忘れた頃にやって来る?


 ショッピングセンターの女児暴行
 2003.09.04

 
 7月に長崎県で幼児が中学生に殺害されるという事件がありました。連日の事件報道により、ほとんどの人がこの事件の概要についてはご存知だと思います。この事件に関連して、加害者少年の顔写真と称するもの(実際には無関係の人の写真がほとんどだったとのこと)が添付された一種のチェーンメールが出回るなど、様々な流言が飛び交い、当サイトの掲示板でも、宮崎で長崎の事件発生を受けたらしい噂が広まっているという新聞記事が紹介されました。その記事にあった、噂の対応に当たったという関係者の方の談話の中に、「今まで聞いた事がない悪質な噂」という旨の発言があったのが印象的でした。実際には、この事件の概要は既存の都市伝説とかなり酷似したものであり、宮崎で広まった噂というのもこの都市伝説を宮崎向けに焼き直したに過ぎないものです。既存の都市伝説とはすなわち、ショッピングセンターのトイレで幼女がレイプされて・・・・・・という話です。

 ある母親が、まだ小学校にあがっていない幼い娘を連れて、近所の大型ショッピングセンターへ買い物に出かけた。バーゲン中のことだったので、買い物の時間はどんどん長くなっていった。
 しかし、あまりに時間がかかったため、途中で娘がトイレに行きたいと言い出した。母親は、娘もそろそろ一人でトイレに行くぐらいは平気な年齢だと思ったが、念のためにいろいろな注意を与えてから、娘をトイレに行かせた。
ところが、随分時間が経ってもなかなか娘が戻ってこない。心配になって、娘が向かったであろうトイレを探したが、彼女の姿は見つからない。
 ちょうどその頃、店内の別のトイレで、個室から妙な物音がするという通報を聞きつけて現場に駆けつけた警備員が、問題の個室のドアをこじ開け、裸の女の子と中年男の姿を見つけていた。


 テレビのニュースや新聞などではあまり大々的には報道されませんでしたが、一部週刊誌の報道によると長崎の事件で被害者男児は、殺害直前に性的虐待を加害者である男子中学生から受けていたようです。ショッピングセンターと性的虐待あるいは暴行という組み合わせからショッピングセンター女児レイプ伝説を連想するのは、それほど難しいことではないように思います。さらに、上で紹介した話においてこそ犯人は中年男となっていますが、流布している地域や年代によって様々にバリエーションが変化するこの話の中には、男子中学生が犯人であるとされるパターンもあります。これだけ既存の噂に酷似した事件が発生したということで、一連の騒動を単に刑事事件にかかるものとしてだけではなく、都市伝説ならびに社会学的関心という視点から捉えようとする動きも各所で見られました。2ちゃんねるには、『【社会】「トイレで女児襲われた」 噂の独り歩きにショッピングセンター困惑 金沢』というスレッドが8月13日付けで立てられています。これは金沢の地方紙である北國(ほっこく)新聞の記事をもとにしたスレッドで、都市伝説の話題が含まれるオカルト板ではなく、ニュー速+に立ったものだったと思いますが、しっかり「これって都市伝説だよね」という突っ込みは入っていました。なお、この板の住人の方(81:統計屋さん)が、過去に同種の噂が流れた地域を統計にまとめてくださっていたのでそれを引用させていただきます。○○年前、という表現はおそらく2003年8月現在を基準にしたものであると思われます。
  • 本スレ内・地方都市伝説伝播地リスト(震源:アメリカ/20〜30年前)
  • 北海道/某ショッピングセンター/7年位前
  • 宮城県/某デパート
  • 仙台
  • 金沢
  • 群馬県/県内のスーパー・デパート・ショッピングセンター/去年から
  • 埼玉県久喜市/ホームセンター
  • 埼玉県北戸田/でかいスーパー
  • 千葉県木更津市/10年前
  • 神奈川県
  • 三重北部/電話ボックス
  • 岡山/ヨーカドー
  • 広島
  • 山口/半年位前
  • 福岡県京都郡/サ○リブ
  • 長崎
  • 佐賀 2、3年前
  • 熊本
  • 宮崎/今年の5,6月ごろ
 ほとんどコピペです。まず最初に、震源:アメリカ/20〜30年前とありますが、ブルンヴァン著の「チョーキングドーベルマン」によると、アメリカ版ではKマートと言うディスカウントストアが舞台となっているようです。この話は、白人男児が黒人の少年達にペニスを切り取られる、という筋になっています。人種の問題が絡んでいるようで、そのままではあまり日本にはなじみそうもない話ではあります。ちなみにこの話は、ディズニーランドの誘拐犯と同根と言う見方も一般的です。なお、前述スレッドの1で紹介された金沢の噂は、引用された新聞記事によると、6月頃から潜在的に広がりを見せていたものが、7月の長崎の事件を受けて一気に拡大・表面化したもののようです。現地の土地鑑があるので参考までに多少の補足をしておくと、噂の舞台となったのは市街地のはずれ、国道沿いに立地する店舗で、周囲には多少の住宅地が広がっているものの、そこを外れればすぐに田園地帯、という場所です。

