実務の友   隔地者間の意思表示に関する判例集
最新更新日2004.03.22-2006.08.10
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■ 隔地者間の意思表示に関する判例 --------------------------------------------
     1 最高裁一小判昭和36.4.20民集15巻4号774頁
     2 最高裁三小判昭和43.12.17民集22巻13号2998頁
     3 最高裁一小判平成10.6.11民集52巻4号1034頁



○ 催告書の到達を認めた事例
 1 最高裁一小判昭和36.4.20民集15巻4号774頁,判例解説民事篇昭和36年度122頁
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 会社に対する催告書が使者によって持参された時,たまたま会社事務室に代表取締役の娘が居合わせ,代表取締役の机の上の印を使用して使者の持参した送達簿に捺印の上,右催告書を右机の抽斗に入れておいたという場合には,同人に右催告書を受領する権限がなく,また同人が社員に右の旨を告げなかったとしても,催告書の到達があったものと解すべきである。
(判決理由抜粋)
 「思うに,隔地者間の意思表示に準ずべき右催告は民法97条によりY会社に到達することによってその効力を生ずべき筋合のものであり,ここに到達とは右会社の代表取締役であったBないしBから受領の権限を付与されていた者によって受領され或いは了知されることを要するの謂ではなく,それらの者にとって了知可能の状態におかれたことを意味するものと解すべく,換言すれば意思表示の書面がそれらの者のいわゆる勢力範囲(支配圏)内におかれるを以て足るものと解すべきところ(昭和6年2月14日,同9年11月26日,同11年2月14日,同17年11月28日の各大審院判決参照),前示原判決の確定した事実によれば,Y会社の事務室においてその代表取締役であったBの娘であるCに手交され且つ同人においてAの持参した送達簿にBの机にあったBの印を押して受け取り,これを右机の抽斗に入れておいたというのであるから,この事態の推移にかんがみれば,Cはたまたま右事務室に居合わせた者で,右催告書を受領する権限もなく,その内容も知らず且つY会社の社員らに何ら告げることがなかったとしても,右催告書はBの勢力範囲に入ったもの,すなわち同人の了知可能の状態におかれたものと認めていささかも妨げなく,従ってこのような場合こそは民法97条にいう到達があったものと解するを相当とする。然らば,右催告はこれを有効と解すべきところ,原判決はこれを無効と断じたのであるから,原判決は右催告の効力に関し民法97条の解釈適用を誤ったものという外なく,・・・・」
(判例解説)
「問題は,どこまでも「一般取引観念に照らし,了知可能の状態に置かれたといえるかどうか」なのであり,換言すれば「相手方の勢力範囲内に入ったかどうか」(注6)であり,また「表意者の側として常識上為すべきことを為し終ったかどうか」(注7)である。「本人の同居の親族に交付されれば足る」(注8)「同居する内縁の妻の受領で足る」(注9)「催告書が受信者の受領しうべき場所に到達したときは,受信者本人は入院中で到達を知らなくとも,催告は効力を発する」(注10)等々,従来の許多の判例は,右の基準に照らして,すべて統一的に理解できる。」(注は略)


○ 日本電信電話公社の加入電話加入者に対する加入電話加入契約上の意思表示の到達が認められた事例
 2 最高裁三小判昭和43.12.17民集22巻13号2998頁,判例解説なし
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 電話加入権の譲渡承認をえて加入電話加入者となった者が,右譲渡承認の請求に際し譲受人の住所として特定の場所を表示して右承認をえ,右場所に設置された電話機を,同所に営業所を設けて営業を営む第三者に使用させている場合には,加入電話加入者みずからは同所に居住していなくても,同所に居住する者によって,日本電信電話公社より加入電話加入者に対する加入電話加入契約上の意思表示を記載した書面が受領されたときは,右意思表示が到達したものと認めるべきである。
(判決理由抜粋)
「思うに,隔地者間の意思表示またはこれに準ずべき通知は,相手方に到達することによってその効力を生ずべきものであるところ,右にいう到達とは,相手方によって直接受領され,または了知されることを要するものではなく,意思表示または通知を記載した書面が,それらの者のいわゆる支配圏内におかれることをもって足りるものと解すべきである(最高裁昭和33年(オ)第315号,同36年4月20日第一小法廷判決,民集15巻4号774頁参照)。そして,右原審の確定する事実関係のもとにおいては,上告人自らは右の場所に居住していなくても,右の場所に居住する者によって,本件電話加入契約,本件専用契約に関して被上告人より加入電話加入者たる上告人に対して発せられた意思表示,その他の通知を記載した書面が受領されたときは,右書面は上告人のいわゆる支配圏内におかれたものと解して妨げなく,このような場合には,右意思表示その他の通知が,上告人に到達したものと解するを相当とする。従って,これと同旨の原審の判断は正当である。」


○ 遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付された場合に意思表示の到達が認められた事例
 3 最高裁一小判平成10.6.11民集52巻4号1034頁,判例解説民事篇平成10年度(下)541頁
(最高裁HP該当判例)
(判決要旨)
 遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付された場合において,受取人が,不在配達通知書の記載その他の事情から,その内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができ,また,受取人に受領の意思があれば,郵便物の受取方法を指定することによって,さしたる労力,困難を伴うことなく右内容証明郵便を受領することができたなど判示の事情の下においては,右遺留分減殺の意思表示は,社会通念上,受取人の了知可能な状態に置かれ,遅くとも留置期間が満了した時点で受取人に到達したものと認められる。
(判決理由抜粋)
 「(一) 隔地者に対する意思表示は,相手方に到達することによってその効力を生ずるものであるところ(民法97条1項),右にいう「到達」とは,意思表示を記載した書面が相手方によって直接受領され,又は了知されることを要するものではなく,これが相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りるものと解される(最高裁昭和33年(オ)第315号同36年4月20日第一小法廷判決・民集15巻4号774頁)。
(二) ところで,本件当時における郵便実務の取扱いは,(1) 内容証明郵便の受取人が不在で配達できなかった場合には,不在配達通知書を作成し,郵便受箱,郵便差入口その他適宜の箇所に差し入れる,(2) 不在配達通知書には,郵便物の差出人名,配達日時,留置期限,郵便物の種類(普通,速達,現金書留,その他の書留等)等を記入する,(3) 受取人としては,自ら郵便局に赴いて受領するほか,配達希望日,配達場所(自宅,近所勤務先等)を指定するなど,郵便物の受取方法を選択し得る,(4) 原則として,最初の配達の日から7日以内に配達も交付もできないものは,その期間経過後に差出人に還付する,というものであった(郵便規則74条,90条,平成6年3月14日郵便業第19号郵便局長通達「集配郵便局郵便取扱手続の制定について」別冊・集配郵便局郵便取扱手続272条参照)。
(三) 前記一の事実関係によれば,Yは,不在配達通知書の記載により,O弁護士から書留郵便(本件内容証明郵便)が送付されたことを知り(右(二)(2)参照),その内容が本件遺産分割に関するものではないかと推測していたというのであり,さらに,この間弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けていた等の事情が存することを考慮すると,Yとしては,本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべきである。また,Yは,本件当時,長期間の不在,その他郵便物を受領し得ない客観的状況にあったものではなく,その主張するように仕事で多忙であったとしても,受領の意思があれば郵便物の受取方法を指示することによって(右(二)(3)参照),さしたる労力,困難を伴うことなく本件内容証明郵便を受領することができたものということができる。そうすると,本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は,社会通念上,Yの了知可能な状態におかれ,遅くとも留置期間が満了した時点でYに到達したものと認めるのが相当である。」


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