実務の友  ポストマンとの出逢い

(1) 書店で,POSTMANのタイトルが目に止まった。2003年7月のことだった。
   このホームページ「実務の友」で扱っている郵便番号検索ソフトPOSTMANと同じ名前の本である。このソフトは,2001年1月にポストマンの名で配布を始め,現在,「実務の友」ソフトの中では,人気のあるソフトとなっている。同名の本には惹かれるものがあり,すぐ手に取って見てみた。
   村上龍の詩,はまのゆかの絵。この「POSTMAN」は,元々は坂本龍一監督のオペラ「LIFE」の上演の中で語られた村上龍の詩に,はまのゆかが絵を付けることを申し出て出来たものだという。読んでみた。

(2) その本は,短い文章の連続で,同時に英文が併記されている。
   郵便配達夫「POSTMAN」の回想が語られる。彼が持っているのは,
20世紀に書かれ、相手に届くことのなかった、無数の手紙。
   簡潔な表現で語られ,詩のリズムがあり,読み進むスピードは速い。
   が,背景の絵と相まって,詩のイメージは拡がり,読後感は深い。列車に乗って語る「POSTMAN」の話は,車窓に次々と映り変わる景色のように,しかし,20世紀の人間の歴史と悲惨と不幸を回想させていく。そして,届かぬ多くの手紙になぞらえて,読む人(配達されるべき21世紀の)1人1人に,過去からの多くのメッセージを伝えようとするかのようである。
あなたも、手紙を書いたことがあるはずだ。
夜中に、あるいは朝、別れの切なさに涙しながら、
あるいは出会いのうれしさに微笑みを浮かべて。
溜息と共に、あるいはまるで歌うように。

あなたは文字を綴り、それは信号となっていく。
手紙は、届けられた瞬間に、
受け取った人に刻み込まれ、変化し、進化する。
   詩と絵の構成が一体となって,読み進めば,音楽も一緒に聞こえてきそうなリズム感がある。それがまたイメージをふくらませ,メッセージ性を高めている。大人の絵本のようでもある。
   赤い表紙のその本は,今私の書棚に並んでいる(2003年6月,日本放送出版協会発行,950円)。

(3) 絵と音楽とPOSTMAN・・・と並ぶと,思い出すのは,イタリア映画の「イル・ポスティーノ(Il Postino)」(1995年)である。イル・ポスティーノとは,イタリア語で「郵便屋さん」,英語でThe Postmanの意である。
   この映画は,イタリアの小島に亡命したチリの国民的詩人パブロ・ネルーダと村の青年マリオの交流を描いたものである。2002年8月にビデオ鑑賞したが,純朴な青年が郵便配達夫となって老詩人の元に世界から寄せられる手紙を届けるうちに,詩の力に魅せられ,老詩人から詩作を教えられる。やがて島の美人に「詩」で恋心を打ち明け,老詩人の仲立ちで結婚に至るが,老詩人は帰国を許され,別れが訪れる。しかし,・・・というストーリーである。イタリアの片田舎,青い海の見えるのどかな風景がある。バックに流れる音楽もいい。見終わった後,心温まるものを感じる映画であった。
   ここにも,POSTMANと「詩」の関係,叙情的な風景と音楽との結びつきがあった。

(4) 以前新聞を読んでいて,「雪国の郵便屋さんが泣いた日」というタイトルが目に入った(2003年7月14日朝日新聞夕刊の「あなた発」のコラム)。
   雪深い青森で,毎日約千軒の配達をしたPOSTMAN竹内さんの回想である。
 一軒一軒声をかける。50センチも積もった日,懸命にこぐ自転車のペダルがよく折れた。3時間かけ歩いて回った。
 毎週きまって木曜日,北海道の自衛隊員からの手紙を届けた。あて名の女性は20歳過ぎのひと。いつも垣根のところに立っていた。
 2週も続けて便りがない。「すみません」。気の毒になって思わず頭を下げた。
 しばらく後「彼は亡くなりました」とうち明けられた。女性はぼろぼろ泣いていた。竹内さんも泣いてしまった。
 人の心を運ぶ仕事だよ。先輩のことばが身にしみた。幸せも不幸も橋渡ししている実感があった。手紙を待つ人,書く人の顔が見えた。
   女性記者の丹念な取材と短文構成が活きている文章だと思った。人の心を運ぶPOSTMAN。ここには,現実に働くPOSTMANの感動の物語(詩)があった。

