実務の友
消費者契約法に関する判例集
最新更新日2003.10.20
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索  引

     1 パーティーの予約キャンセルと損害賠償
       東京地裁判平成14.3.25判例タイムズ1117号289頁
     2 自動車の売買契約のキャンセルと損害賠償
       大阪地裁判平成14.7.19金融・商事判例1162号32頁
     3 入学辞退の場合の入学金返還
       京都地裁判平成15.7.16判例時報1825号46頁
 私大への入学時の納付金の返還を巡り訴訟が増えている模様。消費者契約法施行以前の事案で大阪地裁9月19日判決,同地裁10月9日判決は請求棄却,消費者契約法施行後の事案で京都地裁7月16日判決と大阪地裁10月6日判決は,同法の適用により請求認容としている(アサヒコム)。
参考Webページ
 日常生活上の消費者契約法の理解と適用には,内閣府国民生活局「消費者の窓」のうち「消費者契約法」のページが参考になります。
 消費者契約法のポイント,適用の留意点とチェックシート,消費者契約法の概要と法文内容,立法の経緯と逐条解説,審議会の議事録等が掲載されています。
参考書籍
 消費者契約法の理解については,岡田ヒロミ著「消費者契約法活用ガイドブック」(岩波ブックレットNo.541 2001年)が参考になります。
消費者契約法の立法の経緯,ポイント,基本条文の解釈と適用,他の法律との関係,トラブルにあった時の解決方法,今後の課題等について,薄手の本ながら,要点が分かりやすく解説されています。


○ パーティーの予約キャンセルと損害賠償
 1 東京地裁判平成14.3.25(確定:原審東京簡裁)判例タイムズ1117号289頁,金融・商事判例1152号36頁
(判決要旨)
1 パーティーを内容とするサービス契約に消費者契約法が適用された事例
2 民訴法248条を適用して,消費者契約法9条1号の「平均的な損害」を認定した事例
(参照条文:消費者契約法9条1項,民訴法248条)
(事実関係)
 控訴人は,被控訴人(店)に対し,パーティーの予約をした。その際,控訴人は「実施日前日までは解約料不要。ただし,重複の予約申入れがあり,店が確認した後は,1人当たり5229円の営業保証料を支払う」との規約の説明を受けた。
 その翌日,被控訴人から確認の電話が入り,控訴人は「実施する」旨回答したが,その翌日,解約の意思表示をした。そこで,被控訴人は,営業保証料として40人分の20万9160円の支払いを請求した。
(判決理由抜粋)
 「1 本件予約は,飲食店を営む法人である被控訴人と個人である控訴人との間のパーティーを内容とするサービス契約であるところ,被控訴人は消費者契約法2条2項に規定する「事業者」,控訴人は同法2条1項に規定する「消費者」,本件予約は同法2条3項に規定する「消費者契約」に当たると解するのが相当である。ところで,本件予約は,平成13年4月8日にされたものであり,これを巡る紛争については,同月1日から施行されている消費者契約法(平成12年法律第61号)が適用される。
 2 消費者契約法9条1号によれば,契約解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって,これらを合算した額が,当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約法と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害を超えるものについては,当該超える部分は法律上無効であるとされている。
 これを本件についてみるに,本件予約の解約に当たり営業保証料(予約の解除に伴う損害賠償の予定又は違約金)が定められているが,消費者契約法9条1号の法の趣旨に照らすと,前記営業保証料のうち,前記「平均的な損害」を超える部分は無効ということになり,被控訴人は控訴人に対し,「平均的な損害」の限度で請求することができるということになる。
 3 そこで,問題となるのは,消費者契約法9条1項にいうところの「平均的な損害」の意義であるが,これについては,当該消費者契約の当事者たる個々の事業者に生じる損害の額について,契約の類型ごとに合理的な算出根拠に基づき算定された平均値であり,解除の事由,時期の他,当該契約の特殊性,逸失利益・準備費用・利益率等損害の内容,契約の代替可能性・変更ないし転用可能性等の損害の生じる蓋然性等の事情に照らし,判断するのが相当である。
(略)
 前記(1)アからも明らかなとおり,本件予約の解約は,開催日から2か月前の解約であり,開催予定日に他の客からの予約が入る可能性が高いこと,本件予約の解約により被控訴人は本件パーティーにかかる材料費,人件費等の支出をしなくて済んだことが認められる。
 他方,前記(1)アないしウによれば,被控訴人は本件予約の解約がなければ営業利益を獲得することができたこと,本件パーティーの開催日は仏滅であり結婚式二次会などが行われにくい日であること,本件予約の解約は控訴人の自己都合であること,及び控訴人自身3万6000円程度の営業保証料の支出はやむを得ないと考えていること(弁論の全趣旨)が認められる。
 以上の控訴人,被控訴人にそれぞれ有利な事情に,そもそも本件では証拠を検討するも,旅行業界における標準約款のようなものが見当たらず,本件予約と同種の消費者契約の解釈に伴い事業者に生ずべき平均的な損害額を算定する証拠資料に乏しいこと等を総合考慮すると,本件予約の解約に伴う「平均的な損害」を算定するに当たっては,民訴法248条の趣旨に従って,一人当たりの料金4500円の3割に予定人数の平均である35名を乗じた4万7250円(4500×0.3×35=4万7250円)と認めるのが相当であり,この判断を覆すに足りる証拠はない。」


