*最終章・ポートピア連続殺人事件*

*地下迷路*

やまかわの屋敷の地下迷路に再び足を踏み入れた我々は、途中までは地図どおりに歩を進め、その周辺を徹底的に調べた。その結果・・・。

「ボス、この壁だけ、周囲の壁と音が違います。中が空洞になっているようです。」
「崩せるか?」
「やってみます・・・え〜い!」

ヤスが何回か体当たりを繰り返すと壁は崩れ、中にあった部屋が我々の前に姿をあらわした。

「・・・そうか!こみやは、地下から大声が聞こえた、と言っていましたね。では、ちょっと叫んでみます。あたたたた・・・!」

その声に反応して、正面の壁が口を開けた。中には1冊の日記帳が・・・。しばらくして、日記帳を読み終えたヤスが顔をあげる。

「・・・・・・・・・・・・。ボス、この日記はこうぞうのものです。これによると、彼はふみえがさわき産業の娘である事を知っていたらしい、知っていて秘書に雇った。さわきの子供達に罪滅ぼしがしたい・・・と。そんなことが延々と書かれています。」
「ふみえのために少しでも金を残したい、その為には心を鬼にしてでも金を貯めようと・・・。も、もしふみえの兄が犯人だとして、このことを知ったら、きっと後悔するでしょうね、ボス・・・・・・・・・。」
どうした、ヤス・・・なぜお前がそんな顔をするんだ・・・?まさか、お前・・・。

*捜査本部*

捜査本部の取調室、私はそこでヤスと向かい合っていた。

「ヤス、服を脱げ。」
「僕に、脱げと言うんですか?ボスは、まさか・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「ヤス、服を、脱ぐんだ。」
「わ、わかりました・・・。」

背広を脱ぎ、ワイシャツを脱いだヤス、その肩口には蝶の形のアザが・・・。やはりお前が・・・。

*捜査本部*

「ボス、見事な捜査でした。僕が親戚にもらわれていったふみえの兄です。こうぞうとかわむらを殺したのも、確かにこの僕です。両親を自殺に追い込み、僕たち兄弟を離れ離れにしたあの男達を、僕はどうしても許せなかった・・・。」
「あの晩、こうぞうを殺した後、そこにあった鍵で書斎に外から鍵をかけました。」

そのヤスの供述に疑問を感じた私は、思わず口を挟んだ。

「しかし、鍵は内側からかかっていたはずだ。だからこそあの現場は密室だったはずだろう?」」

その時、取調室にふみえが入ってきた。

「その後は、私が話します。」
「ふみえ!お前は逃げろ、って・・・!」
「お兄ちゃんは黙ってて!お兄ちゃんから鍵を預かった私は次の日の朝、こみやさんを呼び、ドアを叩き開けてもらいました。そしてこみやさんが死体を見て驚いている隙に、私が内側から鍵を差し込んだのです。もちろん、密室と思わせ捜査を混乱させるために・・・。」

「・・・これで、全てお終いです。でも、皮肉なもんですね、殺してからこうぞうが後悔していたことがわかるなんて・・・。」
「お兄ちゃん!」
「ふみえ!」

「・・・一つ、聞かせてくれないか、ヤス。」
「なんですか、ボス。」
「お前、なぜ逃げなかった?俺の部下として配属されてからでも、いくらでも逃げる機会はあったはずだ。そのまま捜査を続けていれば、いずれこうなることはわかっていたはずだ。だのに何故だ、ヤス。」
「私にも、本当のところはわからないんです。ただ・・・。」
「ただ?」
「ボスに、捕まえて欲しかったのかもしれません、過去の因縁があったとは言え、私はこの手で人を殺してしまいました。刑事として・・・いえ、人として許されない事をしてしまったんです。」

やがてヤスとふみえは、手錠をかけられて連行されていった・・・。

雑務を終え、署の外に出ると目の前には赤い夕日が広がっていた。
俺は、タバコに火をつけると、1人低く呟いた。

「ヤス。お前は、俺にとって最高の部下だったよ。」

ポートピア連続殺人事件
おわり