*あやしろ家*
【あやしろ家】に戻った僕は、話を聞こうと【アズサ】さんを探してみたのだが、その様子を見て、【ぜんぞう】さんが声をかけてきてくれた。

「どなたかお探しですか?・・・【アズサ】さまでしたら、たったいまお帰りになられましたよ。おそらく居間のほうにいらっしゃるのではないでしょうか。」
「あっ!どうも、ありがとうございます。」

さっそく僕は居間へと向かった。なにか重要な情報が手に入るといいんだけど・・・。

*居間*
【ぜんぞう】さんの言った通り、【アズサ】さんは居間でくつろいでいた。

「すみません、【アズサ】さん・・・【キク】さんについてもう少しお聞きしたいんですが。」
「・・・【キク】おばさまの発言権は、【あやしろ商事】でも絶対的なものだったようね。逆らえる人はいなかったわ。【カンジ】兄さんでもね。」
「なるほど、ところで【カンジ】さんには息子さんがいらっしゃるとか・・・?」
「ああ、【アキラ】・・・兄さんのドラ息子ね。遺言公開の日もこっちで会ったけど。そういえば、その時アキラは誰かとコソコソ会っていたようね。」
「え?一体誰と・・・?」
「それはご自分でお調べになれば?探偵さん。」

【アキラ】がここに来ていたのは間違いないようだ・・・誰に会っていたのだろう?とりあえずここは、質問を変えるか。

「ところで、【ジロウ】さんについては何か・・・?」
「おばさまが亡くなって、一番困った事になったのは【ジロウ】じゃないかしら。」
「それは、どういうことですか?」
「社長の【カンジ】兄さんと、専務の【ジロウ】はね、会社の中で激しく対立してたのよ・・・コホン!」
「今まではおばさまがいたから、【カンジ】兄さんも【あやしろ商事】を思い通りにできなかったけど・・・今はもう兄さんの望むままね。」
「【カンジ】兄さんがいる限り、専務の【ジロウ】は会社の中で小さくなってなきゃならなくなったのよ。ともあれ、【カンジ】兄さんにとってはおばさまの個人財産なんてどうでもいいんじゃないのかしら?それよりも、【あやしろ商事】を自由にできることのほうがよほど魅力的な事に違いないわ。」

「なるほど・・・。そういえば、この【あやしろ家】の顧問弁護士の、【かんだ】さんについてはなにかご存知ではないですか?」
「頭は切れるらしいわね。会社の相談役にもなっているようだけど。」
「・・・ところで、二十年前に失踪したと言う【ユリ】さんと、【あやしろ家】の後継者の印については何か・・・。」
「それは、こっちが聞きたいくらいよ!・・・大体あなた探偵でしょ!?どうせ何もできないんだから、こんな所でぐずぐずしてないで、【ユリ】さんでも探してらっしゃいよ!・・・会社を自由にしたい【カンジ】兄さんは、それを望んでないでしょうけど!」

うわぁ、とんだとばっちりだ!たしかに【ユリ】さんが見つかれば、色々なことがわかるかもしれないけど・・・無茶いうなぁ。

「ど、どうもありがとうございました・・・。」

いやはや、参ったなぁ・・・今度は、【ぜんぞう】さんに聞いてみよう。色々新しい話も聞けたことだし。

「たびたびすみません、やっぱり【アキラ】さんはあの日、こちらに来ていたそうなのですが、その後なにか・・・?」
「あの日、【あかね】が見かけた【アキラ】さまは、なにやら大きな荷物を持って屋敷の裏にある【どぞう】の辺りでうろついていらっしゃったそうなのです。いったい、何をなさっておられたのやら・・・。」
「【どぞう】・・・?大きな荷物??」
「【どぞう】は、屋敷の裏にございます。高価な骨董品がたくさん保管してありますので、入り口には鍵がかかっております。」
「そうですか・・・ところで【かんだ】弁護士については何か?」
「彼は立派な方です。【キク】さまが亡くなられた時、私の話を親身になって聞いてくださいました。『では、一度探偵に調査を依頼してはどうか』、ということで、有名な【うつぎ探偵事務所】の優秀な探偵でいらっしゃる、茂木さまの事を【かんだ】さまが教えてくださったのですよ。」
「えっ?そうだったんですか。」