○ 自動車の売買契約のキャンセルと損害賠償
 2 大阪地裁判平成14.7.19(確定)金融・商事判例1162号32頁
H14. 7.19 大阪地方裁判所 平成13年(ワ)第9030号 損害賠償請求( http://courtdomino2.courts.go.jp/Kshanrei.nsf/webview/BEBE4AD0BF73435849256C01003082EF/?OpenDocument)

(判決要旨)
 消費者である買主がその都合で自動車の売買契約を解除した場合は,規定の損害賠償金を請求されても異議がない旨の特約があっても,事業者である売主に現実に損害が生じているとは認められず,また,通常何らかの損害が発生しうるものとも認められないときは,売主は,買主に対し,上記特約に基づき損害賠償金を請求することはできない。
(参照条文:民法420条,消費者契約法9条1号)
(事実関係)
 被告は,自動車を注文した。その注文書には「万一私の都合で契約を撤回した場合は,損害賠償金(車両価格の15/100)及び損害作業金(実費)を請求されても異議ありません」と定められていた。
 被告は,翌日,上記注文の撤回を申し出,注文の翌々日には確定的に撤回の意思表示をした。そこで,原告は,特約に基づき17万8000円の損害賠償金の支払いを請求した。
(判決理由抜粋)
 「(1) 本件売買契約が,消費者契約法(平成13年4月1日施行)2条3項に定める消費者と事業者との間で締結される契約であり,同法の適用があることは明らかである。
 そして,消費者契約法9条1号に定める「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」は,同法が消費者を保護することを目的とする法律であること,消費者側からは事業者にどのような損害が生じ得るのか容易には把握しがたいこと,損害が生じていないという消極的事実の立証は困難であることなどに照らし,損害賠償額の予定を定める条項の有効性を主張する側,すなわち事業者側にその立証責任があると解すべきである。
(2) これを前提として本件について検討するに,本件では,被告による本件売買契約の撤回(解除)がなされたのは契約締結の翌々日であったこと,弁論の全趣旨及び証拠(被告本人)によれば,原告担当者は,本件売買契約締結に際し,被告に対し,代金半額(当初全額と言っていたが,被告が難色を示したため,半額に訂正した)の支払を受けてから車両を探すと言っていたことが認められることなどからすれば,被告による契約解除によって事業者である原告には現実に損害が生じているとは認められないし,これら事情のもとでは,販売業者である原告に通常何らかの損害が発生しうるものとも認められない。
 原告は,本件売買契約の対象車両は既に確保していたとするが,それを認定するに足りる証拠はない上,仮にそうであったとしても,被告に対してそのことを告げていたとは認められないし,また,被告の注文車両は他の顧客に販売できない特注品であったわけでもなく,被告は契約締結後わずか2日で解約したのであるから,その販売によって得られたであろう粗利益(得べかりし利益)が消費者契約法9条の予定する事業者に生ずべき平均的な損害に当たるとはいえない。
 もっとも,厳密に言えば,原告が取引業者との間で対象車両の確保のために使用した電話代などの通信費がかかっているといえないこともないが,これらは額もわずかである上,事業者がその業務を遂行する過程で日常的に支出すべき経費であるから,消費者契約法9条の趣旨からしてもこれを消費者に転嫁することはできないというべきである。
(3) したがって,本件特約条項(3)に基づく本件違約金請求は,消費者契約法9条1号により許されない。」


