トゥルーライズ
トゥルーライズ (1994/米)
True Lies

製作総指揮 リー・サンチーニ / ロバート・シュライバー / ローレンス・カサノフ
製作 ジェームズ・キャメロン / ステファニー・オースティン
監督 ジェームズ・キャメロン
脚本 ジェームズ・キャメロン
撮影 ラッセル・カーペンター
美術 ピーター・ラモン
音楽 ブラッド・フィーデル
出演 アーノルド・シュワルツェネッガー / トム・アーノルド / ジェイミー・リー・カーティス / ビル・パクストン / ティア・カレル / アート・マリク / チャールトン・ヘストン
制作費は公称1億2千万ドル!アーノルド・シュワルツェネッガー主演!ジェームズ・キャメロン監督作品!
となると超弩級アクション大作という印象が先行するよね。
もちろんそれはそれで間違いないのだけど(なんたって上映時間は141分だから、およそ1分1億円の計算!)意外なことにこの作品、プロット自体はお間抜けな諜報部員とその嫁様がくりひろげるドタバタコメディ以外の何物でもないのである!

ハリー・タスカー(アーノルド・シュワルツェネッガー)はアメリカの秘密諜報組織オメガセクターの諜報部員。
盗んだ核弾頭で国家を脅かすテログループを追跡する任務についているが家族にはコンピュータのセールスマンと身分を偽っている。
何も知らない妻のヘレン(ジェイミー・リー・カーティス)はそんな夫との生活に退屈気味。
彼女は夫に隠れて他の男と密会するようになるのだが、偶然にそれを知ったハリーは茫然自失。
ヘレンの浮気疑惑が気になってしょうがないハリーは諜報部員ならではのあらゆる手段を使って自分の嫁様を探り始める。
電話の盗聴を手始めに、ヘレンのバッグにオーディオ送信機、GPS発信器を仕込み、尾行し、相手の男の身元を割り出す。
ものすごい職権濫用、公私混同のストーカーぶり、ここでは嫉妬に燃える黒いシュワが見られます。
もしかしたらシュワの映画の中で一番人間味が出ている作品かも?

シュワのご乱心ぶりは更にエスカレート。
浮気相手の男サイモン(ビル・パクストン)は中古車セールスマンなのだが、ヘレンには国家の安全保障の任務を帯びた諜報部員カルロスを装っている「なんちゃってスパイ」。
ハリーはそれを逆手にとって逆襲する。
二人の密会の現場を特殊部隊を率いて急襲、拉致し、ハーフミラー越しに尋問にかけ、サイモンは銃で脅して釘を刺し、ヘレンには偽の任務への協力を強要して縮み上がらせる。
この任務というのが、娼婦に扮してある人物に接触し盗聴器を仕掛けてこい・・・というものなのだが、ホテルで待っているのは実は顔を隠したハリー。
ハリーはすっかり任務を信じ込んでいる自分の嫁様にストリップさせ、エロダンスを踊らせてほくそ笑む。
これじゃただの変態だ、やばいぜシュワ!!

前半はこんな感じ。
ひとしきり嫁ダンスを楽しんだハリーが真実を告白しようというときに本物のテロリストが乱入して話はようやく本筋に戻っていくのだが、はっきりいってここのドタバタが一番おもしろい。

さてもうひとつ。
ジェームズ・キャメロンといえばロジャー・コーマン・スタジオでの下積み時代、数々の低予算映画でエフェクツマンとしての仕事(それこそデザインワークからミニチュア撮影までなんでもやった)をしてきただけあって、「ターミネーター」「エイリアン2」「アビス」と次々にエポック的SF大作を作り続けたSF的ビジュアリストとしての評価を高めていった人であるが、その一方でいわゆる「パクリ疑惑」が多いのはあんまり知られてないかと思う。

特にこのひと、日本の漫画やアニメが大好きで、そのなかから使えるアイデアをうまく取り出してハリウッドの最新技術で映像化してみせるというパターンがけっこうみられる。
とはいえ、アイデアはおそらく頂き物でも、いかに巧くストーリーに載せ、いかに巧くビジュアル化するかということについては希有な才能の持ち主だし、そのキャメロン作品によって影響された日本の漫画・アニメシーンがさらにそれを取り込むということも繰り返されているわけで、僕としてはこれはいいことだと思っているのだが・・・

「トゥルーライズ」におけるパクリのモトネタはなんと劇場版アニメ「ゴルゴ13」なのである!
当時、世に出始めたコンピュータグラフィクス=すなわちCGIをいち早くセルアニメーションに取り込んだこの出崎監督作品のクライマックス・・・
敵の本拠地である高層ビルディングに乗り込んだゴルゴは、敵が雇い入れた軍の攻撃ヘリコプターにビルの外から襲撃される。
このシーケンスが「トゥルーライズ」のハリアー戦闘機によるビル襲撃のシーケンス(核弾頭を持ち込んで高層ビルに立てこもったテロリストを、VTOL戦闘機ハリアーに乗ったシュワが機銃で攻撃する)とそっくり。
ミニガンの掃射を受けて次々に砕け散るビルのガラス窓のカット、窓の外に現れたハリアーから撃ち込まれる機銃弾が、テロリストをビルの内装ごと粉砕する室内カットなど、見比べるといろいろ発見があって面白いと思う。

実はモトネタである「ゴルゴ13」におけるヘリ攻撃シーンはフルCGIでつくられているのだが、まだ研究段階にあったCGを半ば強引にアニメ作品に取り込んだこともあって公開当時にすでにトホホ感漂う出来映えであった。
アイデアとしては優れているこのシーケンスを「トゥルーライズ」にてド迫力の見せ場として再現してくれたキャメロン、むしろ「パクってくれてありがとう」と言いたい。

この「トゥルーライズ」でのこのハリアー戦闘機を使ったクライマックスの大バトルは、ロケーションでの実物大モックアップによる撮影+合成用のスタジオ撮影+デジタル合成・修正を複合した大規模で複雑なアクションシーケンスとしてデジタル時代の特撮アクションのターニングポイントとなった。
これ以降、デジタル(CGI)を使えばおよそ撮影不可能なシーンは無いという時代が到来し、ハリウッド特撮アクションは現実以上に派手で大規模で無茶苦茶なものになっていく。
これはある意味、アニメ・漫画的な非現実なまでの誇張、一種の馬鹿馬鹿しさを含んでもいる。
ある見方をすれば、そこには映画とアニメ・漫画(あるいはハリウッドと日本)の間の「アイデアの輪廻」というべきものが存在していると思う。

「ゴルゴ13」「トゥルーライズ」と発展した「ヘリによるビル襲撃」のイメージは「甲殻機動隊」を経て「マトリックス」における「モーフィアス奪還シーン」へと進化していくのだが、ここではすでに「マンガ的に誇張されたアクション描写」の非現実性は劇中の設定自体が「コンピュータにより創り出されたヴァーチャル世界=あらかじめ非現実であると定義された世界」となることでヒネリの効いた消化がなされている。
なんともおもしろい発展の仕方である。
2002 05/06
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