実務の友 実友・判例集
 
 最一小判平成18.06.12 集民第220号403頁
(判決要旨)
1 建築会社の担当者が,顧客に対し,銀行から融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後,敷地として建築確認を受けた土地の一部を売却することにより融資の返済資金を調達する計画を提案し,顧客が,上記計画に沿って銀行から融資を受けて建物を建築したが,その後,上記土地の一部を予定どおり売却することができず,上記融資の返済資金を調達することができなくなったところ,上記計画には,上記土地の一部の売却によりその余の敷地部分のみでは上記建物が容積率の制限を超える違法な建築物となり,また,上記土地の一部の買主がこれを敷地として建物を建築する際には,敷地を二重に使用することとなって建築確認を直ちには受けられない可能性があるという問題があったなど判示の事実関係の下においては,上記問題を認識しながらこれを顧客に説明しなかった上記担当者には,信義則上の説明義務違反がある。

2 銀行の担当者が,顧客に対し,融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後,敷地として建築確認を受けた土地の一部を売却することにより融資の返済資金を調達する計画を提案した建築会社の担当者と共に,上記計画を説明し,顧客が,上記計画に沿って銀行から融資を受けて建物を建築したが,その後,上記土地の一部を予定どおり売却することができず,上記融資の返済資金を調達することができなくなったところ,上記計画には,上記土地の一部の買主がこれを敷地として建物を建築する際,敷地を二重に使用することとなって建築確認を直ちには受けられない可能性があることなどの問題があったなど判示の事実関係の下においては,顧客が,原告として,銀行の担当者は顧客に対して上記土地の一部の売却について取引先に働き掛けてでも確実に実現させる旨述べたなどの事情があったと主張しているにもかかわらず,上記事情の有無を審理することなく,上記担当者について,上記問題を含め上記土地の一部の売却可能性を調査し,これを顧客に説明すべき信義則上の義務がないとした原審の判断には,違法がある。
(参照法条)
 (1,2につき)民法1条2項民法415条民法709条,建築基準法52条
(判決理由抜粋)
3 原審は,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。

 Y2担当者は,本件北側土地を売却した後,これを敷地として建物が建築される 際,建築主事が敷地の二重使用に気付かなければ建物の建築に支障はないとの見込 みに基づいて本件計画を作成し,実際にも,建築主事が敷地の二重使用に気付かず に建築確認をする可能性は十分にあったから,その当時,本件敷地問題があったと しても,3億円程度の資金をねん出することが困難な状況にあったとまでは推認す ることはできない。そうすると,本件貸付けは,当初から返済のめどが立たなかっ たものではないから,上告人の主張は,その前提を欠くものであって,本件敷地問 題に関し,被上告人らに説明義務違反があったとはいえない。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次 のとおりである。

 (1) 前記事実関係によれば,上告人は,本件各担当者の説明により,本件貸付 けの返済計画が実現可能であると考え,被上告人Y2との間で本件建物の設計契約 及び建築請負契約を締結し,被上告銀行から本件貸付けを受け,本件建物が建築さ れたところ,本件北側土地の売却により,本件建物は,その余の敷地部分のみでは 容積率の制限を超える違法な建築物となるのであるから,上告人としては,十分な 広さの隣接土地を本件建物の敷地として確保しない限り,本件北側土地を売却して はならないこととなり,また,本件北側土地を売却する場合には,買主がこれを敷 地として建物を建築する際,敷地の二重使用となって建築確認を直ちには受けられ ない可能性があったのであるから,信義則上敷地の二重使用の問題を買主に明らか にして売却する義務がある以上,本件建物がない場合に比べて売却価格が大きく低 下せざるを得ないことは明らかである。したがって,本件建物を建築した後に本件 北側土地を予定どおり売却することは,もともと困難であったというべきである。 本件計画には,上記のような問題があり,このことは,上告人が被上告人Y2と の間で上記各契約を締結し,被上告銀行との間で本件貸付けに係る消費貸借契約を 締結するに当たり,極めて重要な考慮要素となるものである。

 したがって,Y2担当者には,本件計画を提案するに際し,上告人に対して本件 敷地問題とこれによる本件北側土地の価格低下を説明すべき信義則上の義務があっ たというべきである。しかるに,Y2担当者は,本件敷地問題を認識していたにも かかわらず,売却後の本件北側土地に建物が建築される際,建築主事が敷地の二重 使用に気付かなければ建物の建築に支障はないなどとして,本件敷地問題について 建築基準法の趣旨に反する判断をし,上告人に対し,本件敷地問題について何ら説 明することなく,本件計画を上告人に提案したというのであるから,Y2担当者の 行為は,上記説明義務に違反することが明らかであり,被上告人Y2は,上告人に 対し,上記説明義務違反によって上告人に生じた損害について賠償すべき責任を負 うというべきである。これと異なる原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすこと が明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は,理由がある。

 (2) 一般に消費貸借契約を締結するに当たり,返済計画の具体的な実現可能性 は借受人において検討すべき事柄であり,本件においても,銀行担当者には,返済 計画の内容である本件北側土地の売却の可能性について調査した上で上告人に説明 すべき義務が当然にあるわけではない。

 しかし,前記事実関係によれば,銀行担当者は,上告人に対し,本件各土地の有 効利用を図ることを提案して被上告人Y2を紹介しただけではなく,本件北側土地 の売却により被上告銀行に対する返済資金をねん出することを前提とする本件経営 企画書を基に本件投資プランを作成し,これらに基づき,Y2担当者と共にその内 容を説明し,上告人は,上記説明により,本件貸付けの返済計画が実現可能である と考え,本件貸付けを受けて本件建物を建築したというのである。

 そして,上告人は,銀行担当者が上記説明をした際,本件北側土地の売却につい て銀行も取引先に働き掛けてでも確実に実現させる旨述べるなど特段の事情があっ たと主張しているところ,これらの特段の事情が認められるのであれば,銀行担当 者についても,本件敷地問題を含め本件北側土地の売却可能性を調査し,これを上 告人に説明すべき信義則上の義務を肯認する余地があるというべきである。


 しかるに,原審は,上記の点について何ら考慮することなく,直ちに上記説明義 務を否定しているのであるから,原審の上記判断には,審理不尽の結果,判決に影 響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は,上記の趣旨 をいうものとして理由がある。


民法1条(基本原則)
第1条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。

民法415条(債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

民法709条(不法行為による損害賠償)
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。




2013.2-

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