*あさり新聞社資料室*
「え〜と、たしか【くまだ】先生が調べ物をするっていってたのはここの新聞社だったよな。」

僕は、【あさり新聞社】というところの資料室に来ていた。あ、いたいた、【くまだ】先生だ。

「【くまだ】先生!遅くなりました。何かわかりましたか?」

・・・って、返事もなし?怒ってるのかな・・・。

「先生、返事ぐらいしてくださいよ〜。」

どうしたんだろう、先生ってば。・・・ま、まさか!?

「先生!【くまだ】先生!どうしちゃったんですか!?先生!」

【くまだ】先生の返事はない・・・まさか、先生まで!?そんな!

「先生!【くまだ】先生!どうしちゃったんですか!?先生!」

と、その時顔を伏せていた【くまだ】先生がこちらを振り返った!

「なんぢゃい、騒々しい!」
「・・・!脅かさないでくださいよ・・・。僕はまたてっきり・・・。」
「てっきりなんぢゃ?名探偵【くまだ】は不死身じゃ!」

・・・まぁいいや、無事だったんだし・・・。

「それで、何かわかったんですか?」
「いやなに、調べとったところなんぢゃが、ついウトウトと・・・な。」
「同じような事件は見つからなかったんですか?」
「見てみぃ!この資料の山を!はっきり言ってうんざりちゃ!・・・何を隠そう、1冊目を広げた途端寝てしもうた。どうぢゃ?おどろいたぢゃろ?」
「名探偵が聞いて呆れますよ・・・。」
「すまんが、一緒に調べてくれんか?わし一人ではお手上げぢゃ。」
「いいですよ、その為に来たんですし。」

とりあえず僕はファイル棚にある資料のタイトルを目で追ってみた。殺人・・・裁判・・・毒物!!

「毒物か・・・これはどうかな?おや・・・あっ!先生、これを見てください!」
「何!?なんか見つかったか!?」
「青酸化合物のことがこのページに!ここです・・・読んでみますね。」

『青酸化合物にある種の薬品を反応させ、熱を加えると【シアン化水素】と呼ばれる有毒ガスが発生する。』
『このガスを多量に吸い込んだ場合中毒を起こし、極めて短時間の内に死亡する。このガスで死亡した死体からは青酸中毒特有の反応が出ないため、死亡状況から判断する以外には死因として立証することは不可能に近い・・・。』

「先生!これは・・・!?」
「うむ、これは有力な手がかりぢゃ!そのガスの話なら、ずいぶん昔に聞いたことがあるのう。これにやられてもほとんど死体からは何もわからんそうぢゃが。」
「しかし、これを【ジロウ】の死因とするには、どうやってそのガスを吸い込ませたかがわからんとどうしようもないのう。」
「・・・・・・。」
「だが、これだけわかっただけでも収穫ぢゃ。今日はひとまず引き上げようや。」
「そうですね・・・。」

僕は、【くまだ】先生と共に【くまだ】医院へ戻る事にした。

*くまだ医院*
「やれやれ、やっと着いたわい。しかしあそこには、またいずれ行ってみる必要がありそうぢゃの。」
「そうですね。今度は一緒に行きましょう。」
「なんぢゃ、またわしが居眠りすると思っとるんぢゃな?」
「いえいえ・・・。ところで【ジロウ】のことなんですが、【ジロウ】が自殺した夜、あの裏山で二つの人影が目撃されてたんです。話によれば、1人は意識が無かったようで、もう一方の人にひきずられるようにしていたそうなんですよ。」
「目撃者は、蘇った【キク】と、その【キク】に殺された【ジロウ】だと言うんですが・・・。」
「何をバカな。死んだもんがいちいち蘇るようなら、病院など不要ぢゃ。しかし確かに、何者かに殺された【ジロウ】が運ばれている所を、目撃したのかもしれんな。」
「ところでぢゃな。【ジロウ】があのガスでやられたとしても、問題はなぜ指から青酸反応が出たか、ぢゃよ。結びつける何かがあるはずぢゃが・・・。」

・・・そういえば、【くまだ】先生には彼のことは聞いていなかったな。

「【くまだ】先生、先生は【あやしろカズト】さんについては何かご存知ではないですか?」
「お前さん、誰から聞いたんぢゃ?そんな名前。」
「実は崖の上で、【カズト】さんの恋人と言う【ふじみやユキコ】という人に会ったんです。」
「何!?で、その人は美人ぢゃったか?」
「ええ、きれいな人でしたよ。何かご存知ですか?」
「いや、なに。きれいな人なら一度会ってみたいと思ったんぢゃ。」

