ジョーズ
ジョーズ (1975/米)
JAWS

製作 ディビッド・ブラウン / リチャード・D・ザナック
監督 スティーブン・スピルバーグ
脚本 カール・ゴットリーブ / ハワード・サックラー
原作 ピーター・ベンチリー
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 ロイ・シャイダー / リチャード・ドレイファス / ロバート・ショウ
スティーブン・スピルバーグはおそらく、現代で最も優れた構成力を持つ映画監督の一人である。
そのスピルバーグの名を世に知らしめた大傑作パニック・アクションが「ジョーズ」である。
「ジョーズ」はスピルバーグが撮った劇場用映画のわずか二作目で(「激突!」はTVムービーである)このときスピルバーグはまだ27歳かそこらなのだから驚く。
いまや知らないものはないジョン・ウィリアムズのテーマ曲に乗って、サメの主観で移動する水中カメラの映像が印象的なこの映画は、動物パニック映画のちょっとしたブームを起こし、特に大量の「サメ映画」のコピーが世にばらまかれたわけだが、「ジョーズ」は単に人間たちが怪物サメに襲われるだけのパニック映画とは違う。
いやそれどころか、スピルバーグのフィルモグラフィのなかでも最高傑作に入る作品であり、映画史に残るべき名作でもある(マジにね)

海洋と海洋生物に造詣の深いベンチリーの原作は、鮫の詳細な描写がストーリーに真実味を与えているが、スピルバーグはその映像化にあたって当時としては画期的な撮影を行った。それはオールロケによるドキュメンタリー・タッチである。
当時は海洋モノといえばスタジオのプールで撮影するのが普通だったのでこれは非常に効果的で、画面に真に迫ったリアリティを与えている。
しかしその撮影は大変だったようだ。

プロデューサーのザナックは当初、この映画をコンパクトな企画と考えていたらしいが実際は制作費も撮影期間も大幅に超過した。
ザナックはイルカのようにサメを調教して撮影すればいいと思っていたらしいがもちろんサメなんか調教できない(笑)
そこで海底に敷設されたレールの上を動く8メートルのサメのモデルが作られたが、ブッツケ本番で海水に投じられたコレが塩水による錆と重量オーバーでろくに動かなかったらしい。
さらには脚本の完成が撮影に間に合わなかった。
原作者ベンチリー自身が書いた最初の脚本が気に入らなかったスピルバーグは自分で脚本を書き直したが、若気の至りで映画マニアのオフザケが過ぎて没(おまけにベンチリーと犬猿の仲になった/笑)
その後ベテランのサックラー、ゴットリーブの手を経るも間に合わず、ゴットリーブはスピルバーグとともにロケ入りして翌日の台本を前の晩に徹夜で書くハメになった。
あげくに、予想外にカメラに入ってしまう船舶や気まぐれな天候(そう思って見ると、カット毎に空の色が違ってておもしろい/笑)という、ロケならではのトラブルが追い打ちをかけ撮影は遅れに遅れたという。
撮影現場で一番若かったスピルバーグは、現場の険悪なムードとストレスのたまった主演陣のイジメに遭い、本当に泣きが入ったらしい(笑)

しかし完成した映画をみると、実際には数々のトラブルと困難の果てにできあがったものとは思えない。
サメの姿を見せずに間接的な描写で観客の不安を煽り、予想を裏切るタイミングでサメの襲撃を見せる構成の巧みさ。
また確かなストーリーテリング、説得力のある人物描写とそれぞれの人物の対比を計算しつくした配置の妙味が物語に深みを与える。

映画の前半はパニック映画、ディザスター(災害)映画のお手本ともいうべき完璧さだ。
のどかな観光地であるアミティ島に忍び寄る人食い鮫の脅威と、島民たちそれぞれに降りかかる事件と騒動をツボを押さえてきっちりと描いていく。
そして海水浴客でいっぱいの砂浜でいよいよサメの襲撃が明らかになる中盤のクライマックス(スピの常套手段「子供を襲え!」はすでにここで完成されている)を折り返し点に物語は新たな方向へ走り出す。
主人公・ブロディ署長を軸にしながら、サメ騒動に巻き込まれる人々を描いてきた群像劇的ストーリーはここで一度決着。
ブロディは海洋学者フーパー、荒くれ者の船長クイントとともに人食いサメを退治するべくオンボロ漁船"オルカ号"で海に乗り出していく。
みすみす目の前で犠牲者を出してしまったブロディの落とし前、鮫に取り付かれた若い学者フーパーの危険な好奇心、鮫狩りの古株クイントのメンツ。
映画は、それぞれの思惑でこの危険で巨大なサメに戦いを挑む3人の男の物語に変わるのだが、まったく旨い構成である。

孤立した海上でとうとう怪物サメが姿をあらわすと(本当にデカイ!ブロディの台詞がすごく効果的!)ジョン・ウィリアムズの不安をあおるテーマが軽やかに展開して威勢のいいメロディに変わる。
この一連のシーンでサメの恐怖を描いたパニック映画が、危険なシャークハントに賭ける男たちの海洋アドベンチャーに変身してしまう!
これこそはまさに映画の至福である!

名シーンが多すぎていちいち書ききれないのでもう書きません(笑)
アメリカ映画らしいおもしろさに満ちた大傑作です。
そうそう、名台詞もね。 「くたばれ!バケモノ!」
2003 07/27
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