*アパート*
駆けつけた茂夫を、【モトコ】は驚きをもって迎えた・・・遠い過去の記憶がついに蘇り始めた茂夫は、目の前にいるこの女性に特別な記憶を持っている自分を強く感じていた・・・。

「【モトコ】さん、僕の肩の、この火傷を見てください!」
「!・・・やっぱりあなたは・・・わかりました。全て話してあげましょう。・・・あなたは、【ユリ】さんの子供に間違いないわ。あなた、茂夫くんって名前でしょ?」
「・・・!?」
「この間、あなたが帰り際に後ろを向いたとき、シャツの袖からその火傷がチラッと見えたの。その時は、まさかと思ったんだけど・・・。」
「聞かせてください、僕の・・・そして両親の事を。」

「・・・あなたは、もちろんお母さんの顔を知らないはずよ。【ユリ】さんという名前すら知らなかったようね。無理もないわ、【ユリ】さんが亡くなった時、あなたはまだ1歳にも満たない赤ん坊だったんですもの。あの火事で【ユリ】さんが亡くなった後、あなたは捨て子として母の孤児院で育てられたの。でも、母が何かを隠していると気付いたあなたは間もなく・・・『本当の両親を探す』という書置きを残して飛び出してしまった・・・ちょうど、あなたが中学校を卒業したすぐ後の事らしいわ。」
「私の母の【サワコ】は、あなたのことを我が子のように可愛がっていたわ。あなたも、母をずいぶん慕っていたそうよ・・・最後まで、あなたのことを心配していたのよ。」
「あと、私があなたや【ユリ】さんに会ったことがないって言ったのは本当よ。話は全て母から聞いたの。」

「でも、火傷の跡を見ただけでなぜ僕の事がわかったんですか!?」
「・・・実は先日、【ユリ】さんの弟さんが見えたの。あなたたちの事を良くご存知だったわ。」
「・・・!?【カズト】さんが・・・?」

「【モトコ】さん、僕が捨て子として育てられた、その理由は・・・一体なんだったんです!?」
「・・・・・・。」
「答えてください!【モトコ】さん!」

僕は絶対この人の顔を知っている!なにか、懐かしいような・・・でも、それが何なのかわからない・・・。

「やっぱり僕は、あなたとどこかで会ったように思うんです!」
「そう・・・じゃあ、これを御覧なさい。母の写真よ。」

そう言って【モトコ】さんは1枚の写真を差し出した。

「・・・・・・!こ、この人は・・・!」

その写真には、初老の女性と小さな男の子が写っていた。

「どう?あなた、もう大きくなったけど、その頃の面影は残っているでしょ?」
「お、思い出したぞ!ばあちゃんだ、僕を育ててくれたばあちゃんだ!」

その写真の【サワコ】ばあちゃんは、目の前の女性にとても似ていた・・・。

「それで僕は、【モトコ】さんの顔に見覚えがあったのですね。」
「あなたの茂夫っていう名前はね。本当のご両親がつけてくださった名前なの。」

両親・・・そういえば、僕はまだ自分の父親の事を何も知らないんだ!

「僕が捨て子として育てられた理由・・・教えていただけますね?」
「そ、それは・・・。それだけは・・・。」
「僕は、今日まで自分の母親のことを何も知らないままだった。それに、父親の事だって!」
「どうして知ってはいけなかったのか、なぜ捨て子として育てられたのか。その事情を知らないままなんて・・・あんまりです!」
「・・・そうね、あなたにはそれを知る権利があるわね。・・・その事情というのはね、あなたのお父さんのことなの。」

「・・・【とおやまタカオ】これがお父さんの名前よ。とても男らしい方で、【ユリ】さんとは・・・近所でも評判の仲の良いご夫婦だったそうよ。」
「やがてあなたが生まれ、誰もがあなたたちの幸せな未来を信じて疑わなかったそうなの。でも、そんなある日・・・。」
「【タカオ】さんは、ガラの悪い連中に人が乱暴されている所を見てしまったの。止めに入った【タカオ】さんに、向こうはナイフを持ち出して向かってきたらしいわ・・・。」
「そして、父は・・・?」
「いいえ、違うの。【タカオ】さんは、そのナイフで逆に・・・相手の1人を刺し殺してしまったの!」
「そ、そんな・・・。」
「事情が事情だけに、かならず正当防衛が認められる、みんなそう思ってたわ。でも、殺してしまった男というのが、この町の有力者の一人息子だったらしいの。」
「そのせいか・・・【タカオ】さんは刑務所に入れられてしまったわ・・・。」
「で、父は、今どこに!?」
「・・・お気の毒に、【タカオ】さんはとうとう刑務所から出られないまま亡くなってしまったの・・・。」
「・・・・・・!」

