*くまだ医院*
診察室のドアを開けると、【くまだ】先生が机に向かっているのが見えた・・・なんだかいつ来ても何かしら書いてるなぁ。

「【くまだ】先生!大変な事になりましたね。」
「おお!君か。恐ろしい事になってしまったのう・・・。」
「それで、検死の様子はどうだったんですか?」
「それぢゃがな、君が来る前に、わしも検死にたちあっとったんぢゃが・・・。よほど不意を突かれたんぢゃろか、見事に真正面からやられとった。」
「特に変わった事はなかったですか?」
「いや、取り立てて何もなかったのう。解剖の結果を知らせてくれと一応頼んでおいたぞ。」
「それはありがとうございます。ところで、【くまだ】先生は【アキラ】さんについては何かご存知ではないですか?実は、彼が目下の所最有力容疑者なんですが・・・。」
「なに?そうぢゃったか。そりゃあ被害者が油断したはずぢゃ。自分の倅にやられるとはのう・・・。しかし、すまんが彼についてはほとんど知らんのう・・・。」
「そうですか・・・。そういえば【くまだ】先生は【キク】さんの【タバコ入れ】については何かご存知ではないですか?」
「【キク】さんも昔は中々のヘビースモーカーぢゃったが、わしが注意してからはスッパリやめておったぞ。ぢゃから中には、タバコは入っておらんかったろうな。」

あ、そうだ。

「【くまだ】先生、すみません。僕、【かぐら寺】の【げんしん】和尚にも伝えてきます。」
「そうぢゃの。まだ伝わっとらんかもしれんからな。」

と、いうわけで僕は【くまだ医院】をでて、【かぐら寺】までやってきた。

「すいません、【げんしん】和尚様。」
「おう、あんたか。また伝説の話を聞きたいのか?」
「実は昨夜、【あやしろ家】の【カンジ】という人が・・・殺されたんです。」
「な、なに!?本当か!それで、犯人はもう捕まったんじゃろうな?」
「いえ、まだみたいですけど・・・。」
「・・・・・・。」
「もしかして、【キク】さんが蘇ったんでしょうか・・・。」
「馬鹿な!あれは村人たちが勝手に噂しとるだけじゃ!・・・す、すまんが今日はもう帰ってくれんか?」

そういうと、和尚さんはそそくさと立ち去ってしまった。何であんなにムキになるんだろ?・・・仕方なく僕は、とりあえず【くまだ医院】に戻ることにした。
*くまだ医院*
「おう、帰ったか。どうじゃった?」
「いや、それがなんだか今日は都合が悪かったらしくて、帰ってくれ!って・・・。」
「ふぅむ。どうしたんぢゃろうな。今日は葬式もないはずぢゃが。」
「本当に、どうしたんでしょうね・・・。」

・・・ふと視線をあげた僕の目に、骸骨の写真が写った!

「わっ!骸骨の写真だ!」
「妙な言い方をする奴ぢゃの。ただのレントゲン写真ぢゃろうが。」

そういえば、僕は頭を打ってるんだったよな・・・撮ってもらおうかな?

「【くまだ】先生。実は・・・。」
「何?レントゲンを撮ってほしいぢゃと?身体の具合でも悪いのか?・・・おや、そういえば頭にケガをしとるようぢゃの。今まで気付かなんだが。」
「そうなんですよ。それで・・・。」
「なに、レントゲンを撮るほどのケガでもなさそうぢゃ。大丈夫ぢゃよ。」
「実は、【うなかみの崖】でケガをしまして。」
「あんなところで何をしとったんぢゃ?よほど特別な用事でもあったんか?」

