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テンでばらばらな句読点

読点の決まり
 日本語の表記法で句読点(くとうてん)といえば,「、」「,」「。」「.」がある。これらは,「区切り符号」とも呼ばれるが,このうち「、」(テン)「,」(コンマ)は読点,「。」(マル)「.」(ピリオド)は句点と呼ばれる。
 縦書きの表記では,読点に「,」は用いられず,「、」「。」(テンマル)が用いられるが,横書きの表記となると,公用文でも,省庁により,書き方が分かれているのが実情である。
  昭和27(1952)年に内閣官房長官名で出された「公用文作成の要領」(昭和27年4月4日付け内閣閣甲第16号内閣官房長官依命通知)「第3 書き方」には,
句読点は,横書きでは「,」および「。」を用いる。
となっている( その後改廃された節はない。)。しかし,必ずしも徹底はされておらず,とりわけ読点は,現状では統一されていない。
 この「実務の友」は,決まり事を大切にするので,句読点は,原則として「,」「。」(テンマル)を採用しているが,他の状況は,どうだろうか。

読点の採用状況
 教科書は,横書きの場合,すべて「,」「。」表記を基本としているようであるが,新聞,マスコミ等は基本的に「、」「。」を採用している。「朝日新聞の用語の手引」(2002年5月発行)によれば(これは,新聞記者のための文章作成の手引であるが),読点は「、」を使い,「横組みの文章の区切りは読点と句点を使い、コンマは使わない。」と明言している(121頁)。
 句点に「。」を使用することは共通するが,読点の採用状況については,インターネットで各省庁のホームページ(報道資料,パブリックコメント等)を垣間見る限り,概略次のように2分されており,地方自治体でも,必ずしも統一はされていない(2004年1月現在)。
「、」派
 昭和27年に「,」を推奨していた内閣官房も現在「、」を使用し,以下,次のような機関も「、」を使用して,多数派を形成している。
 衆議院,参議院
 内閣法制院,内閣府,国家公安委員会,警察庁,防衛庁,金融庁,総務省,外務省,財務省,局,人事国税庁,文部科学省,厚生労働省,農林水産省,経済産業省,国土交通省,環境省,会計検査院,裁判官弾劾裁判所,特許庁,国立国会図書館,日本銀行,気象庁,海難審判庁
「,」派
 これを採用しているのは,国語表記の旗振り役だった文部省を引き継いだ文化庁は当然?として,法務省(公安調査庁を含む。),最高裁判所,公正取引委員会,宮内庁の5機関くらいであり,少数派である。
 文部科学省のホームページでは,「教科書制度」の説明では「、」を使用し,教科書目録と学習指導要領は「,」使用となっていて,統一が取れていない。宮内庁は,「天皇陛下の主な式典におけるおことば」を見ても,横書きで「,」の表記を採用して掲載し,統一を図っている。
 なお,理工系の分野の文書表記では,英数字の混在率が多いせいか,読点は「,」,句点は「.」が多いようである。

