*みょうじん駅*
数時間後、僕は【みょうじん駅】に降り立っていた。
そこは、僕が事故にあって記憶をなくした【うなかみの崖】は、ここ【みょうじん村】と【あまち】さんのマンションのある【おおさと市】とのほぼ中間にあたる場所だった。

「僕は、ここに来たことがあるんだろうか・・・?」

僕はとりあえず、話を聞こうと駅員さんに声をかけた。

「あの・・・すいません。」
「はっ?何の御用ですか。」
「すみませんが、【あやしろ】という言葉についてなにかご存知ではないですか?」
「【あやしろ】、ですか。【あやしろ家】の事でしょう。あそこに見える、あの山のふもとの大きな屋敷です。」
「ところで、つかぬ事をお聞きしますが、僕に見覚えはありませんか・・・?」
「そういえば、あなたはこの村に来られた事がありましたね。」

・・・!やっぱり来ていたんだ・・・。僕はこの村に、何を調べに来たのだろう?

「ここは御覧の通りの静かな村ですが、古くからの因習や気味の悪い言い伝えが今でも語り継がれているんですよ。」
「【あやしろ家】・・・ですか?戦国時代はこの辺りの領主だったそうですが、今は日本有数の資産家として有名ですね。」

【あやしろ家】、そこに僕の記憶の謎を解く鍵があるのかもしれない。
僕はさっそく、【あやしろ家】を訪ねて見ることにした。

*あやしろ家*
日本有数の資産家として有名、というだけあって、【あやしろ家】の屋敷には豪華な装飾が施されていた。広い敷地に、瀟洒な建物・・・。
少々気後れしたものの、気を取り直してドアをノックした僕を、館の執事だと思われる初老の男性が出迎えてくれた。

「茂木様!どこへ行っておられたのですか?心配しておりましたよ。」

この人は僕を知っている・・・!?僕は、執事さんに事情を説明した。

「なんと、記憶喪失!では、依頼した調査の内容や、私の名前まで忘れてしまわれたのですか!」
「!?・・・調査、ですって?」
「茂木様、よくお聞きください。私の依頼を受けた茂木様は、調査の内容を聞くために先日この屋敷に参られました。」
「その調査というのは・・・先に亡くなりました当家の主、【あやしろキク】様についてでございます。思い出してくださいませ!」

【あやしろ】・・・【キク】!?

「お医者様はその死因を心不全と診断されましたが、私には【キク】様の死がただの病死とは思えないのです。」
「つまり、【キク】さんは何者かによって・・・?」
「それを茂木様に調査していただこうと、この屋敷へお呼びしたのです。それなのに、こんな事になろうとは・・・。」
「丁度ここまでお話させていただいた時、茂木様にどなたさまからかお電話がかかって参りました・・・。その電話の後、『重要な情報が手に入るかもしれない。』とおっしゃってこの屋敷を出て行かれたのではありませんか。」

重要な・・・情報?この依頼に関してのことなのか・・・。

「事情は大体飲み込めました・・・お手数ですが、もう一度【あやしろキク】さんについて聞かせていただけますか?」
「【キク】さまは【あやしろ商事】の会長でございましたが、78歳の高齢の上、心臓が弱っておられたのです。」
「そこで遺言状を作成なされたのですが、その遺言公開の直後に、ご自分の寝室でお亡くなりになられてしまったのです。」

そうだ・・・だんだん思い出してきたぞ!

「確かに僕は、ここで依頼を受けた!そしてあなたは・・・【ぜんぞう】さん、でしたね!」
「思い出していただけましたか!思い切ってお話してよかった・・・。」
「それで、その遺言状というのは?公開したときに誰か怪しい人物が同席していたとか・・・。」
「遺言状の公開には、ご親戚の方々が立ち会われただけですので・・・私にはちょっとわかりかねますが。」
「その、同席した親戚というのは?」
「【キク】様の甥の【あやしろカンジ】様と、【ジロウ】様。それに、姪の【かすがアズサ】様の3人さまです。」
「【カンジ】様は三人兄妹の長男で、【あやしろ商事】の社長をなさっています。【ジロウ】様はご兄妹の末っ子で、【あやしろ商事】の専務をなさっています。」
「【かすが家】に嫁がれた【アズサ】様は、ご兄妹の二番目にあたられます。」
「もちろん皆様、その日の為にお集まりになられたので、ここに住んでおられるわけではございません。ただ、【アズサ】様だけはしばらくこちらにお泊りになるそうです。」
「今は、どこかにお出かけのようで、邸内にはいらっしゃいませんが。」

【キク】の遺言状の内容を知る三人の親族・・・。【キク】の死亡がそのすぐ後であることを考えると、充分容疑者になり得る・・・。

「茂木様、【キク】様が亡くなられた寝室を御覧になりませんか?」
事件の現場を確認するのは調査の基本だ・・・僕は、【ぜんぞう】さんの言葉に甘えて、寝室を調べさせてもらう事にした。