから鬼になった者や、生きながらにして鬼になった者など境遇は様々ですが、要するに鬼とは、『人の想いの恐ろしさ』を体現したような怪物です。マクロな例では、かつての大和朝廷に敵対し虐げられたまつろわぬ民、熊襲、蝦夷、土蜘蛛などが鬼といえるでしょう。異民族や敵対勢力に、いかにも野蛮と言う感じの恐ろしげな名前をつけて腐すのは、『中華』文化の南蛮・東夷などからはじまり、現代にいたるまでの慣習でしょうか。しかし、一方ではそうすることに対する後ろめたさや、虐げられた人々の恨みを恐れる心があり、そんな感情が鬼という魔物を生み出したのです。

 これに対し、民俗間対立よりもずっとミクロな例で私が思い当たったの鬼のは、丑の刻参りの話で有名な、貴船神社に通い詰めた女の話です。この、男女関係のもつれから夫の呪詛を願った女は、まさしく鬼そのものです。話がだいぶ横道にそれましたが、ひきこさんという新しい怪異も、このような先達に連なっているのではないでしょうか。

 などと、ひきこさんは『鬼』なのでないかと言う観点でとつとつと語ってきましたが、私がもう一つ、なんとなく連想したのは、普通の子が突然キレるという現代の少年犯罪の問題です。原因と結果のあいだに明確な因果関係が無い(あるいは外部からは理解しにくい)のに、突然凶暴性を剥き出しにするというあたりが、ひきこさんに通じるような気がします。

 いじめにしろ家族の不和にしろ、最近の世相を思うと妙にリアリティがあります。自傷行為の話も生々しいです。妃姫子さんがひきこさんへと変貌するまでの経緯は結構良く考えられた話という印象で、そのあたりがこの話の不気味さを増幅させているのではないでしょうか。

2、ひきこさんと言う名前
 ひきこさんの名前についてですが、本名とされる森妃姫子はとりあえず置いとくとして、実は色々な解釈が可能な、深い意味が託された名前のような気がします。『ひいきのひきこ』は確かにいじめの原因になりそうな名前ですが、これも本名同様、話の本質からすると後付けのような印象を受けます。やはり、犠牲者であるところの小学生を引き摺るから『引き子』なのでしょう。都市伝説の怪異のネーミングは、外見をストレートに名前としたものが多く、このような怪異の性質・性格をあらわす言葉がそのまま名前になったパターンというのは、都市伝説では意外に少ないパターンだと思われます。どちらかと言うと古くからの妖怪のパターンに近いのではないでしょうか。

 上の話には、『引き摺る』の他にも『ひきこ』という韻に通じるエピソードが登場します。部屋に閉じこもり外に出なくなるというのは、いわゆるひきこもりの状態で、ズバリひきこという言葉が含まれていますし(本名に至っては「もりひきこ」)、ヒキガエルの話もひきこという名前を受けて付け加えられたエピソードでしょう。ひきこさんが虫を捕まえて食べる話もありますが、蟇蛙の話とあわせて私は『蟇蠱』という字面を連想しました。

3、他の都市伝説怪異の影響
 ところで、上の話の中では口裂け女が引き合いに出されてますが、他の都市伝説怪異と比較してみるとどんな特徴があるのでしょうか。怪獣図鑑っぽいですが、私がそのテのネタを好きなのでちょっと比較してみましょう。

■外見
 口が横に裂けているだけならまさしく口裂け女ですが、ひきこさんの場合は目も横に裂けています。決定的に違うのは美人とされることが多い口裂け女とは対照的な、醜い容貌でしょう。もっとも、口裂け女はマスクで口を隠していてこそ美人なのですが、ひきこさんの場合は目と口を隠さなければならなくなり、鼻だけ出した状態では、美人も何もあったものではないと言うこともあるかもしれません。また、ひきこさんは醜い顔にコンプレックスを持っていて、、傘をさすことで視界が狭くなり、顔を見られづらくなる雨の日に町に現れるのが基本のようです。

 なお、ひきこさんは白いボロボロの着物を着ているようですが、なんとなく貞子っぽいイメージが漂います。

■脚力
 都市伝説に登場する怪異は脚力(スピード)を誇る者が多いようです。その中でも最速と目されるのは100kmばばあターボばあちゃんなどの亜種含む)や首なしライダーあたりでしょう。彼らは、車でさえも逃げ切れないことがあるほど速いです。高速道路で車を追い越していった人面犬も、ほぼ同等の俊足を持っているでしょう。詳しくは口裂け女の項に書いてありますが、場合によっては口裂け女もこれに近いスピードを出すことがあるようです。後はテケテケパタパタなどの亜種含む)もスピード自慢の怪異でしょう。二宮金次郎も走ったりするようですが、それほど速いという話を聞いたことはありません。まあ、人間並みといったところなのではないでしょうか。

 肝心のひきこさんですが、やはりご多分に漏れずフットワークのよさが語られています。カニ歩きと言う部分こそ特異ですが、それでも相当なスピードを出すらしく、やはり異常な脚力と言えるでしょう。ただし、ひきこさんから逃げ切れた話もあるようなので、時速100kmというほどの高速ではないようです。数々の先輩方に比べて見ると、抜群の速さと言うよりはまずまずの速さと言ったところでしょうか。なお、ひきこさんがカニ歩きをするのは体が歪んでいるためのようです。何年もの間、部屋に監禁状態だったためにそのようになってしまったのでしょうか。

