過日、本物のメリーさんに出会いました。せっかくだから、ここにその顛末を記録しておきます。
一口にメリーさんと言っても、都市伝説の中には「メリーさん電話」系と「白いメリーさん」系の２系統が存在しますが、私が出会ったのは「白いメリーさん」の方です。もし前者に出会っていたのならば、おそらく命はなかったでしょう。ここでのんきに顛末記など書いていられなかったに違いありません。そういう意味でも、私が体験したメリーさんとの出会いは、幸運な出会いでした。
白いメリーさんには、実在のモデルがいます。そのモデル・「ハマのメリーさん」の詳細についてはこちらのサイトの要領が良いので、この都市伝説が話題に上るたびにそうしているように、今回もご紹介しておきます。全身白ずくめに顔も真っ白という「ハマのメリーさん」の異装にはかなりインパクトがあり、彼女自身の存在や彼女にまつわるさまざまなエピソードを換骨奪胎したような噂は、日本のあちこちに存在します。各地で目撃されるメリーさんの姿は、やはり白ずくめが基本ではありますが、中には赤や黄色の原色系の衣装で身を固めて街に立つメリーさんもいます。いずれにせよ、(それがお婆さんならばなおいっそう)かなり人目を引く格好である事は共通しています。なぜそのような事をするのかと言えば、「精神バランスに異変を来たしているから」と説明されるパターンが多いと思われますが、街にたたずむメリーさんの姿が何かを待っているようにも見えることから、さらにつっこんで「恋人が亡くなった事の意味もわからず、いつまでも愛する人を待ち続けている」と言った物語を見出す向きもあるようです。また、この種の噂の宿命として、メリーさんが道行く人を襲うというパターンも存在します。
最初に断っておかなければなりませんが、私が出会ったメリーさんは、もちろん「ハマのメリーさん」本人ではありません。しかしその特徴を拾い上げていくと、「メリーさん」と表現することにも何らの問題はないであろうと言う、一風変わったおばあさんです。
出会いの状況について、できるだけ細かく記述しておいた方が間違いがないでしょう。ある夏の昼下がり、場所は愛知県一宮市。私がJR尾張一宮駅近くを通りかかったところ、その「メリーさん」は私の進行方向とは逆に、尾張一宮駅方向から、北にある国道155号線方面に向かって歩いていました。遠目にはどこにでもいるような普通のおばあさんでしたし、帽子をかぶっていた事もあって、最初はあまり顔を気にしてはいなかったのですが、すれ違いざまに見たその顔は、メリーさん伝説そのままの白塗りでした。「ハマのメリーさん」のような目の周りの黒い縁取り(？)は無く、ドーランを塗りたくったような真っ白な顔です。一瞬は目の錯覚とか見間違いなのではないかと思いましたが、どうやらそういう事でもなさそうです。「これは！」と本当にビックリして、もう一度その身なりを見直すと、服の方も白と淡いピンクを基調にしたおそらくは花柄のワンピースという、年齢のわりには華やいだ服装(失礼)で、これまた伝説に通じるものがありました。腰は少し曲がっていましたが、しっかりとした足取りでどこかへ向かって歩いており、このあたりは人待ち顔で街頭に現れるパターンが主流となる伝説との相違点でした。異装の人々と言えば、街中のコスプレイヤーやゴスロリの人たちもそうですが、本物の「メリーさん」には、彼らとは違ったインパクトがありました。
声をかけるべきかどうか、迷いました。まさか「なぜ白塗りなんですか？」と尋ねるわけにも行かず、デジカメなりカメラ付ケータイなりの撮影機材も持っていましたが、いきなり「写真撮らせてください」と言うのも変な話。また、その時の私は小汚いなりをしていて、女性に声を掛けるには格好と言うものがあるだろうと言う雰囲気でしたし、どうしたものかとしばらく逡巡しました。そうこうするうちに、そのおばあさんは後方はるか彼方に去っていってしまいました。今となっては後悔半分、失礼が無くて良かったと思うのが半分です。
そういうわけで、出会ったとは言っても一瞬の邂逅だったわけですが、彼女の印象は私の脳裏に強烈に焼き付けられました。当然の流れとして、帰途私は、「彼女が顔を真っ白に塗っていたのはなぜか」という答えの出ない疑問を悶々と考えることになりました。「ハマのメリーさん」の場合に倣って「やっぱり街娼なんだろうか」に始まり、「直射日光に弱い体質で、あの白いのは特殊な日焼け止めなのではないか」、「光の加減でたまたまとんでもなく白く見えただけなのではないか」、ついには「趣味の芸者サークルのようなものに参加していて、今日はその活動日だったのだが、活動終了後に面倒くさくて化粧を落とさず家路に着いただけなのではないか」などと言う事まで考えたりしました。今にして振り返れば、我ながら妙な事ばかり考えたものだといったところですが、実際に本人に出会ってみると、かなりイマジネーションをかきたてられる存在でだったのも事実です。「立ちんぼ」状態ではなかったので、恋人などを待つ「人待ち」のシチュエーションはあまり直感的ではなかったのですが、活発に動き回るメリーさんよりも、街角に一人たたずむメリーさんのほうが詩的であり、物語性に富んでいるのかもしれません。いずれにせよ、一時とは言え「芸者サークル」などと言う恐ろしく突飛な物を想像してしまった身としては、もはや「恋人を待ち続けている」というメリーさん伝説の一類型を、「いくら噂でもロマンティックに過ぎ、飛躍し過ぎてもいる」などと切って捨てられなくなりました。
一宮の「メリーさん」は、彼女が背負った物語を、見る者にあれこれと想像させ、またその存在そのものを誰かに伝えたくさせるようなパワーをもった存在でした。少なくとも私個人は、彼女は優れて都市伝説的な存在だったと思います。勝手なもので、自分がメリーさんを目の当たりにしてしまうと、日本のあちこちの街に同じような人が存在するであろう事に疑問を感じなくなりますし、おそらく「白いメリーさん」型の伝説は、そのような津々浦々の変わり者の噂が、メディアへの露出もあって少しは知られた顔になった「ハマのメリーさん」のイメージを借用して成長していったものなのでしょう。
ちなみに、一宮市にメリーさんがいると言う噂は聞いたことがありません。そうしてみるとここで書いた出会いはイレギュラーなものであった可能性も出てきます。「サークル活動でたまたま…」という一見無茶苦茶な仮説も、案外当たらずと言えど遠からずなのかも…と思ったり。 |
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