「でも、もっと気の毒だったのは【ユリ】さんだったかもしれない。殺人者の妻ということで、それは苦労なされたそうよ・・・。」
「おまけに、死んだ男の仲間のイヤガラセが始まったの。あの火事も、その連中の仕業だったそうよ。」
「【ユリ】さんも、一時は起き上がれるまでに回復されたのだけど、それまでの無理が祟ってか・・・2、3日後には容態が急変して、駆けつけた私の母に【ユリ】さんは、『茂夫を頼みます。』と一言告げると静かに息を引き取られたそうよ・・・。」
「・・・・・・。」
「もう、わかったでしょう?あなたの将来を案じながら亡くなったあなたのご両親に私の母がしてあげたかった事は、あなたから『殺人者の息子』という過去を消し去ることだったの。」
「・・・・・・。」
「『あなたが捨てられていた時添えられていた手紙に書いてあった名前が【茂木茂夫】だった』なんて嘘までついてね・・・。」
「・・・・・・。」
「母は、あなたに本当のことを話すべきかと迷っていたわ。」

「【モトコ】さん、本当のことを話してくださってありがとうございました。僕は・・・父を誇りに思います!」

両親の事を・・・過去のことをもっと知りたい!僕は、【モトコ】さんに知っている限りの事を話してもらった。

「そういえば、母から聞いていたわ。あなたは、小さい頃から正義感の強い子だったって・・・。そういうところが亡くなったお父さんにそっくりだった、って嬉しそうに話していたのよ。」
「・・・あの火事は、明らかに放火だったらしいけど、死んだ男の父親からの圧力でうやむやにされてしまったそうなの。」
「地元の新聞でさえ、あの火事のことを取り上げなかったそうだわ。ひどい話ね・・・。なのに、【タカオ】さんの事件の事は一方的な記事ばかりが新聞に載ってしまったそうよ。」
「【ユリ】さんは、実家のご両親の反対を押し切って【タカオ】さんと一緒になられたらしいわね?」
「あの事件の時だって、『これ以上、迷惑はかけられない。』とお家には連絡されなかったということよ。」

「・・・そうそう!1つだけ思い出したことがあったわ。」
「・・・?何です?」
「あなたは男の子なのに、いつも人形で遊んでいたそうね。」
「?人形・・・?詳しく聞かせていただけますか?」
「立派な日本人形で、【ユリ】さんが大切にしていたものだったそうよ。よほど【ユリ】さんにとって大切だったらしく、火事の時に持ち出したのもその人形だったらしいわ。」
「あなたは孤児院を飛び出した時もその人形だけは忘れなかったそうね。今でも持っているんでしょ?」

人形・・・日本人形・・・?

「【ユリ】さんが息を引き取られるときも、うわ言でその人形をあなたに、って何度も何度もおっしゃっていたそうよ。・・・さっきの写真にも写っているはずよ。」

さっきの写真に?おや、これは・・・!?確かどこかに・・・そうだ!

「【モトコ】さん・・・本当にありがとうございました。」
「また、いつでもいらっしゃいね・・・。」
「今度は、【サワコ】ばあちゃんのお墓参りもさせてもらいます。」
「ええ、母も喜ぶと思うわ。あなたの元気な姿が見れて。」

*うつぎ探偵事務所*
全ての事情を知った僕は、探偵事務所に戻ってきた。僕を待っていてくれたあゆみちゃんに、全てを話す・・・。

「そうだったの・・・【ユリ】さんがあなたのお母さんだったなんて・・・皮肉な話ね。」
「・・・・・・。僕の事を調べた【かんだ】は、あえて僕を【ぜんぞう】さんに紹介したんだ。僕を罠にはめるために・・・くそっ!」

それにしても・・・母さんが大切にしていた日本人形、それが後継者のしるしなのだろうか?僕は、あゆみちゃんの背後にある棚の人形を手に取った。

これだ!ばあちゃんの写真に写っていたのは!母さんが・・・大切にしていた日本人形というのはこれのことだったんだ!・・・こうして手に取ると、子供の頃のことが目に浮かんでくる
・・・とうとう、何もかも思い出したぞ!

