実務の友   抵当権による妨害排除請求に関する最高裁判例集
最新更新日2005.03.10 - 2006.08.10
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索  引

 1 最高裁二小判平成03.03.22 (最高裁HP)
 抵当権者は,抵当権に基づく妨害排除請求として,その占有の排除を求めることはできない。
 2 最高裁大判平成11.11.24 (最高裁HP)(上記判例を変更)
 抵当権者は、優先弁済請求権の行使が困難となる状態が生じているときは,所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる。
 3 最高裁一小判平成17.03.10 (最高裁HP)
 抵当権者は,抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを請求することができる。




 1 最高裁二小判平成03.03.22 平成1(オ)1209 短期賃貸借契約解除等(第45巻3号268頁)  (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
  抵当権者は、民法三九五条ただし書の規定により解除された短期賃貸借ないしこれを基礎とする転貸借に基づき抵当不動産を占有する者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として又は抵当権設定者の所有物返還請求権の代位行使として、その明渡しを求めることはできない。
(参照・法条)
  民法369条,民法395条,民法423条
(判決理由抜粋)
 「1 【要旨】抵当権は、設定者が占有を移さないで債権の担保に供した不動産につき、他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受ける担保権であって、抵当不動産を占有する権原を包含するものではなく、抵当不動産の占有はその所有者にゆだねられているのである。そして、その所有者が自ら占有し又は第三者に賃貸するなどして抵当不動産を占有している場合のみならず、第三者が何ら権原なくして抵当不動産を占有している場合においても、抵当権者は、抵当不動産の占有関係について干渉し得る余地はないのであって、第三者が抵当不動産を権原により占有し又は不法に占有しているというだけでは、抵当権が侵害されるわけではない。
 2 いわゆる短期賃貸借が抵当権者に損害を及ぼすものとして民法三九五条ただし書の規定により解除された場合も、右と同様に解すべきものであって、抵当権者は、短期賃貸借ないしこれを基礎とする転貸借に基づき抵当不動産を占有する賃借人ないし転借人(以下「賃借人等」という。)に対し、当該不動産の明渡しを求め得るものではないと解するのが相当である。けだし、民法三九五条ただし書による短期賃貸借の解除は、その短期賃貸借の内容(賃料の額又は前払の有無、敷金又は保証金の有無、その額等)により、これを抵当権者に対抗し得るものとすれば、抵当権者に損害を及ぼすこととなる場合に認められるのであって、短期賃貸借に基づく抵当不動産の占有それ自体が抵当不動産の担保価値を減少させ、抵当権者に損害を及ぼすものとして認められているものではなく(もし、そうだとすれば、そもそも短期賃貸借すべてが解除し得るものとなり、短期賃貸借の制度そのものを否定することとなる。)、短期賃貸借の解除の効力は、解除判決によって、以後、賃借人等の抵当不動産の占有権原を抵当権者に対すで関係のみならず、設定者に対する関係においても消滅させるものであるが同条ただし書の趣旨は、右にとどまり、更に進んで、抵当不動産の占有関係について干渉する権原を有しない抵当権者に対し、貸借人等の占有を排除し得る権原を付与するものではないからである。そのことは、抵当権者に対抗し得ない、民法六〇二条に定められた期間を超える賃貸借(抵当権者の解除権が認められなくても、当然抵当権者に対抗し得ず、抵当権の実行により消滅する賃借権)に基づき抵当不動産を占有する貸借人等又は不法占有者に対し、抵当権者にその占有を排除し得る権原が付与されなくても、その抵当権の実行の場合の抵当不動産の買受人が、民事執行法八三条(一八八条により準用される場合を含む。)による引渡命令又は訴えによる判決に基づき、その占有を排除することができることによって、結局抵当不動産の担保価値の保存、したがって抵当権者の保護が図られているものと観念されていることと対比しても、見やすいところである。以上、要するに、民法三九五条ただし書の規定は、本来抵当権者に対抗し得る短期賃貸借で抵当権者に損害を及ぼすものを解除することによって抵当権者に対抗し得ない賃貸借ないしは不法占有と同様の占有権原のないものとすることに尽きるのであって、それ以上に、抵当権者に貸借人等の占有を排除する権原を付与するものではなく(もし、抵当権者に短期賃貸借の解除により占有排除の権原が認められるのであれば、均衡上抵当権者に本来対抗し得ない賃貸借又は不法占有の場合にも同様の権原が認められても然るべきであるが、その認め得ないことはいうまでもない。)、前記の引渡命令又は訴えによる判決に基づく占有の排除を可能ならしめるためのものにとどまるのである。
 3 【要旨】したがって、抵当権者は、短期賃貸借が解除された後、貸借人等が抵当不動産の占有を継続していても、抵当権に基づく妨害排除請求として、その占有の排除を求め得るものでないことはもちろん、賃借人等の占有それ自体が抵当不動産の担保価値を減少させるものでない以上、抵当権者が、これによって担保価値が減少するものとしてその被坦保債権を保全するため、債務者たる所有者の所有権に基づく返還請求権を代位行使して、その明渡しを求めることも、その前提を欠くのであって、これを是認することができない。 」


