実務の友
期間計算の裁判例

法の解釈

 昭和28年製作の「シェーン」等の映画の著作権は,公表後50年経過で,消滅か?
 同著作権者が,同映画の複製DVDを製造販売した業者に対し販売等の差止め及び廃棄,損害賠償を求めたところ,業者が,同著作権は存続期間満了により消滅したと主張して争った事案。
 法解釈で,「平成15年12月31日午後12時」と「平成16年1月1日午前0時」は,時間的に切断とみるか,接続とみるかが争点となり,第一審,控訴審は「切断」とみ,最高裁まで争ったが,結局,最高裁でも,同著作権は「存続期間満了により消滅」との判断で決着がついた。
1 東京地判平成18.10.6著作権侵害差止等請求事件(第一審)(Web最高裁判例集)

2 知財高判平成19.3.29著作権侵害差止等請求事件(控訴審)(Web最高裁判例集)

3 最三小判平成19.12.18著作権侵害差止等請求事件(上告審)(Web最高裁判例集)


1 前提となる事実の認定(東京地裁・知財高裁ともに認定)
  本件映画が公表された年は昭和28年である。


2 第一審の法的判断(東京地裁の判断)
(1) 本件映画の公表時に映画の著作物の著作権の保護期間を定めていた旧著作権法は,
独創性のある映画の著作物のうち,団体の著作名義で発行又は興行した著作物の著作権は,発行又は興行から30年継続するものと定め(旧著作権法6条,23条の3),
  その期間は,著作物を発行又は興行した年の翌年から起算することとしている(旧著作権法9条)。その後,旧著作権法下において,団体名義の映画の著作物の著作権の保護期間は,2回の暫定的な延長措置(昭和42年法律第87号,昭和44年法律第82号)により33年に延長された。さらに,45年改正法が施行され, 映画の著作物の著作権は公表後50年を経過するまでの間存続する旨定められた(改正前著作権法54条1項)。

(2) 本件映画の著作権は,
公表の翌年である昭和29年から起算して50年後の末日である平成15年12月31日が終了するまでの間存続する, すなわち,本件映画の著作権は,同日の終了をもって,存続期間の満了により消滅する。

(3) 本件改正著作権法が施行された平成16年1月1日においては, 改正前の著作権法による本件映画の著作権は既に消滅しているから, 本件改正法附則2条の規定により,改正著作権法54条1項の規定は適用されない。

○ 参考となる改正著作権法(現在は,さらに改正されている)の規定
(1) 改正著作権法54条1項
「映画の著作物の著作権は,その著作物の公表後70年(・・・)を経過するまでの間,存続する。」と規定。

(2) 本件改正法附則1条
「この法律は、平成16年1月1日から施行する。」と規定。

(3) 本件改正法附則2条
「改正後の著作権法・・・第54条第1項の規定は,この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し,この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による。」と規定。


3 控訴審(知財高裁)での法解釈上の一つの争点
  「控訴人らは,
改正前の著作権法による本件映画の著作権の存続期間の満了点である平成15年12月31日午後12時は,本件改正法が施行された平成16年1月1日午前零時と同時刻であるから, 本件映画の著作権は本件改正法が施行された際現に存続していたのであり, 改正著作権法54条1項が適用されて, 本件映画の著作権は,公表後70年を経過するまでの間,すなわち,公表の翌年である昭和29年から起算して70年後の末日である平成35年12月31日が終了するまでの間存続すると主張する。」(知財高裁の原文)

  この争点に対する判断(知財高裁の判断)
  「しかしながら,改正前の著作権法54条1項及び57条は,映画の著作物の著作権の存続期間を年によって定めたものであって(民法140条),この場合には,期間は,その末日の終了をもって満了するから(民法141条),日を単位としているものである。
  そして,本件改正法附則1条は,本件改正法の施行の時点を日を単位として定めたものである。
  そうすると,両者はいずれも日を単位とするものであるから, 本件改正法が平成16年1月1日から施行され,この日が午前零時から始まるものであるとしても, 平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了する本件映画の著作権がその翌日である平成16年1月1日に存続していたということはできない。」(知財高裁の原文)


4 最高裁判所の判断
  「本件経過規定は,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による」と定めているが,これは,本件改正法の施行日において既に保護期間の満了している映画の著作物については,本件改正前の著作権法の保護期間が適用され,本件改正後の著作権法の保護期間は適用されないことを念のため明記したものと解すべきであり,本件改正法の施行の直前に著作権の消滅する著作物について本件改正後の著作権法の保護期間が適用されないことは,この定めによっても明らかというべきである。したがって,本件映画を含め,昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は,本件改正による保護期間の延長措置の対象となるものではなく,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである。」とし,「以上によれば,本件映画の著作権は存続期間が満了して消滅したとする原審の判断は,正当として是認することができる。」とした。(最高裁判決原文を引用)



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