 【犯罪関係の都市伝説】の中のレイプ事件の項では、比較的最近になって大規模な広がりを見せた噂であると紹介していた話ですが、今回の騒動を機にいろいろと調べてみたところ、やはり噂そのものはかなり以前から存在していたようです。ただし、話のプロットはもちろん、ディティールもほとんど変わっていません。せいぜい犯人のキャラクターが変わり、各地になじみの場所が事件の舞台に選ばれる程度のものです。そんな変化の少ない話が、これほどの長命を保っているのは不可思議でさえあります。

 金沢の噂が地元紙に取り上げられ、そこから全国区になる以前の8月8日の段階で、(おそらく)通称主婦板に『ひどすぎる・・・女児レイプ!』というスレッドが立っています。こちらは育児問題と言う、ニュー速板とは違ったスタンスでこの話題を捉えていますので、スレの雰囲気もおのずと違っていますが、そのことはまた後ほど。このスレでも過去に同様の噂が存在していた、という書き込みが散見されました。こちらでは統計を取ってくれる人がいなかったので、自分で各情報の趣旨を拾い上げていくと、
  • 石川県の金沢にある、大型ショッピングセンターで女児レイプ事件があったらしい。施設内の障害者用トイレで、小学1年の女の子がレイプされ女の子は出血が止まらず、子宮摘出。母親はノイローゼになったらしい。(※1さんがスレッドを立てた際の書き込み)
  • 場所不明、4歳の女の子が被害に遭い、トイレで口から泡を吹いて倒れていた。その後母親達が交代でパトロールしている。凶悪事件だがニュースや新聞で取り上げられないのは被害者感情に配慮したためか?
  • 長崎で2年前に。大型商業施設・チトセ○アで。
  • 2,3年前に同じような記事が朝日新聞に載っていたから都市伝説ではない。
  • 近所であった(場所不明)。その後、色々な施設のトイレに「従業員も使用します」、「警備員が見回ります」の張り紙。障害者用トイレにはカギ、「御用の方は従業員へ」と張り紙。都市伝説ではないとびびった。
  • 最近神奈川でもあった。

 他に2ちゃんねるがらみで同様の話題が結構見つかりました。
●山口であったマイナーな事件●(板不明):2002年5月29日
  • 防府駅前にある一回つぶれたデパートのトイレで、小学生の女の子が中学生くらいの集団にレイプされた。
  • 同じく防府(上と同一の噂?)のショッピングセンターにある映画館で小学生の女の子が男子中学生に集団レイプされ子宮破裂。2002年8月頃の噂。

この場所かなり危ないカモ〜ン。(推定主婦版):2001年7月8日
  • 近くのショッピングセンター(場所不明)のトイレで小学生の女の子が変態ロリ男にレイプされて子宮破裂して救急車で運ばる事件があった。親が公表されたくないと、泣き寝入りしたらしい。友達が実際に救急車で運ばれてる現場を目撃した。その友達は被害者の子を知っている人から聞かされて事件の現場を目撃していた事を知ったらしい。被害者の子が通ってた学校では噂になったが、先生は事故で入院と説明したらしい。
  • デ●ーズバージョンなどもあり。
  • 何年か前にワイドショーでもやってた(デパートのトイレ)
  • 市内(場所不明、関西圏?)で、幼稚園の卒園式の帰りに10人ぐらいのグループで「マ●ド」へ行き、ママ同士の話が盛り上がっている間に女の子が一人でトイレに行った。ところがなかなか帰って来ないのでトイレを見に行ったらあそこにホウキの棒を入れられて、口にティッシュ詰め込まれて血だらけで意識不明で倒れていたらしい。犯人は中学生5人で、捕まった。今も女の子は口がきけなくて、精神病院に入院中らしい。ほとんどの幼稚園に情報が流れて「トイレには必ず大人がついて行く事」と幼稚園からプリントが回った。
  • 1970年前後秋田県内(秋田市?)。デパートの女子トイレで小学生の女の子が外国人の男に。被害者は亡くなった。※今回探した範囲で最古の事例