【かんだ】弁護士が・・・僕って有名だったんだな。

「後継者の【印】については何か?」
「どのようなものかは存じませんが、それを持つ事によって初めて【あやしろ家】の正当なる後継者として認められるしきたりでございます。・・・ところで茂木さま、村人たちが気味の悪い事を噂しておりましたでしょう?」
「ああ、『満月の晩に、【キク】さんが蘇る』という話ですね。・・・気味の悪い話ですね。」
「村人たちがいいかげんな事を言って、勝手に騒いでいるだけでございます。そういえば、今夜辺りがちょうど満月ですね。」
「満月か・・・。」

満月の夜に何かが起きる・・・なんだかホラー映画じみてきたなぁ。

「【ぜんぞう】さん、どうもありがとうございました。僕はとりあえず探偵事務所にもどって、情報を整理してみようと思います。」
「お早くお帰りになられますよう・・・一刻も早く、事件を解決してくださいまし。」
「はい・・・努力します!」

*空木探偵事務所*
僕が探偵事務所に戻ると、【あゆみ】ちゃんが荷物を片付けているところだった。どうやら彼女も、いま帰ってきたところらしい。

「ずいぶん遅かったわね。と、いっても私もたった今帰ったところなの。」
「それで、【あやしろ商事】のことだけどね・・・。絶対的な発言権を持つ【キク】が亡くなった事で、【あやしろ商事】は大変みたいよ。それと言うのも、社長と専務の対立に、とうとう火がついちゃったみたいなの。」
「今のところは社長の【カンジ】が立場的にかなり有利なようだけど・・・専務の【ジロウ】だって黙ってないから、二人の対立はこれからますます激しくなっていくんじゃないかしら?」
「【カンジ】にとっては、新しい『目の上のタンコブ』ってわけね。」

なるほど、【ジロウ】も、小さくなってばかりはいられない、という事か・・・。

『まず、【カンジ】だが、【キク】が死んだ事で、事実上【あやしろ商事】の実権を握った事になる。・・・一方の【ジロウ】は、会社での立場が悪くなってしまった。』
『また、金に困っていた【アズサ】には、【キク】の遺産が転がり込む事になった。』
『そして、あの遺言書に書かれていた【ユリ】という行方不明の人物には、会長であった【キク】の全ての権利がそっくりそのまま譲られるわけだ・・・。』
『それと、もうひとつ・・・【アキラ】は、【どぞう】のそばで一体何を・・・?』

「茂夫くん、今夜はもう遅いから、調査の続きはまた明日にしましょ。」
「そうだね、【あゆみ】ちゃん。」

・・・そうだ、僕を助けてくれた【あまち】さんに、記憶をある程度取り戻した事を伝えておかなきゃ。明日の朝、訪ねてみよう。

*あまちの部屋*
僕が【あまち】さんの部屋を訪ると、朝早くにもかかわらず快く迎え入れてくれた。

「失礼します。くつろいでおられる所、すみません。」
「いや、テレビを観ていただけだよ。ゆっくりしていけばいいさ。」
「【あまち】さん、僕はどうも【あやしろ家】の調査の為に【みょうじん村】へ行っていたようなんです。」
「そうだったのか。だから君はあんな寂しい崖に行っていたわけだ。それじゃあ、あそこに何をしに行ったのかは思い出したのかい?」
「そこまでは・・・思い出せないんです。」
「そうか・・・そういえば、【あやしろ商事】は社長がかねてから強く希望していた新事業へ進出する事になったそうだよ。」
「新事業?」
「会長の【キク】さんの反対でずっと延期されていて、今年がその期限だった、とも新聞に書かれていたよ。」
「・・・思えば、会長が亡くなったのは社長にとってずいぶん都合の良いことだったみたいだね。」
「・・・!!」

そこで、【あまち】さんがそのままにしていたテレビから、ニュース速報を知らせるベルが聞こえてきた。

「おや、速報だ。事件が起こったようだな。」

*【あやしろ商事】の【あやしろカンジ】社長が、【みょうじん村】の元会長宅の【どぞう】の中で、何者かによって殺害された模様です・・・。

「な、なんだって!!【カンジ】さんが殺された!?」
「とにかく、急ぎたまえ!」
「は、はい!【あまち】さん、失礼します!!」

僕は、あわてて【あまち】さんのマンションを飛び出した・・・たしか、昨夜は満月・・・でも、そんなことが・・・!!