*あやしろ家*
息せき切って【あやしろ家】に駆けつけた僕を玄関で迎えてくれたのはお手伝いの【アカネ】さんだった。珍しいな、【アカネ】さんにここに会うなんて。

「ああ、茂木様。【カオリ】様がお見えですけど・・・。」
「【カオリ】・・・様?」
「亡くなられた【カンジ】様の奥様です。居間にいらっしゃいます。」

そうか・・・駅員さんがみた、『上品なご婦人』というのは【あやしろカンジ】の妻、【かおり】さんのことだったんだ。【ユリ】さんじゃなかったのは少し残念だけど・・・話を聞いてみよう。

*居間*
【あやしろ家】の居間・・・悲しみに打ちひしがれた【カンジ】の妻、【あやしろカオリ】が目の前にいる・・・。
彼女は有名なファッションデザイナーで、たった今パリから帰国したばかりだそうだ。

「どうもはじめまして、【あやしろカオリ】さん。僕は茂木茂夫・・・【うつぎ探偵事務所】の探偵です。」
「はい・・・。」
「さっそくで申し訳ないんですが、息子の【アキラ】さんについて聞かせていただきたいのですが。」
「【アキラ】じゃありません!あの子にこんな恐ろしい事はできないわ!【アキラ】は犯人じゃありません!
「たしかに、仕事一筋の主人は家庭を顧みない夫だったかもしれません。でも・・・こんなことになるなんて・・・。」
「あなた、探偵さんなんでしょう?・・・お願い!【アキラ】を探してちょうだい!私にはもう【アキラ】しかいないの!ねえ!お願い!!」

・・・夫を亡くした【カオリ】が、1人残された息子の【アキラ】を想う気持ちは痛いほどわかる・・・何か、【アキラ】を探す手掛かりでもあればなぐさめの言葉もかけてやれるのだが・・・。

「わかりました・・・でも、僕には今のところ何も手掛かりがないんです。何か【アキラ】さんについてわかることはありませんか?」
「あっ!そうだわ。ねえ、探偵さん!これを・・・これを見てちょうだい。」
「これは・・・写真ですね。これが・・・?」
「えぇ、【アキラ】の写真です。かなり前に撮ったものなので、ちょっと感じが違っていますが・・・。」
「これは重要な手掛かりだ!わかりました、まかせてください!」
「どうかこれで・・・お願いします!ううっ・・・。」

【アキラ】の写真を僕に手渡すと、耐え切れなくなったのか【カオリ】は行ってしまった・・・。

「・・・おや?この顔、どこかで見たような気がするぞ?」

どこだったかなぁ・・・。ま、いいや。今はとりあえず、【キク】さんの寝室をもう一度調べさせてもらおう。

*キクの寝室*
僕が【キク】さんの寝室に入ると、ちょうど【ぜんぞう】さんがなにかを探している最中だった。僕に気がついた【ぜんぞう】さんはこちらを振り向いた。

「ああ、茂木様。あれ以来気になって、【タバコいれ】を探しているのですが・・・やはり見つかりません。」
「この部屋の中を、全部探したんですか?」
「はい、しかしどうしても見つかりません。・・・やはり【アキラ】様がどこかへ持っていかれたのでしょうか?【アカネ】にも聞いたのですが、知らないようです。」
「・・・今にして思えば、なぜ【キク】様のご遺体をもっとよく【くまだ】先生に調べていただかなかったか、と悔やまれます・・・。」
「【キク】様の事、そして今回の【カンジ】様の事・・・あまりにも不自然な事が多すぎるように思えてなりません。」

・・・と、そこまで【ぜんぞう】さんが言ったとき、階下から電話のベルが聞こえてきた。居間の電話のようだ。
*居間*
誰も出る様子がないので、とりあえず受話器を取ってみた。

「もしもし・・・。」
「あっ!その声は茂夫くんね?」
「なんだ、あゆみちゃんか。」
「『なんだ』、とはご挨拶ね。それより、見つかったわよ!例の骨董品!」

なんだって!?【どぞう】から盗まれた骨董品が見つかった!?

「隣町の骨董品やに、【あやしろ家】の家紋の入った壷があったの。お店の人の話だとね、22・3歳くらいの男から買い取ったものだと言ってたわ。」
「それと、もう1つあってね。【キク】さんが死ぬ少し前にね、【アキラ】を乗せた車を見かけたって言う友人の証言があったの。運転していたのは40歳ぐらいの男性だったって。」

・・・!?やはり骨董品を盗もうとした【アキラ】のとっさの犯行だったのかな?・・・それにしても、【アキラ】は誰と会っていたんだろう・・・。

*くまだ医院*
あゆみちゃんからの電話を受けた僕は、その足で【くまだ医院】にやってきた。何か有益な話が聞けないかな・・・。

「おお、君か。たった今、【カンジ】の解剖の結果報告があったぞ。」
「そうですか!早速ですみませんが、聞かせていただけますか?」
「それがちと妙なんぢゃ。警察の検死の結果によればぢゃな、【カンジ】の死因は胸のナイフの傷ではないらしい。ナイフで刺された時にはもうすでに亡くなっていたようなんぢゃよ。」
「えっ!?じゃ、【アキラ】の手によるとっさの犯行ではなかった、ということですか!?」
「まぁ、そういうことぢゃな。ところが、そのナイフの傷以外には死因と見られる外傷は何も見当たらんかったそうなんぢゃよ。」
「【カンジ】の死体のそばの鍵からは【アキラ】の指紋しか出んかったことぢゃし、警察は引き続き【アキラ】を探しとるようなんぢゃが・・・。」
「他に、何かお気付きになられた事は・・・?」
「そうぢゃのう・・・お前さんが今着ておるシャツのサイズが、ちょっと合っとらん、そのくらいかのう・・・。」

・・・?そういえば、あゆみちゃんもこの半袖のシャツは、僕のじゃないって言ってたっけ。【あまち】さんが貸してくれたのかな?ちょっと訪ねて、聞いてみるか・・・。

*あまちの部屋*
僕がいきなり訪ねたにもかかわらず、【あまち】さんは快く迎え入れてくれた。

「どうだい?記憶は戻ったのかい?」
「いえ・・・まだ完全じゃないようです。」
「そうか・・・。」
「あの、そういえばこのシャツ、もしかして・・・。」
「えっ?ああ、その服のことかい?そのシャツは僕の従兄弟のものなんだ。」
「君のシャツはひどく汚れていたので、クリーニングに出してしまったんだよ。戻ってくるまでそいつを着ていてくれないか?」
「えぇ、それは構いませんが・・・。」
「しかし、【あやしろ家】、大変な事件だね・・・しかし、僕は君のほうが心配だよ。気をつけるんだよ。」
「ありがとうございます・・・。」
「僕も、君の事で何かわかったらすぐに知らせるよ!だから君は、あの崖で手がかりになりそうなものを探してごらん。あきらめちゃ駄目だ!」
「はい!ありがとうございます!!」

そうだ、あきらめてちゃ何も先に進まない、まだ何か調べ残したことがないか、あの崖にもう一度行ってみよう!