 余談ですが、古くからの妖怪は速さ自慢よりも力自慢の方が多いと思われます。高速で移動する怪異は、何事もせわしく、スピーディーさが要求される現代の世相の反映でしょうか。

■攻撃方法
 都市伝説怪異の『攻撃方法』は大別して2パターンあると言えるでしょう。

 一つはいわゆる『呪い』と呼べるような超自然的な力によって人間に害をなすパターンです。例えば、カシマレイコサッちゃん田中君など、夢の中での行動が現実に影響したり、憶えているだけで不幸が訪れるムラサキカガミのように、原因と結果に物理的な因果関係が認められないものです。追い抜かれることで事故に会うことがあるという首なしライダーや高速で走る老婆(老翁)、被害者を異次元・異世界に連れ去る能力を持つとされることがある花子さんなどもこちらのグループでしょう。

 もう一方はきわめて物理的な暴力によって害を与えるパターンです。鎌などを凶器に襲い掛かる口裂け女、ピアスをしていると噛み付いてくる耳かじり女などがこのパターンです。異常なパワーなのは間違いないですが、引き摺りまわすことで相手を肉塊に変えるひきこさんもこちらのグループでしょう。攻撃手段が(一応)現実的で物理法則にかなっているため、簡単には人外の者と断じにくいパターンではあります。あまり数は多くなさそうなグループですが、ひきこさんの攻撃方法は、このグループでは残忍性・暴力性においてぬきんでていると言えるでしょう。

 小学生を引きずりまわす惨殺するひきこさんですが、自宅にはそうやって殺した小学生の腐乱死体がコレクションされているそうです。そして、そのコレクション中には、かつてひきこさんを虐げた両親の死体も含まれているようです。両親は、ひきこさんの最初の犠牲者だったのでしょうか。

■弱点・対処法
 恐ろしい力を持っていることが多い都市伝説の怪異ですが、中には遭遇した時の対処方法や、弱点が設定されていることもあります。ひきこさんにもいじめられていた頃のトラウマがあり、そこを突かれると弱いようです。

 今でもかつて自分をいじめたこと同じ名前を持っている相手と接触することを恐れるらしく、いじめっ子と同じ名前の名札をつけていると、ひきこさんに襲われることはないとされています。その具体的な名前は分かりません。ひきこさん本人と同じ名前の子を襲うこともしません。自分も小学生を引きずりまわすのに、逆に相手から「引きずるぞ」と言われてもひるんでしまいます。

 コンプレックスになっている自分の醜い顔をあらためて自覚させられるためか、鏡も嫌うようです。このあたりは、鏡のように磨き上げた盾に映った自分の顔を見て自滅した、古代ギリシアの女怪・メデューサに通じるところがあるような気がします。

 この手の怪異の弱点で有名なのは、やはり口裂け女のポマードやべっこうあめでしょう。他にムラサキカガミに対するホワイトパワーなんてものもありますし、好きな色を尋ねてくるトイレ怪談の怪異などにも対処方法があります。弱点や対処法が設定されている怪異と言うのは、学校の怪談をはじめ、比較的低年齢層の間で広まった話に顕著な特徴のようです。ひきこさんの話も、全ての発端となっているのは学校でのいじめであり、もしかすると学校の怪談由来の都市伝説なのかもしれません。

 ひきこさんの話は、私の知るかぎりネット上でじわじわと認知されるようになってきた話というイメージがあります。検索サイトで検索を懸けてみると、時期的には2001年の7月頃からひきこさんの名前がネット上に登場するようになっています。媒体となっているのは都市伝説サイトや掲示板などですが、いわゆる口コミの話と違い、ネット上で文字化された文章を、他のサイトなり掲示板なりに伝える場合、位置から自分で文章を起こすよりもコピーペーストする方がはるかに楽で合理的です。ひきこさんに関する当サイトの文書とほぼ同じ文章が掲載されたサイトがいくつか存在するあたりから考えても、ネット上を中心に広まり続けるかぎり、ひきこさんの話が大きく変化していく状況と言うのは想定しにくいような気がします。話の生息場所がネット上からネット以外の場所へと移り変わっていく時、この話がどのように変化していくかは非常に興味深いところです。

 最後に、私の個人的な感想としては、ひきこさんの話は自然発生的に生まれた話というよりも、誰かが考えて作り出した話という気がします。皆さんはどう思われるでしょうか。

※2003.07.21追記
以前ひきこさんの話がネット上では2002年の前半頃から見られるようになったと記述していましたが、現在わかっている範囲では2001年の7月に「α-WEB 怖い話」というサイトに投稿されたものが、ネット上で確認できる範囲では最古のひきこさん情報です。ひきこさんとこのサイトのかかわりを指摘する意見を頂いたことがありますが、このサイトの投稿では、ひきこさんに「ゆきと」という弟や「雨子」という妹がいるとか(両親ともども殺害されたと言う話はなさそうです)、大人には見えないとか、色々な新事実が公開されています。