○ 入学辞退の場合の入学金返還
 3 京都地裁判平成15.7.16判例時報1825号46頁
H15. 7.16 京都地方裁判所 平成14年(ワ)第1789号 学納金(入学金)返還請求事件( http://courtdomino2.courts.go.jp/Kshanrei.nsf/webview/7E3201C9C357C81049256D6C002E4AF7/?OpenDocument)

(判決要旨)
1 大学と大学入試に合格し,大学の定める手続に従って入学金等を支払う等した入学希望者
 の在学契約が消費者契約に当たるとされた事例
2 大学入試の合格者が大学に入学金等を支払った後,入学を辞退した場合について,入学金
 等の返還をしない旨の特約が無効とされた事例
3 消費者契約法9条1号所定の「平均的な損害の額」の主張,立証責任の所在
(参照条文:消費者契約法9条1項)
(判決理由抜粋)
「(2) 消費者契約法の適用の有無(争点二)  ア 消費者契約法は,消費者と事業者との間で締結される契約を消費者契約とし(消費者契約法2条3項),労働契約以外の消費者契約に同法4条以下の消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し及び消費者契約法の条項の無効に関する規定が,民法及び商法以外の他の法律に別段の定めがあるときを除いて適用されるとしている(同法11条2項,12条)。
 ところで,原告らは,被告らとの在学契約に関しては,いずれも事業として又は事業のために契約の当事者となる場合以外の個人であるから,同法にいう消費者であり(同法2条1項),また,被告らが法人であることは,前記請求原因アのとおりであるから,被告らは,同法にいう事業者に当たる(同法2条2項)。そうすると,原告らと被告ら間の在学契約は,消費者契約であり,労働契約には当たらないから,同法4条以下の消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し及び消費者契約の条項の無効に関する規定が,上記在学契約に適用されることは明らかである。
 イ 被告らは,在学契約には,消費者契約法の適用がない旨主張するが,同法1条に定める同法の目的は,在学契約にも妥当するものであり(原告らが,被告と交渉をして,学則,入学手続要項の定める以外の内容の契約を個別に締結する余地のないことは被告らの自認するところであり,原告らが,学納金の金額がどのような根拠に基づいて決定されたものであるかなどの情報を得られないこともいうまでもなく,原告らと被告らとの情報の質及び量並びに交渉力に格差があることは明らかである。),同法の定める消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し及び消費者契約の条項の無効に関する規定は,事業者が,消費者との間で締結する契約について,契約の締結過程及び契約条項に関して遵守するべき基本的な規範を定めたものであって,その内容に照らしても,在学契約に適用された場合に不都合が生じることは考えられない。
 被告らの指摘する在学契約が公法的規制を受けていること,私立の大学等が社会において重要な役割を果たしていることも,消費者契約法が在学契約に適用されないとする根拠となると解することができない。
(3) 学納金不返還特約は,消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項に当たるか否か(争点三前段)  ア 消費者契約法9条1号は,消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって,これらを合算した額が,当該条項において設定された解除の事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるものについては,当該超える部分について無効とする旨を定めるものであるが,これは,消費者が,消費者契約の解除に伴い,事業者から不当に損害賠償等の負担を強いられることがないように定められた規定であると解され,その趣旨からすると,消費者契約中のある条項が消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であるかどうかは,その条項の文言のみではなく,実質的に見て損害賠償額の予定又は違約金を定めたものとして機能する条項であるかどうかによって判断すべきである。