そういえばこの人形・・・ずいぶん軽かったんだな・・・。ん?中は空洞になっているみたいだな。

「でも、これが後継者のしるし・・・?普通の人形のようだけど。・・・!振ってみると、かすかに音がするぞ!よし・・・思い切って中を見てみよう。」

あっ!こ、これは・・・!!

「どうしたの?茂夫くん。」
「これが人形の中に入っていたんだ。」
「御守り袋・・・?【あやしろ家】の家紋が入っているわ!」

その御守り袋の中からは、古めかしい小さな鍵と、丁寧に折りたたまれた紙切れがでてきた。

「この鍵は・・・?そしてこの紙切れは・・・。」

『茂夫・・・あなたがこれを見つける時がいつか必ずやって来る、そう母さんは思っていました。今すぐ、これを持って【みょうじん村】の【あやしろ】という家を訪ねてみなさい。』
『そこには、いままでとはまったく違ったあなたの人生が待っているの。』
『その家には、【キク】っていう名前のあなたのおばあちゃんがいます。きっとあなたの力になってくれるわ。』
『でも、そのことがあなたにとって幸せなことなのかどうか、母さんにはわからない・・・・・・。』
『でもこれは、あなたの運命なの。そしてあなたの一度きりの人生・・・だから、最後には自分自身で決めなさい。』
『母さんの命はもう長くないでしょう。あなたと一緒にいてあげられない母さんを許してちょうだい・・・。』
『そんな母さんがあなたに残してあげられるたった一つのものです。−ユリ−』

母さんが息を引き取るその直前に書かれたものらしい・・・弱弱しい文字がそのことを物語っているようだ・・・。

「か、母さん・・・・・・!!」
「そうか、わかったぞ。後継者のしるしは多分、【あやしろ家】の中にあるんだ。そして・・・それが隠された場所に入る為に、この鍵が必要なんだ。」

その場所というのは・・・あそこしかない!

*あやしろ家*
「おかえりなさいませ。茂木様。なにかわかりましたか?」

【あやしろ家】に着いた僕を、【ぜんぞう】さんがいつものように迎えてくれた・・・【ぜんぞう】さんは、母さんが持ってでた御守りの事を本当に知らなかったのかな?

「【ぜんぞう】さん、あなたは本当に【おまもり】という言葉に心当たりはないですか?」
「はい、やはり何のことやら見当もつきません。」

「母さ・・・いえ、【ユリ】さんが屋敷を出るときに、【キク】さんから受け取ったもの・・・それが御守り袋だったんです!」
「では、その御守り袋が後継者のしるしだと・・・?」
「いえ、後継者のしるしは・・・この屋敷の中にあるはずです!」
「ええっ!?一体この屋敷のどこに・・・?」
「後継者のしるしは、この鍵で開けることのできる『ある』場所に、きっとあります!」
「しかし、そのような場所・・・私にはちょっとわかりかねますが。」

「その場所は・・・【どぞう】の中にあるんです!」
「!それは、【どぞう】の奥の扉の鍵なのですか!?後継者のしるしはそこにあると!」

「そうです。【どぞう】を開けていただけますね?」
「わかりました。参りましょう!」

*どぞう*
ついにこの扉を開ける時がきた・・・扉の向こうには、【あやしろ家】の後継者のしるしが眠っているに違いない・・・。僕は、鍵を取り出すと錠前に差し込んだ。

『ガチャ!』

鈍い音と共に、錠前は外れた・・・。

「茂木様!私はここで待っております。くれぐれも気をつけてくださいませ。」
「ありがとうございます。【ぜんぞう】さん。じゃあ、そこで待っていてください。」
多くの謎を秘めたこの扉が、今、まさに開こうとしている・・・!