本当かな〜?この先生、案外タヌキだからなぁ。

「で、その【ユキコ】という女性はいつでも崖の上におるんか?」
「いつでも、って言うわけじゃありませんが、大体5時くらいに来るようです。」
「と、言う事は今ぐらいぢゃな。美人に会いに出発ぢゃ!」

おいおい・・・ま、別に連れて行ってもかまわないか・・・。

*うなかみの崖*
さて、【くまだ】先生を連れて【うなかみの崖】にやってきたけど・・・まだ【ユキコ】さんは来ていないようだ。

「どこにおるんぢゃ?その美人は。」
「ここにはいないようですけど・・・。」
「そう言わんと、声を出して呼んでみてくれんか。」
「え〜?僕がですか?嫌だなぁ・・・。」

でもまぁ、しょうがないか・・・。

「【ユキコ】さ〜ん!!」
「・・・おらんぢゃないか。」
「知りませんよ。そんなこと。今日は来ないんじゃないですか?」
「会うまで帰らんぞ!」

そう言われてもなぁ・・・。

「今日はいい天気ぢゃ。どれ、潮風にでもあたってくるか。」

と、いいながら【くまだ】先生は浜へと降りていった・・・勝手な人だなぁ。まったく。ん!?あれはなんだ・・・?

「この辺りの草がやたらと踏みつけられている・・・そういえば、ところどころ・・・おや、ハイヒールが1つ落ちている。」

一応持っておこう。誰のハイヒールなんだろう。

*みょうじん駅*
結局、【くまだ】先生はそこを動きそうもなかったので、僕は先生を置いて駅まで戻ってきた。しかし、相変わらずだなぁ。

「わしらは見たんじゃ!見間違いなんかじゃねぇだ!」

・・・今日は、いつも以上に村人たちが騒いでいるようだ。

「昨夜もわしらは見た!あんな夜中に出歩く女なぞ、この村にはおらん!もはや間違いない!【キク】さんじゃ!」

なんだって?夜出歩く女・・・?

「昨夜の12時ごろ、【キク】さんが崖の方に歩いてゆくのをわしははっきりと見たんじゃ!」
「・・・・・・!」

駅員さんにも聞いてみよう。何か聞き知っているかもしれないし。

「あの〜。すいません。」
「あっ!あなたですか。村人たちの様子が変なんです。今度もまた、村人たちが【キク】さんを見たっていう時間と場所が妙に一致しているんですよ。」
「やっぱり、村人たちは皆、何か同じものを見ているようですね・・・。」
「あなたは、何か気が付かれたことはないですか?」
「・・・!そうそう、最近良く、この村にきれいな女の人が来られるようですが・・・。」
「え?ああ、【ユキコ】さんですか?」
「本当にきれいな方ですね。今の私には、あの人の顔を見られるのが唯一の救いです。なのに・・・今日はまだ来ていないんです。」
「昨日来られたかどうかは、私非番だったものでよくわかりませんし。」

そういえば、【くまだ】先生はまだ崖の上にいるのかな?そろそろ迎えに行こう。
*うなかみの崖*
崖の上には誰もいない・・・やっぱり【ユキコ】さんは来ていないのか。さて、【くまだ】先生を呼ぶか。

「先生〜!!あ〜あ、ずいぶん向こうまで行っちゃったみたいだな。」

?・・・あっ!先生があんなところに。危ないなぁ。何をしているんだろ。・・・あれ、この崖、前に来た時と何かが違っているような気がする・・・?

「先生〜!!今日は来ていないんですって〜!帰りましょうよ〜!!」

聞こえてないのかな・・・海のほうばっかり見てこっちを向かない。

「先生〜!!危ないですよ〜っ!」

どうしたんだろ・・・海を見たまま動かない・・・?

「さっきから、何を見ているんですか〜っ!先生〜!!」

その言葉を聞き、あわてて戻ってきた【くまだ】先生は、とんでもないことを口走った!

「たた、大変ぢゃ!う、海に、海に女が浮かんどる!!」
「なんですって!?どこです・・・あっ!!」
「すぐ、警察に連絡ぢゃ!」

*海岸*
・・・駆けつけた警察は、女の死体をすぐさま引き上げた。それは・・・物言わぬ【アズサ】の変わり果てた姿であった・・・。