 イ ところで,大学等に入学する手続をした者が,学年の始まる前に在学契約を解除し,あるいは実際には入学する意思がないのに,学年が始まるまでに解約をせ学年が始まってから解約の意思表示をし,あるいは入学式に出席しないことで解約の意思を明らかにすることになれば,大学等が補欠募集等に困難を来し,結果的に収容定員よりも多く合格させたところ,実際の入学者も多く収容定員を超過するという事態も起こり得ることであり,いずれにしても,大学等が一定の損害を被ることは推認することができる(補助金に限っても,在学している学生数が収容定員よりも著しく少ないことは補助金不支給の事由となり,収容定員を超えて学生を在学させることは補助金の減額事由となる(私立学校振興助成法5条3号,6条,5条2号)。
 そうすると,在学契約を締結した者が,入学以前あるいは入学の直後(入学式)までに在学契約を解約することは,大学等の不利な時期に解約をするものであり,原則として大学等に対して損害を賠償する義務を負う(民法656条,651条2項参照)ところ,学納金不返還特約は,係る場合に学納金を返還しないことを定めるものであるから,被告らが入学辞退者に対して有する損害賠償請求権に係る金額を既払いの学納金の額と予定する特約と解されるから,消費者契約法9条1号にいう「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に該当するというべきである。
(4) 在学契約の解約により大学等が平均的損害は総額納金相当額かどうk(争点三後段)  ア 消費者契約法9条1号にいう「平均的損害」とは,同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害をいい,具体的には,解除の事由及び時期,当該契約の特殊性,逸失利益,準備費用等の損害の内容並びに損害回避の可能性などの事情に照らし,同種の契約の解除に伴い,当該事業者に生じる損害の額の平均値をいう。
 そして,消費者契約法9条1号が消費者契約における消費者保護のために設けられた規定であること,平均的損害の算定根拠となる同種の契約において発生する損害の内容及びその数額並びに損害回避可能性などの証拠が事業者側に偏在していることに照らすと,平均的損害の金額は,事業者が主張立証責任を負うと解するべきである。
(略)
 ウ そうすると,原告らによる在学契約の解約によって,被告らが被る平均的損害を認めるに足りる証拠はないことに帰し,結果的に平均的損害はないものとして扱うほかはなく,その結果,学納金不返還特約は,再抗弁イ,ウについて判断するまでもなく,その全体が無効であることになる。
 エ なお,被告らは,学納金不返還特約が「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に該当し,学納金のうち平均的損害を超える部分が無効となるとすると,大学等の財政及び一定の水準の学生の確保に対する影響が大きい旨を主張する。
 複数の大学等の入学試験を受験し,複数の大学等の入学試験に合格する者も相当数存在することは公知の事実であるところ,入学手続をして在学契約を締結したものの,その後入学を辞退(在学契約を解約)した者が既納の学納金のうち平均的損害額を超える部分の返還を受けられるとすると,入学手続を完了した者のうち現実に入学をする者がどれだけいるのかの予測が当初は困難になること,その結果,収容定員を確保することができなかったり,逆に実際に入学した者が収容定員を大幅に超過したりすることが生じるおそれがないとはいえないし,収容定数の不足を解消するために追加合格や補欠募集を行うと,入学者の質が一定に保てないという被告らの懸念も理解できなくはない。
 しかし,消費者契約法の消費者契約の条項の無効に関する規定は,前述のとおり,契約条項に関して事業者が遵守するべき基本的な規範である以上,在学契約を締結したものの入学前又は入学直後(実質的には入学しない時期)にこれを解約されることによって被告らが被る平均的損害の範囲内であれば,損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項も効力を有するので,被告ら(事業者)において,その平均的損害の額を明らかにすることによっても,前記のような事態を避けることは可能とも考えられるから,上記の被告らの主張を考慮しても,前記の判断に変わりはない。」




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