読点の根拠
 句読点表記の現状は,一言でいえば,統一なく,ばらばらである。表記の決まり「公用文作成の要領」と現状には相当の開きがあって,その理由はよく分からないが,インターネット等で調べると,次のような理由が考えられるようである。
(1)  文部省が横書きに「,」「。」を採用した検討経緯,根拠,理由が明らかでない。
(2)  伝統的な縦書き基本の国語表記では,国民の表記意識として,むしろ縦書きに使用される「、」の方に受容意識が高い。
 (注) 明治初期以前の国語表記には,元来縦書き表記の文章に句読点を打つ習わしはなかったようである。
(3)  縦書きを横書きにするだけで「、」を「,」にしなければならないとする論理的必然性に乏しい。
(4)  新聞,マスコミ等では,「、」を基本にしており(記者ハンドブック),普及力,影響力が高い。
○ 「記者ハンドブック」(第8版:1997年共同通信社刊)「横書きの方式」
 「4 文章の区切りを示すために用いる句点は「。」、読点は「、」を使う。「.」「,」は使わない。
○ 「最新版・朝日新聞の用語の手引」(2002年朝日新聞社刊)「横書きの方式」
 「4 コンマ(,)は横組みにした洋数字の位取りに使用する。横組みの文章の区切りは読点と句点を使い、コンマは使わない。
(5)  パソコン等電子機器で文章を作成する場合,「、」が基本設定(デフォルト)となっていて,「、」を利用する限り,縦書きでも横書きでも便利に使える。
(6)  縦書き文書を横書き文書に切り換える際に,いちいち「、」を「,」に変換していては,手間がかかり面倒である。
(7)  文系,理系等各分野では,英数字混じりの多寡等により,「、」か「,」かが,文章の読みやすさに影響したり,好みの問題があったりして,一律に決めがたい。
 以上を要約して考えれば,読点に関し,「,」派に有利な事情は,「決まり」があること以上に説得力ある理由が見出せない。読点の表記法に関して積極的な議論があるわけでもなく,こうした状況の中では,全国的に全分野にわたり,一律に「、」又は「,」に統一することは困難のように思える。
○ 武部良明編「大きな活字の現代国語表記辞典」(第2版:1998年三省堂刊)「18 左横書きの書き方」(763頁)
(3) 句切り符号  次の三つの書き方が行われています。
 「,」と「。」  「公用文作成の要領」に掲げられた書き方で,広く行われていますから,一般にはこの形が用いられています。
 「、」と「。」  自治省「左横書き文書の作成要領」に掲げられた書き方で,縦書きを横書きに改める場合にも用いられています。
 「,」と「.」  欧文の書き方をそのまま取り入れたもので,科学的な論文などに用いられています。

 表記法については,強制できる性質のものでもなく,各分野各部署で,あるいは一つの文書単位で,いずれかに統一することが望ましいというのが,最低ラインの落ち着き具合のような気もする。

今後の課題
 読点の統一は困難にしても,今後IT化が進み,相互の文書データの交換と共有による情報処理が進むと,「、」か「,」かの問題は,また少しやっかいな問題になるのではないかと思う。
 最近,裁判所に提出する申述等の裁判文書も,一定の場合,電子情報処理組織を用いる方法が認められたが,今後は,提出された文書データに基づき,あるいは,これを編集加工して電子情報処理作業をして裁判結果としての文書作成をするような時代になると予想される。この場合に,「、」と「,」が混在していては不揃いであり,いずれかに統一変換する作業が必要になるが,それをしていては文書事務の能率を欠く。そのような場合には,コンピュータ処理により統一変換処理をすることも考えられるが,その分ソフトの開発費用がかさむ。
 裁判費用も国民の税金で賄われることを考えれば,今後,裁判所に文書を提出する人は,
裁判所は,読点に「,」(コンマ)を採用している
ことを心得て,これに合わせた書き方にする方が,表記の統一が図れ,裁判事務の能率化にも役立つ。
 小さな問題ではあるが,こうした面からの表記の統一も考える必要があるところである。

(以上 2004.1.25-2007.11.21)



(参考)
1 昭和21年3月文部省教科書局調査課国語調査室作成(文化庁国語施策情報システム)
    「くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)」
2 昭和27年4月4日付け内閣閣甲第16号内閣官房長官依命通知
    「公用文作成の要領」
3 当サイト
    「法律文書作成の要領と技術」
    「公用文作成要領」
4 小学校教頭先生のホームページ「面白半分」の「うんちく講座」中
    「横書き文書の読点」
5 九州大学情報基盤センター研究部の渡辺善隆先生のホームページ
    「横書き句読点の謎」
6 「DDT's Room」
    「横書き文の句読点について」
7 佐藤貴裕氏「ことばへの窓」
    「,。」表記をさかのぼれ!
8 句読点研究会
    句読点研究会


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