実務の友 実友・判例集
 
 最二小判平成21.12.18 集民第232号833頁
(判決要旨)
 特定の商品の先物取引につき,委託玉と自己玉とを通算した売りの取組高と買いの取組高とが均衡するように自己玉を建てることを繰り返す取引手法を用いている商品取引員が,専門的な知識を有しない委託者から当該特定の商品の先物取引を受託しようとする場合,当該商品取引員の従業員は,信義則上,その取引を受託する前に,委託者に対し,その取引については上記取引手法を用いていること及び上記取引手法は商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負う。
(参照法条)
 民法1条2項,商品取引所法213条,商品取引所法214条9号,商品取引所法217条1項4号
(判決理由抜粋)
 3 原審は,被上告人Y2が上告人に対し本件取引手法を用いていることを説明 すべき義務を負っていたとはいえないなどとして,上告人の請求を棄却すべきもの とした。

 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次 のとおりである。

 商品先物取引は,相場変動の大きい,リスクの高い取引であり,専門的な知識を 有しない委託者には的確な投資判断を行うことが困難な取引であること,商品取引 員が,上記委託者に対し,投資判断の材料となる情報を提供し,上記委託者が,上 記情報を投資判断の材料として,商品取引員に対し,取引を委託するものであるの が一般的であることは,公知の事実であり,上記委託者の投資判断は,商品取引員 から提供される情報に相応の信用性があることを前提にしているというべきであ る。

そして,商品取引員が本件取引手法を用いている場合に取引が決済されると, 委託者全体の総益金が総損金より多いときには商品取引員に損失が生じ,委託者全 体の総損金が総益金より多いときには商品取引員に利益が生ずる関係となるのであ るから,本件取引手法には,委託者全体の総損金が総益金より多くなるようにする ために,商品取引員において,故意に,委託者に対し,投資判断を誤らせるような 不適切な情報を提供する危険が内在することが明らかである。

そうすると,商品取 引員が本件取引手法を用いていることは,商品取引員が提供する情報一般の信用性 に対する委託者の評価を低下させる可能性が高く,委託者の投資判断に無視するこ とのできない影響を与えるものというべきである。

 したがって,少なくとも,特定の商品(商品取引所法2条4項)の先物取引につ いて本件取引手法を用いている商品取引員が専門的な知識を有しない委託者から当 該特定の商品の先物取引を受託しようとする場合には,当該商品取引員の従業員 は,信義則上,その取引を受託する前に,委託者に対し,その取引については本件 取引手法を用いていること及び本件取引手法は商品取引員と委託者との間に利益相 反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務を負うものと いうべきである。

 しかるに,原審は,上告人が専門的な知識を有しない委託者であるか否か,被上 告会社が上告人から商品先物取引の委託を受ける前から白金について本件取引手法 を用いていたか否か,被上告人Y が2 上記のような説明をしたか否か等につき審理 することなく,被上告人Y2に説明義務違反がないと判断したのであり,この判断 には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

論旨は上記の趣旨を いうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさ せるため,本件を原審に差し戻すこととする。


民法1条(基本原則)
第1条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。



2013.2-

[ TOP ]