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 最一小判平成23.12.1 集民第238号189頁 (裁判所判例検索システム)
(判決要旨)
 いわゆるリボルビング方式の貸付けについて,貸金業者が貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)17条1項に規定する書面として交付する書面に個々の貸付けの時点での残元利金につき最低返済額を毎月の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等の記載をしない場合は,当該貸金業者は,同項に規定する書面には上記記載を要する旨を判示した最高裁平成17年(受)第560号同年12月15日第一小法廷判決・民集59巻10号2899頁の言渡し日以前であっても,利息制限法所定の制限を超えて利息として支払われた部分の受領につき貸金業の規制等に関する法律43条1項の適用があるとの認識を有することについてやむを得ないといえる特段の事情があるとはいえず,過払金の取得につき民法704条の「悪意の受益者」であると推定される。

(参照法条) 民法704条,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号による改正前のもの)17条1項,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号による改正前のもの)43条1項,利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの)1条1項,貸金業の規制等に関する法律施行規則(平成19年内閣府令第79号による改正前のもの)13条1項1号チ
(判決理由抜粋)
 3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断し,被上告人は民法 704条の「悪意の受益者」であると認めることができないとして,上告人の請求 のうち被上告人の控訴に係る部分を棄却した。

 (1) 貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領 につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項 の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったこと についてやむを得ないといえる特段の事情(以下「平成19年判決の判示する特段 の事情」という。)があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら 過払金を受領した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定され る(最高裁平成17年(受)第1970号同19年7月13日第二小法廷判決・民 集61巻5号1980頁)。

 (2) リボルビング方式による貸付けについては,貸金業者において,個々の貸 付けの際に,17条書面として借主に交付する書面に,確定的な返済期間,返済金 額等の記載に準ずる記載をすべき義務があり,基本契約書の記載と各貸付けの都度 借主に交付された書面の記載とを併せても,確定的な返済期間,返済金額等の記載 に準ずる記載がないときは,17条書面の交付があったということはできない旨を 判示した最高裁平成17年(受)第560号同年12月15日第一小法廷判決・民 集59巻10号2899頁(以下「平成17年判決」という。)が言い渡されるま では,17条書面に記載すべき事項について下級審の裁判例が分かれており,次回 の最低返済額とその返済期日が記載されていれば足りるとする裁判例も相当程度存 在し,監督官庁が貸金業法17条1項各号に掲げる事項のうち特定し得る事項のみ 記載すれば足りると読むこともできる通達を出していた。

 上記事情の下では,平成17年判決が言い渡されるまでは,貸金業者において, リボルビング方式の貸付けにつき借主に17条書面として交付する書面に確定的な 返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がないことから直ちに貸金業法43条1 項の要件が否定されるものではないとの認識を有していたとしてもやむを得ないと いうべきであり,被上告人及びAが上記認識を有していたことについては,平成1 9年判決の判示する特段の事情があると認めるのが相当である。

 (3) そして,本件各弁済のうち制限超過部分の支払について,貸金業法43条 1項のその余の要件との関係でも,被上告人を悪意の受益者であると推定すること はできず,ほかに被上告人が悪意の受益者であると認めるに足りる証拠はない。な お,被上告人とBとの間で前記の債権譲渡がされた時点では,第2取引につき過払 金は発生しておらず,Bの認識等は,本件各取引における過払金の発生とは関係が ない。

 4 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理 由は,次のとおりである。

 (1) 貸金業法17条1項6号及び貸金業法施行規則13条1項1号チが17条 書面に返済期間,返済金額等の記載をすることを求めた趣旨・目的は,これらの記 載により,借主が自己の債務の状況を認識し,返済計画を立てることを容易にする ことにあると解される。

 リボルビング方式の貸付けがされた場合において,個々の 貸付けの時点で,上記の記載に代えて次回の最低返済額及びその返済期日のみが記 載された書面が17条書面として交付されても,上記の趣旨・目的が十全に果たさ れるものではないことは明らかである反面,確定的な返済期間,返済金額等の記載 に準ずる記載をすることは可能であり,かつ,その記載があれば,借主は,個々の 借入れの都度,今後,追加借入れをしないで,最低返済額を毎月の返済期日に返済 していった場合,いつ残元利金が完済になるのかを把握することができ,完済まで の期間の長さ等によって,自己の負担している債務の重さを認識し,漫然と借入れ を繰り返すことを避けることができるのであるから,これを記載することが上記の 趣旨・目的に沿うものであることは,平成17年判決の言渡し日以前であっても貸 金業者において認識し得たというべきである。

 そして,平成17年判決が言い渡される前に,下級審の裁判例や学説において, リボルビング方式の貸付けについては,17条書面として交付する書面に確定的な 返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項の適用が あるとの見解を採用するものが多数を占めていたとはいえないこと,上記の見解が 貸金業法の立法に関与した者によって明確に示されていたわけでもないことは,当 裁判所に顕著である。

 上記事情の下では,監督官庁による通達や事務ガイドラインにおいて,リボルビ ング方式の貸付けについては,必ずしも貸金業法17条1項各号に掲げる事項全て を17条書面として交付する書面に記載しなくてもよいと理解し得ないではない記 載があったとしても,貸金業者が,リボルビング方式の貸付けにつき,17条書面 として交付する書面には,次回の最低返済額とその返済期日の記載があれば足り, 確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項 の適用が否定されるものではないとの認識を有するに至ったことがやむを得ないと いうことはできない。

 そうすると,リボルビング方式の貸付けについて,貸金業者が17条書面として 交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をしない場合 は,平成17年判決の言渡し日以前であっても,当該貸金業者が制限超過部分の受 領につき貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有することに平成19年判決 の判示する特段の事情があるということはできず,当該貸金業者は,法律上の原因 がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受 益者」であると推定されるものというべきである。

 (2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件各取引において 17条書面として上告人に交付された各書面には,平成16年9月までは,次回の 最低返済額とその返済期日の記載があったにとどまり,確定的な返済期間,返済金 額等の記載に準ずる記載がなかったというのであるから,被上告人又はAにおいて 平成19年判決の判示する特段の事情があるということはできず,被上告人及びA は,この時期までに本件各取引から発生した過払金の取得につき悪意の受益者であ ると推定されるものというべきであり,この推定を覆すべき事情は見当たらない。

 そして,同年10月以降は,本件各取引において17条書面として上告人に交付 された各書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がされるように なったが,それより前から本件各取引は継続して過払の状態となり貸金債務は存在 していなかったというのであるから,同月以降は,利息が発生する余地はなく,こ の時期にされた制限超過部分の支払につき貸金業法43条1項を適用してこれを有 効な利息の支払とみなすことができないことは明らかである。

 そうすると,本件各取引につき,同月以降,17条書面として交付された書面に上記の記載があったと しても,被上告人がそれまでに発生した過払金の取得につき悪意の受益者である以 上,この時期に発生した過払金の取得についても悪意の受益者であることを否定す ることはできない。

 よって,被上告人は,本件各取引における過払金の取得について民法704条の 「悪意の受益者」であるというべきである。

 5 以上によれば,被上告人は悪意の受益者であると認めることができないとし た原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は 理由があり,原判決は破棄を免れない。
そして,以上説示したところによれば,上告人の請求のうち被上告人の控訴に係 る部分は理由があり,これを認容した第1審判決は正当であるから,被上告人の控 訴を棄却すべきである。





2013.2-

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