1 | 賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる賃金の支払請求権を受働債権としてする相殺は、過払のあつた時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされ、しかも、その金額、方法等においても労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのないものである場合にかぎり、労働基準法24条1項本文による制限の例外として許される。
|
2 | 公立学校の教員らに対して昭和33年10月および12月に支給された給与中に最高1か月分給与の約27・3パーセント、最低同じく約3・8パーセントに相当する金額の過払があり、右過払金の返還請求権を自働債権とし、同34年3月20日に支給されるべき同月分の給与の支払請求権を受働債権として相殺がなされた場合、右相殺の遅れた主な原因が、その事務を担当していた県教育委員会事務局において、相殺をするかどうかまたはその法律上の可否、根拠等の調査研究等に相当の日時を費し、あるいは他の所管事務の処理に忙殺されていた点にあつたなど判示の事情があるにとどまるときは、右相殺は、いまだ労働基準法24条1項本文の規定による制限の例外として許される場合にあたらない。
|