 2 最高裁大判平成11.11.24 平成8(オ)1697 建物明渡請求事件(第53巻8号1899頁)  (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
 第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対して有する右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を保全するため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる。
 建物を目的とする抵当権を有する者がその実行としての競売を申し立てたが、第三者が建物を権原なく占有していたことにより、買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょしたために入札がなく、その後競売手続は進行しなくなって、建物の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となる状態が生じているなど判示の事情の下においては、抵当権者は、建物の所有者に対して有する右状態を是正するよう求める請求権を保全するため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使し、所有者のために建物を管理することを目的として、不法占有者に対し、直接抵当権者に建物を明け渡すよう求めることができる。 (1、2につき補足意見がある。)
(参照・法条)
  民法369条,民法423条
(判決理由抜粋)
 「第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、これを抵当権に対する侵害と評価することを妨げるものではない。そして、抵当不動産の所有者は、抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが予定されているものということができる。したがって、右状態があるときは、抵当権の効力として、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し、その有する権利を適切に行使するなどして右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を有するというべきである。そうすると、【要旨第一】抵当権者は、右請求権を保全する必要があるときは、民法四二三条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができると解するのが相当である。  なお、第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が右状態の排除を求めることも許されるものというべきである。
 最高裁平成元年(オ)第一二〇九号同三年三月二二日第二小法廷判決・民集四五巻三号二六八頁は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。
 四 本件においては、本件根抵当権の被担保債権である本件貸金債権の弁済期が到来し、被上告人が本件不動産につき抵当権の実行を申し立てているところ、上告人らが占有すべき権原を有することなく本件建物を占有していることにより、本件不動産の競売手続の進行が害され、その交換価値の実現が妨げられているというのであるから、被上告人の優先弁済請求権の行使が困難となっていることも容易に推認することができる。
 【要旨第二】右事実関係の下においては、被上告人は、所有者であるBに対して本件不動産の交換価値の実現を妨げ被上告人の優先弁済請求権の行使を困難とさせている状態を是正するよう求める請求権を有するから、右請求権を保全するため、Bの上告人らに対する妨害排除請求権を代位行使し、Bのために本件建物を管理することを目的として、上告人らに対し、直接被上告人に本件建物を明け渡すよう求めることができるものというべきである。 」


 3 最高裁一小判平成17.03.10 平成13年(オ)第656号、平成13年(受)第645号 建物明渡請求事件  (最高裁判例HP該当判例)
(判決要旨)
 抵当権者は,所有者から占有権原の設定を受けて抵当不動産を占有する者に対して,抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる。
 抵当権者は,抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを請求することができる。
 抵当権者は,抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではない。

(判決理由抜粋)
 「 1 所有者以外の第三者が抵当不動産を不法占有することにより,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ,抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる(最高裁平成8年(オ)第1697号同11年11月24日大法廷判決・民集53巻8号1899頁)。そして,【要旨第一】抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても,その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができるものというべきである。なぜなら,抵当不動産の所有者は,抵当不動産を使用又は収益するに当たり,抵当不動産を適切に維持管理することが予定されており,抵当権の実行としての競売手続を妨害するような占有権原を設定することは許されないからである。  また,【要旨第二】抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである。
(略)
 【要旨第三】抵当権者は,抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではないというべきである。なぜなら,抵当権者は,抵当不動産を自ら使用することはできず,民事執行法上の手続等によらずにその使用による利益を取得することもできないし,また,抵当権者が抵当権に基づく妨害排除請求により取得する占有は,抵当不動産の所有者に代わり抵当不動産を維持管理することを目的とするものであって,抵当不動産の使用及びその使用による利益の取得を目的とするものではないからである。そうすると,原判決中,上記請求を認容した部分は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,破棄を免れない。そして,上記説示によれば,上記請求は理由がないから,これを棄却することとする。
 3 また,上記請求と選択的にされている賃借権侵害による不法行為に基づく賃料相当損害金の支払請求については,前記事実関係によれば,本件停止条件付賃借権は,本件建物の使用収益を目的とするものではなく,本件建物及びその敷地の交換価値の確保を目的とするものであったのであるから,上告人による本件建物の占有により被上告人が賃料額相当の損害を被るということはできない。そうすると,第1審判決中,賃借権侵害による不法行為に基づく賃料相当損害金の支払請求を棄却した部分は正当であるから,これに対する被上告人の控訴を棄却することとする。 」


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