以前このサイトをご覧になった方から、【パソコン通信】にまつわる都市伝説として紹介している話によく似た物語を、ドラマ「世にも奇妙な物語」で放映していたと言う指摘がありました。「世にも〜」のなかの話は「噂のマキオ」というタイトルだそうですが、内容がほとんど同じものなので、あえて「世にも〜」版と都市伝説版の話の区別はせずにあらすじだけ紹介しておくと、おもしろ半分で怪奇なうわさを流した人が、現実に自分の広めたうわさそのままの展開に巻き込まれ、悲惨な結末を迎えると言う筋です。
当サイトの、『都市伝説とは?』の項でも触れていますが、そもそも都市伝説(あるいは現代伝説)という呼び名は、これらの話のもつ性格と、古くから存在するいわゆる普通の「伝説」とに通じる部分があるために付けられたものです。どこが共通する部分かと言われれば、どちらも比較的似たような境遇にある人々の間で広く知られた『既成事実』の話である、という点になります。もっとも、これは都市伝説という言葉が使われ始めるようになったごく初期の頃の考え方で、最近では『都市伝説』という言葉が一人歩きし、当初とはずいぶん趣が変わってきているのですが。
伝説と都市伝説、両者は似ている反面、当然の事ながら違っている部分もあります。だからこそわざわざ別の呼び名が用意されたわけですが、その中でも重要なの要素の一つが、都市伝説はかつては存在しなかったマスメディアによって広められるという点です。おそらく都市伝説という言葉が日本に伝わるきっかけを作ったであろうアメリカの学者、ジャン・ハロルド・ブルンヴァンは、例えば視聴者から投稿された街のうわさが、新聞、ラジオ、テレビなどのマスメディアによって報じられることで広範に伝播していく、というような状況を想定していたようです。
ブルンヴァンの想定していた状況とは微妙に違いますし、既存の話をマスメディアが広めたのか、マスメディアによって創造された話が都市伝説化したのかも定かではありませんが、「パソコン通信」伝説に対する「噂のマキオ」もまた確かに、都市伝説がマスメディアによって広められた事例には違いありません。「死体洗い」伝説と小説「死者の奢り」の関係も似たような事例ではありますが、そのような形で都市伝説とマスメディアが結びついていることも、決して少なくはないようです。
これは現在では、都市伝説が都市伝説であるための一つの要件となっていることですが、そもそも都市伝説に成長しうる話というのは、多くの人々に興味と関心を持って受け入れられ、ために人と人とのコミュニケーションの中でどんどん広範囲に広がっていくものなのです。もともと人々の関心を集めるだけの力を持った話なのですから、プロの作家がうまく加工すれば、十分に面白い物語に仕上げられるような話なわけです。こういった話は、物語の作り手にしてみれば非常にありがたい素材なのかもしれません。
以前に聞いた話では、江戸時代に成立した怪談話、例えば「鍋島の化け猫騒動」や「番町皿屋敷」などは、当時の実際の噂話を元に職業作家が作り上げた話らしく、都市伝説(乃至はうわさ)がドラマ仕立てになることは、昔からあったことのようです。江戸時代の演劇作品の中には、当時の世の中を騒がせ、人々の耳目を集めた事件や噂に材をとったものも多く、一概には言えませんが、こうして成立した話には、怪談話やショッキングな内容の話が少なくないようです。
では、逆に恣意的に作り出された「人々の関心を集めそうな話」は都市伝説になりうるか、と言う疑問に対する一つの答えが、今回のお題である「人面犬」の話です。少し前置きが長かったでしょうか(笑)。
■人面犬
人の顔をした犬。基本的に特に害をもたらす存在ではないが、希に追い抜かれると事故を起こすとされることがある。
話し掛けると「ほっといてくれよ」などと、人語を話す。
その誕生の経緯に関しては、筑波の研究所で行われたバイオテクノロジー研究の結果生まれた生物であるとか、霊的な要因によって発生したなど、様々な説がある。人面犬にかまれると人面犬になるとかいった話もあるらしい。
足が異様に速い。
正体不明の不気味な存在だが、風采の上がらない貧相な人相をしているとされることが多いようだ。
1、
