実務の友 実友・判例集
 
最三小判平成19.4.24集民第224号261頁(裁判所判例検索システム)
(判示事項)
 内縁の夫の運転する自動車に同乗中に第三者の運転する自動車との衝突事故により傷害を負った内縁の妻が第三者に対して損害賠償を請求する場合に,その賠償額を定めるに当たり,内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮することの可否
(裁判要旨)
 内縁の夫が内縁の妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが衝突し,それにより傷害を負った内縁の妻が第三者に対して損害賠償を請求する場合において,その損害賠償額を定めるに当たっては,内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮することができる。
(参照法条)  民法722条2項,民法第4編第2章第1節婚姻の成立
(判決理由抜粋)
 3 原審は,被上告人においてAが飲酒運転や無謀運転をすることを知りながら同乗したなどの事情が認められない本件においては,上告人が被上告人に対して支払うべき損害賠償額を定めるに当たり,Aの過失を被害者側の過失として考慮することはできず,上告人の過失相殺の抗弁はそれ自体として理由がないと判断して,194万8976円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で被上告人の請求を認容した。払うべき損害賠償額を定めるに当たり,Aの過失を被害者側の過失として考慮することはできず,上告人の過失相殺の抗弁はそれ自体として理由がないと判断して,194万8976円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で被上告人の請求を認容した。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 不法行為に基づき被害者に対して支払われるべき損害賠償額を定めるに当たっては,被害者と身分上,生活関係上一体を成すとみられるような関係にある者の過失についても,民法722条2項の規定により,いわゆる被害者側の過失としてこれを考慮することができる(最高裁昭和40年(オ)第1056号同42年6月27日第三小法廷判決・民集21巻6号1507頁,最高裁昭和47年(オ)第457号同51年3月25日第一小法廷判決・民集30巻2号160頁参照)。内縁の夫婦は,婚姻の届出はしていないが,男女が相協力して夫婦としての共同生活を営んでいるものであり,身分上,生活関係上一体を成す関係にあるとみることができる。そうすると,内縁の夫が内縁の妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが衝突し,それにより傷害を負った内縁の妻が第三者に対して損害賠償を請求する場合において,その損害賠償額を定めるに当たっては,内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮することができると解するのが相当である。
本件において,被上告人は,内縁の夫であるAの運転する自動車に同乗していたところ,同車と上告人運転の自動車とが衝突した本件事故により傷害を負ったというのであるから,上告人が被上告人に対して支払うべき損害賠償額を定めるに当たっては,Aの過失を被害者側の過失として考慮することができるというべきである。
 5 以上によれば,上告人が被上告人に対して支払うべき損害賠償額を定めるに当たり,Aの過失を被害者側の過失として考慮することができないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,Aの過失の有無,過失割合について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。






2013.2-

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