 2ちゃんねる以外では
  • 奈良のショッピングセンター(年代不明)。被害児童は男女問わずで複数。うち一人の女の子は子宮破裂で死亡。犯人であると噂された中学生は、後に噂を苦にして自殺。
  • 2003年6月場所不明。大学1年生の男が4歳の女児を襲った。女児は子宮破裂で死亡。その女の子が運び込まれたのは母親が勤務する病院だった。
  • 2000年頃名古屋。某所のカラオケボックスのトイレで母親に連れられた女児が襲われ、子宮破裂。一命は取り留めたものの、子供を産めない体になった。
  • 1999年、広島県福山市。ショッピングセンターのトイレで女児が襲われた。

 やはりと言いましょうか、主に子を持つ親が集まってくる板であるためか、主婦系の掲示板ではこの噂に対する反応がかなり鋭敏だったようです。特に話題が白熱するに従い、子供を守ろうとする意識が極端に先鋭化するのか、「この噂は都市伝説である」という最も現実的な落しどころで決着をつける事を厭う雰囲気がスレッドを支配していたように見えるのが特徴的です。上で紹介した書き込みの中にも2、3この話が都市伝説であるという事を否定するような内容のものも含まれていますが、この傾向がさらに先鋭化すると「伝説で片付けるな」と半ば感情論に近い反論が飛び出したりすることもありました。子供を守ろうとする気持ちが強まった親にとって、「これはただの噂だから・・・・・・」で話題終わらせるのは、ある種の育児放棄のように感じられるのでしょうか。このあたりは子を持つ親にしかわからない感覚でしょう。しかし同時に、非常に危ういな、という印象を受けたのも確かです。一度事実だと信じてしまった話が、実は噂であったと認識を改めるのは意外に難しいことなのでしょうか。

 対して『【社会】「トイレで女児襲われた」 噂の独り歩きにショッピングセンター困惑 金沢』のスレッドでは、このような流言がくり返し流行するのは、子供の面倒を十分に見ていると言い難い親が多いからではないか、と指摘する人もいました。これは一面の真理でしょう。便所の落書きでも、ひどいインターネットでも、やはり「寸鉄人を刺す」ほどの意見は存在するようです。確かに、普段から子供の安全に十分に留意していれば、たとえ同種の噂に直面しても、理性的で毅然とした対応が出来るのではないかと思います。逆にこの噂を聞いて後ろめたいものを感じる人ほど、噂以前と噂以後の振幅が大きくなるものなのかもしれません。ひょっとすると、日本各地で過去に幾度も類似の噂が流れているのに、未だこの手の噂が命脈を保っているのは、この噂の担い手が単純に噂に踊らされている人ばかりではなく、自戒の意味を込めて無意識のうちにこの噂を信じようとする人も多いということの表れなのでしょうか。ただし、この噂は、子供の世話を怠ったがために悲劇的な結末を迎えた親を主人公に据えた教訓話と捉えることができると同時に、顧客数の拡大を狙った同業他社の流した虚報である、という陰謀論的解釈も可能という厄介な一面を持っています。それで子供の安全を守ろうとする意識が高まるのなら嘘も方便、とするのは問題です。結局のところ、やはり噂は噂として冷静に対処するのが最良に違いありません。

 それにしても子宮破裂で検索をかけても、帝王切開とこの噂に関する話題以外でお目にかかることがほとんどありませんでした。現実には、よほど特殊な怪我なのだと思います。幼児レイプ事件そのものは厳然として存在しますが、これほど広範囲に類話が存在しているのに、管轄の警察署に類似の事件の記録はなく、報道された形跡もないと締めくくられるのが常道です。せいぜい、そういう噂が流れていると言う過去の記事を見つけるのが関の山です。子供の安全を守ろうと言う意識は必要ですが、噂そのものに関しては、完全に否定し去るだけの証拠はないというだけの、限りなく嘘に近いものと思っておいた方が良いでしょう。