東名高速道路を東京方面に走っていた人が、得体の知れない何かに追い越されていったことに気づいた。よく見るとちょうど柴犬のような感じのものだった。しかし、犬が車を追い越すほどの高速で走れるはずがない。ぞっとするものを感じたが、その人が本当に驚いたのはそのあとだった。
車のほうを振り返ったその犬のような生き物の顔は、人のそれだった。パニック状態に陥ったその運転手はハンドル操作を誤り、事故を起こしてしまった。
同じような事故は続発し、県警が調べたところ人面犬の存在は確かに確認されたそうだ。
2、
あるレストランの裏口にはゴミ箱があって、よく野良犬などが残飯などを漁りに来ていた。そのため、店の人間は時々ゴミ箱のところへ行き、犬を追い払うようにしていた。そのときもいつもと同じようにゴミ漁りに来ていた犬を追い払ったのだが、その犬は振り返って「ほっといてくれよ」と言った。
人面犬は、80年代末頃に爆発的に大ブームになった話です。当時私は小学生でしたが、友達の中にはなぜか異様に人面犬のことに詳しい『人面犬博士』がいたり、雑誌の読者投稿ページには人面犬コーナーがあったり、猫も杓子も人面犬のご時世だった記憶があります。挙句には人面魚、人面蜘蛛、人面岩などさまざまな「人面モノ」が話題になったりしましたが、最終的には人面犬は北への逃避行の末、目撃情報が無くなり、『消息不明』になったとされています。
これだけ流行った人面犬の話が元は単なる個人の創作だったとしたら・・・・・・。
私が以前に調べた範囲では、人面犬とはもともとある雑誌の夏の怪談話特集のために、子供達にいじめられていた「まゆ毛犬(マジックでまゆ毛を書かれた犬)」をヒントに、編集関係者が読者から投稿された実話を装って捏造された話だという説がありました。
また、当サイトの人面犬情報を見た藤壺さんからの情報提供によると、石丸元章氏と赤田祐一氏が創作した話のようです。氏は人面犬の話を雑誌に掲載したらしく、その雑誌とは「popteen」誌とのことで、おそらく私が以前に聞いた話と同じ話なのではないかと思います。
ただし、半ば固有名詞と化してしまった感のある「人面犬」と言う名前こそ冠されていないものの、人の顔をした犬のうわさは、人面犬ブームの少し前から存在していたようなので、人面犬の話は、石丸氏たちの完全オリジナルではないのかもしれません。(※さらに言うならば、人面獣身の怪物の話というのは古くからあります。)
このような経緯を経て誕生した人面犬ですが、雑誌掲載の段階で「ネタ」として、かなり狙った要素が付け加えられたらしく、「作者」本人が人面犬の話に隠された色々な狙いを明かしているようです。特に人面犬のキメゼリフ「ほっといてくれよ(ほっといてくれ、勝手だろ)」あたりは、都市伝説に宿命的について回る「話の背景にあるモノの分析」をしやすいように、という配慮から決定されたもののようです。
このあたりの話自体「ネタ」という可能性もありますが、おそらくまるっきりデタラメと言うことでもないでしょう。人面犬の話がそこまで考えられて生み出された話であるとして、その後の「人面犬」騒動の大きさを思うと、都市伝説というものがかなり狙って作れるもののような気さえしてきます。また、「作者」本人達でさえ予想外だったと言う、目撃証言の続出という現象も興味深いところではあります。
現在では新しいマスメディア・インターネットの発達によって、当サイトのように個人が広範囲に情報を発信することも可能になりました。ネットに関連して、(チェーン)メールも一個人が簡単に利用可能なマスメディアといえるでしょう。【幸福のメール】の中にあった「毎日がエブリデイ」の話は、かなり前に「笑っていいとも」の視聴者投稿のコーナーで紹介されたのを見たことがあります。こちらは同じメールの中の他の話のこともあわせて考えると、どうやら他メディアで紹介された話を集めてメールにしたもの、ということになりそうです。「パソコン通信」伝説ではありませんが、個人レベルで都市伝説を作り出せる時代(?)がやって来ているのかもしれません。もっとも、口で言うほど簡単に成し遂げられることとも思えませんが。
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