そうだ・・・すっかり忘れてたけど、僕はあそこで誰かに会い、その結果記憶を失う羽目におちいったんだっけ。もう一度、崖に行ってみよう。何かわかるかもしれない・・・。

*うなかみの崖*
ここは相変わらず寂しい所だ・・・人っ子一人いやしない。こんなところで僕は誰と会う約束をしたんだろう。・・・それどころか、ここに来た、ということすら思い出せない。
うわ・・・目も眩みそうな絶壁だ。下の海面まで・・・25メートルぐらいはありそうだ。ここから落ちたら無事じゃ済まないな・・・。

「おい!危ねぇぞ!」
「あぁ!びっくりした!あなたは誰ですか?」

崖から下を見下ろして感慨にふけっている僕に、後ろから誰かが声をかけてきた。

「わしは、この村に住んどる【へいきち】というもんじゃ。・・・ここは自殺の名所じゃから、ひょっとしたらと思うて声をかけたんじゃがのう。」
「こ、ここって自殺の名所だったんですか?」
「そうじゃのぉ、ここから飛び込んだら海に落ちるまでに気を失うから、楽に死ねるんじゃろう。それで名所になったのかのぅ・・・。」

ブルブル・・・とんでもない話を聞いてしまった。

「ところであんた、よくこの崖にやってくる女の人を知らんかのぅ。・・・えらいベッピンじゃったが、どこの娘じゃろ?」
「娘さん・・・土地の人じゃないんですか?」
「ここへくるのは土地の者でもわしぐらいのもんじゃろう。下の浜でもめったに人は通らんしの。」
「そうなんですか、いや心当たりはないです、すいません。」
「なに、えぇんじゃよ。・・・あんたもそろそろ帰った方がえぇぞ。日も落ちかけてきたしの。」

確かに、もうそろそろ日が暮れてくる頃だ・・・探偵事務所に戻って、情報を整理しよう。

*うつぎ探偵事務所
「おかえりなさい。茂夫くん。とうとう殺人事件が起きてしまったわね。」
「社長の【カンジ】が死んだ事で、ついに専務の【ジロウ】が【あやしろ商事】の実権を握ったようね。その【ジロウ】だけど、早くも仕事に戻って、今では自分の都合の良いように会社の組織を整理し始めたらしいわよ。今まで会長の【キク】や社長の【カンジ】の影にいた【ジロウ】は、ここにきてまたとない機会を得た、というわけね。」

・・・【カンジ】は【どぞう】の中で殺されていた。その【カンジ】のそばには【どぞう】のカギが落ちていて、【アキラ】の指紋がついていた。さらに・・・。
【どぞう】の中の骨董品のいくつかがなくなっている。【アキラ】は【キク】の寝室に出入りが自由だったらしい。そして・・・。
【キク】の死体が発見された朝、寝室の【タバコ入れ】が消えた・・・。その【タバコ入れ】には【どぞう】のカギがしまわれていた・・・。
寝室からカギを盗んだ【アキラ】が【どぞう】から骨董品を持ち出そうとしたところを【カンジ】に見つかり、ナイフでグサリ・・・!?
でも、【カンジ】はなんでふだん人の来ないはずの【どぞう】なんかに行ったんだろう?それともうひとつ・・・。
【カンジ】が死んだことで【ジロウ】は一気に【あやしろ商事】のトップに踊り出た。ろくに話も聞けてないし、あの態度・・・どうも、気になるな・・・。

「待てよ、【アキラ】は遺言公開の日、誰かに会っていたと【アズサ】が言っていたな。・・・あゆみちゃん、それが誰なのか調べてみてくれないか?」
「わかったわ!【アキラ】のことは私に任せてちょうだい!【アキラ】が本当に骨董品を盗んだんだったら、どこかへ売り飛ばしているかもね。」
「あなたは、一度【あやしろ商事】へ行って、【ジロウ】にもっと話を聞いてみる必要があるんじゃない?」
「それと、一つ気がついたんだけど、茂夫くんが半袖のシャツを着ているところって、初めて見たわ。」

・・・そうだっけ?・・・何はともあれ、明日さっそく【あやしろ商事】を訪ねてみよう。話がすんなり聞けるといいけどな・・・。