(5) 手紙を配達するPOSTMANがいれば,これを待つ人もいる。
   前記の「雪国の郵便屋さん」のように,手紙を待ちわびる女性の側から,その心情を歌った歌がある。ビートルズが歌い,カーペンターズも歌った「プリーズ ミスター・ポストマン(PLEASE MR.POSTMAN)」である。1975,6年又はそれより前の時代にヒットしたポップスである(下記PLEASE MR.POSTMANの歌詞参照)。
   この歌詞は,もちろん英語であり,明るく軽快なタッチで歌われていた。その歌の雰囲気を無視して勝手に日本語に翻訳(意訳)すれば,次のような趣意の歌だった。
 ちょっと待ってよ,郵便屋さん
 よく見てよ,鞄の中
 私あての手紙はないかしら/きっとあの人からの手紙があるはずよ
 遠く離れたあの人からの手紙/私は,ずっとずっと待っているの
 はがきでも手紙でもいいわ/きっと戻ると言ってたあの人の手紙
 私は,ずっとずっと待っている/だからもう一度,よく見てよ
 郵便屋さん
   彼の地の懐かしい人,思いを寄せる人からの便りを待ちわびる心情は,洋の東西を問わず同じである。
   中国の映画「山の郵便配達人」(1999年)にも,郵便配達をする人と「待つ」人の心情と交流が綴られているのを見ることができる。郵便配達人の父が最後の郵便配達に3日間の旅に出かけ,跡取りの息子も同行することになったが,父に反発していた息子が,父とともに郵便配達の苦労と喜びを体験して,次第に父を理解していくという筋書きである。奥深い山里の新緑の風景の中で,郵便配達人の仕事の厳しさと喜び,村人・親子の心の交流が重なってゆっくり流れていくのが印象深い。
   その中で,お婆さんが都会に出た孫からの手紙を大切にして待っているシーンがある。息子が語る言葉・・・「外に出た者は,家を思う余裕はないが,家にいる者は,外の家族を心配する。母が嬉しそうな顔を見せたのは,家族3人が揃ったときだった。母は常に父を思いやっていたが,婆さんも同じ気持ちだろうか。」
   人と人との関係で,「待つ」ことの意味合いを教えられる。「手紙を待つ」というより,人は「こころを待っている」のだとも思う。ここに「あの人からの」という意味を込めると,日本では演歌調の雰囲気が漂ってしまうが,明るい歌もある。山陰地方に残るわらべ唄(縄跳び歌)である。
 郵便屋さん/郵便屋さん/はがきが十枚/落ちました/拾ってあげましょ/郵便屋さん
 そら 一枚 二枚/三枚 四枚 五枚/六枚 七枚 八枚/九枚 十枚
 ありがとさん
(島根県太田市で収録・酒井董美・鳥取短大教授http://mytown.asahi.com/shimane/news01.asp?c=5&kiji=918
   いずれにしろ,POSTMAN(郵便屋さん)は,遠くからの便りを届ける人。これを待つ者には,さまざまな期待と感謝と彼の地の人への思いが込められる。それが詩になり,リズムがつけられて歌になる。
   前記の村上龍詩・はまのゆか絵による「ポストマン」には,繰り返し語られる謎めいた言葉がある。
手紙は 音楽と 反応する。

PLEASE MR. POSTMAN
(プリーズ・ミスター・ポストマン)

(Stop) Oh yes, wait a minute Mister postman
(ちょっと待ってよ,郵便屋さん)
(Wait) Wait Mister postman
(待ってよ,郵便屋さん)
Please Mister Postman look and see(Oh yeah)
(よく見て,郵便屋さん)
If there's a letter in your bag for me
(袋の中に私あての手紙はないかしら)
(Please,Please Mister Postman)
(お願い,郵便屋さん)
Why's it taking Such a long time(Oh yeah)
(どうしてこんなに長く待つのかしら)
For me to hear from that boy of mine
(あの人から私への便り)

There must be some word today
(今日こそ便りがあるはずよ)
From my boy-friend so far away
(遠く離れたあの人から)
Please Mister Postman Look and see
(郵便屋さん,よく見てよ)
If there's a letter, a letter for me
(私あての手紙はないかしら)
I've been standing here waiting Mister Postman So patiently
(私は,ここでずっと郵便屋さんを待ってたのよ)
For just a card or just a letter
(はがきでも手紙でもいいわ)
Saying he's returning home to me
(あの人は,私の元に帰ると言ってたの)
(Mister Postman)
(郵便屋さん)
Mister Postman look and see(Oh yeah)
(郵便屋さん,よく見てね)
If there's a letter in your bag for me
(袋の中に私あての手紙はないかしら)
(Please,Please Mister Postman)
(お願い,郵便屋さん)
Why's it taking Such a long time(Oh yeah)
(どうしてこんなに長く待つのかしら)
For me to hear from that boy of mine
(あの人からの便りを聞きたいの)

So many days you passed me by
(いつも私のそばを素通りなんて)
Shed tears standing in my eyes
(私は目に涙を貯めて待っているの)
You didn't stop to make me feel better
(私の気持ちを晴らしてくれないの)
By leaving me a card or a letter
(私の下にはがきか手紙を残してよ)

(Mister Postman)
(郵便屋さん)
Mister Postman look and see(Oh yeah)
(郵便屋さん,よく見てよ)
If there's a letter in your bag for me
(袋の中に私あての手紙はないかしら)

(Please,Please Mister Postman)
(お願い,郵便屋さん)
Why's it taking Suuch a long time
(どうしてこんなに長く待つのかしら)

(Why don't you check it and see one more time for me you gotta)
(もう一度,袋の中を調べてよ)
Wait a minute, Wait a minute
(ちょっと待って,待ってよ)
Wait a minute, Wait a minute
(ちょっと待って,待ってよ)
(Mister Postman)
(郵便屋さん)
Mister Postman look and see
(郵便屋さん,よく見てよ)
(Come on deliver the letter the sooner better)
(一日も早く彼の手紙を届けてよ)
Mister Postman
(郵便屋さん)

訳:Jitutomo

(6) 以上を書いた後,「THE POSTMAN」と題する映画('97米,ワーナー)を見る機会を得た。POSTMANの話を収集した次いでに,これも加えておこう。
   この映画は,核戦争後のアメリカが舞台の映画。なぜか交通通信手段を失い西部劇時代に戻ったような設定で,ならず者が支配。人々は,遠く離ればなれになった親兄弟の安否を気遣い,郵便を待つ。郵便は早馬で運ばれる。ひょんなことでPOSTMANになった男は,次第に人々の信頼を得て,ついにはならず者に敢然と立ち向かって平和をもたらすという話。
   導入部が長すぎ,感動の映画というわけではないが,アメリカの歴史と広大な国を考えれば,POSTMANに対する評価と信頼も相当高いのでないかと思われる点で興味深い。
   印象深いのは,最後の場面に出るPOSTMANの活躍を讃える碑文である。
THE POSTMAN
HE DELIVERED A MESSAGE OF HOPE
EMBRACED BY A NEW GENERATION
彼は,
次の世代に
希望という名の手紙(Message)を届ける。
   次の世代に 希望という名の手紙(Message) を届ける・・・
   これは,前記の村上龍の詩POSTMANのメッセージに託されたものとも共通するのではないだろうか。

(7) 「実務の友」のPOSTMANは,音楽も詩のリズムもなく,希望という名の手紙を運ぶものでもない。ただ,郵便番号と住所を検索し表示ができるだけである。
   しかし,それでも,人の心を運ぶ,メッセージを伝えるための手助けはできる。その人がどこに住んでいるのか,郵便番号はどうか,それを知り,手紙のあて名に書き添えるだけでも,何かその人の心に確実に届くような気がする。
   郵便番号検索ソフトPOSTMANも,希望という名の手紙が一層多く,確実に届くように,さらに大きく成長して,その役に立ちたい。

(以上2003.7.14〜8.8,2004.1.24,4.25,7.27記)




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